リーンキャンバス・ビジネスモデルキャンバスの違いとは
新規事業にはリーンキャンバス、事業拡大にはビジネスモデルキャンバスの活用を
自社の事業について分析するときには、次のような理由から、フレームワークを活用するのがおすすめです。
- 可視化することで論点を整理できる
- 現状や課題について共通認識を持てる
事業モデルを検討のために、ビジネスの現状整理や課題の洗い出しをおこなううえで有効なフレームワークに、リーンキャンバスとビジネスモデルキャンバスがあります。
いずれも便利なフレームワークなのですが、似た構造や共通する検討軸があるため、両者の使い分けがうまくできない人も少なくありません。
今回はリーンキャンバスとビジネスモデルキャンバスの違いを明確にしたうえで、二つのフレームワークの使い方を紹介します。自社の事業について分析する際の参考にしてください。
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この記事の目次
事業アイデアの整理に活用できる二つのフレームワーク
リーンキャンバスとビジネスモデルキャンバスはいずれも事業モデルを可視化し、今後の事業について検討するうえで役立つフレームワークです。
両者は似た部分もある一方で、リーンキャンバスは新規事業策定に、ビジネスモデルキャンバスは既存ビジネスの拡大に適しています。まずは二つのフレームワークの特徴や違いを紹介します。
リーンキャンバスとは?
リーンキャンバスはシリコンバレーのアッシュ・マウリャによって開発された、新しいビジネスを開発・実践するためのフレームワークです。「リーン」とは「無駄のない」という意味で、このフレームワークを活用すれば、名前の通り、無駄のない・効率的なビジネスプランの策定を進めることができます。
図のように9つの軸を整理して、新規ビジネスのプランを整理します。
A4程度の1枚の紙に、現状課題を出発点としたうえで、ビジネスプランの付加価値や収益性、ターゲット顧客などを可視化できます。
ビジネスモデルキャンバスとは?
ビジネスモデルキャンバスもまた9つの軸を持つフレームワークで、アレックス・オスターワルダーとイヴ・ピニュールによって開発されたものです。
事業が付加価値を生み出すための構造を可視化するためのフレームワークです。付加価値が実現するまでの構造を可視化することで、事業の強みや課題を明らかにします。
既存のビジネスにおいて、より効率的に高い付加価値を生み出す方法を検討するうえで有効なフレームワークです。
リーンキャンバスとビジネスモデルキャンバスの違い
リーンキャンバスとビジネスモデルキャンバスは、図は似ているものの、検討軸がいくつか異なることがわかります。
リーンキャンバスとビジネスモデルキャンバス軸が異なる項目
リーンキャンバス | ビジネスモデルキャンバス |
課題 | 主要パートナー |
ソリューション | 主要活動 |
主要指標 | 主要リソース |
独自の価値提案 | 価値提案 |
圧倒的優位性 | 顧客との関係 |
実は、リーンキャンバスは新規事業を検討、そしてビジネスモデルキャンバスは既存ビジネスの拡大に適しているという特徴があります。
分析軸を見ると、リーンキャンバスは課題と自社の優位性から独自の付加価値を提供する方法を検討する構造になっています。現状の課題と自社の強みをふまえ、新たな付加価値を生み出す新規事業の検討が可能です。
対してビジネスモデルキャンバスは、既に確立されたパートナーや顧客リレーション、主要活動から付加価値を高める方法を検討できます。いずれもある程度ビジネスが軌道に乗ったからこそ分析しやすい軸といえるでしょう。
事業アイデア整理にフレームワークを導入するメリット
新規事業の策定も、既存事業の拡大も課題の洗い出しや、プラン作成においてはフレームワークを積極的に活用しましょう。
事業アイデアの整理におけるフレームワーク活用には、次の3つのメリットがあります。
- 現状に対するスムーズかつ迅速な可視化が可能
- 現状や議論した内容の共通認識を促進
- ステークホルダーへの説明や説得が容易に
現状に対するスムーズかつ迅速な可視化が可能
