補助金に頼らない地方創生。シャッター通りが再生した「熱海の奇跡」

創業手帳

株式会社machimori代表取締役 市来 広一郎インタビュー(前編)

machimori

(2018/08/14更新)

突然ですが、読者の皆様は「熱海」というとどのようなイメージをお持ちですか?もしかしたら、「熱海=さびれた温泉街」といったイメージを持っている方もいるかもしれません。実際、2006年に当時の市長が財政危機宣言を出したほどで、しかも当時の財政赤字は全国ワースト6位。待った無しの危機的状況。それが今までの熱海の姿でした。

そんな熱海の現在ですが・・・なんと急激に経済を回復しています。
観光庁が発表している「観光白書2017」でも、「民間ベースでUターンの若者による街づくり」で街の再生の成功事例として取り上げられるまでになりました。

そんな「熱海V字回復」の仕掛け人が、市来 広一郎 氏(株式会社machimori代表取締役 / NPO法人atamista代表理事)です。
東京の大企業に勤めていた市来氏は、補助金に頼らない自主的なプロジェクトを次々と立ち上げ、市役所・地元といった熱海のあらゆるところと連携し、熱海再生の立役者となりました。

今回はそんな市来氏に、起業の経緯や民間主導の地域創生、地元で起業するコツについて語っていただきました。

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市来 広一郎Koichiro ICHIKI
株式会社machimori代表取締役 / NPO法人atamista代表理事

1979年静岡県熱海生まれ、熱海育ち。東京都立大学大学院 理学研究科(物理学)修了後、アジア・ヨーロッパを3カ月、一人で放浪。その後、ビジネスコンサルティング会社に勤務。2007年に熱海にUターンし、ゼロから地域づくりに取り組み始める。遊休農地の再生のための活動、「チーム里庭」、地域資源を活用した体験交流ツアーを集めた、「熱海温泉玉手箱(オンたま)」を熱海市観光協会、熱海市などと協働で開始、プロデュース。2011年、衰退した熱海の中心市街地をリノベーションする民間まちづくり会社、株式会社machimoriを設立。いずれも空き店舗を再生し、カフェ「CAFE RoCA」を、宿泊施設「guest house MARUYA」、コワーキングスペース「naedoco」をオープンし運営している。熱海市と共に創業支援プログラム99℃~Startup Program for ATAMI2030~や、熱海市の2030年の未来を構想する「ATAMI2030会議」を開催している。一般社団法人ジャパンオンパク 理事/一般社団法人日本まちやど協会 理事/一般社団法人熱海市観光協会 理事”
著書に「熱海の奇跡~いかにして活気を取り戻したのか~」(東洋経済新報社)

「故郷を失った感覚」になった衝撃の体験

ーまずは、市来さんの経歴について少し教えてください。

市来:もともと私は熱海生まれで、高校まで熱海にいました。大学からは物理をやりたくて都立大(現・首都大学東京)に入学して、その後は大学院に行きました。

熱海の再生に取り組むことになった原体験ですが、両親が熱海の銀行の保養施設の管理人をしていた時に、その施設が無くなるという衝撃的な体験がありました。

当時は大企業が熱海などに保養施設を持っていました。
ですが、バブル崩壊・金融機関も合併に次ぐ合併が続き、次々と閉鎖していきました。私が20歳の時に、両親が勤めていた熱海の保養施設が無くなりました。

両親は、同じ銀行の違う施設に転勤し、転居するということになりましたが、帰るところを失った、故郷を失ったという感覚でした。熱海の厳しい状況を強く認識することになります。

大学院卒業後に入社した企業で、最初の1年はSEやプログラマーの仕事をしていました。後に組織変革や業務改革のコンサルを、特に企業のワークスタイルを変えるコンサルなどをすることになりましたが、この仕事が面白くて、3年半ほど会社勤めをしましたね。

熱海に没頭するために会社を辞める

熱海の海岸にある「スパ・マリーナ熱海」付近の風景
ーなるほど。働く前から熱海の厳しい状況を認識していたのですね。起業しようと思ったきっかけはどのようなものでしたか?

