小さな会社ほど、ストーリーや文化、カルチャーで戦うべし【西村氏連載その3】

創業手帳
※このインタビュー内容は2020年12月に行われた取材時点のものです。

ネット通販・超入門!通販コンサルタントの西村公児氏直伝

通販ビジネスを始めたものの、大企業との差別化に悩まれる方も多いのではないでしょうか?

「通販コンサルタント&プロデューサー」として、数々の企業の通販ビジネスを作ってきた西村公児氏にお話を伺う連載企画。第3回となる本稿では、通販ビジネスにおいて中小企業が採るべき戦略について、創業手帳代表・大久保がお話をうかがいます。

自社で通販事業を始めたいが、どうやって大企業と競っていけばいいのか分からないとの悩みを抱えている事業者の方は、ぜひ参考にしてください。

西村公児(にしむら こうじ)
株式会社ルーチェ代表取締役
年商600億円の大手通信販売会社で販売企画から債権管理までを16年経験。その後、化粧品メーカーの中核メンバーとして5年間マーケティング業務に従事し、顧客企業の販促支援でレスポンス率を2倍にアップするなど成果を上げる。
株式会社ルーチェを設立し、「デジタルコマース実践道場」を主宰。テレビ番組、経済情報コンテンツなどメディア出演多数。
平成28年に「一般社団法人インターネット通販協会」を設立し、理事長に就任。『伝説の通販バイブル』(日本経済新聞出版社)、『小さな会社ネット通販 億超えのルール』(すばる舎)など著書多数。現在、多摩大学経営情報学部の非常勤講師として「ビッグデータの活用法」について学生に教える。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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小さな企業ほどSNSを駆使すべし。キャラ立ちのしやすさが武器になる

大久保:第2回はUVP(独自の価値提供)についておうかがいしました。では、大企業に比べて、小さな企業がネット通販で成功するコツには他にどんなものがありますか。

西村SNSですね。中小企業は、大企業に比べて、圧倒的にSNSから受ける恩恵が大きいと思います。例えば、通販事業もしているある農家の方は、農業の「農」を使って「農チューバー」と名乗り、YouTubeで動画配信をしています。ITができる人も採用して「畑の耕し方」「メロンの美味しい部位」などを紹介しています。予約もインターネット経由で1年前からできるようにして、SNSを駆使されています。

大手企業の場合はSNS担当はいますが、自分の考えとは違う会社の考えを発信するので、キャラクターが浅くなりがちです。そういう意味では、中小企業は個性をアピールしやすいんですね。SNSを上手に使いやすいという面が、大手企業と異なります。

大久保:公式アカウント発信と、個人の発信って差がありますよね。同じフォロワー数がいても、広まる速度が違っていて、同じフォロワー数でも個人の方が広まりやすく感じます。でもだからこそ、小さい会社がSNSをやることにアドバンテージがあるのですね。

西村YouTubeなどで、商品を紹介した動画を用意しておくことは、お客様の購入までのハードルを下げることにも役立ちます。商品のLP(ランディングページ)を見て「買いたい」と思っても、具体的な商品の使い方やサービスの利用方法がわからなければ、購入を躊躇してしまいますから。

商品の大きさや細かい仕様など、LPを見るだけではわからない部分もありますが、動画だと誰もが商品を使っている場面をイメージできます。定期購入などの場合、お客様が購入した商品の使い方がわからずに消費できないと、継続購入の解約にも繋がってしますので、動画で使い方を説明しておくことは重要です。

大久保:UVPに加え、SNSを駆使して差別化を図るのですね。さらには、お客様の購入へのハードルを下げることにもSNSがひと役買うと。

西村:そうですね。大切なのは「他社と比べられない、強烈な差別化をすること」で、UVPを作るメリットもそこにあります。

中小企業が、ネットビジネスで商品の特徴・性能・価格などで、他社と差別化するには限界があります。大手が参入してきた瞬間、資金力・社会的影響力・信用力などで劣る中小企業は競争に勝てなくなってしまうんですね。

たとえ価格が安く、性能が良い商品を売っていたとしても、お客様は大手企業の商品を選びがちです。ですが、市場の中で唯一無二の価値を作って、お客様に「どうせならあの会社から買いたい」と思っていただければ、競争の中で生き残ることができます。

大久保:商品の性能や価格競争だけでは大手に勝てないから、UVPやSNSを駆使した差別化が大事なのですね。

西村:そうですね。なぜ、これほどまでに差別化が大切なのかと言うと、それは自社の商品で他社の商品とは明確に異なる価値提供をすることで「絶対評価」を獲得できるからです。

UVPと似た言葉で「USP(独自の売りや強み)」と呼ばれるマーケティング用語があります。これは「独自の価値提供」と訳されるUVPとほとんど変わらないように感じるでしょう。

しかし、UVPは「絶対評価」であるのに対し、USPは「相対評価」であるという点で異なります。USPは「Aの商品に比べ、Bの商品はこう」と、そもそも比較対象の商品がないと成立しません。

