創業時に実践すべきWebマーケティング
会社設立後、インターネットで販売促進をしようと思ったとき、何から始めたらいいのか?専門家に聞いてみた。
インターネットの普及によって、企業の営業活動はより安価に、より効率的に行えるようになった。しかし実際にはインターネットを活用して積極的なマーケティング活動を行っている起業家はそれほど多くない。
その理由はWebマーケティング特有の分かりにくさにある。スタートアップ企業はいかにしてWebマーケティングを実践するべきなのか。インターネットを使ったマーケティングの専門家である『ルビー・マーケティング株式会社』取締役COOの下川氏と、ビジネス開発部ディレクターの武井氏に話を伺った。
福岡県生まれ、東京大学法学部卒。 NTT東日本・NTTコミュニケーションズにて、金融系ASPサービスの企画・セールスに携わる。 2008年、Google株式会社へ。 6年にわたり、広告営業組織にてGoogle AdWordsの普及に尽力。
山梨県生まれ、慶応義塾大学大学院理工学研究科卒。 修士論文は「昆虫を模擬した翼を用いた羽ばたき運動時のPIV計測」をテーマに流体力学を専攻する。 卒業後、Google株式会社に入社し、Google AdWordsの営業、プロダクトスペシャリストの職を経て、2014年7月からルビー・マーケティング株式会社に参画。
Webマーケティングとは
武井:Webマーケティングというと聞きなれない言葉や横文字が並び、なんだか難しそうというイメージがあります。それがWebマーケティングを敬遠するきっかけとなっていると考えています。しかし、実は単純なことで、「インターネットを使っていかに売上をあげるか」という手法全般がWebマーケティングなんです。
たとえば、誰かと知り合いになってメールアドレスを教えてもらい、「これがうちの商品です」とメールを送るのもWebマーケティングの一部です。
飲食店を開いたばかりの人が、お店の前で「新しくお店を始めました」とチラシを配っているとします。それをWebマーケティングに置き換えるとホームページを作って告知を始めた感じかもしれません。現実と違う点としては、Webマーケティングを活用すればターゲットに直接アプローチできるようになります。つまり、興味のある人だけにチラシを配ることが可能です。
「日常的に行っていること」がWebマーケティングの発想の一端で、そのように理解することが最初の一歩かと思います。
-Webマーケティングの手法にはどのようなものがありますか?
武井:代表的な手法として「検索連動型広告」というインターネット広告があります。インターネットで検索すると検索結果の上部や右側に表示される広告で、俗に「リスティング広告」とも呼ばれています。
たとえば、渋谷でラーメンを食べたいと思ったとき「渋谷 ラーメン」と検索することが多いと思います。その検索結果の上側や右側に「渋谷のラーメンだったらこちらがおすすめです」という形で広告を出すことができるものです。あとは昔ながらの「バナー広告」もよく見られますね。Yahoo! JAPANのトップページ右上にあるような広告です。いずれにしても、最近はユーザのニーズに沿った形で、細かな広告掲載の設定ができるインターネット広告が伸びています。
-そういった広告を、起業したての会社が活用するのは難しいでしょうか?
武井:実は利用者の数で言うと圧倒的に中小企業が多いんです。低予算で多くの企業が利用しているのが実情ですね。なので、それほど垣根は高くないんです。
下川:問題点として考えられるのは、広告を運用するシステムが複雑なことかと。一般的な中小企業さんに使いやすいとは言いにくいですね。ただ、使い方さえマスターすれば、十分に費用対効果が得られる質の高い広告と思っています。弊社はそのあたりのサポートが必要だと考え、サービスを展開しています。
創業企業のWebマーケティング
武井:まずはホームページを作成し、取り扱っている商品やサービスを掲載することが前提です。そこからさらに、もっとたくさんの人に知ってもらいたいのであれば、いろいろなインターネット広告にチャレンジしても良いでしょう。
今、日本の90%くらいの方がインターネットを使っています。ですので、可能性としてはホームページを作れば1億人ぐらいの方にリーチ(認知)させることができます。そこからさらにソーシャルメディア(FacebookやTwitterなど)で告知をしていけば、お金をあまりかけずにPRの土台を作ることができます。創業期のウェブ戦略としては、まずそれが王道と言えると思います。
ブログと連携させるのも良いですね。すごくいい記事が書ければインターネットの検索結果の上位に表示されますし、ソーシャルメディア経由でシェアされる可能性もある。そこからの拡散も見込めます。毎日書くのは手間がかかりますが、とにかくそのような地道な作業を継続することが大事です。
優れたコンテンツを自分で書けなければ、「クラウドソーシングサービス」を利用してもいいでしょう。クラウドソーシングサービスに登録している制作のプロに外注することで、低価格で良い記事が得られるというメリットがあります。
下川:あと、ホームページを作る際には「目的」や「目標」の設定が重要です。見た目が良いページだけを作って終わりではありません。「どこからどういう人が来たのか」、「どの記事がよく見られた」など、集計しながら試行錯誤することが大切でしょう。集計や分析に使える無料のツールもあります。それが集客の土台になります。