フレームワークを用いることで、現状の可視化がしやすくなります。事業プランに関する議論を深めるうえでは可視化が重要ですが、事業プランの策定となると考えるべき要素が多く、ヒントがないまま的確に現状をとらえた可視化をおこなうのは容易ではありません。
現状や課題、活用できる優位性をMECE*に整理するうえで、フレームワークがとても有効なのです。
*もれなく・ダブりなく。状況を的確に整理したり、分析したりするうえで重要な考え方
現状や議論した内容の共通認識を促進
1枚のシートに現状が整理されるため、メンバー間での共通認識を深めることができます。解読するのに時間がかからないため、多忙なメンバーに対する情報共有も容易です。認識のギャップをなくすことで、スムーズかつ身のある議論を進めやすくなります。
ステークホルダーへの説明や説得が容易に
見やすい可視化はステークホルダーへの説明にも役立ちます。例えば次のような時にもフレームワークをもとに説明することで、スムーズに交渉を進められるでしょう。
- 社内の決裁権者に事業プランの有効性を説明して承認を得るとき
- クライアントにプランを説明して協力や新たな取引を取り付けるとき
- 投資家や金融機関から事業に対する出資・融資を引き出すとき
リーンキャンバスの書き方
続いては、二つのフレームワークの具体的な書き方を、導入事例も交えながら紹介していきます。まずはリーンキャンバスについて解説します。
リーンキャンバスの9つの要素
リーンキャンバスには9つの要素がありますが、企業側の視点、顧客の視点、資金の視点と「独自の価値提案」にわけられます。
企業側の視点①|課題
企業がとらえている、市場における課題について整理します。通常はターゲット顧客が抱えていて、既存の製品では充足できない課題などがあてはまります。時に社会全体が抱える課題などがスコープに入るケースもあるでしょう。
ここで洗い出された課題を解決することが、新たな事業プランの付加価値の源泉となります。
企業側の視点②|ソリューション
課題をどのように解決するかを整理します。新規事業はこのソリューションを提供するための取り組みと見ることが可能。ソリューションを実現することが、新規事業の付加価値となっていくのです。
企業側の視点③|主要指標
事業の成否を測る指標を明確にしておきます。新規事業は既存事業の継続と比較すると、リスクが高い分、成否に対する正確な評価が重要です。リスクの高い行動に対する対価は明確にしなければなりませんし、将来事業の拡大、撤退を判断するためにも正確な評価は欠かせません。
自社のステータスや課題、ソリューションなどを勘案して、新規事業が達成すべきKPIを整理しておきましょう。
顧客側の視点①|顧客セグメント
フレームワークの右上には「顧客セグメント」が入ります。新事業によってもたらされる製品・サービスの顧客、すなわち新規事業のターゲットを整理します。「アーリーアダプター層」とよばれる、新しい製品を早期から利用してくれる層を特定することが大切です。
顧客側の視点②|圧倒的優位性
顧客に提供可能な優位性です。何を「圧倒的」とすべきか明確な基準はありませんが、単に自社ビジネスを進めるうえで強みとなるだけでなく、新規事業者の参入阻止など、市場競争における優位性維持につながるポイントを整理します。
顧客側の視点③|チャネル
顧客まで製品・サービスや事業に関する情報を届けるためのチャネルを整理します。実店舗はもちろん、マスコミやWeb、SNSなどの情報媒体もこの軸の分析スコープに含まれます。
資金の視点①|コスト構造
顧客に付加価値を届けるまでのコストを整理します。変動費・固定費の両面から情報を集めましょう。
新規事業の場合はまだ実績がないため、正確なコストを見積もるのは容易ではありません。他の軸と並行して分析しながら徐々に精緻化させていきましょう。
資金の視点②|収益の流れ
新規事業の収益の流れを整理します。収益の規模を見積もるのはもちろんですが、サブスクリプションなどビジネスモデルもこちらで検討するのがおすすめです。
コストに対して収益が継続的に上回る見通しが立つことが、新規事業プランを進めるうえでの必要条件の一つとなります。
独自の価値提案
