創業手帳が選ぶ起業経営ニュース
2022年8月29日リバーセル株式会社 梶川益紀|新たな治療法「超汎用性T細胞製剤」の開発事業で注目の企業
癌や新型ウイルスに対応した新たな免疫療法、「超汎用性T細胞製剤」の開発事業で注目されているのが、京都大学医生物学研究所所長の河本宏教授が2019年10月に創業し、現在は梶川益紀さんが代表を務めるリバーセル株式会社です。
「iPS細胞」という言葉をお聞きになったことがあるという方は多いと思います。簡単に言うと、人工的に作られた万能細胞のことです。例えば事故や病気で失ってしまった皮膚や骨、臓器などを、iPS細胞を用いて再生させることが出来る可能性をもつものです。2006年8月に京都大学の山中伸弥教授らによって世界で初めてその作製に成功し、2012年にノーベル医学・生理学賞を受賞したことでも有名です。
このiPS細胞を活用して、誰もがより簡便で効果的ながんの免疫治療を受けられるようにと、今、新たな治療法が研究開発されています。
現在ではがん治療法が進化し、一昔前と比べると生存率も飛躍的に高くなってきましたが、依然、難治性がんと言われる領域の治療法は開発途上にあります。
また、最新のがん治療は時間やコストが多大にかかるため、誰でも簡単にその治療を受けることが出来ないという課題も残されています。
T細胞(リンパ球)の自家移植治療法もその一つです。これは、がん患者さん自身のT細胞を採取し、遺伝子改変を加え、増やしてからその患者さんに戻す、という治療法のことです。しかしこの方法では、患者さんから細胞を取り出す負担があり、汎用性も低く、時間も費用も掛かり、その間にも患者さんのつらい闘病生活は続いていきます。
そこで、このT細胞の大量生産をiPS細胞を用いて行い、「病気になったらT細胞製剤を点滴して治す」という新時代の治療法の開発をリードしているのがリバーセル株式会社です。
もっともT細胞は、免疫反応の司令塔であり、主戦力です。
T細胞を自在に操作できれば、がんだけではなく、感染症、自己免疫疾患、アレルギーなど、免疫が関わるあらゆる病気を治すことができるようにもなります。
今、医療界に新風を吹かす画期的な研究として、大きな期待と注目が集まっているリバーセル株式会社の代表 梶川益紀さんに、事業の特徴や今後の課題などについてお話をお聞きしました。
・このプロダクトの特徴は何ですか?
日本最大発明の一つであるiPS細胞は、あらゆる細胞に分化することが可能と言われています。
リバーセル株式会社(以下、リバーセル)は、iPS細胞から、「がん細胞」や「ウイルス感染細胞」を選択的に見つけ出して攻撃するキラーT細胞を作成し、現在の標準治療では有効な手段がなく、未だ治療法のない患者群に「他家免疫細胞療法」という新しい治療法を提供することが特徴です。
技術的には、
① 「がん細胞」や「ウイルス感染細胞」を選択的に見つけ出すための免疫受容体(T細胞受容体やキメラ抗原受容体)をiPS細胞に導入する技術
② 免疫受容体を持ったiPS細胞から強力な攻撃力を持つ「キラーT細胞」を生理的条件下で誘導・作成する技術
③ 細胞療法で課題となる「免疫拒絶」を低減させた、汎用性のある「他家細胞療法」であること
を特徴としています。
これらの技術は、他家細胞療法を実現するために必要不可欠な技術で、世界各国で特許が成立しており、我々がプライオリティを持っている基盤技術です。
・どのような方にこのサービスを使ってほしいですか?
現在の標準治療で治療困難ながん患者は、年間約40万人存在すると言われています。この患者群は、高齢、再発、進行がんといった理由で、現在の標準治療では有効な手立てのない方たちで、そのような方たちに新しい治療法、他家細胞療法を提供していきたいと思っています。
特に慢性疾患であるがんは、免疫拒絶がなく長期間体内でがん細胞を攻撃し続けることが必要となるため、リバーセルの持つ超汎用性技術(特許出願準備中)を組み合わせた治療法で、多くの患者の治療に貢献することが可能と思っています。
また、当社の技術は、様々な企業が開発する免疫受容体を使用できるため、当社単独で開発するだけではなく、業界全体を活性化させて患者に貢献すべく、多くの製薬企業やバイオベンチャー企業にリバーセルの基盤技術をライセンスし、新たな治療法の開発に役立ててほしいと考えています。
・このサービスの解決する社会課題はなんですか?