相対比較の中でお客様に商品を選んでいただくためには、商品の実証効果を示す「エビデンス」や社会的に権威ある人が推奨しているなどの「パワー」の要素が重要になります。

資金力や社会的信用力に乏しい中小企業では、エビデンスやパワーの面で大企業に勝てなくなってしまいます。ですから、相対比較ではなく絶対比較でお客様に商品を見ていただくことが大切なのですね。

大久保:なるほど。中小企業ではエビデンスやパワーで戦っていくことは難しいから「同じ条件で戦える土俵を選べ」ということですね。

西村:その通りです。通販ビジネスにおいて中小企業は、それ以外の要素を使ってお客様に影響を与えていく必要があります。エビデンスやパワーは大手企業にとって有利なので、そこで勝負すると大手企業が参入した途端に競争に負けてしまいます。

しかし、ストーリー・文化・カルチャーの世界ならば、中小企業でも大手企業に対し同じ土俵で戦うことができるのです。

顧客からのヒアリングの内容こそ何より大切。業界では拾えないキーワードが満載

大久保:商品のコンセプトやキャッチフレーズなどを決める際には、どんなことに気をつけるべきですか?

西村:顧客の視点から考えるため、実際に商品のターゲットになり得る方にヒアリングをすることです。私は人がふとした言葉を喋っている時に、擬音語や擬態語を聞いて、心の声をしっかりと聞くことを大事にしています。ほとんどの会社が、ヒアリング内容を「より理解しやすい言葉」に置き換えてしまいますが、置き換えたらダメなんですね。お客様が発したそのままのエッセンスを使うためにヒアリングしているんです。

お客様の心の声は、最悪インターネットでも検索もできます。しかし、お客様の視点に立つために可能であればヒアリングはしたほうがいいですね。

お客様が検索するキーワードは、通販業界で一般的だと思われているキーワードとは異なっているケースもあります。狙うキーワードは「片頭痛」だったのに、お客様が実際に検索している言葉は「首が痛い」だった、という例などが挙げられます。

大久保:売る側からは見えないことが、意外とあるんですよね。プロの考えをいったん捨てて、顧客の視点に寄り添うことが大切だと思います。

西村:専門用語に縛られると、動けなくなってしまいます。お客様と理屈を超えたところで繋がるため、お客様の声をヒアリングして引き出すことが、通販ビジネスにおいても凄く大事です。

「顧客の声」を商品に盛り込む

大久保:ヒアリングの次のステップとして、お客様の声を実際にどのように活かせばいいのでしょうか?

西村:「お客様の声」に対しては、常に「コンテンツに活用できないか?」との考えを持って接することが必要になります。アンケート・ハガキ・ヒアリングなどを通して拾った声は、LPやメディアでの宣伝の際のキャッチコピーに使えるからです。

お客様の声を上手にコンテンツ化できれば、説得力が高いコピーが出来上がりますし、新しい商品企画の参考にもなります。お客様の声を反映させることで、ただ商品を企画するのではなく、さらにお客様を巻き込む形で商品開発やキャンペーンを実施できるんですね。

通販事業はまだ始めたばかりの企業の場合も、お客様の声を集めることはとても大切です。お客様がまだいない場合でも、モニターの募集・SNSなどでキャンペーンを実施するなど、とにかくお客様の声を集めることが必要になります。

あらかじめ「商品企画のため」と明示しておけば、お客様側も「何か絞り出さなきゃ」と積極的になっていただけたりもしますので、思いもしなかった声が出てくることもあります。

大久保:「売りたいもの」よりも先に、「お客様が何を考えているのか」を知ることが大切なのですね。

西村:そうですね。商品への同梱物なども、いきなり売り込まずに「お客様の声」「Q&A」を中心にして作成することが大切です。もちろん、初回特典や定期購入制度の紹介も必要ですが、いきなりアピールしてしまうと、お客様が自社に対して帰属意識を持っている状態でなければ引かれてしまいます。

お客様は、実は販売者側が思っているような商品の使い方をしていません。むしろ、意外な使い方をするお客様ほどリピート率が高いケースもありますので、販売する側として意図した「本来の使い方」以外に、他のお客様の「使い方の実例」「声」を紹介すると喜ばれるんですね。ステップメールなどでも、初期段階でお客様の声よりも販促キャンペーンの割合の方が多い場合、メールの拒否率が6割を越えてしまうケースも多くあります。

大切なのは、お客様に「本当に役立つ情報」をお伝えして、初期段階でファンになっていただくことです。販促に関する文言は、お客様の帰属意識が高くなるにつれて徐々に増やしていけば、お客様の脱落も防ぎつつ、自社に帰属意識を持っていただけます。もちろん、お客様の声を販売側で勝手に作っては駄目です。

大久保:お客様に帰属意識を持ってもらうことが、中小企業が通販事業をやる上でのカギなのかもしれませんね。では、お客様に帰属意識を持っていただくためには何を意識すればいいのか、次回でより詳しくうかがわせて頂きたいと思います(次回へ続きます)

今回の記事を書いた弊社「創業手帳」では、無料配布の「創業手帳 冊子版」もお配りしています。さらにビジネスに役立つ知識を学びたいとお考えの方は、ぜひお問い合わせください。

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(取材協力: 株式会社ルーチェ代表取締役 西村公児
(編集: 創業手帳編集部)



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