リーンキャンバスの中心にあるのが「独自の付加価値」。現状課題と顧客セグメントに対して、いままでにない付加価値を提供する方法を整理することが、このフレームワークのゴールです。
新規事業において、どのような新たな付加価値を提供するのが収益性などの観点から望ましいのか整理しましょう。
リーンキャンバスの導入事例
実際のビジネスを題材にリーンキャンバスを応用してみます。ここでは民泊のマッチングサービスとして世界的に有名になった「Airbnb」のビジネスモデルを題材とします。
Airbnbとは、旅行者である「ゲスト」と部屋や住宅などを一時的に貸し出す「ホスト」をマッチングするサービス。Airbnbはホスト・ゲスト双方から手数料を徴収し、収益源としています。
Airbnbのビジネスモデル
さて、Airbnbをリーンキャンバスに落とし込むと次の通りになります。
企業側の視点①|課題
宿泊者(以下ゲスト)としては、旅行時に宿泊料が高くついてしまうこと、地域により宿泊施設が限られていて、早めに予約しなければならないことや宿泊施設の有無によって旅行先が制限されることなどが課題です。
他方、部屋の提供者(以下ホスト)からすれば、自分が使用しないタイミングにおいて空き部屋は無駄なリソースであり、これを有効活用することが課題といえるでしょう。
Airbnbにおいては「宿泊者と部屋の提供者」双方に課題が存在し、また顧客として付加価値の提供が可能であることがわかります。
企業側の視点②|ソリューション
ゲストとホストの課題は、ホストが抱える余った部屋の情報をゲストに提供し、かつ既存の宿泊施設より安い価格で提供する仕組みがあれば解決することがわかります。
ホストが抱える部屋は、現時点ではAirbnbがなければ収益を生み出さない「無駄なスペース」であるため、宿泊サービス自体を「本業」として運営するためにコストをかけている、宿泊施設より安く提供できる余地は充分にあると期待されます。
したがって、ゲスト・ホスト双方に多大なコストをかけさせずに、両者マッチングさせ、短期の宿泊場所の提供・利用を可能とするサービスを導入すれば、課題に対するソリューションになることがわかります。
企業側の視点③|主要指標
このサービスの付加価値や収益性、有効性を把握するKPIは次のようなものが考えられます。
- ゲストの来訪・コンバージョン率
- ゲストの予約数
- ホストによる提供部屋数
- 1ホスト当たりの契約数や収益
こうした数値が高水準になれば、ゲスト・ホストに付加価値を提供できており、かつAirbnb自身も高い収益を獲得できるビジネスといえるでしょう。
顧客側の視点①|顧客セグメント
新規ビジネスの場合、顧客は「潜在顧客」を意味することになりますが、Airbnbの場合は、宿泊を伴う旅行者であるゲスト、部屋の提供者であるホスト双方が顧客となります。
両者を顧客ととらえることで、Airbnbは双方を収益源とできますし、ゲスト・ホストのAirbnbに対する手数料負担を抑えることが可能です。
顧客側の視点②|圧倒的優位性
スタートアップなどの場合、現時点ではリソースがなく、圧倒的優位性にあたる物を企業や起業家が持ち合わせていないケースも少なくありません。
そういったケースにおいて「圧倒的優位性」を空欄のまま分析を進めることも可能ではありますが、一歩考えを進めて「どのような特徴が優位性獲得の源泉となるか」考えてみるのもよいでしょう。
例えば、Airbnbの場合は、次のような点がゲストもしくはホストにとってのサービス価値を高め、似たようなビジネスモデルに対する優位性として機能しそうです。
- グローバルに膨大な数の部屋を扱うこと
- 安価な価格での宿泊契約の提供
- 部屋のレビューや評価システムによる信頼性の向上
- 部屋の破損・汚損に対する保険
顧客側の視点③|チャネル
ホスト・ゲストとも顧客との最初の接点という意味では広告が活躍しそうです。サービス自体がオンライン上で展開される物であることも踏まえると、Web広告やSNS広告などで顧客との最初の接点を提供するのがよいでしょう。
ホストに対しては収益発生までのビジネスモデルなどを理解してもらう必要があるため、Webサイトへの来訪→契約という流れを作ることになります。
