SHE 福田 恵里|スキルを授けるだけではない!「自分のなりたい姿」をかなえるためのサポートを

創業手帳woman
※このインタビュー内容は2023年08月に行われた取材時点のものです。

「好き」を見つけて「仕事」にするところまで。理想の働き方の実現を支える女性向けキャリアスクール


SHE株式会社が提供するSHElikes(シーライクス)は、 累計受講生7万人を超える日本最大級の女性向けキャリアスクールです。

人気の理由は、WebデザインやWebマーケティングなどのスキルが学べるだけでなく、「自分のなりたい姿」の実現をサポートしてくれる点にあります。
しかし、SHEの事業は最初から順調だったわけではなく、何度もピボットを繰り返しながら今のモデルにたどり着いたのだそう。

そこで今回は、SHE株式会社の代表取締役CEO/CCO 福田恵里さんに、起業までの経緯や、事業が軌道に乗るまでに実践したことについて、創業手帳代表の大久保がインタビューをしました。

福田 恵里(ふくだ えり)
SHE株式会社 代表取締役/CEO/CCO
大阪大学在学中、サンフランシスコ・韓国に留学。学生時代に初心者の女性向けのWebスクールを立ち上げ、約500名以上が受講。卒業後リクルートホールディングスに新卒入社し、ゼクシィやリクナビのアプリのUXデザインを担当。2017年26歳の時に、ミレニアル女性向けのキャリア支援を行うSHE株式会社を設立。主要事業である「SHElikes」は累計受講生7万名以上を突破。2020年に同社代表取締役CEOに就任。プライベートでは2児の母。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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留学先での出会いが人生の転機に


大久保:福田さんは海外へ留学されていたとお聞きしました。どのような目的で留学されたんでしょうか?

福田:私は大阪大学の外国語学部に在籍していたので、英語を学ぶ目的でアメリカのサンフランシスコへ留学しました。

そのときは、「起業したい」「世界を変えたい」といった志があったわけではありません。どちらかというと意識の低い大学生でしたから、「そんな自分を変えたい」という思いもあり、留学したんです。

大久保:実際に、その留学は自分を変えるきっかけになりましたか?

福田:そうですね。まさに人生の転機になりました。

フランシスコで出会ったITスタートアップの起業家やエンジニアには、パソコン1台でサービスを作って世界を変えようとしている人たちがいました。その姿に感銘を受けて、帰国してからデザインやプログラミングを学び始めたんです。

しかし、デザインやプログラミングのスクールに通ってみると、3、40人いる参加者の中に若い女性は自分1人だけ。そんな状況に衝撃を受けたと同時に、課題感を持ちました。

そこで、「女性が自分のアイデアを形にできるWebのスキルを身につけたら、もっとよい世の中になるのではないか」と考えて、20歳のときに「初心者の女性がWebの知識を身につけられる、対面型のスクール」を立ち上げました。

学生時代に個人事業主として立ち上げた「女性向けのWebスクール」で500人を集客


大久保:では、大学生で一度起業を経験されていたのでしょうか?

福田:いいえ。そのときは、法人登記はしていませんでした。

ただ、個人事業主としての活動ではあったものの、「女性向け」という部分で他のプログラミングスクールなどと差別化を図ったんです。すると、募集するたびにすぐ完売という状況が続き、最終的には約500名の女性に受講いただきました。

大久保:個人で数百人を集めたのはすごいことですよね。「女性向け」の集客では、どのような工夫をされたのでしょうか?

福田:具体的には、ポップな印象の集客LPを自作して「女の子のための」スクールであることを押し出していました。さらに、開発の合間にヨガやスイーツを食べる女子会を実施し、女性が楽しめる工夫もしましたね。クマと家の図で「サーバーアップ」の説明をするなど、とにかく資料のわかりやすさも心がけました。

今でこそ女性向けのプログラミングスクールも目にするようになりましたが、当時はまったくありませんでした。だから、新規性と革新性がお客様に刺さったのかもしれません。

大久保:そこから現在のSHE株式会社を起業するに至ったのは、何かきっかけがあったのでしょうか?