日本では年間100万人が罹患すると言われているがんですが、その約40%は現在の治療法では完治が難しい患者群です。近年「がん免疫療法」と言われる新しい治療法がいくつかの種類のがんに対して効果を発揮していますが、それでも対象は限定的で、未だ90%以上の患者群には治療法がないということが、現在のがん治療、がん免疫治療の社会課題です。
また、効果を発揮している「がん免疫療法」の一つ、「自家細胞療法」と言われる治療法も、治療までに時間がかかる、コストが高い、品質が不安定、患者さんの負担が大きいといった課題も浮き彫りになってきています。
リバーセルの提唱する治療法は、この社会課題を克服し、「誰にでも」、「すぐに」、「安く」、「安定した高品質」の免疫治療を提供する「他家免疫細胞療法」という新しい方法です。
・創業期に大変だったことは何でしょう?またどうやって乗り越えましたか?
リバーセルは京都大学医生物学研究所所長・教授の河本宏博士が2019年に創業しました。河本博士は2016年に坂口志文博士(大阪大学)と共に「レグセル株式会社」を創業し、坂口博士は制御性T細胞、河本博士はキラーT細胞を用いた細胞療法の担当でした。扱う細胞は違いましたが、それぞれの第一人者が組むことで、総合的なT細胞療法の会社として出発しました。
その後2018年の後半に、坂口博士の開発と河本博士の開発とで開発フェーズが異なってきたために、それぞれの事業での資金調達や臨床試験、開発の迅速化を目指し、河本博士の事業を分社化という形でレグセルから独立させる事になりました。
2019年の創業期からすぐに世界的なCOVID-19感染症のパンデミックが起こり、ベンチャーキャピタル(VC)や製薬会社も新しい働き方を試行錯誤しました。そのため、VCへのコンタクトや面談が困難になるなど、資金調達が順調に進まない苦労もありました。
しかしながら、私が長年培ってきた人脈や事業開発担当者のもつVCへの人脈、京都府や京都市の支援、既存株主様からの支援などを受け、さらには大手製薬企業や大手機器メーカーとの技術シナジー・事業シナジーなどの発展もあり、増資に成功しその苦労を乗り越えました。
・どういう会社、サービスに今後していきたいですか?
創業者の河本博士は、「自分たちの開発プロダクトを実際に製造し、患者へ治療として届ける」ことを創業時からの目標とし、これがリバーセルの設立時からのビジョンになっています。
リバーセルは、独自のパイプラインを治療として直接患者へ届ける「自社事業」と、他社技術とのシナジーで開発を促進し多くの患者へ治療を届ける「ライセンス事業」を両輪で展開させる計画です。
リバーセルの技術は、材料とするiPS細胞のオリジンによって、各国・各人種へ対応することが可能です。また、超汎用性細胞技術と組み合わせることで、さらにその適用範囲は広がります。そのため、海外の患者への治療の提供、海外製薬企業への技術の提供を行い、事業の海外展開とともに、国内外多くの患者の治療に貢献できる会社にすることを目指しています。
さらに、免疫受容体のターゲット抗原の種類によって、がんのみならず、ウイルス感染症や自己免疫疾患、アレルギーなど、様々な免疫が関与する疾患への適応が期待されるため、様々な疾患をターゲットとする多くの製薬企業へも技術を提供し、公益性の高い「対感染症事業」や、業界全体で新しい治療法を提供していくことにもチャレンジする会社にしていきたいと考えています。
・今の課題は何ですか?