ゲストについては主にアプリを通じて利用することになります。広告はアプリのダウンロードへ流入するように構成し、またアプリの利便性、部屋やホストの質を判断できるレビュー閲覧システムなどが重要な役割を果たします。
資金の視点①|コスト構造
運営自体のほとんどはWeb上で完結するため、仕組みが出来上がり、その価値が顧客に評価されれば、自然とビジネス規模と収益の拡大が期待できる構造であるのが特徴です。(自社で直接手掛けるものでない場合も、外注費などがかかるので「コスト」としてまとめておきます)
- アプリ・Webサイトなどのシステム構築
- 決済システムの構築や管理
- 宿泊施設、ホストやレビューの管理
- 広告費用
- 顧客のアカウント管理
- 部屋の保険サービスの運営
資金の視点②|収益の流れ
Airbnb自体は直接宿泊料を取らず、顧客からの手数料収入によって成り立っています。そのため、手数料を誰からとるか?いつ取るか?(月額定額か契約時に応じて徴収するか)といった観点が重要です。
Airbnbではホスト・ゲスト双方にとって課題解決になるサービスであることから、手数料も双方から徴収する仕組みになっています。
また、ゲスト・ホスト双方にとって、宿泊サービスは頻繁かつ継続的に利用するサービスとは限らない(頻繁に利用できない人にとっても便利なサービスとしたい)ことから、手数料は宿泊契約ごとに徴収する仕組みになっています。
独自の価値提案
以上のモデルからもたらされる付加価値は次のようなものになります。
ゲストに対する付加価値
- 地域における「本物」の旅体験を得る
- 宿泊施設をより柔軟に選択する機会を得る
- 宿泊コストを安価に抑制する機会を得る
ホストに対する付加価値
- 日本語でいうところの「民泊」による収入機会を得る
- 「空き部屋」という余剰リソースの有効活用
- 保険サービスとアプリ機能により簡単かつ安全に部屋を貸し出せる
ビジネスモデルキャンバスの書き方
続いてはビジネスモデルキャンバスの書き方を導入事例と共に紹介します。こちらもまた企業側・顧客側・資金構造と付加価値にわけられます。特にリーンキャンバスと異なる点に着目していきましょう。
ビジネスモデルキャンバスの9つの要素
ビジネスモデルキャンバスにおける9つの分析軸を紹介していきます。フレームワークの基本構造はリーンキャンバスと同一ですが、ところどころ項目が異なります。
ビジネスモデルキャンバスのフレームワークをおさらい
企業側の視点①|主要パートナー
事業を維持・拡大するうえで役に立つステークホルダーです。原料の仕入れ先、製造製品の卸売り先、設備の提供者などさまざまなパートナーが存在します。事業拡大のカギがパートナーとの付き合い方にあるケースも少なくないため、しっかりとパートナーの人となりや、自社との関係性を整理しておきましょう。
企業側の視点②|主要活動
今回の分析対象となる事業における主要な活動です。どのような製品・サービスを販売するビジネスなのかを整理しましょう。
企業側の視点③|主要リソース
事業を運営するうえで必要なリソースを整理します。いわゆるヒト・モノ・カネに焦点を当てて考えていくとよいでしょう。
また、いまビジネスを運営するうえで投入しているリソースに加えて「さらにビジネスを拡大するときにキーとなるリソース」についても考えておきます。
顧客側の視点①|顧客
まずは、顧客そのものを定義します。既存の顧客がどのような層なのか整理しましょう。また、もしビジネス拡大の源泉を「顧客基盤の拡大」におくならば、新規顧客としてどのような層がターゲットとなるかも検討します。
顧客側の視点②|顧客との関係性
対面・オンライン・電話など顧客とどのような接点で関係性を構築するか、また顧客にとって企業がどのような存在であるかを定義します。
顧客側の視点②|チャネル
顧客と接点を持ち、サービスを通じて顧客に付加価値をもたらし、自社は収益を得るまでの流れを記載します。
コミュニケーションをおこなう媒体やバリューチェーン、カスタマージャーニーの流れに沿ったツールや手段についてまとめておきましょう。
資金側の視点①|コスト構造
