machimori 市来 広一郎|100年後も続く豊かな暮らしを。熱海V字回復の立役者が目指す先にあるもの

創業手帳
※このインタビュー内容は2018年08月に行われた取材時点のものです。

株式会社machimori代表取締役 市来 広一郎インタビュー(後編)

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(2018/08/21更新)

前編では、現在の事業を行うまでの経緯や現在のV字回復につながる事業を中心に語っていただいた、市来 広一郎 氏(株式会社machimori代表取締役 / NPO法人atamista代表理事)。

後編では、チーム作りに大切なことや、起業した時のエピソードを。さらには、地域活性化に取り組む方・起業家に向けたメッセージもいただきました。

前編はこちら→補助金に頼らない地方創生。シャッター通りが再生した「熱海の奇跡」

市来 広一郎Koichiro ICHIKI
株式会社machimori代表取締役 / NPO法人atamista代表理事

1979年静岡県熱海生まれ、熱海育ち。東京都立大学大学院 理学研究科(物理学)修了後、アジア・ヨーロッパを3カ月、一人で放浪。その後、ビジネスコンサルティング会社に勤務。2007年に熱海にUターンし、ゼロから地域づくりに取り組み始める。遊休農地の再生のための活動、「チーム里庭」、地域資源を活用した体験交流ツアーを集めた、「熱海温泉玉手箱(オンたま)」を熱海市観光協会、熱海市などと協働で開始、プロデュース。2011年、衰退した熱海の中心市街地をリノベーションする民間まちづくり会社、株式会社machimoriを設立。いずれも空き店舗を再生し、カフェ「CAFE RoCA」を、宿泊施設「guest house MARUYA」、コワーキングスペース「naedoco」をオープンし運営している。熱海市と共に創業支援プログラム99℃~Startup Program for ATAMI2030~や、熱海市の2030年の未来を構想する「ATAMI2030会議」を開催している。一般社団法人ジャパンオンパク 理事/一般社団法人日本まちやど協会 理事/一般社団法人熱海市観光協会 理事”
著書に「熱海の奇跡~いかにして活気を取り戻したのか~」(東洋経済新報社)

スタッフにとって、外の声が一番のモチベーションアップ

コワーキングスペース「naedoco」。「割と自分たちで作っています」と市来氏は語る。
ーチーム作りで大切なことはなんだと思いますか?

市来:事業を進めていくと、創業者以外のメンバーが不安になり出すタイミングがあると思います。「ここを凌げば大丈夫」というのは、経営者が分かっていても、現場が分からないということがあります。

そういう時に、外部の応援者やコメントにメンバーは勇気づけられます。応援してくれる人、意義を伝えてくれるというのが大きいと思います。もしメンバーが不安になり出したら、外部のお客様の声をメンバーに伝えてはいかがでしょうか。

ー資金調達の際に印象的だったエピソードはありますか?

市来:Readyforのクラウドファンディングで170万円集めました。当時は4,000万円必要でしたから、金額的にはごく一部でしたが、期待していた以上の効果が得られました。それは、広報面や人とのつながりができたことです。

自分やメンバーのモチベーションになったことも大きいですね。始めるまでがとにかく大変なんです。オープンできないとモチベーションが下がったり、人が辞めたくなってしまったり。でも、そういう時にコメントを見ると「ああ、これは良いことなんだな」とやる気になるんです。

ー起業で一番苦労したのはどの点でしたか?

市来:「CAFÉ RoCA」での話です。老舗の干物屋の5代目の釜鶴の二見一輝瑠(ふたみひかる)と、ビルの空いているワンフロアを借りて、リノベーションして新しい店をやりました。規模が大きくて、大変でした。

事業を進めていくために、経験のある人からアドバイスをもらいました。
例えば、「最初に初期投資を1/3にしなさい」と言われてコストを抑えたり、「まずは自分のお金でやらないと甘くなるから、まずは自分のお金で成功させなさい。」と言われたり。全てが本当に貴重なアドバイスでした。

そのような苦労をしてオープンしたのですが、オープン後も人は来ない、スタッフはやめる、という悪循環でした。今では、リノベーションした場所をサブリース(※1)して、地元でお店を開きたいというカフェ・バールと、ジェラート屋さんが入るという形に落ち着いています。

結果的に、熱海で起業する人が増えたという形にもっていけました。

※1
サブリース:一括借り上げ、家賃保証制度のこと。企業が貸主から賃貸物件を一括で借り上げ、入居者に転貸する。貸主は入居者がいようといまいと一定の家賃が保証されるとともに、入退去に関する手続きや家賃の集金業務などから開放される。

今の幸福度は100%

ーでは、起業して一番嬉しかったことはなんでしたか?

