「技術開発とエンジニアの組織づくり」の極意 及川卓也インタビュー(中編)

創業手帳

創業手帳大久保が、及川卓也氏に「技術開発とエンジニアの組織づくり」について話を聞きました

(2019/06/12更新)

グローバルIT企業の大規模な開発、スタートアップを経て起業し、大企業の顧問、スタートアップの技術面の支援などを行っている及川卓也氏。

前編では、創業手帳代表の大久保が、及川氏のこれまでのキャリアと起業に至った経緯を聞きました。中編では、及川氏が現在取り組んでいる「技術開発とエンジニアの組織づくり」の極意に迫ります。

グローバルIT企業のマネジメント職を経て、50代でフリーランスから起業 及川卓也インタビュー(前編)

及川 卓也(おいかわ たくや)
Tably株式会社 代表取締役
早稲田大学理工学部を卒業後、外資系コンピューターメーカーに就職。営業サポート、ソフトウエア開発、研究開発に従事し、その後、別の外資系企業にてOSの開発に携わる。その後、3社目となる外資系企業にてプロダクトマネージャーとエンジニアリングマネージャーとして勤務後、スタートアップを経て、独立。2019年1月、テクノロジーにより企業や社会の変革を支援するTably株式会社を設立。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役

大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計100万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。

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リクルーティングはマーケティングと同じ

大久保:開発のチーム作りで悩んでいる会社は多いと思います。及川さんはどういうチーム作りをしていくと成功すると思いますか?

及川妥協しないということが一番だと思います。技術に明るくない会社だと、ついついどのような組織にしたいのかあいまいなまま技術陣を集めようとしてしまったりしますが、それではいけません。技術を軸にした事業を育てるには、技術者という人材がコアコンピタンス(他社に真似できない価値)となります。事業の核となるところの理解が足りないなら勉強しますし、とことん考えます。妥協せずにやりぬくこと。これが一番大事なことでしょう。

格言

どうチームを作るのか。
答えは、妥協せずとことんやり抜くこと。

大久保:今、エンジニアは人手不足ですよね。チーム作りの前に人を連れてこないといけないというケースも多いと思います。リクルーティングのコツはありますか?

及川:さきほどの回答に重なりますが、自分たちがどんな人材を必要としているかをしっかりとイメージすることです。

それを募集要項や求人票に落としていくことになりますが、一方でリクルーティングはマーケティング活動と一緒だということも認識しておく必要があります。

募集ポジションの認知を高め、興味を惹き、最後には応募してもらう。これは製品やサービスのマーケティングと同じです。ですので、常に、自分たちのポジションがターゲットとなる層に届いているか、どのように見られているかを意識する必要があります。

格言

実は求人にもマーケティングの考え方が当てはまる。

最近のサービス開発ではグロースハック手法(顧客から集めたデータを分析し、課題解決や改善につなげる手法)が使われます。

グロースハックでは、AARRRモデル※が良く用いられます。リクルーティングにおいても、これらと同様の手法を用いてみてはどうでしょう。リクルーティングは人事業務に分類されますが、実際には人事よりも営業やマーケティングに近い仕事です。採用部署が陣頭に立って、採用戦略を練り、自ら行動すべきです。まさかないと思いますが、人事に丸投げなどはもってのほかです。

※ユーザーの行動をAcquisition(獲得)、Activation(活性化)、Retention(継続利用)、Referral(紹介)、Revenue(収益化)の5段階に分けデータを分析する方法。

スタートアップでは、エンジニアリング部署のトップが、自分の時間の半分以上を採用に使っていることも珍しくありません。会社によっては、一時的に採用部署に異動させるというようなことも起きています。それくらい、リクルーティングは重要な経営課題であり、それに取り組むには採用部署が自ら率先して対応していかないとならないのです。

格言

リクルーティングは重要な経営課題。採用部門が採用の先頭に立って対応する必要あり。

給料が高いだけではダメだが、やりがいだけあってもダメ

大久保:エンジニアの育成や生産性の発揮で大事なことはなんですか?

及川:エンジニアの育成に重要なことは、内発的動機付けと外発的動機付けのバランスです。内発的動機付けは、事業への共感や技術への憧憬です。外発的動機付けは、雇用条件などです。収入が一番大きい要素となります。簡単に言うと、「給料が高いだけではダメだが、やりがいだけあってもダメだ」ということです。

エンジニアが解決したくなるような楽しいことが社内に転がっていて、しかもそれを解決し、自分が成長することで収入もあがっていく。そんな環境が用意され、エンジニアの適正な評価基準が用意されていれば、自然とエンジニアは育っていきます。

