Special Medico 中曽根暁子|予防医学分野を改革!「テクノロジー」と「信頼」で医療と人との懸け橋をつくる
人同士が信頼関係を築くために技術を活用。AIマッチング・技術開発・特許取得にも取り組む新時代の紹介会社
高齢化社会やコロナの影響もあり、近年注目度が高まっているのが予防医学分野です。
予防医学は病気にかかってから治すのではなく、その前段階で病気になりにくい体づくりを推進し健康を維持することを目的としており、その一環として経済産業省が推奨する健康経営に取り組む企業も増えています。
こうした状況下で、「テクノロジー」と「信頼」を軸に、予防医学分野を改革しながらビジネス展開しているのがSpecial Medico(スペシャルメディコ)です。
同社は主に健康診断の現場や企業に対し医師や産業医を紹介するなど、予防医学の分野で事業を運営しています。システムエンジニアをはじめ、博士や薬剤師、臨床検査技師、建築士、日本語教師などの資格や経験をもつ多彩な人材によるユニークな発想から15の特許(2023年7月現在)を生み出していることも特長です。
今回は代表取締役を務める中曽根さんの起業までの経緯をはじめ、健康経営や健康管理の重要性について、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。
株式会社Special Medico 代表取締役
銀行員、司会者など経験し2012年「株式会社Special Medico」創業。「すべての人に健康意識を」を目標に予防医学分野への医師紹介、企業への産業医紹介を行っています。週末は子育てママの支援、カウンセラーなどボランティア活動を行い、身体も心も健康になってほしいと支援をしています。日本商工会議所・全国商工会議所女性会連合会第20回 「女性起業家大賞」にて最優秀賞を受賞し、女性起業家として若手の支援にも力を注いでいます。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
銀行員・司会者のキャリアを経て、予防医学分野の課題解決のために起業を決断
大久保:中曽根さんは銀行員のキャリアなど、非常に多彩なご経験を経て起業されていらっしゃいますよね。
中曽根:実は小学生の頃から「キャビンアテンダントになりたい」という夢があって、高校時代には英語の勉強を兼ねて留学もしました。
「これで準備が整ったぞ!」と意気揚々としていたのですが、私の就活時はちょうど就職氷河期で募集ゼロだったんです(苦笑)。
外資系を選択する手もありましたが、幼少期からずっと日系航空会社への憧れがあって。その夢が叶えられないなら仕方ないと諦めて、地元に帰って銀行員として働き出しました。
大久保:長年の夢からスパッと切り替えた潔さや意思の強さが素晴らしいですね。司会業のご経験もあると伺っています。
中曽根:順調にキャリアを積むなかで結婚し、退職してから5年くらい経ったときに初めて東京に移り住むことになったんです。
そこで「東京だからこそ活躍の幅が広くなる仕事をしよう」と思い立って、アナウンスアカデミーに通い司会者になりました。司会業はおよそ7年ほど続けました。
大久保:どの職種でも高い成果をあげたバイタリティに感服します。それから現在の事業につながる業界に参画されたんですね。
中曽根:はい。医療や予防医学の医師紹介サービスを提供する会社に誘われ、ジョインしました。
医師紹介サービスはマッチングが主な仕事なのですが、徐々に「果たしてマッチングまでを事業領域とすることが適切なのだろうか?」という疑問を抱くようになって。
その先にある「受診者が健康診断を受けるときの満足度を高めるためにはどうしたらいいか?」「もっと自主的に検診を受けてもらい、健康を意識してもらうためにはどんな工夫が必要か?」「『毎年同じ医師に担当してほしい』という、企業の社内健康診断への要望に応える方法はないだろうか?」など、さらに相対的に関わることで予防医学分野の課題を解決したいと思うようになりました。
「そこまで取り組むからには自分で事業を起こしたほうがいい」と決断して独立。2012年12月25日にSpecial Medicoを設立しました。
医師と健診現場、産業医と企業を的確につなげる独自のマッチングサービス
大久保:御社の事業概要やサービス内容についてお聞かせください。
中曽根:弊社では、健康診断の現場や企業に対し医師や産業医を紹介する医師有料職業紹介をはじめ、人材管理システムの開発・提供や健康意識を高めるための医療情報の発信などを行っています。
医師・産業医の紹介については「すべての医師にSpecial Medicoのオンデマンドサービスを」をコンセプトに、特許技術を搭載したオリジナルシステムを構築し、すべてのドクターに価値のある情報を迅速かつきめ細やかにお届けするとともに、健診現場や企業とのマッチングサービスを提供していることが特長です。
紹介会社でありながら、AIマッチングや技術開発、特許取得などにも積極的に取り組んでいます。
大久保:最先端のテクノロジーと、古くから商売においても社会で生きるうえでも大切な人と人とのつながりという、両極を重視しながら事業運営されていらっしゃるんですね。
中曽根:はい、「テクノロジー」と「信頼」はどちらも不可欠であると考えています。
技術では対応できない「人同士が信頼関係を築くこと」を大切にしているからこそ、技術でできるところは便利で快適にする。技術の力で作業時間が短縮できた分を、立場を問わずお互いに対話したり向き合う時間に使うという方針で運営しています。
そして「健康」という価値を守るためには、情報技術だけではなく、信頼のうえに成り立った「医療と人との懸け橋」が重要です。私たちはその一翼を担いたいと邁進しています。
目指すビジョンや想いのもと、自社に合った産業医と進める健康経営の重要性
大久保:コロナの影響もあり、企業規模を問わず従業員の健康管理を意識する風潮になってきました。日本は「長時間残業でもがんばって働く」みたいな意識が強い国でしたが、社会全体が変わりつつあるのではないでしょうか?