基本的なところはリーンキャンバスと同様ですが、すでに立ち上がっているビジネスの分析であることから、実態ベースで費用をまとめることが可能です。また、収益性の向上の源泉をコスト削減に求めるならば、コスト構造の改善余地についても検討しましょう。
資金側の視点②|収益の流れ
基本的なところはリーンキャンバスと同様ですが、収益獲得の流れの工夫で、収益を高めるアイデアがあればまとめておきましょう。
価値提案
分析対象となるビジネスが他の軸の現状を踏まえて、どのような付加価値を提供しているのかをまとめます。新たな付加価値を付与したり、付加価値を高めたりしてビジネス拡大に繋げられるアイデアについても検討すると、ビジネス拡大のきっかけをつかむことができるかもしれません。
ビジネスモデルキャンバスの導入事例
続いてはビジネスモデルキャンバスの実際のビジネスに当てはめてみましょう。ここでは動画コンテンツの発信プラットフォームとして既に一大市場を形成しているYoutubeを題材にします。
企業側の視点①|主要パートナー
動画配信プラットフォームであるYouTubeにおいては動画のコンテンツ提供者、配信プラットフォームを継続するためのシステム運営、広告主などがパートナーとなります。
一件競合となりそうなテレビやマスメディアも、現在ではコンテンツ提供や広告元・広告主の関係などの点で協働パートナーの側面もあります。
まとめると、次のようなステークホルダーが想定されます。
- 動画配信者・コンテンツ提供者
- 開発・保守エンジニア
- 広告提供スポンサー
- テレビをはじめとしたマスメディア
企業側の視点②|主要活動
Youtubeの活動内容の特徴を列挙すると次の通りとなります。
- 視聴者が見たい動画を検索、視聴できるサービス
- 動画のアップロードや配信時の課金により収益を得る仕組み
- 広告やサービスへの流入を促すSNSのような役割も果たす
- 直接課金により動画視聴の快適性を向上させる仕組みも
視聴者サイドとしては、視聴実績をもとにしたレコメンド機能や、直接課金のプレミアムプランの提供などにより、利便性を高めています。また、コンテンツの拡充が利便性の向上にも直結します。
動画配信者からみれば、単純に自らのメッセージを配信するという充足感はもちろん、収入の獲得手段となります。広告収入のほか、スパチャやチャンネルメンバーシップと呼ばれる課金システムにより視聴者から直接収益を得る方法もあります。
企業サイドから見れば膨大なユーザーに対する広告発信手段として機能。また、動画を通じて詳細な商品・サービスの説明などを行うプラットフォームとしても活用されています。動画から直接製品やサービスに流入を促すSNSのような役割も果たしています。
企業側の視点③|主要リソース
YouTube特有のリソースは大きく4つに分けられます。
- 膨大かつ高品質なコンテンツ
- 親会社Googleとの協働により提供される広告配信機能
- これまでのビジネスにより形成された膨大な視聴者ネットワーク
- プラットフォームを支えるシステム
YouTubeではコンテンツの多様性と品質が、そのままビジネスの優位性を維持するリソースとなります。クオリティ維持のためのルールや倫理の形成、コンテンツ作成を促進する仕組み作りが重要です。
また、企業などによる積極的な広告発信も広告収入の維持において欠かせません。Googleとの協働による広告配信機能は重要なリソースです。そして、広告プラットフォームとしての価値を守るうえでは、視聴者の豊富さや多様性も重要な要素になります。
その点では、レビュー機能、コメント機能と良質なコンテンツによって形成される視聴者ネットワークもYouTubeになくてはならないリソースです。膨大な視聴者ネットワークの維持・拡大はYouTubeにおいて重要なミッションの一つとなるでしょう。
最後に、動画プラットフォームであるアプリやWebを維持・改善するシステム開発・保守の能力が、YouTubeのビジネスモデルを下支え、優位性を維持するのに役立っています。
顧客側の視点①|顧客
YouTubeに収益をもたらす存在を顧客ととらえると、次の2者が顧客となります。
- 広告発信者
- 一般的な視聴者