福田:自分のWebスクールのお客様と接しているうちに、「プログラマーになりたい」「デザイナーになりたい」というよりも、「自分に何が向いてるかわからない」「自分は何が好きかわからない」といった漠然としたキャリアの課題や不安を感じている女性が多いことに気づいたんです。

そこから、「女性のキャリアに関する不安や課題を解決するようなサービスを作りたい」と、起業を目指すようになりました。

起業する前にリクルートへ就職して組織作りを学んだ

大久保:起業を目指しながらも、まずは就職されたんですよね。

福田:起業するためにビジネスの体系的な知識を学びたかったので、大学卒業後はリクルートに入社しました。

その2年後、26歳のときに女性2人でSHE株式会社を起業しています。

大久保:大学卒業後すぐ起業する道もあったと思うのですが、まずは就職という道を選ばれたのはいかがでしたか?

福田:よかったと思っています。リクルートは組織作りやKPIマネジメントを含め、型化・仕組化が徹底された会社です。今の会社の評価制度、組織作り、採用の仕組みなどは、リクルートを参考にしていますね。

SHElikesが軌道に乗るまでの3年間

大久保:起業されてからは、すんなり軌道に乗りましたか?それとも最初は大変でしたか?

福田:最初はかなり苦労しました。前半の2年間は社員も採用せず、手探りでサービスのピボットを何回も繰り返しましたね。軌道に乗ってPMFを迎えたのは3年目です。

大久保:どのような流れで、今の「SHElikes」という女性向けキャリアスクールのモデルに落ち着いたのでしょうか?

福田:実は、SHEの事業は「女性向けのコワーキングスペースを作る」ところからスタートしました。といいますのも、当時WeWorkが大流行していて、TheWingという女性向けコワーキングスペースサービスがロスやサンフランシスコへ展開している真っ最中。

ですから、TheWingの日本版を作ってみようと考えたんです。ところが、アメリカと日本ではフリーランス人口や増加率が違いますよね。コワーキングのみでは収益が出ず、同じ事業をしている方々に話を聞き「日本でうまくいっているコワーキングスペースは、イベントなどのソフトコンテンツが充実している」とわかりました。

そこで、私が大学のころに立ち上げていた「女性向けの講座」をコワーキングの付随コンテンツとして始めてみました。

すると、そちらの需要の方がずっと高かったので、コワーキングから「通学型の女性向け習い事スクール」への方向転換を決意したんです。

コワーキングスペースから通学型スクールへ。講座内容も方向転換

大久保:コワーキングスペースから通学型の女性向けのスクールへと、思い切ってサービス内容を変えられたのですね。

福田:それだけでなく、スクールで教える内容も途中でガラッと変えました。

最初は「自分の好きな趣味が見つかる」というコンセプトで、私たちがキャリア系と呼んでいるデザインやプログラムを学ぶWeb講座のほかに、ライフスタイル系と呼んでいるヨガやお料理などの講座も開講していました。

しかし、キャリア系とライフスタイル系を比べると、圧倒的にキャリア系に人が集まっていました。その原因を分析すると、すでに世の中に出回っている女性向けのお料理教室やヨガよりも、「女性×ビジネス」「女性×キャリア」という内容への需要が高かったんです。

さらに、「資料がかわいい」「講師が同世代の女性で、ロールモデルにしやすく学習意欲が高まる」といったところにも価値を感じてもらい、キャリア系の人気がどんどん高まっていきました。ですから、2年目にライフスタイル系の講座をすべてやめて、キャリア系の講座だけにしましたね。

サブスクリプションかつオンライン型へ舵を切った

大久保:キャリア系に舵を切ったことで、売り上げが伸びていったのでしょうか?

福田:はい。あわせて2年目に、サブスクリプション型へ変えたことも大きかったです。

もともとは月1回通うのに3,000〜5,000円という価格帯でしたが、「一定期間でしっかりキャリアチェンジを目指してもらうコース」を拡充させるために、10〜15万円で講座を受け放題、という形へ変更しました。

それまでにはフィジビリティとして、「2ヶ月のWebデザイナー育成講座で価格は15万円」といった内容のスクールを並行して実施して需要があることを検証しましたね。そのうえで、受講までに対面でカウンセリングまでしていること、集客効率も考えて大幅な価格帯の変更へ踏み切りました。

また、3年目には、「その時間や場所では通えない」というお客様のお声に応えるため、塾のような通学型からオンライン型も追加したことで、今の「SHElikes」のモデルが出来上がりました。

「自分のなりたい姿とは?」一緒に考えることから講座がスタート


大久保:SHElikesは累計7万人を超える受講生を誇っておられます。ほかのスクールとの違いに「資料がかわいい」「講師が同じミレニアル世代の女性」などがあるとお伺いしましたが、その他に差別化できている点を教えていただけますか?