市来:その当時の私は旅が好きで、社会人になる前に行ったインドの旅をしました。目の前の現実が日本と大きく違い、衝撃を受けました。
会社員として働いていたある時に、ミャンマーを旅しました。「そのままアジアで何かできないか?」とも思ったのですが、そこでハッと気が付いたのは「まずは足元の現実、生まれ育った熱海でできないか?」ということでした。

自分が住んでいる国、地域がダメになっている。ミャンマーもこれから日本のように経済発展していくかもしれないが、もしかしたら、行きつく先は当時の熱海のような状態かもしれない。
故郷の熱海で何もできていないのに、ミャンマーで何かできるのか、自分は甘えているのではないかと思ったのです。

よく考えみると、東京や大都市は今は繁栄していますが、数十年後には人口が減っていきます。今発展しているアジアも同じです。将来、故郷である当時の熱海のような状況になると思いました。

「どんな地域も、遅かれ早かれ高齢化や過疎、人口減少などの課題に直面する。その未来を変えないと」と考えたのです。

日本の地方は高齢化が進んで、課題も先取りしている。いわば「課題先進地域」なのです。

ー実際に起業するまでには、どのように動いたのですか?

市来:企業のワークスタイル変革をするコンサルの仕事をしながら、世界的なコンサルタントの大前研一さんが創設した一新塾に通いました。そこで7人で仲間たちと熱海の活性化プロジェクトを立ち上げました。

徐々に熱海の没頭するようになったのですが、仕事が手つかずな状態になっていきました。そこで、熱海に集中する為に、会社を辞めて帰郷することになります。

3年半勤めて、手元のお金は200万円でした。ゼロではないものの、起業するとなると心もとない金額でした。ですが、妻に背中を押されて決断しました。

地元の人は地元の魅力を知らない!?

ーそれから熱海に戻られたと思いますが、熱海に戻ってきて一番気になった点はどの点でしたか?

市来熱海に戻ると、熱海の人たち自身が「熱海には何も無い」と言っていることに驚きました。観光客が、シャッターの閉まっている通りを見て「残念だ」という気持ちになり、それに加えて地元の人が「何も無い」と言ってしまう。それでは二度と熱海に来てくれることはありません。

ですが、地元の人しか知らない見どころもあります。地元では当たり前だと思っているようなものでも、実は東京から来ると貴重な体験ということもあるのです。

温泉や海だけでなく、例えば初島や凌雲閣、マスターが三島由紀夫に泳ぎ方を教えたというエピソードがある喫茶店(ボンネット)があります。地元の魅力を掘り出していくと、地元の人が気付いていない面白いところもたくさんあるのです。

そこで「あたみナビ」を始めます。熱海でのユニークな活動や人の紹介ですね。
ポータルサイトをやろうとしていたweb制作会社の方がいたのですが、運用する人がいないという状況でした。なので、そこの運営に携わり、熱海の面白い所に行き、取材して、隠れた魅力を発掘する情報を発信していきました。

ーそのような形で活動をスタートさせたのですね。他にはどのような活動が始まったのでしょうか?

市来南熱海で使われていない農地と、移住してきた方や別荘の方を結び付ける活動が始まりました。これは「チーム里庭」という活動で、稲刈りをしてもらったり、都会の人にとっては貴重な体験をすることができます。

そんな中、市役所の「ニューライフ支援室」という部署の石渡久照さんという方と出会いました。石渡さんが行なっていた熱海の魅力を伝える活動である「熱海博学講座」と「チーム里庭」の活動は、方向が全く同じでした。市役所の人も誘致や支援に熱心で、本当に助けられました。

そして、体験交流プログラムを通して、熱海ならではの文化を土台にした地域に根付いた産業、人財の育成を目的に活動である「温泉玉手箱(オンたま)」を始めます。

次々と法人、プロジェクトを立ち上げる

空き物件をリノベーションしたシェア店舗「RoCA」。取材の際、店の外まで行列が続いていた。

市来:2010年に「NPO法人atamista」を、2011年に「株式会社machimori」を立ち上げました。
事業としてはリノベーションして「CAFÉ RoCA」を立ち上げていますが、この事業は後編でお話しますが、大変でした。
地元の作家さんや農家さんなどが商品を手づくり商品を販売する「海辺のあたみマルシェ」、気軽に色々な人が来れるゲストハウス「MARUYA」、地元で働く人のためのコワーキングスペースの「naedoco」を立ち上げています。

他にも、2030年までに熱海がどうなっていくのかを考える「ATAMI2030会議」、不動産を再生していく取り組みである「リノベーションスクール」、「家守塾」など、熱海に必要と思われる仕事をしています。また、熱海の創業支援プログラム「99℃」も行っていまして、こちらは現在受講生を募集しています。

ー様々な展開をされていますね。

市来:そうですね。自分では「街づくり、熱海の再生をやっている人」という認識です。他の地域でも使って頂いたりしていますけど、熱海にこだわりをもっています。

熱海の衰退と復活の理由

取材時に立ち寄った熱海サンビーチの様子。多くの人で賑わっている。
ーそもそもの質問なのですが、なぜ熱海は衰退していったのでしょうか?

