画像切り抜き事業をインドで展開。メディア・バックオフィス・渡邉堅一郎代表にインタビュー

創業手帳
※このインタビュー内容は2021年01月に行われた取材時点のものです。

画像切り抜きの作業をインドにアウトソーシングすることで、低コスト・スピーディーさを実現。事業のアイディアの源や、これからの展望とは?

様々な仕事を経験した後、画像切り抜きサービスを扱うベンチャーを立ち上げた渡邉堅一郎氏。順調だった韓国での個人輸出業からの撤退、子会社を設立したインドでのコロナによるロックダウンからのテレワーク実現など、いろいろな転機や危機を乗り越えてビジネスに取り組んできた経緯や、今後の展望を聞きました。

渡邉堅一郎

渡邉堅一郎(わたなべ けんいちろう)
株式会社メディア・バックオフィス代表取締役
高校を半年で中退。板前として社会人キャリアをスタートさせ、様々な職業を経験してみたいという理由からコカ・コーラ配送ドライバーに転職。2003年に韓国に移住し、アパレルや韓流グッズなどの個人輸出業を運営するも、韓流ブームの衰退に伴い、事業を閉鎖し帰国。フリーターをしながら大前研一氏主宰のビジネススクールに参加し、2006年8月に「切り抜きjp」を創業。同年12月に法人化し、現在に至る。

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食事が唯一の苦痛だった韓国での個人輸出業時代

ー板前、そして配送ドライバーの次が個人事業だったんですよね。なかなか面白い経歴だと思いますが、そもそも個人事業に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか?

渡邉:スニーカーが好きで、仕入れをしてヤフオクや靴屋に卸すなどの個人事業をしている友人がいたんです。僕よりも全然稼いでいました。難しそうだけれど、自由にやれるのがいいなと羨ましく感じて、いつか自分にもできたらいいなと思っていました。

ーそうして韓国に移住されたわけですが、その際の事業のアイディアはどうして思いついたのでしょうか。

渡邉:日本人で、既に現地でアパレルや韓流グッズを売っている方がいたんです。知人を通じて儲かっているらしいと聞いて直接会いに行き、話を聞きました。やってみようかな、と思えたので実行に至りました。

ー韓国ではどんなところに住んでいたんですか?

渡邉:韓国には2年住んでいましたが、最初はソウルの郊外のシェアハウスのような場所にいました。後半はシェアハウスというのと、郊外っていうのにちょっと疲れて、普通に不動産屋さんに行って賃貸の部屋を借りましたね。気分転換も兼ねて。

ー事業はおひとりでやられていたのでしょうか。具体的にどんなグッズがよく売れていましたか。

渡邉:はい、ひとりです。韓流グッズもありましたが、メインは靴やバッグや洋服などのアパレルグッズでした。今はいないという噂も聞きますが、夕方から夜、東大門市場に卸売りの業者さんが集まってくるんです。卸売りですからとにかく安い。独学で勉強した片言の韓国語で、最近これが売れるよー、などとその業者さんから情報収集しながら買い付けをしていました。

売るのはヤフーオークションがメインでした。日本にいた頃から韓国で買い付けをして売るということをしていたので、法人化はしていませんでしたが個人事業としてそのまま継続していました。

ー韓国時代の一番の苦労は何でしたか?

渡邉:若かったので、いろいろなことが新鮮で楽しかったんですけれども、食に関してはやはり味が濃いもの、辛いものが多くて、後半は食事が辛いと感じていました。

事業のアイディアを磨いたビジネススクール時代

ー韓国から引き上げると決めたのはどうしてだったんでしょうか。

渡邉:一応生活できるレベルではあったのですが、売上げも減ってきて、韓国生活自体に疲れていきていたという気持ちもありました。ゆくゆくは会社を作って大きくしていきたい、という夢があったので、このあたりで一度リセットして再出発したいという気持ちがあり、帰国を決めました。

ーその後ビジネススクールに通われたそうですが、いかがでしたか。

渡邉:大前研一さんの起業家向けの講座に参加したのですが、当時はそういった塾があまりなかったので、自分にとっては得難い経験でした。自分の周囲には、起業したいという人はいなかったので、同じ目標を持った約200人の人たちに会えたということも大きかったですし、ミュージシャンから大手一流企業で活躍中の人まで、様々な人たちとディスカッションをすることで、持っている感覚や知識を知ることができて非常に勉強になりました。

マーケティング関係の講義を中心に受けていたのですが、個人事業で細々とやっていたのと違って、体系的にプロのマーケターの人に学問として教えてもらったことは、今も十分生きています。

ーそうだったのですね。そこから今の事業をしようと思ったのはなぜだったんでしょうか。

渡邉:いろんな事業アイディアを考えていたんです。ビジネススクールで、海外でアウトソーシングするのが今後は普通になるという話を聞いたときに、韓国時代に写真の加工を自分でやっていたとき、時間がかかって効率が悪いと感じていたのを思い出したんです。
その作業をアウトソーシングできるんじゃないかと思ったのがきっかけですね。

事業立ち上げからインドの農村部に子会社を設立するまで

ーアウトソーシングする先は、どのように決定されたのですか。

渡邉:海外のビジネスマッチングサイトで切り抜き事業ができるパートナーを探し、最初は中国の大連の方をパートナーとして事業をスタートしました。

ただ、売上げ規模が増えていくにつれて、相手側が明らかに量に対応しきれていない状態になり、やはり海外に子会社を作って、自分たちのペースで仕事を拡大したいと思い始めたんです。