中曽根:健康経営に注目する企業が増えてきていますね。ただその一方で、まだまだ個人レベルの健康意識の高まりが足りないと感じています。
コロナ禍でこまめに体温をはかったり、咳が出ていないかチェックするなど、自分自身の体調変化を気にする習慣ができたのですが、コロナ明けとともに逆戻りしてしまったかなと。
各企業が健康経営を目指してできることは全体に対する対応が多いと思いますので、そこに加えて従業員の個人意識が向上すれば、相乗効果が出てくるだろうと見据えています。
大久保:確かに健康経営を通じて会社側が実現できるのは組織の全体最適化ですよね。従業員一人ひとりの個人意識を高めるための方法はありますか?
中曽根:産業医を上手に活用していただくことで、健康経営や従業員の健康管理を進めることができます。
ただ、産業医との連携がうまくとれていない企業が少なくありませんので、まずは健康経営の一環として一度見直していただくといいかもしれません。
産業医は全員、定められた業務は当然として行いますが、企業が健康経営に取り組む際には「将来的にこんな会社を目指したい」というビジョンや想いがあると思うんですね。このときに、そのビジョンや想いと産業医の考えが合わない場合もあるんです。
その一方で、企業はそこまで取り組むつもりはないけれど、産業医はきちんとやっていきたいというケースもあります。
それから相性の問題として、企業の健康経営担当者と産業医の性格が合うか?合わないか?も見過ごしてはいけないポイントとして意識したほうがいいですね。
こうした要素をトータルで考えながら一度見直しを行い、自社の「こういうふうになっていきたい」という希望を実現するために伴走してくれる産業医と出会い、これまで以上に産業医に貢献してもらうことが必要かなと思います。
大久保:そもそも企業と産業医が連携し、コミュニケーションをとりながら進めていくというイメージがない方々が多いので、目からウロコでした。健康経営を成功させるためには産業医との関係づくりが重要なんですね。
中曽根:はい。これまで産業医の働き方は「会社に来て、やることだけやって帰る」というケースが少なくありませんでしたが、お互いにプラスになりませんし、形式だけになってしまうのでもったいないんですね。
企業はそれなりのコストをかけて産業医派遣を依頼していますので、なおさら余すところなく活用していただきたいと考えています。
弊社では各企業と産業医の間に入り、双方のヒアリングを綿密に行っていることがポイントです。企業側には会社のビジョンから健康経営担当者の性格まですべてお伺いし、産業医のスキルや考えを細かく確認したうえで、シナジー効果を生み出すマッチングを徹底しています。
予防医学分野の専門家として伝えたい、できることから始める健康意識の高め方
大久保:予防医学分野で事業運営を行う専門家として、起業家をはじめとする社会で働く皆さんに伝えたいことをお聞かせください。
中曽根:まずはぜひ健康診断を受けていただきたいです。
そして受診するだけではなく、きちんと結果に目を通して今の自分の状態を把握し、必要に応じて医療相談や治療などを行ってほしいと思います。
さらに「少し運動してみようかな」という感じで、生活のなかで体を動かす習慣を取り入れていただけるとうれしいです。
大久保:なにかと「毎日忙しい」を言い訳にしてしまいますが、忙しいからこそ気をつけるべきですよね。
中曽根:はい。「なかなか難しい」というお気持ちはよくわかるのですが、「1階から2階に上がる際にエスカレーターではなく階段を利用する」でも構いません。ちょっとした行動で少しずつ変わっていく自分を実感していただきたいんですね。
予防医学分野で事業を行っていると、「ある日突然、病気が見つかった」と青天の霹靂のようにショックを受ける方々を数え切れないほど見てきました。
そういう事態が起こってしまうと、ご本人はもちろんですが、ご家族や周りの方々も辛い思いをされます。悲しむのはご自身だけではないんです。
だからこそ元気なときに、せめて毎日1分でもいいから自分自身と向き合っていただきたい。メンタル面も含めて、誰よりも自分のことを理解しながら大事にしてほしいです。
大久保:確かに日常的に仕事をしていると他の人と向き合わざるを得ない一方で、自分自身と向き合うことを疎かにしがちですよね。
中曽根:おっしゃる通りです。
自分自身と向き合う習慣ができると「今日はちょっと疲れているから遅いスタートにしようかな」「今日は残業を控えて帰ってこよう」「今日ならハードワークも大丈夫そうだな」といった調整が可能になります。