市来:熱海は昭和30年代に非常に成功しました。高度経済成長期で、団体旅行がお客様の大半を占めていて、観光やサービスが全て団体客に対応したものになっていました。こういう良い状態が、長く続いたのです。

それから時代は移り変わり、それと同時に客層も変わりました。団体から個人の時代になったのですが、その移り変わりに対応できませんでした。
そして、人が来ないことで寂れて、余計に人が来なくなる、という悪循環に陥ってしまったのです。

ですが、そこから大きく持ち直して、個人の若い人が多く来ています。
熱海の目抜き通りは、長らくシャッターが閉まった空き家が多かったのですが、若い人が店を出すようになり、今では空室がほとんどありません。

また、熱海はインバウンドが少ないという特徴があります。これはこれで今後の課題でもありますが、熱海の再生は、外国人観光客を多く呼び寄せて実現したのではなく、今いるお客様を大事にして実現したというのが良い点だと思います。

危機感があるところが上手くいくとブームになり、投資や大手のホテルなども入ってきます。地元の経済を活性化する面では良いですが、風向きが変わると撤退する可能性もあります。そのため、ブームにはむしろ注意しておいて、ちゃんとしたサービスを届けるということが大事だと思います。

もし外部から来た企業が根付くつもりであれば、他からやってきた人や地元の人たちといった熱海に興味を持った人達と連携していくということが大事だと思います。

補助金は頼りすぎると麻薬になる

ーお話を伺っていると、自主的なプロジェクトについてこだわりを持っていますね。

市来:そうですね。

例えば、事業を行ううえで補助金を利用することがあると思いますが、補助金には麻薬のような依存性があります。頼り過ぎてはいけません。
補助金のための事業になってしまい、お客さんの方向を向いていないので面白さも無く、頑張ってやろうとしない。そして、またすぐ補助金に頼ろうとしてしまう。

お客さんの方を向かないと、工夫や頑張りが生まれません。
あくまで補助金はやりたいこと・方向性に対して必要なら利用するということにしなければ、お客様の心をつかむような商品やサービスはできないと思います。

ー熱海市役所はどのような活動をされているのでしょうか?

市来:2006年に当時の市長が財政危機宣言を出すぐらい熱海は追い込まれていたのですが、現在は市長も変わりまして、熱海市役所にはやる気がある人や、危機感を感じていて一緒に変えていこうという人が本当に多いんです。

私たちは、産業振興室や商工会議所などと一緒に活動しているのですが、市役所も本気でやる人をサポートするという姿勢を持っており、それが良い結果を生んでいると思います。

おそらく、役所や地域の業界団体で世代交代が起きたという面も大きいと思います。60代ぐらいの方が多かったのが40代の第一線で活躍している人が中心になっています。
自主事業から本気で変えていこうという姿勢が、違いを生んでいるのだと思います。

地方にはロジックが通用しない

ー熱海には、外部から来られた方もいらっしゃると思います。そのような方々の役割は、どのようなものだと思いますか?

市来やはり地域の価値を見出すには、外部からの視点も必要です。外部と地元が一緒になる、というのが大事だと思います。

ー同じように地域の活性化に取り組む方に向けて、アドバイスはありますか?

市来:外部から対象の地域に入るケースの注意点をお話しすると、大企業にいるとビジネスはロジック(論理)で進行していきます。コンサルの仕事をしていたので特にそう思ったかもしれませんが、そういうロジックが通用しないのが地方だと思います。コミュニケーションの仕方が全然違うわけです。

外から入ってきて上から目線だと、何も進みません。特に、年配の人はビジネスの経験が出来上がっているので、自分を変えられないで苦戦するケースが多いので注意したほうがいいと思います。

また、お金に換算できない部分も含めた背景や現状を知った上で、発信できるかどうかも重要です。地域が好きなことを発信する、つなぐ人との関係も大事にする、「この地域はここがいいですよね」と愛着を語る。そういうことを積み重ねて信頼関係を作って、コミュニケーションを取り続けることが必要です。

つまりは、大企業のビジネスでも地方でも「相手を知る」というのが大事なのでしょうね。

もちろん、急にはなじめないというケースもあるので、その場合は地域に2~3年関わって、徐々にマッチしていくという方法もあります。自分を生かすことができる期間を作っていくわけです。

【後編はこちら】株式会社machimori代表取締役 市来 広一郎インタビュー(後編)
100年後も続く豊かな暮らしを。熱海V字回復の立役者が目指す先にあるもの

(取材協力:株式会社machimori/市来 広一郎
(編集:創業手帳編集部)

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