起業家の想いが伝わる「土の香り」のする言葉が人の心を動かす。 ロフトワーク創業者・林千晶インタビュー(後編)

創業手帳
※このインタビュー内容は2017年07月に行われた取材時点のものです。

飛騨で気付いた「本当の豊かさ」

(2017/07/27更新)


「クリエイティブを流通させたい」−オープンコラボレーションを通じて、Web、コンテンツ、サービス、コミュニケーション、空間などをデザインするロフトワークを2000年に創業した林千晶さん。2万3,000人が登録するクリエイターネットワーク「loftwork.com」を核に、様々なサービスを提供してきました。後編では森林再生とものづくりを通じて地域産業創出を目指す「飛騨の森でクマは踊る(通称ヒダクマ)」の設立のきっかけと、“起業家が想いを人に伝えて、実現する”ための言葉の紡ぎ方をうかがいます。

林 千晶(はやし ちあき)
ロフトワークの共同創業者、代表取締役。
1971年生、アラブ首長国育ち。早稲田大学商学部、ボストン大学大学院ジャーナリズム学科卒。花王、共同通信NY支局を経て、2000年にロフトワークを起業。Webデザイン、ビジネスデザイン、コミュニティデザイン、空間デザインなど、手がけるプロジェクトは年間530件を超える。 2万人のクリエイターが登録するオンラインコミュニティ「ロフトワークドットコム」、グローバルに展開するデジタルものづくりカフェ「FabCafe」、クリエイティブな学びを加速するプラットフォーム「OpenCU」を運営。 MITメディアラボ 所長補佐(2012年〜)、グッドデザイン審査委員(2013年〜)、経済産業省 産業構造審議会製造産業分科会委員(2014年〜)も務める。森林再生とものづくりを通じて地域産業創出を目指す官民共同事業体「(株)飛騨の森でクマは踊る(通称ヒダクマ)」を岐阜県飛騨市に設立、代表取締役社長に就任(2015年4月〜)。

飛騨×世界、東京を結ぶ。本当の豊かさって?

ー2015年に起業された「飛騨の森でクマは踊る(通称ヒダクマ)」。これはどういう経緯で始まったんですか?

:飛騨市と林業コンサルタントの会社から、森の価値を再発見してくれないかと相談が来たんです。「FabCafe」もやっていて忙しい時期だったのですが、1回騙されたと思って来てくださいと言われて、家族を連れて行きました。

その時は雪がしんしんと積もる寒い時期で、古民家に泊まりました。着いたら、飛騨で採れた薬草の温かいお茶を淹れてくれて、野菜なども用意されていました。

また、夜ご飯のときに囲炉裏のある家に連れて行ってもらったら、山菜の煮物が出てきたんです。
「2月なのに、もう山菜採れるんですか?」と聞いたら、「こっちは雪深いし、何があっても大丈夫なようにおいしいものをおいしい時に採って全部冷凍庫に入れてあるのよ」と教わりました。

その時、「あぁ、東京の豊かさとは違う」って思ったんです。
旬のものがおいしいことは知っていましたが、採れてから1年も経った山菜の煮物がこんなにおいしいなんて知りませんでしたし、それをおいしく保っておく暮らしの知恵も知りませんでした。

こういったことを私も学びたいし、その価値を次につなげていくための活動をしていきたい、と思ったのが飛騨で活動をしようと思ったきっかけのひとつです。

訪問した時は、木工の匠の後を継ぐ人が減ってきていて、今の若い建築家は飛騨で古くから伝わる「組木」の技術をほとんど使わなくなった、ということも知りました。

そこで、組木を3Dデータにしてデジタルファブリケーションと結びつけてはどうか、と思ったんです。
日本の古き良き知恵や技術を次の世代につなげていき、ビジネスとして何ができるか挑戦しようとして生まれたのが「ヒダクマ」です。FabCafe Hida やヒダクマには、国内外、老若男女のクリエイターがやってきて、組木をはじめ木の構造を学んだり、デジタルファブリケーションを活かした新製品の開発やモノづくりをしています。

ただ、まだ課題もあります。
私たちは飛騨で伐採された木材を加工利用するので、林業でいえば下流の位置です。材料を得るために必要な林道の整備、伐採する時の機材や人材、伐採方法の習得など、様々なことを考えないといけません。
地域の人たちとも丁寧に交流を深めながら連携し、少しずつ解決していこうと思います。

「土の香りが伝わる」ような自分の想いを発信しよう

ー起業家が自分のWEBサイトだったりSNSだったり、最初に自分のやりたいこと、想いを伝えていく時、より明確にやりたいことを伝えていくためのアドバイスはありますか?

いい文章は「土の香りが伝わる文章」だと思っています。例えば、土のことについて書いてある文章を読んだら、まるで土の香りや温かさが伝わってくるような、読み手と具体的な景色を共有できる表現です。

起業家の方なら、「具体的な景色」とはビジョンとも言い換えられるでしょう。その事業を成し遂げたとき、人々はどんな暮らしをしていてどんな社会が広がっているのか。そんなイメージを読み手と共有できるようなコミュニケーションができると素敵だなと思います。

ー「FabCafe」の事例でいうと、みんなが喜んでる景色を見たいという生肌感覚に通じるのかもしれないですね。

:そうですね。創業直後は、誰だって苦しい時期だと思うんです。
私が会社を作るときに、父親がベンチャーを支援する会社の知人と会わせてくれたのですが、その方に「これは絶対無理。上手くいかない」と言われたことがありました。

父親が自分を信じて会わせてくれたのに、なんだか親子で否定された気分になっちゃって、「お父さんごめんなさい、私のやろうとしていることはだめなのかな」ってボロボロ泣きながら六本木の街を歩いたのを今でも憶えています。もう起業の想いを人に話すことはやめようかな、と考えた時もありました。

ですが、「誰か」の支えがあったら頑張ることができます。その「誰か」は、先ほどお話しした「土の香りが伝わる」言葉・文章を発信し続ければきっと見つかります。
起業家の方の言葉・文章が、様々な方に伝わることを願っています。

(取材協力:株式会社ロフトワーク 代表取締役 林 千晶
(編集:創業手帳編集部)



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