伸びる業界や大きな波は、どうやってキャッチする?【村上氏連載その3】
有価証券報告書は情報の宝庫。読むだけでその業界の全体像が分かる
世界200以上の国と地域に7億5,600万人のメンバーを有する、世界最大のビジネス特化型SNSを提供するリンクトインの日本代表村上 臣氏は、著書『転職2.0』で、日本人はキャリアの常識をアップデートする必要があると提言しています。日本人のキャリアの新ルールについて、創業手帳代表大久保が伺います。3回にわたる連載最終回では、有価証券報告書が有益な情報である理由、お勧めの本を教えていただきました。
青山学院大学卒業。在学中に現ヤフーCEO川邊健太郎らとともに有限会社電脳隊を設立。日本のインターネット普及に貢献する。2000年にヤフーの合併に従いヤフーに入社。2012年にヤフーの執行役員兼CMOに就任。2017年に米国・人材系ビジネスの最前線企業、リンクトインの日本代表に就任。国内外の雇用事情に精通した「キャリアのプロ」として、NewsPicksアカデミア講師を務めるなどメディアにも多数登場し、転職や働き方について発信している。複数のスタートアップ企業で戦略・技術顧問も務める。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
社会の「これから」を見るために意識していること
大久保:村上さんは、日本のインターネットの普及に貢献されたり、モバイル事業に尽力されたりと、「次に来るものはこれだ!」と時代の先を捉えるセンサーが鋭敏な方と感じますが、その力はどのように身につけられたのでしょうか?
大きな視点から考えてみる、専門家の意見を聞く
村上:そうですね、日頃から心掛けていることが大きく2つあって、1つはマクロ的に考えることです。
僕はヤフーで働いていた時、コーポレートベンチャーキャピタルのパートナーとしてマクロを見たり経営戦略的な視点で業界分析をする仕事をしていました。いろいろな情報を収集するので、「この会社が来そうだ」という情報がたまり、それによってしっかりと分析ができました。
2つめは、一次情報を持っている専門家とつながることです。
専門家、特に研究者は最先端にいるので、何が今来ているのか、そうでないのかを知っています。例えばディープラーニング技術に今のような技術革新が起こることも、10年くらい前からその道の専門家には分かっていました。
僕はそういう人と定期的に会ったり、オンラインで話したりと、いろいろなネットワークを持っているので、その2つを総合すると、次の大きい波がこういう感じなんじゃないかということが分かります。
有価証券報告書は良質な情報の宝庫である
村上:また、僕には有価証券報告書を読めば、その企業はもちろん、業界の情報収集・分析ができるという持論があります。伸びる業界を知りたければ、その業界1位の会社の有価証券報告書のサマリーを読むことをおすすめします。
業界ナンバーワン企業はだいたい上場していますので、有価証券報告書を誰でも読むことができます。有価証券報告書には一般投資家が分かるように、その事業の状況、リスク、今後の見通しなどが全部載っています。有価証券報告書は情報の宝庫で、読むだけでその業界の全体像が分かるのです。
有価証券報告書は、社内の人と株主や投資家というものを熟知しているIR担当とで、非常に時間をかけて作った、クオリティという意味では最高の資料です。投資家に向けて自社が抱えるリスクや弱みまで丁寧に記述してあります。競合状況について読めばそれがヒントになり、伸びる業界や企業が見えてくることがあります。
また、有価証券報告書はバイアスがかかっていないという意味でも、良質な情報だと思います。一方で転職サイトや会社のHPは、その会社の良い面を強調しているものがほとんどですので、バイアスがかかった情報と言えます。
大久保:投資の神様と言われるウォーレン・バフェットは、内輪の情報ではなく有価証券報告書をひたすら読み続けているという話を聞いたことがあります。情報というとオープンになっていないものに価値があるように感じたりもしますが、オープンな有価証券報告が、情報を得るのに非常にいいということなのですね。
村上氏が勧める経営者が読むべき2冊
大久保:有価証券報告書を読むべきと伺いましたが、読むということに関連して、起業家や経営者に向けて、村上さんがお勧めの本をご紹介いただけないでしょうか?