市来:最初の頃に手ごたえがあったのは、「熱海温泉玉手箱(オンたま)」の活動です。始めて2、3年目の時ですね。
来た人が「毎日が幸せになった」という話を聞くと、本当に嬉しく思います。移住したり、東京・熱海の2拠点生活になったり。そういう人たちが楽しそうにして、コミュニティの場になっていく、思い描いていた形になっていきました。

個人的には、東京にいたころに比べて、幸福度は100%です。ストレスが無く、やりたいことができて、世界が広がりました。

前が海で、環境が良く、仲間がいて、それでいて刺激的な仕事がある。別に大きく儲かってお金持ちなったわけではありません。でも、それ以上のものを手に入れられました。これ以上望めないという生活です。

地主・オーナーの志あってのリノベーション

ゲストハウスは4,000円~。東京・熱海の2拠点居住者や若者などの熱海に来る層の拡大に寄与している。
ーリノベーション、不動産の再生で重要なのは?

市来地主、オーナーの方に志がある、地域を良くしたいという思いが大事だと思います。
地域が良くなれば、自分の土地の資産価値が上がるのですから。

土地が使われていないということが一番ダメです。
お金も回らないし、建物も傷む。何より雰囲気が悪くなるので土地の価値が下がっていってしまう。自分だけの土地の価値という意味だけではなく、そのエリア全体の価値をどう上げるかを考えるかが重要です。

例えば地域にとって重要なテナントというのがあると思います。新しい若い人のお店だったり、人を引き寄せる魅力がある店だったりですね。こういうテナントは長期的に見ると、不動産の価値を高めます。

表通りで物件が広いと若い人たちが借りられない、良いお店ができてこないということもあると思います。最初のハードルも含めて一緒に考えられるオーナーさんが大事だと思います。

シャッターが閉まった物件を抱えていても朽ちるだけ。それであれば若い人ややる気がある人に、良い条件でチャンスを与えて上げると地域全体が盛り上がり、不動産の価値も上がるのです。

以前、退職して、時間とお金がある人が、次々にお店を出したのですが、1年ぐらいで辞めてしまった例があります。年齢が高い・若いというより、本気でやるかどうかが大事ですね。本気でやる店と、本気でやらない店があるので、やはり本気でやる人を集めないといけないなと思います。

昔の熱海は単価も高く、いる人もお客さんも高齢化が著しかった。それが、今は若い人が増えつつあります。若い層に向けた商売も成り立ってくるようになり、ここ5,6年で劇的に状況が変わってきました。

100年後も続く豊かな暮らしをつくる

ー今後の展望について、教えてください。

市来今は100%暮らしに満足していて、家族も、仕事のやりがいも全て手に入れました。
自分の世界も劇的に広がりました。他の地域とのつながり、海外とのつながり。東京にいたときより面白い人とつながることができました。

そして、温泉と海がすぐそばにあるという環境ですから、ストレスがほぼ無いですね。
「すべて満たされてしまうと、モチベーションが無くなるんじゃないかな?」と一時心配しましたが、そうでもなかったですね。モチベーションは変わらない。こうなってくれる人が一人でも増えると良いと思っています。

今後ですが、「machimori」はエリアを再生していきます。街中に住める場所、楽しみがあって、泊まれる場所を作っていくという事を、住宅や宿泊、街中の物件をリノベーションを通してやっていきたいです。

