変化に強い企業が生き残る「企業進化論」 ~ ライフネット生命 出口 治明 会長 インタビュー

創業手帳

【特別インタビュー】 ライフネット生命保険株式会社会長 兼 CEO 出口 治明 × タレント 長井 秀和

証券会社や銀行、損害保険など、インターネット利用に特化した企業が続々と誕生する中、世界的観点からも難しいとされ、まさにコロンブスの卵であった「ネット生保」に挑んだライフネット生命保険株式会社の出口治明会長 兼 CEO 。40兆円という超巨大市場にも関わらず、戦後、独立系としては新規参入がなかった生命保険業界で、74年ぶりに設立されたライフネット生命の誕生と成功の舞台裏に、タレントの長井秀和氏が迫る。

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出口 治明(でぐち はるあき)
1948年三重県生まれ。京都大学を卒業後、1972年に日本生命保険相互会社に入社。企画部や財務企画部にて経営企画を担当するとともに、生命保険協会の初代財務企画専門委員長として、金融制度改革・保険業法の改正に従事する。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て、同社を退職。2006年に生命保険準備会社を設立し、代表取締役社長に就任。2008年の生命保険業免許取得に伴い、ライフネット生命保険株式会社を開業。2013年6月より現職

「ライフネットは “缶ビール”売りです。」

長井:巷では「還暦のベンチャー」なんて言われていらっしゃいますが、そもそもなぜ会社を創ろうと思ったのですか?

出口:僕が会社を創った理由は「20代から40代の子育て世代が、安心して子供を産み育てることのできる社会」を作りたい、と考えたからです。今の日本の20代の平均所得は、信じられないことに160万円です。二人で働いても320万円。僕は1972年に日本生命に入社して、高度成長期やバブル期を保険業界で過ごしてきましたが、当時は今のような低所得の時代は考えられなかったですよ。

にも関わらず、保険業界は保険会社以外からの新規参入がありませんでした。新規参入がないということは、価格競争が起こりにくいということです。所得は下がっているのに、抜本的な価格改革が起こらない。そんな中で、若い世代の皆さんが、子供をたくさん産んで育てようなどと思えるはずがない。だから、僕が会社を立ち上げたのは、「保険料を半額にする」というビジョンを実現するためでした。

長井:保険料を半額にする方法が、インターネットによる直販なのですね。

出口:はい、それしか方法がないのです。例えるならライフネットは「自動販売機で缶ビールを売る」というビジネスモデルです。自動販売機で200円で買える缶ビールも、居酒屋に行けば500円になりますよね。それは、人件費や光熱費、家賃が掛かっているからだ、と皆わかってる。

対面販売の生命保険会社も同じです。駅前にお店があって、行けば自分に合った保険を営業員が紹介してくれる。でも、その分どうしても高くなってしまいます。だから、ライフネットが保険料を半分にするためには、お店を持たず、できる限りの少人数体制で運営するしかなかったのです。

複雑な保険をわかりやすくシンプルに

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長井:ネットで生保を売るというのは、従来の保険業界の常識にとらわれず、むしろ破っていかねばならなかったと思うのですが、苦労されたのはどのような点ですか?

出口:まず一つが「複雑でわかりづらい」生命保険をどうわかりやすくするか、という点ですね。先ほど申し上げた通り、対面販売の場合は、営業員がお客様に1から説明し、たくさんの中から最適な商品をお勧めすることができますが、インターネットでは中々そうはいかない。だから、初めて保険に入ろうという人でも、サイトを見ればすぐに理解できるよう、必要な保障に絞ったシンプルな商品だけを取り扱うことにしました。

長井:私もサイトを拝見しましたが、「わかりやすい」の一言につきますね。生命保険といえば特約がたくさんついていてややこしい、というイメージだったので驚きました。

出口:ありがとうございます。「わかりやすさ」も、「保険料半額」と同じく創立当初に固めたビジョンの一つです。

一番の課題は「信頼の獲得」

出口:「わかりやすさ」の他にも、苦労した点がもう一つあります。「お客様の信頼をどう得るか」ということ。これが実は一番大きな課題でした。何が難しかったのかといえば、生命保険は「長いから」です。証券だったら、ネットでワンクリックですぐに売り買い出来る。自動車保険もせいぜい1年です。

でも、生命保険となると、「終身」です。形のない超長期的なものを売るということは、企業の信頼度、ブランドの信頼度が必要なので、ものすごく難しいのです。だからネット生保は”コロンブスの卵”だったのです。

長井:ゼロから始めた会社で、しかもネットを使った販売方式でとなると、やはり安くても躊躇してしまうお客様はいらっしゃるのでしょうね。

出口:特に生命保険ですからね。でも「保険料半額」を実現するにはネット販売は欠かせない。ですから、設立したばかりの我々がどうすればお客様に信頼してもらえるかを模索し、しっかりした株主を選んだり、資本を厚くしたり、考えられる手はすべて打ちました。

でも、6年やってきてわかったのは、近道はないということです。「顔の見えるサービス」として自分たちで地道にPRしていき、お客様との信頼関係を直接築いていくしかない。そういうことに、ようやく気がついたのです。

長井:メディアに出演されたりSNSをよく活用されているのは、「信頼を築く」というのが大きな理由なのですね。

出口:はいそうです。その為に僕もパートナーの岩瀬もTwitterやFacebookやブログを使ったり、あるいは積極的に講演に行ってお話をさせて頂いたりしています。本もたくさん出版しています。ゼロからブランドを立ち上げて信頼してもらうためには、どんな会社かということを自ら発信していくしか方法がないのです。特に、ライフネットはインターネットで展開している会社です。だからこそ「顔の見えるコミュニケーション」を大切にしたい。そのツールとして、ソーシャルメディアは最適だと感じています。

トップの存在意義

長井:SNSに抵抗はなかったのですか?

出口:正直言うと、個人的にはSNSは苦手です。パソコンのキーボードだって、1本指で打つレベルです。でも自分自身の趣味趣向や好き嫌い、美学などは、経営には一切関係がない。会社にとって必要なことをやるのがトップですから。役職を”権力”として捉えている人が結構いますが、本質はまったく別で、ひとつのファンクションでしかないと、僕は考えています。

ライフネットは、保険業界という40兆円のマーケットで、まだ76億円しか売り上げがない状況です。言ってしまえばまだ「Nothing」です。それを「Something」にしなくてはならない。それが僕の役割です。それに対して、できる限りの事を一所懸命やる。それだけしか考えてないですね。
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時流適応型企業が生き残る

長井:それでは最後に、創業したばかりの方へメッセージをお願いします。

出口:一番は、ダーウィンの進化論をよく思い返して下さいということです。ダーウィンは、「何が起こるかわからない世の中で、生き残るのは賢く強い生物ではなく、世の中の変化に適応できる生物だ」と論じています。創業前に考えたプラン通りに行く会社は少ない。でも何が起きても動じず、どうしたら乗り切れるのか、というのをまず考えるのがビジネスの基本です。会社を創ったら、一番大事なのは会社を潰さない事。その為には、変化に対応するしかないのです。

ライフネットを例にとると、スマ−トフォンの台頭が挙げられます。開業した当初は存在しなかったスマホの普及で、契約率が下がる。PC入力であれば15分で完了する申込も、スマホでは45分かかってしまうからです。これは創業当初想像できませんでした。でも、何が起きても落ち着いて、どうやったらその世の中の変化に対応できるかを冷静に判断することが、経営者として何よりも大事だと、僕は考えています。

(創業手帳編集部)

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