村上:そうですね、お勧めの本は2冊あります。経営者の方には超古典ですが、D・カーネギーの『人を動かす』をお勧めします。この本は今読んでも学びしかないという本です。僕は、新しく経営者やマネージャーになる人には、「必ずこれを読んで」と言っています。
もう1冊は、元インテルのCEOだったアンディ・グローブの『HIGHOUTPUT MANAGEMENT(ハイ アウトプット マネジメント)人を育て、成果を最大にするマネジメント』です。これはマネージャーに初めてなる人に勧めています。
グローバルスケールで組織をマネージするには、マネージャーがどうすればいいのかを、インテルでの経験をもとにかなり詳細に書いています。要約すると、マネージャーの仕事は、部下の達成を助けることで、人を育てることがマネージャーの唯一の仕事であると言っています。手法や事例がすごく豊富なので参考になります。経営者はお金を引っ張ってくることとチームを作ることが仕事なので、学びが非常に深い本ですね。
大久保:ありがとうございます。ぜひ読者の方には参考にしていただきたいと思います。
就活生へのメッセージ
大久保:今、コロナ禍にあって就職活動に不安を抱えている学生が多いと思いますが、学生のうちに準備できることなど、アドバイスをいただけますか?
村上:今の時代はオンラインでネットワークを作ることができるので、いろいろなSNSの特徴をつかんで、しっかり使いこなすということは、学生のうちにできることの1つだと思います。
ただ最近は、情報が多すぎて取捨選択の難しさもありますし、情報の発信者のポジションが、学生である自分とは違いすぎて参考にならないという思いもあるかもしれません。
そういったことを考えると、できればSNSよりも実際に働いている人の声を直接聞いて、なるべく生の情報に触れるチャネルをしっかりと作ることが大事だと思います。
特に、実名を意識したリンクトインのようなSNSでは、常識的な態度で、丁寧に気持ちを伝えれば、よほどのことがない限りメッセージを送っても怒られたりはしないと思います。返信が無くても当たり前という気持ちで、コンタクトを取ってみてもよいのではないでしょうか。
そうやって蓄積した情報というものは、5年、10年と役立つものなので、意識的に生の情報に触れるチャネルを作っていくことは非常にいいことだと思います。
起業家へのメッセージ
大久保:ありがとうございます。最後に、『創業手帳』の読者の起業家に向けて、メッセージをお願いします。
村上:僕は起業が増えればいいとずっと思っていますので、起業家の皆さんには頑張ってほしいと思っています。個人的にエンジェル投資もしています。
経営者、特に起業家を志す人は、熱い情熱を持つと同時に、冷静に今自分は何を持っていて何を持っていないのか、その事業に必要なパーツは何なのか、客観視するバランス感覚を持つことが必要だと思います。
情熱は起業家ならば自然に湧き出てくると思いますが、一方で俯瞰する冷静なまなざしをよく意識したほうがいいと思います。
大久保:ありがとうございます。確かにそのバランスは大事ですね。
村上:ええ、あとは周囲を見ていると、助けを求めるのが上手な人が成功している気がします。華々しい経歴を持っていて、大企業でエースだった人でも起業して失敗する人は結構多いものです。プライドもあるでしょうし、自分は何でもできると思っているがゆえに、適切な助けを求められないこともあります。
経営はチーム戦なので、自分でできないことを誰かにお願いする必要があります。それは「採用」と言い換えることもできますね。自分にできないことを上手に頼める人ほど、どんどんスケールできると思います。
また、助けてもらうには自己開示も必要です。途方もない、バカげたことのように見えるビジョンでも、「なんか応援したくなるんだよね」という気にさせることが、起業家の究極の能力だと思います。そういうところを意識すると、いいチームがつくれるのではないかと思いますね。
大久保:今日は身につけるべき新しい転職の常識や、人に関わる貴重なお話をたくさんいただきました。どうもありがとうございました。
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