絞るから使える。ニーズに特化した質問回答AI「Roanna(ロアンナ)」

創業手帳
※このインタビュー内容は2018年07月に行われた取材時点のものです。

ベルズシステム株式会社 代表取締役 小野寺 隆インタビュー

roanna

(2018/07/12更新)

これからのビジネスの仕組みを変えるとも言われているAI(人工知能)。ですが、基礎となる膨大なデータの収集を行わないと精度が低いため、導入に踏み切るにはハードルが高い分野でもあります。

そんなAIですが、独自のアプローチから実用化にたどり着いた企業がいます。ベルズシステム株式会社が提供する質問回答人工知能「Roanna(ロアンナ)」です。

「Roanna(ロアンナ)」の特長は、顧客向けのQAや研修用のQAなど、「よくある質問に対する一定のパターンの回答」に絞ることで、精度の問題を解決した点です。しかも開発元のベルズシステム株式会社は、福岡県の博多でこの事業を全国に展開していることでも注目を集めています。

今回は、ベルズシステム株式会社の代表取締役である小野寺 隆氏に、開発に至ったきっかけや、AIが社会に与える影響について、お話を伺いました。

小野寺 隆(おのでら たかし)
ベルズシステム株式会社 代表取締役

1973年7月10日生まれ。
人工知能ビジネス・プロデューサー
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
人工知能技術コンソーシアム 九州支部リーダー

子供の頃から起業家を目指し、九州大学経済学部を卒業後、地元のベンチャー企業に就職するも半年で退社。フリーターを経験の後、ITビジネスで創業。九州大学をはじめとする全国数十大学専門学校のモバイル学内掲示板システムを開発・導入。その後、大企業から中小企業まで、インターネットビジネス立ち上げやシステム開発を手掛ける。現在は人工知能関連のシステム開発・コンサルティング・教育を中心に活動。専門分野は自然言語処理、テキストマイニング、PLSA(確率的潜在意味解析)、ベイジアンネットワーク。「人工知能テクノロジーとそれらが社会に及ぼす影響」など、人工知能テーマの講演も行っている。

「よくある質問」に絞ったAI「Roanna(ロアンナ)」

ーまずは、「Roanna(ロアンナ)」について、教えていただけますか?

小野寺:例えば、「受付はどこにありますか?」といった人間が普通に話す言葉(自然言語)で質問をすると、「Roanna(ロアンナ)」が用意した回答の中から自動で回答してくれる、というサービスです。

私たちの生活やビジネスの中には、お客様からの問合せ、社内や会員組織での質問に対する回答、教育・研修後の質問回答など、たくさんの質問回答がやりとりされています。ですが、よくよく考えてみると、ほぼ同じことの質問・回答が多くの割合を占めていたりします。企業に寄せられるお問合せの70%以上は定型の対応で解決してしまうとも言われているほどです。

「そのような質問に対する回答を人工知能技術を使って自動化してしまおう」というのが、質問回答人工知能「Roanna(ロアンナ)」です。

「Roanna(ロアンナ)」の特長は、大きく分けて4つあります。

一つ目は、日本語の認識精度が極めて高く、どのような質問を受けたのかを理解することができる点です。
日本語は世界中の言語の中でも極めて難解な言語です。
主語や述語の省略、送り仮名の違い、略語など他の言語の人たちにとっては非常に高いハードルとなっている微妙な違いを、国産AIである「Roanna(ロアンナ)」はしっかり理解できます。日本人だから当然ですね。人じゃないですが(笑)。

二つ目は、「多言語対応」している点です。
日本語の質問と回答を「Roanna(ロアンナ)」に覚えさせるだけで、質問と回答を80を超える言語に対応するようにしています。訪日外国人の対応をする国内産業、海外展開するメーカーなど、活躍の場は今後ますます広がっていくと思います。

三つ目は、「賢くなっていくメカニズム」を持っているという点です。
「賢くなる=AIが勝手に文章を生成して回答してくれること」と思っている方もいますが、実はそうではありません。回答を作成するのは人間です。「Roanna(ロアンナ)」は、質問されて回答できなかったものを把握することができるので、その質問に対しての回答を与えると、次からは自動的に回答できるようになります。

四つ目は、「圧倒的な学習効率」です。そもそもチャットボットも含めて、一般的な自動回答システムを導入するには、質問と回答を用意して、それぞれ10パターン以上の別の言い回しを登録し、代替される単語の辞書登録をしなければいけません。そういう苦労をして運用を始めるのですが、回答率は50%だったりするのが現状です。

それに対して「Roanna(ロアンナ)」は、1つの質問と1つの回答のデータを登録するだけで運用を始めることができます。300件のQ&Aがある場合は、300件登録するだけです。それだけで数十パターンの言い回しに対応できます。学習効率、運用効率が圧倒的に違います。

「Roanna(ロアンナ)」の画面。質問を話しかけることによって、画面左側に候補の質問がリストアップされる。
ーAIが自動的に回答してくれる、というのはすごい技術ですね!「Roanna(ロアンナ)」の開発に至ったきっかけはどのようなものでしたか?