リバーセルは、2024年に急性骨髄性白血病患者を対象に京都大学医学部附属病院で臨床試験を計画しています。
患者へ治療を提供していく臨床試験のためには、臨床試験に供する細胞のGMPグレード(臨床グレード)での製造、第三者機関を使った安全性試験や品質保証試験、PMDA当局への申請・承認、商業用生産への移行、次世代技術開発の加速、製造システムの構築などなど、開発段階とは異なった膨大な準備に資金と時間が必要であることが課題です。
しかし、安全に、いち早く患者へ新しい治療を届けるというメンバーの頑張りや、府や市からの助成金のサポートなどを受け、一部すでに材料細胞のGMPグレードの製造を開始しており、着実に臨床試験へ準備を進めています。
・読者にメッセージをお願いします。
iPS細胞の発見は、日本発の最大発明の一つに数えられると思います。iPS細胞の医療への応用は世界中多くの研究者や企業が進めておりますが、日本は世界の中でもかなり活発に研究がされている国です。
リバーセルも最先端の技術を使って、「日本の発明を軸に日本から世界へ」、「新しい治療法で患者の健康へ」と、患者への貢献を目指しています。
応援よろしくお願いします。
会社名 | リバーセル株式会社 |
---|---|
代表者名 | 梶川益紀(かじかわ ますのり) |
創業年 | 2019年10月 |
社員数 | 9名 |
所在地 | 京都府京都市 |
サービス名 | iPS細胞由来他家免疫細胞療法およびその基盤技術 |
事業内容 | リバーセルは、創業者の京都大学医生物学研究所所長の河本宏教授が2013年に世界初の「iPS細胞からの抗原特異的T細胞の再生」に成功した技術プライオリティと、多能性幹細胞から抗原特異的T細胞を再生するために必須な二つの基盤特許技術を筆頭とした5つの技術群の全世界独占的実施権を保有しています。 『病気になったらT細胞製剤で治療する時代を開拓する!』を社のキャッチフレーズに掲げ、既存のがん治療、がん免疫療法(自家T細胞療法)の課題を克服し、未だ治療困難な患者へ、“超汎用性即納型T細胞製剤”を用いた「iPS細胞由来他家免疫細胞療法」という新しい治療法を提供します。 さらに、リバーセルの技術は、がんだけでなく、感染症にも応用でき、今後起こりうるパンデミックや新興感染症、SARS/MERS/鳥インフルエンザなど既存のウイルス感染症などに対して公益性の高い技術応用にも取り組んでいます。 |
創業者:河本宏 プロフィール | 京都府出身。 1986年京都大学医学部卒。内科研修後、1989年京大病院第一内科大学院で遺伝子治療の研究。 1994年京大胸部疾患研究所で造血過程およびT細胞分化の研究を開始。 2001年京大医学部助手。2002年横浜理研免疫センターチームリーダー。 2012年京都大学ウイルス・再生医科学研究所教授。2016年同副所長。 2016年レグセルに参加、2019年リバーセル創業。 2022年京都大学医生物学研究所(旧・ウイルス・再生医科学研究所)所長。 再生T細胞療法の開発で世界を先導する。 |
代表者:梶川益紀 プロフィール | 東京都出身。 1996年横浜国立大学工学部卒業。 2017年名古屋大学医学部環境医学研究所修了。 1996年研究用試薬会社に入社後、営業/マーケティング、医薬開発、研究開発に従事。 2005年抗体医薬開発型バイオベンチャー株式会社ACTGenを設立、研究開発本部長、代表取締役社長を歴任。 2013年株式会社医学生物学研究所と合併後、事業開発として経営企画本部部長、米国支社Vice Presidentを歴任。 合計20年以上一貫してバイオメディカル業界で従事。 2021年4月リバーセル株式会社代表取締役社長就任。 |
カテゴリ | 有望企業 |
---|---|
関連タグ | iPS細胞 がん免疫療法 リバーセル 再生医療 感染症 梶川益紀 細胞治療 |
有望企業の創業手帳ニュース
関連するタグのニュース
2022年12月27日、戸田建設株式会社は、アイリス株式会社に出資を実施したことを発表しました。 アイリスは、感染症診断用AI医療機器「nodoca(ノドカ)」を開発・提供しています。 咽喉の画像と問…
2022年5月24日、株式会社ケイファーマは、総額15億5,000万円の資金調達を実施したことを発表しました。 ケイファーマは、iPS細胞を活用した脊髄損傷や脳梗塞等の細胞移植治療の実現のための研究と…
2020年6月24日、株式会社スペース・バイオ・ラボラトリーズは、総額約1億円の資金調達を実施したことを発表しました。 地上で模擬的に微小重力環境を再現する重力制御装置「Gravite(グラビテ)」や…
2022年6月28日、株式会社メトセラは、総額14億2,000万円の資金調達を実施したことを発表しました。 メトセラは、心不全向けの新しい再生医療等製品をできるだけ安価に提供することを目的に研究開発を…
2023年6月7日、株式会社セルージョンは、総額28億3,000万円の資金調達を実施したことを発表しました。 セルージョンは、iPS細胞から角膜内皮代替細胞を効率的に作り出す独自技術をもとに、水疱性角…
大久保の視点
パネルセッション例:中村幸一郎(Sozo Ventures ファウンダー・著名な投資家)、ヴァシリエフ・ソフィア市副市長(ブルガリアの首都) 「Endeav…
2024年10月9日、虎ノ門ヒルズフォーラムにて、「JX Live! 2024」が新経済連盟主催で行われました。 「JX Live!」は、「JX(Japan…
2024年10月4日、世界最大級のビジネスピッチコンテスト「スタートアップワールドカップ(SWC)2024」の世界決勝戦が、米国・シリコンバレーで開催されま…