毎日無理をしてばかりだと、体調を悪化させたりメンタルのバランスを崩してしまいますよね。一方、調整ができるようになると健康な状態が続きますので、結果的にパフォーマンスも向上し安定します。
「今、自分がどういう状態か?」の把握は、高い結果を出すためにも重要です。ぜひ自己管理を習慣化していただければと思います。
大久保:日本は医療現場の逼迫が取り沙汰されているだけでなく、社会保険の赤字も深刻化しています。少しでも不健康な状態や病気を予防すれば、医療現場の負担軽減や財政赤字の対策にもつながりますよね。
中曽根:まさにおっしゃる通りで、各業界ともに人手不足に加え財政赤字が大きな問題になっているにもかかわらず、休職者やひきこもりが増加していますので、社会全体や家庭内で予防の段階から力を入れていただくことが大切です。
他国に比べて日本の公的保険制度は非常に優秀ですが、恵まれているがゆえに国民全体の健康意識が低い傾向があります。「なにかあったら病院に行けばいいや」という感覚の方が多いため、早期発見が遅れてしまいがちです。
弊社では現状の制度を活かしながら、個人の健康意識を高めていく方向性で、医師や産業医、そして各企業と連携しながら貢献していきたいと考えています。
起業のメリットは、自分の信じる想いをもとに直接的な社会貢献に努められること
大久保:最後に、起業家に向けてメッセージをいただけますか。
中曽根:起業して事業運営を進めていくと、自分の想いを伝える機会をいただけますし、その信じる想いをもとに直接的な社会貢献に努めることができます。
これが起業するメリットのひとつではないでしょうか。
もちろん責任も大きくなりますし、傍から見たら大変そうだと思われるかもしれません。でも、そうしたことが些末に感じられるくらい、喜びや達成感のほうが大きいと思うんですね。
もし独立を迷っている方がいたら、私はぜひ挑戦してほしいとお伝えしたいです。社会をより良くするために、共にがんばっていきたいですね。
大久保の感想
創業手帳は、起業の成功率を上げる経営ガイドブックとして、毎月アップデートをし、今知っておいてほしい情報を起業家・経営者の方々にお届けしています。無料でお取り寄せ可能です。
(取材協力:
株式会社Special Medico 代表取締役 中曽根 暁子)
(編集: 創業手帳編集部)
最初は厳しい状況もあったそうだが、信頼が重要な業界で、地道な活動で信用を勝ち取っていった。特許技術に連想しやすい文学的な名前をつけるのもユニークだ。
業界にどっぷり浸かりすぎているとこういう発想は出にくいかもしれない。女性かつ他業界からチャレンジした人の強みかもしれない。
産業医のマッチングは予防医療に分類される活動だ。海外に行くと分かるが、海外に行くと医療費がとてつもなく高い。それに対して、日本は社会保険が安い。日本にいると気づかないが、アメリカに比べるとタダ同然にも感じるほどだ。日本は水と安全はタダ、海外ではそうではないというが、医療もタダではないが非常に安い。
しかし、そのありがたい日本の素晴らしい医療は現在危機にさらされており、もしかしたら中曽根さんがやっているような予防医療や医療マッチングは派手さはないが、見えない多大な貢献を医療や日本全体にもたらす可能性がある(マイナスを消すという意味で、派手ではないので気づかれにくいが)。
日本の医療は費用が低いと言うより、我々の払う保険料や税金で医療費が補填されているので安く見えるということだが、ともかく日本は医療が安い国だ。
医療が安いというのは住みやすさにもつながるので良いことだが、実際のところは医師や看護師、病床不足、財源の不足ということで、大変無理を抱えたまま、今の日本の高度な医療が維持されている。
医療を圧迫しているのは基本的に高齢化だが、一方で働き盛りの人が健康を害するようなケースも有る。最近ではリモートワークで運動不足・コミュニケーション不足で心身の不調も今後増えていくかもしれない。
高齢化に伴う病気の増加と、働いている現役世代の心身の問題というのはそれ自体が大きな社会課題であり、また医療資源や財源の逼迫につながっている。
そんな中で、産業医は医療を先回りして不要にするという意味で、重要な役割を担えるはずだ。中曽根さんのビジネスはテクノロジーによる医療マッチングのシステムだ。医療そのものではないが、
・医療資源配分の最適化
・医療事務の効率化
を担っていると言える。またアナログよりも産業のマッチングのデータが蓄積して活用が今後できてくるようなら従来にはない新しい可能性が開けるかもしれない。
今後、こうした医療分野でのAIやITテクノロジーの進展を期待したい。