小野寺:私が以前、テレフォンオペレーター対応をAIを使って自動化するというプロジェクトに携わっているときでした。この時に、コールセンターが抱えている問題に直面したことがきっかけです。

これはコールセンターだけでなく、日本の多くの産業に共通して言えることですが、「人手不足による採用コスト増」、「低調な人材定着率」、「教育への投資が下がったことで、お客様対応の品質も下がる」といった人に関する問題がありました。このままでは、お客様対応の品質が維持できない可能性が極めて高いということです。

また、お客様から電話がかかってくるのは、「ネットでサイトを見ても解決しない」、「見方や検索の仕方がわからない」といったことが主な理由です。
そこで思ったのは、「ネットでもっと簡単に知りたいことを知ることができたら、電話をするより自分で調べる人が増えていくのでは?」ということでした。

それから、日常生活で使う話し言葉(自然言語)で話しかけるだけで回答できるシステムが、人工知能技術を使ってできそうな気がして、開発を始めました。

「AIを使う人」と「AIに使われる人」

ーAIは、社会や人の人生をどのように変えていくと思いますか?

小野寺:AIと一言で言っても非常に広い範囲を表すものだと思いますが、私から見たAIはムダを無くすのに大いに役立つものだと思っています。

例えば、AIを使った機械の異常検知は、事故を未然に防ぎ、ムダを無くします。
AIを使った売上予測は、在庫ロスや余剰人員を防ぎ、ムダを無くします。
HR(Human Resorce)分野のAIは、企業と人材の最適なマッチングにより、ムダを無くします。
AIをマーケティングに使うと、より効果が期待できる顧客層を自動的に抽出し、ムダを無くします。

このようにAIは、社会全体を最適化し、より生産性が高い社会になっていくのだと思います。AIが人の仕事を奪うとかいう話もありますが、人材不足の日本にとっては大きなチャンスであり、いち早く取り組んでいくべきものだと思います。

個人的には、今後「AIを使う人」と、「AIに使われる人」に分かれると思います。どのようにしてAIを使う人になれるか?を考えて、答えを見つけることが、AIに仕事を奪われないために必要なことかもしれませんね。

ー一般的にAIを実用的に使う際に、課題となる部分はどの点でしょうか?

小野寺:大きく2つあります。

一つ目は「学習データを揃えることができるか?」という点です。
AIを活用するためには、膨大な量のデータが必要となります。しかもAI活用の目的に沿ったデータでなければなりません。このデータが無かったり、量が足りなかったり、ラベル付け作業の負荷が大き過ぎたり、といったことが原因で導入が進まないことが多いようです。

二つ目は「やってみないとわからない」という点です。
AIはアルゴリズムとデータで出来ているわけですが、アルゴリズムが最適だったとしても、データ次第で精度が変わってきます。なので、用意できたデータを学習させてみないと思った通りの結果が得られるかどうかわかりません。

この2つの問題が、導入に二の足を踏んでしまう大きな要因かと思います。

ー小野寺さんは、どうやってこの問題を解決しましたか?

小野寺:実は、問題を解決したわけじゃありません。最初からこの問題にぶつからないように開発と商品化を進めました。
そもそも、このような問題が直面するということは、まったく実用的ではありません。AIブームが去ったあとは、見向きもされなくなってしまいます。

ですので、開発と商品化においては「問題解決ではなく、問題に遭遇しない」ように進めました。

ー小野寺さんがおっしゃる通り、最近はAIブームが来ていると感じます。今後は、大手企業が競合商品を出してくることもあるかもしれませんね。

小野寺:もしかしたら、そういう動きもあるかもしれませんね。ですが、こうも考えられます。

例えば、コカ・コーラが売れるのを見て、他社は同じような味を目指して競合商品を開発したと思いますが、同じ味は出せたのでしょうか?レシピがわからなければ、同じ味は出せないし、似たような味を出すのにさえ、多大な時間と費用を要したと思います。

これと同じで、レシピを知らない競合は、類似の商品を開発するのに膨大なコストがかかることを覚悟しなければなりません。それであれば、弊社と組んでビジネスを先に進めた方が、遥かにメリットが大きいと提案したいですね。

起業家とは、既成概念の壁を乗り越えて新たな価値を創る人

ー起業する際に、一番大変だったことはなんでしたか?また、それはどうやって乗り越えていきましたか?

小野寺:やはり資金調達だと思います。全て自分自身で調達したわけでなく、経営パートナーや株主の方からも、各方面に声をかけて頂き、なんとか調達することができました。まわりの方々にご協力頂けたのも、将来のビジョンを共有できたからだと思います。

ー今後の目標は?

小野寺:私たちが対象とする市場は、2018年が約500億円、2021年が5倍の約2,500億円と予想されている急成長市場です。現時点で技術的、商品力的には優位なポジションにいると思いますが、販売体制が課題です。

最適な販売戦略をとり、良い販売パートナーと一緒に取り組むことができたとして、3年後の2021年は最低でもシェア1%の25億円、市場における影響力を考えると、出来れば4%の100億円を目指したいと思います。

ー起業家にメッセージをお願いします。

小野寺これはあくまで私自身に言い聞かせていることですが、起業家というものは、リスクを恐れず、既成概念の壁を乗り越えて、新しい価値を創造していく存在だと思います。大きな傷を負わない程度の失敗をたくさん繰り返して、その中で成功の種を見つけ出すことができます。

継続的に事業を成功させることは、難しいことだと思います。ですが、仲間や協力者と出会い、信頼関係を築き、助けられたり、助けたり、一緒に笑ったり、苦しんだり、この人生のドラマを自分で描けるというのが、起業の最大の魅力だと思います。起業家の皆さんと良き仲間として出会い、共に未来を創っていけることを楽しみにしています。

(取材協力:ベルズシステム株式会社/小野寺 隆
(編集:創業手帳編集部)

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