福田つまみ食い受講ができること、コーチングが受けられること、コミュニティがあること、受講後の仕事探しまでサポートできること、という大きく4つがあると思っています。

今の日本の若い女性には、「自分の好きなこと、やりたいことがわからない」と悩んでいる方が多いんです。そのような方がいきなり「100万円のプログラミングスクール」にはお金を払えませんよね。

「自分に何が向いてるのか知りたい」と思ったときに、入会金15万円と月額10,000円または15,000円を払って、デザインやマーケティングなど現在約40職種ある講座を、定額学び放題で興味のあるものから少しづつ受講できる。SHEでは「つまみ食い受講」と呼んでいますが、「まず自分の好きを見つける作業ができる」という点が、お客様から高い評価をいただいています。

大久保:「好きを見つける」というのは、古い専門スクールにはない発想かもしれません。キャリアは「仕事」と割り切ることもできますが、キャリアが「幸せ」や「生き方」に繋がるという考え方もありますよね。

福田:おっしゃる通りで、キャリアを考えるには、「そもそも自分は、どんな生き方をしたいのか」というゴール設定も大事。

ですからSHElikesでは、入会後の初回コーチングで、講師と一緒に自分の理想の生き方や働き方をワークシートなどに描いてもらいます。そうすることで、「自分のなりたい姿」を目指すための手段として、SHElilesの講座を選べるようになるんです。

さらに、学んだことを生かして仕事をすることにまで繋げる、人材マッチングサービスも提供しています。2023年7月にはtoB向けの新事業として、SHEで学ぶリスキリング人材と即戦力人材を繋げて、人材の定着・活躍までを伴走支援する新たなサービスも展開しました。


「自分の夢も他人の夢も絶対に否定しない」コミュニティルール

大久保:SHElikesのコミュニティには、どんな魅力があるのでしょうか?

福田:SHElikesのコミュニティには、「夢は積極的に人に言おう」「他人の夢も自分の夢も絶対に否定しない」といった、「心理的安全性」をつくるルールがいくつかあります。

臆せず夢を口にできる環境で、「あなたならできる」と第三者から賛同してもらううちに、どんどん自己肯定感が醸成されるんです。日本の女性の自己肯定感は、世界で一番低いというデータもあります。自分らしく働くための「マインド」を育めることが、このコミュニティの本質的価値だと感じていますね。

大久保:夢を人に言うことで、逃げ場がなくなりモチベーションも保てそうですね。

福田:同世代で似たような不安や悩みを持つ人が集まるため、「目指したいロールモデル」を見つけやすい点もモチベーションの維持に役立ちます。

例えば、自分と同じ時期に、同じデザイナーを目指して入学した同世代の人が、自分より先にデザイナーの仕事を取っていたとしたら、「私もできそう!」「私も頑張ろう!」と思えますよね。

そのように自分と同じ立場で成功している人と仲良くなれることも、このコミュニティの魅力です。

また、SHE受講生の中で大切にしてほしいマインドとして、5つの約束を設定しています。

SHElikesのコニュニティが実践する「夢を実現するための方法」

①「私なんて」「私にはできない」と決めつけない

②自分は自分にしか変えられない

③夢はどんどん人に伝えよう

④自分との約束を守ろう

⑤あなたも今日からシーメイト

「自分にしかない価値を発揮するために」SHE社内で取り組んでいること

大久保:女性に「自分らしく働く」スキルとマインドを与えるSHEですが、社内ではどのような取り組みをされていますか?