そこで海外拠点を作ろうと、2009年から2010年にかけて、いろいろな場所を見ました。フィリピン、カンボジア、ベトナムなど主に東南アジアですね。

やはり様々な手続きをしないといけないこともあり、言葉の壁がネックだったんです。現地語でとなると厳しい。英語で全て手続きができる国はフィリピンとインドと聞き、インドがいいなというのは注目していました。

ーインドも広いですが、現在の場所を選ばれたのはなぜですか。

今のオフィスがある場所を見た瞬間に、ここだと思いました。農村部なので働く場所があまりないという話は聞いていました。

切り抜き作業というのは手作業なので、熟練度が必要になります。離職や人の入れ替わりが頻繁だと高いクオリティを保つのは難しいので、こちらとしては長く働いて欲しい。ここなら意欲がある若者に集まってもらえるのではという期待がありました。雇用を創出できる社会的意義もあります。

ーなるほど。インドの方々に切り抜き作業を教える上での苦労はありますか。

渡邉:クライアントにはプロのグラフィックデザイナーや写真家が多いので、その方たちの要求に見合うクオリティのものを納品できるように教育するのは、なかなかに苦労します。インドの子会社を立ち上げてから半年はずっと現地にいて、私も実際に切り抜き作業を教えていました。

インドの会社にはインドのグラフィックデザイナー出身の社員もいるんですが、それでも日本人のクリエイターの方の品質に合わせるのには苦労していましたよ。

ーそこまで日本人の求めるクオリティは高いんですね。競合との差別化はどのような点でしょうか。

渡邉:やはりインドに300人以上の規模で自社の拠点を持っているので、品質管理と進行管理に関しては自信がありますね。パートナー会社ではなく、内部で行っているので、コントロールが行き届くというのはあります。

いろいろな分野で自動化が進む今、今後の切り抜きサービスはどうなる?

ーコロナでの影響はありましたか。

渡邉:3月にインドで急遽ロックダウンが宣言され、突然のサービス停止を余儀なくされました。日本の緊急事態宣言の影響もあり、インドでのロックダウンも長引き、非常に苦しい状況でしたね。

事業の存続をかけ、インド支社のテレワークへの移行を決断したのですが、インド農村部でのインターネット回線の確保は想像以上に難しく、さまざまな案を検討して、支社間を結んでいる無線閉域ネットワークを社員の自宅エリアまで拡大することで高速通信を確立しました。我々が扱っている画像はサイズが非常に大きいので、回線がきちんとしていないと仕事にならないんです。

10月になり、やっとインド拠点のテレワーク環境が安定化し、サービス提供もスムーズにいくようになりました。4月の業務停止時には売上げゼロでしたが、9月の売上げは前年同月比で9割程度まで回復したので、やっとひと息つけましたね。

ー画像の切り抜きについては、自動で行ってくれるサービス(フォトショップ、リムーブBG)なども登場してきていますが、そのあたりはどのようにお考えですか。

渡邉:5年前は「機械による切り抜きが、手作業に並ぶクオリティになるのは絶対に無理だろう」と思っていました。もちろん現時点でも、我々のクライアントを満足させられるクオリティのものは無いと思っています。ただそういったツールの近年の進化はめざましいものがありますから、5年後、10年後にはどうなっているかわからない

もちろんそれを指をくわえて見ているつもりはありません。現在自社内でAIを開発する準備をしています。

14年ぐらい画像の切り抜きサービスをやっていますが、自動化の問題はそれなりに大きいと思っているので、AI関係で新しいビジネスをやりたいですね。世界中で挑戦している人たちがいるのでハードルは高いと思うけれど、挑戦するやりがいはあると感じているので、前向きにトライしたいと思っています。

起業家に向けてのメッセージ

ー現在、リモートワークはされていますか。

渡邉:家にも作業できるスペースは整えてあるんですが、画像のデータサイズが巨大で、家の回線だとちょっと厳しいので最近は出社がメインです。

ーオススメの本を教えてください。

渡邉1冊は大前研一さんの『新・資本論』。昔の本ですが、ビジネスのヒントがつまっているので、起業する方にはおすすめしたいですね。

2冊目はアルビン・トフラーの『富の未来』です。未来の経済はこうなるよ、と予言しているような本なのですが、実現していることもあり、想像力を働かせてくれる本です。

ー便利だったツールはありますか。

渡邉ボックスという画像などの保管庫サービスなのですが、容量が無制限ですし、クライアントなど社外の人とも共有しやすいのでおすすめです。

ー1日の使い方を教えてください。

渡邉:コロナでジムに行くのを控えているので、ロードバイクのフィットネスマシンを買って家で運動しています。気づくと寝ている間以外は仕事のことを考えてしまうので、意識して運動するようにしています。

ー最後に、読者である起業家、起業を考えている人たちに向けてメッセージをください。

渡邉:今はインターネットに情報があふれ過ぎていて、何のビジネスをやるかで悩んでいる人が多いのではないかと思います。ニュースやYouTubeなど、いろいろな意見があるので見れば見るほど決断できないのではないでしょうか。目移りしやすい環境とも言えますよね。

私がおすすめしたいのは、自分がやりたいと思っている分野の方に話を聞きに行くことです。知り合いの中にいなければ、気軽にSNSなどのコミュニティに飛び込んでいってアドバイスを求めてみてはどうでしょう。業界の経験者、自分のお客さんになりそうな人に意見を聞いてみてください。

ー本日はありがとうございました!

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(取材協力: 株式会社メディア・バックオフィス代表取締役 渡邉堅一郎
(編集: 創業手帳編集部)



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