武井:ホームページの制作やソーシャルメディア展開、リスティング広告が基本になりますが、たとえば「Naverまとめ」や「はてなブックマーク」、あるいは「YouTube」などで、自作したコンテンツを配信するのも手軽にできる施策と思います。
もちろん業種や職種にもよりますが、既に配信されているコンテンツを実際に見てみて、どういった手法で商品やサービスをアピールしているのかを参考にしても良いと思います。インターネット動画でのプロモーションは成長している分野ですから。
また最近では、「Wantedly」という求人サイトもあります。そこに掲載してもらうと、検索で自社のホームページが引っかかったりもします。もちろん社員の採用を目的に利用するのが基本ですが、副次的な効果が見込める一例と思います。
“営業がいらなくなる”仕組みづくりを
下川:毎年秋に、山梨県のワイン農家さんが、ワイン農家を回るツアーを企画しています。その集客にはインターネット広告を使っていますね。購買が目的ではなくて、山梨県に来てもらうための集客目的と聞いています。
山梨県では「クラウドファンディング」も活用されています。賛同者から寄付金を集めて、まとまった金額を作り、運営費として利用するシステムですね。これも広義には集客ということになりますが、山梨の物を購入してもらう、知ってもらうというだけでなく、最終的には山梨県に住んでもらいたいという県そのものの活動につながっています。
このように、たとえIT関係でなくても、より多くの人に知ってもらうためにインターネット広告やその仕組みは大いに活用できるでしょう。
武井: Facebookはすごく使えるツールだと思います。「拡散が拡散を呼ぶ」ように、爆発的に広がるツールですね。今までは数百人という規模でしかコンテンツが見られてなかったのが、瞬く間に数千人規模に広がる可能性がある。たくさんの人にコンテンツを見てもらうためのメディアとしてFacebookは最適です。
下川:弊社では、内容よりも頻度にこだわっています。たとえば、1つ作ったコンテンツを半分ずつに分けて出すなどして、できるだけ毎日投稿しています。コンテンツそのものはブログで作り、Facebookでは新規投稿をポストしているだけですが、ホームページへの誘導の導線としても機能しています。
極端な話ですが、それこそホームページを含めたウェブ施策の土台がしっかりしていれば、究極的には営業パーソンもいらないかもしれませんね。ウェブで集客できれば、人を使って営業する必要がありませんし。その分、人件費の削減にもなる。ちなみに弊社では、自社のマーケティングをするチームの中に営業チームが入っているような状態です。
Webマーケティングの今後の主流
武井:あると思います。自社のホームページだけではひとつしか検索結果に表示されませんが、別のドメインで情報サイトをつくれば他の情報でも検索効果を狙える。つまりアクセスが稼げます。関連するキーワードでSEO対策をすることが前提になりますけど。
また、そういうキーワードに興味を持つユーザーの情報収集にも役立ちます。仮登録でメールアドレスを入集できれば、その人たちに向けて宣伝やPRができますよね。明確なターゲットがそこにいるので、より効果的な広告も出せる。マーケティングの一施策であり、集客の一環ですね。
下川:ただ、ポータルサイトはあくまでも「興味喚起」の延長として行う施策です。売上から考えると遠い話になってしまうので、まずは売上を上げるために何をやるべきか考えることが大切ですね。ブログやFacebookの使い方も根本は同じです。投稿内容は新商品の紹介でもいいのです。
下川:スマートフォンで使うアプリケーション、いわゆる「モバイルアプリ」の広告は、ものすごいインプレション(露出回数)が期待できます。しかし、例えばスマートフォンでゲームをしている人がゲーム中に広告を見るかというと、見ない人もいると思います。なので、広告の露出回数は伸びますが、最終的なコンバージョンにはなかなかつながらない。モバイルアプリへ広告を掲載するときにはそのようなシーンを想像しながら、最適な広告掲載を模索していくのが良いと思います。
あとは、「データフィード型」の広告が伸びていますね。ECサイトが、自社の商品データや在庫データを活用して広告に出していくケースが増えています。データと照らし合わせて、勝手に広告を出してくれるので、「データフィード型」の広告の利点は何と言ってもラクなこと。ちゃんと在庫の管理さえしておけば、タイムリーに広告を出せます。
たとえば、ある雑貨店では、雑貨を買い付けた人が商品リストを作り、それを社内のマーケティング部に渡し、マーケティング部から広告代理店の人にリストが流れ、広告代理店の人が広告のキーワードをシステムへ登録して…という長いスパンで広告が作成されていました。でも本当は、一番初めに作られた商品リストをベースにして広告を出すのがもっとも効率的ですよね。そして、在庫がなくなったら広告が止まる。そういう手間をかけずに出せる広告が日本で広がってきています。米国においてはこのような広告がすでにECサイトの広告の主流になっています。
(取材協力:ルビー・マーケティング株式会社)
(創業手帳編集部)