福田:私たちのビジョンは「一人一人が自分にしかない価値を発揮し、熱狂して生きる世の中を創る」です。

そのビジョンを体現するために、例えば「自分にしかない価値は何なのか」「その価値を生かすにはどんな仕事をするのが幸せなのか」「それは、SHEの中ではどんな仕事なのか」をワークショップ形式で書いていく研修があり、それを基に上長との1on1や人事異動などを実施しています。

さらに、ナンバーワンではなくオンリーワンという思想のもと、序列を作ることを徹底的に排除しました。MVP制度を廃止して「SHEビジョンシェア」を立ち上げ、表彰ではなくどれだけビジョンを体現したかを共有する場としたことも、その1つですね。

自分にしかない価値、人生の理想のあり方はそれぞれ違います。価値観の違いを尊重してお互いのなりたい姿を称賛し合う文化を、SHE社内でもSHElikesのユーザーコミュニティでも大切にしていますね。

価値観の変革を起こす「インパクトスタートアップ」へ


大久保:今後の展望をお聞かせください。

福田:5年後10年後にはSHElikesを「SHElikesに入れば、女性のキャリアの悩みはすべて解決する」と言われる、女性のキャリアのインフラに育てたいと考えています。

そして、さらに一歩先の目指す姿は「インパクトスタートアップ」です。どういうことかというと、コミュニティとテクノロジーを使って個人の価値観の変革を引き起こすこと、さらに、その渦をどんどん大きくして社会全体を変えていくことをしたいんです。

女性のキャリア課題のほかに、私が人生をかけてやりたいと思っているのは、義務教育のアップデート。先ほど日本人の女性は自信がないというお話もしましたが、私はその原因が公教育にもあると思っています。

日本では、「人と同じであれ」という画一的な学校教育の中で、与えられた正解に早くたどり着く方法を教えられます。一方で、社会人になると突然「自分の個性や強み」など、人と違うことを求められますよね。だから、義務教育の時点から「自分で正解を見つける力」を育めたらと考えています。

SHElikesは現在、大人の女性に対して価値観の教育をしていますが、このアセットを義務教育の子どもたちにも装着してあげたいんです。

そうすれば、「いい大学に入って、いい会社に入る」だけではない、それぞれの理想のキャリアが築けるのではないかと思います。

大久保:最後にこれから起業される方へ、一言いただけますか?

福田:私は、これまでの人生の選択肢の中で、起業を選択したことが一番良かったと思っています。

起業した経験は、何よりも財産になります。自分でアイデアを立て、世の中にニーズを問うて、ずれていればピボットして、お金や人を集めて・・・。そんな総合格闘技ができるのは起業だけかもしれません。

もし失敗して違う道を選んだとしても、起業した経験は絶対に生きるので、ぜひ挑戦してほしいと思います。

冊子版の創業手帳では、様々な起業家についてのインタビュー記事を多数掲載。インタビュー記事以外にも、起業に向けて知っておくべき内容が盛りだくさん。無料でお届け致しますので、あわせてご活用ください。

大久保写真大久保の感想

キャリア支援・スクールという時に、どうしてもスキルのみを重視しがちになる。○○ができるようになると、○○の職業につけます、という具合だ。

しかし福田さんの事業が面白いのが、スキル指導も同然やるが、そもそもなぜその職業につきたいかという前提の部分だったり、同じような境遇の人が身近にいることでの少し先にイメージのしやすさだったり、コミュニティ的な文化やつながりより「ソフト」な部分のように思えた。

特にどう生きて、どういうキャリアを積んでいきたいのかは、人生では一度はしたほうが良い質問だが、なかなか一人では考えにくいが、それを考える場を提供しているのがユニークだ。

従来よりも社会の変化が激しくなり、昔のように典型的なキャリアや人生像が描きにくい時代になっている。そんな時代に、合ったやり方だと感じた。こういった人と人のつながりやエモーショナルな部分は簡単に醸成や真似がしにくい。手間がかかるからこそ価値がある。

今後、こうした学習系のビジネスも、こうした前提の生き方の部分で差別化するようなやり方は一つのヒント、切り口になるかもしれない。

福田さんの「そもそもなぜその人は変わろうとしているのか?」に向き合う考え方は起業家のヒントになるかもしれません。

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(取材協力: SHE株式会社 代表取締役/CEO/CCO 福田 恵里
(編集: 創業手帳編集部)



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