あとは、公共空間の活用ですね。熱海銀座通りを劇的に上げることはできないかなと思っています。「熱海銀座公園化計画」です。道ではなくて、道を公園にしてしまうと。

市街地に交通量が多い車があると危ない面もあります。だから、もう公園にしちゃったら、人がお店に行きやすくなって活性化して良いんじゃないか、実験的にできないかな、ということを考えています。

今は熱海が最優先です。海外の話も来たりしますが、2030年までは熱海をやっていきます。100年後も豊かな暮らしを作る。そして、NPOとしての団体は役目を終えて、2030年解散するというのが目標です。ですが、持続する生態系を地域の残すことが大事です。

人からマネされる商売をつくることに意味がある

ー地域活性化に取り組む方に向けて、メッセージをお願いします。

市来ある人から言われたのですが、「自分の商売ができない人間が街づくりはできない」という言葉が印象的でした。1店舗を経営して黒字化できないという人間が、街づくりはできないということだと思います。

自分も成功しているのもあれば失敗しているものもあるので、偉そうなことも言えないですが、受け入れられて、人にマネされるような商売を生み出してこそ意味があるのではないかと思います。

そして、これからも地域活性化に挑む人たちが増えて欲しいです。
後に続く人が出て、地域を変える、同じような人たちが入ってくる、新しいことをやろうとする人が次々と入ってくるかどうかが大事だと思います。「後から人が入ってくると競合するのでは?」と思う人もいますが、全体が栄えて、盛り上がることが大事です。

なので、マネされても勝てるものを考えておくことが必要ですね。他にないからやっているというだけだと弱い。

例えばゲストハウスで言えば、「ゲストハウスが無いからゲストハウスをやる」というだけでは競合に負けてしまいます。そうではなくて、熱海の楽しみ方を他の人に伝えられる、という強みがあるからこそゲストハウスをやろうと。自らの強みを把握する事が大事だと思います。そして続けていくには工夫や良くし続けることが大事です。

「やり続けることができるもの」を選ぶことが大事

ー最後に、起業家へ向けてメッセージをお願いします!

市来「やり続けることができるもの」をテーマに選ぶということが大事だと思います。

気持ちでも、お金でも、やり続けるためにはどうしたら良いかと考えることが必要です。1回ダメでもまたやる、とか。成功するまでやり続けることができたら成功します。

もしかしたら、その間に失敗するかもしれません。ですが、「成功するまでやらないと成功しない」のです。自分の状態や気持ちも大事にしながらやり続けてください。

シェア店舗で開業した経営者の声


ここで、市来氏が手がけたシェア店舗に入店している、caffe bar QUARTO(カッフェ・バール・クァルト) オーナー加藤麻衣さんに、お話を伺いました。

加藤:クアルトはイタリア語で「第四の」という意味で、私にとっての第四ステージという意味を込めて名付けました。

地域に根ざしたバールの開業を夢見ており、そのために「まちづくりを頑張っている地域にまずは勉強に行こう」と参加したプログラムをきっかけに、熱海と市来さんはじめとした熱海の皆さんとのコネクションができました。自分にとってサードエリアとなった熱海はバールの開業を決意してから、自然と開業候補地になりました。

市来さんは色々な事を考えながら、実現していってしまう人ですね。ここは元々市来さんがやっていたが、今は2つの店が入っています。市役所の人がメディアに売り込んくれるのもありがたいです。「ADさんいらっしゃい」とかでロケを呼び込んでいるんです。そういう広報の支援が助かっています。

クアルトはイタリアンバールスタイルで、立ち寄りやすさを追求しています。地域の人が1日に、何回も来てもらっていたり、観光の方もリピートで来てくれる。おかえりなさいと言える、場所なんです。それが本来のバールの在り方なんじゃないかなと思います。

今開店して1年目ですが、印象は若い人が増えて明らかに町が変わったと思います。昔はシャッターが閉まった所が多かったですが、今はほとんど埋まっています。目に見えて街が良くなっているのが嬉しいですね。

書籍・創業支援プログラムのご紹介

今回ご紹介した市来氏の著書「熱海の奇跡」が発売中です。ぜひチェックしてみてください!

(取材協力:株式会社machimori/市来 広一郎
(編集:創業手帳編集部)

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