生産性は、時間に比例して給与があがる仕組みをやめ、創意工夫することを貴ぶ文化があれば、必然的に上がっていきます。

格言

外と内の動機づけ、給料とやりがいのバランスが大事。
楽しいことが社内に転がっていて解決すると給料が上がっていくのが理想。
創意工夫を貴ぶ文化があれば生産性は上がっていく。

また、エンジニアに不要な会議への出席などを求めず、エンジニアがエンジニアにしか出来ない仕事に従事する時間を最大化することです。コンピューター技術では、複数のタスクを切り替えることをコンテキストスイッチと呼び、このコストを下げること、すなわちできるだけスイッチングさせないことがコンピューターの処理能力をあげる1つのテクニックですが、これは人間にも当てはまります。

1時間プログラミングをして、1時間会議に出て、また1時間プログラミングして、その後また1時間上司と面談。こんなことをするたびに、プログラミングは中断され、生産性は下がります。そもそも日本企業は会議が多すぎます

会議に出ることが仕事と思われている所も多いかもしれませんが、多くの場合、会議だけでは仕事は進みません。会議は必要悪と考えるほうが良いです。会議をせずに仕事が進むならばそのほうが望ましい。特に、定例の会議はその必要性を見直したほうが良いでしょう。

単なる進捗確認ならば、オンラインのツールで可能です。何故、その場に全員が集まらなければならないのかを常に問う必要があります。出席者全員の年収から時給を算出し、会議にいくらの人件費がかかっているかを見てみましょう。会議の後に、その人件費分のアウトプットが出たかを見てみると良いでしょう。かなりの会議が非常に劣悪なROI(投資した資本に対する収益の指標)となっていることがわかるのではないでしょうか。

格言

会議が多すぎ!な会社は、会議の費用対効果を見直してみよう。

大久保:確かに日本の大企業では、意味の薄い会議や調整に多くの時間が使われているところも多いですよね。自分の会社の会議のROIを図って、生産的な活動に時間を再配分したら会社は良くなりそうですね。

プロダクトの成功には「執念」が不可欠

大久保:及川さんは今まで大規模な開発を手がけられてきて、順調なときもあれば、大変な局面もあったと思います。そういう局面を乗り越えてきたからこそ優れたプロダクトを世に出せたと思いますが、プロダクトが成功するために、及川さんの視点で、いちばん大事な鍵になる要素はなんでしょうか。

及川執念です。

成功するまで諦めなければ成功します。

具体的には、スタートアップを中心に用いられている事業開発手法であるリーン開発手法、システム開発プロセスのアジャイル開発、そして開発と運用を一体化させたDevOpsなど、プロダクト開発に関する情報は書籍もネット上の情報も豊富にあります。

平日の夜や週末に行われる勉強会やコミュニティイベントに行けば、それこそ先人たちの苦労から学ぶこと出来ます。この人は!とおもった人に直接会って学ぶことも可能でしょう。

要はやるかどうかなのです。勉強だけして、耳年増になり、結局行動に起こさない人もいます。それも執念が足りなかったからではないかと、私は思います。

手法の話をしましたが、手法はあくまでも手法です。いくつかの手法が一般化するにつれ、その手法を導入したから成功に近づくと考えてしまう人たちも残念ながら存在します。しかし、手法(別の言い方をするとフレームワーク)はあくまでもただの箱に過ぎません。その箱に何を入れるかは自分で考えないといけません。執念深く、ひたすら考え、行動すること。これが成功への道でしょう。魔法の杖も銀の弾丸もありません。

格言

一番大事なのは執念。
手法はあくまで手法。
執念深く、ひたすら考え、行動すること。魔法は無い。

また、当たり前ですが、技術についての深い造詣も必要です。STEMもしくはSTEAM教育※というのが昨今言われていますが、プロダクト責任者や経営者はこのSTEAMの素養が必要です。今なら、データの活用を行うための基礎的な統計学や機械学習は必須ですし、システム基盤についてサーバーやクラウドの知識、サイバーとフィジカルの融合のためのIoTや、ストリーミングデータの扱いなど広く知識が無いといけません。モノ消費からコト消費へのマーケットの変化や産業のサービス産業化などを考えると、ユーザー体験の設計能力も不可欠です。1人ですべての知識を持つことは難しいので、自分の専門を深めると同時に、他の領域の専門家を集めるためのネットワーキングと、ビジョンを語れる力も必要です

※Science(科学)、 Technology(技術)、 Engineering(工学)、Mathematics(数学)を統合的に学習する教育のこと。

格言

他の領域へのネットワークや、ビジョンを語る力も大事

(近日公開)後編では、楽しみながら仕事に打ち込む及川氏のマインドセットと、今後のビジョンに迫ります。

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読んで頂きありがとうございます。最新号の創業手帳(冊子版)も併せて読んで見て下さい。

(取材協力: Tably株式会社/及川卓也(おいかわ たくや)
(編集: 創業手帳編集部)

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