注意したいのは、動画配信自体には手数料などはかからないので、動画配信者はYouTubeの厳密な顧客ではありません。(ただし先に紹介した通り、主要パートナーではあります)
基本的なビジネスモデルとしては広告料を支払ってくれる広告発信者がYouTubeの直接的な顧客となります。
また、プレミアムプランと呼ばれる課金システムによってYouTubeに売上貢献することができるため、視聴者も顧客となります。そのほか、先に紹介した「スパチャ」や「チャンネルメンバーシップ」といった視聴者から配信者への支払いでもYouTubeに一定の手数料が入るしくみになっています。
顧客側の視点②|顧客との関係性
顧客との接点を軸にYouTubeをとらえると、次のような特徴がみえてきます。
- 発信者・プラットフォーム・視聴者が一体となってコミュニティを形成
- 視聴者ごとにパーソナライズされた、使いやすいインターフェースを提供
- 高品質・多様なコンテンツを土台に顧客に娯楽・情報収集などの機能を提供
- 広告主にとっては動画による広告配信手段に
- 広告料は視聴数に応じて比例する仕組みで、広告主にとって費用対効果がクリア
視聴者・広告主双方にとっての利便性もしくは効果の高さを維持することが、顧客との関係維持には重要です。
顧客側の視点②|チャネル
直接的にはPCやスマートフォンからアクセスするWebサイトもしくはアプリが流入チャネルとなりますが、その他次のようなチャネルにも注目です。
- Youtubeと連携するマスメディア(特にテレビ)
- 動画が埋め込まれたWebサイトやアプリケーション
- 動画を主体とするイベントの集客サービス
- YouTube自身が主催するイベント
チャネルの強化がスムーズなサービス利用を促進し、視聴者もしくは広告主の基盤拡大に役立つかもしれません。
資金側の視点①|コスト構造
YouTubeというビジネスを運営するうえで必要なコストという意味では次のような物があげられます。
- プラットフォームの管理・改善システム
- 動画データの保有にかかるコスト
- 音楽ライセンスを中心とした著作権などの確保にかかる費用
- マーケティング・広告費
データ管理やライセンスなどの一部は変動費とはなるものの、一度システムが確立すれば追加的なコストは小さく済み、プラットフォーム利用が拡大すればするほど急速に収益性が高まるビジネスモデルといえます。
資金側の視点②|収益の流れ
収益源は現状では広告収入を主体としつつ、視聴者による課金からの手数料とプレミアムプランのいわゆるサブスクリプションシステムもあります。
広告収入と手数料は基本的に視聴数に応じて徴収されるため、動画コンテンツの多様性と視聴者数の拡大に比例して増えていきます。また、プレミアムプランは月額なので、一度加入すれば定常的に収入が入るしくみ。YouTubeの安定収入源として機能しています。
動画配信者はあくまでコンテンツ提供者として機能しており、今のところ彼らからは収益を得ていません。例えば、フィーを支払うことで視聴を促進するプランなどを設定して、配信者も顧客・収益源に取り込むという方法は検討の余地があるかもしれません。
価値提案
動画配信者、視聴者、広告提供者のそれぞれに重要な価値を提供しているのが、YouTubeの特徴であり強みです。
- 視聴者:10億以上ともいわれる膨大な動画に、ストレスなく基本無料でアクセスできる
- 配信者:自分のメッセージが発信でき、また収益源としても活用できる
- 広告主:数十億人のユーザーに対して情報発信ができる。動画による商品の優位性やブランディングなどに有効
ステータスに適したフレームワークを導入して事業開発や発展を促進しよう
自社の事業モデルを検討する際に、フレームワークを導入して状況を可視化することで、共通認識をもったうえで、適切な議論が進められるようになります。
新規事業を検討するならリーンキャンバス、既存事業モデルの改善やビジネス拡大を目指すならビジネスモデルキャンバスといったように、2つのフレームワークを使い分けて、事業モデルの分析を進めていきましょう。
そのほか、事業モデルの可視化は決裁権者との交渉や、金融機関への説明などにも有効です。今回の記事を参考にフレームワークを使いこなして、ビジネスを加速させていきましょう。