「見えない山」の頂上へ。 登山家 栗城史多氏が実践する「夢を叶える方法」(インタビュー後編)

創業手帳

日本人だからこそ堂々とチャレンジできる

(2017/09/04更新)

どんなに孤独で厳しい自然の洗礼を受けようとも、決して挑戦することを止めない栗城史多さん。挑戦する姿をありのままに、失敗も挫折も共有することで、多くの人に感動や勇気を与え続けています。後編では、栗城さんが行ってきた「夢を形にする方法」や、自身が「見えない山に登ること」と例える起業の道のりについて、お話を伺いました。

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栗城史多(くりき のぶかず)
1981年生まれ。大学時代に登山を始め、6大陸の最高峰を制覇。その他、8000m峰4座を無酸素、単独にて登頂。2009年から「冒険の共有」として、登山中のインターネット生中継を始める。2012年エベレスト西陵にて重度の凍傷になり、手の指の大部分を失った。しかし、2014年に標高8047mのブロードピークに無酸素、単独登頂を果たす。現在、無酸素・単独でのエベレスト登頂の挑戦を継続中。

夢を言葉にすればチャンスが広がっていく

ー栗城さんはどの様に夢を形にしていきましたか?

栗城資金集めや援助のお願いも、多分断られるだろうと思ったらそこで本当におしまいです。言ってみて断られるかもしれませんが、言ったことによって、実はそこからものすごいチャンスが広がっていくのではないかと思っています。

講演でもよくお話させてもらっているのは、「夢を言葉にした方が良い」ということです。無言実行という言葉もありますが、有言実行の方が仲間もできるし、応援者もできます。僕は、自分がやりたいことやチャレンジしたいことをどんどん言葉にすれば、絶対に実現できると信じています。

ー起業家も、チャレンジする旗を上げると、そこに協力してくれる人が集まってくることがありますね。

栗城:そうですね。まずは旗を上げて旗を振らないと誰も見てくれませんよね。

また、僕が講演でよく話をしているのは、パーソナルビジョンシップという概念です。皆さんそれぞれ子どもの頃からいろんな夢をもっていますし、それは大人になっても、人それぞれやりたいことはあると思います。実現するかしないかではなく、それをもっと会社でもみんなで共有したら、その人のアイデンティティを認めることになるのではないかと思いますし、社内の空気も断然良くなるのではないかと思っています。

何かにチャレンジしてみたいということは、起業家ではなくても、社員や仲間内でもそういうマインドはとても大切だと思いますね。

ーチャレンジと言うと、エベレストに登ることや起業することなどの大それたことだけではなくて、みんなそれぞれのチャレンジがあるということですね。

栗城僕の夢に対する概念は、遠く離れたものでもゴールでもなくて、スタートだと思っています。
自分が何かやってみたいと思った瞬間に全てが始まるという感覚です。それが例え壁にぶち当たって失敗したとしても、また枝分かれして次に向かっていくし、そもそもそれ自体がないと枝が生えようもありません。

夢をもっていたとしても、組織や社会がそれを言い難い環境にしてしまうと、どんどん皆のアイデンティティがなくなっていき、結局自分は何の為に生きているのかさえ見失ってしまうことがあります。

最近はどちらかというと、その傾向が強い社会になっている気がするので、どうやって個人のマンパワーを引き出すかということをよく考えたりしますね。

日本ではチャレンジに失敗しても生きていける

ー日本は豊かになってある意味満ち足りている分、「とりあえずこのままでも何とかなる」と経済もなかなか成長していません。尖ったことをやる人が今の日本には必要なのかもしれないですね。

栗城:僕は昔、指が凍傷になって、1年ぐらい何もできない時期がありました。恥ずかしい話ですが、その内半年間は手取りの給料が147円でした。さすがに焦りましたが、いろんな人に支えてもらって、今でも生きることができています。

何が言いたいかというと、日本は何か失敗しても飢え死にしないということです。
インドやネパールなど、失敗したら命の危険さえある国はまだ沢山あるのに、日本は失敗しても死ぬどころか、ある程度生活できる環境があります。これって実はとても素晴らしいことだと思います。だからこそ、日本人は本当はもっといろんなことに堂々とチャレンジできるはずではないかと思います。

ー日本はどんなに失敗しても命の危険がないというのは、考えてみればいい世界ですよね。だからこそチャレンジする人が少なくなっているということもあるのかもしれませんね。ちなみに、登山中の失敗ではどんなことがありましたか?

栗城:2012年の春に、シシャパンマ南西壁という8091mの山に登った時のことです。

その登山中に、僕は6500mの地点から30m滑落して、そのままクレバスの中に挟まりました。もし落ちた先がクレバスじゃなかったら、コンクリート並の固い氷に体を打っておしまいだったと思います。

落ちたクレバスが浅かったことで何とか助かりましたが、右肩は脱臼しかけていて上がらないし、親指にはアイスバイルという氷に刺す鎌みたいなものが刺さって骨折していて、指が全く曲がらない状態でした。夜中に落ちたのでずっと寒いし、このまま上がれなかったら自分は死ぬんだと思ってすごく悔しさが込み上げました。

朝になって太陽が出始めたそのとき、一羽のカラスがずっと頭の上をクルクルと回っているのが見えました。それを見た時に、「出られるかもしれない」と何故か思えてきて、それから左手だけを動かしながら時間をかけてクレバスから出て、ボロボロになりながら下山しました。

ー何とかなるかもしれないと思ったからこそ力も沸いてきたのでしょうね。

栗城:多分そうですね。それまでは全然体が動かないので、無線だけは通じるけれど、ベースの人達もどこで落ちたのか分からないし、絶望的な状況でした。そのカラスが出てきたことによって力が出てきたんだと思います。

生きていればまたチャレンジできる。どんな形でも生き続けることが大切

ー登山では、登る以上に引き返すことの方が大変ではないかと思います。これは無理だと感じた時、命にも関わる重要なことを、どんな心境で決断するのでしょうか?

栗城:目標に向かって頑張るのはとても素晴らしいことですが、一番意識しなければいけないことは執着しないということです。

どうしてもそこばかり見てしまって、達成しようとするのは良いのですが、途中で引き返せなくなることがあります。特に頂上が近ければ近い程、判断が難しくなります。エベレストでも事故が一番多いのは頂上付近です。登頂直前、天気が悪くても、どうしても行きたいという気持ちが大きくなるものです。

ですが、山の先輩によく言われるのは、「生きていればまたチャレンジできる」ということです。死んでしまったらもうチャレンジすらできません。僕たちがとても大切にしていることは、第一に生きて帰ることです。まずはどんな形でもいいから生き続けるということがすごく大切であり難しいことだと思います。

引き返すポイントはとても難しいです。山の先輩からは、「楽しくなかったら下山しろ」とアドバイスされました。目標に向かって頑張る時、根本にはワクワクするとか、楽しむ気持ちがあります。でも、その楽しささえ感じなくなってしまうと、それは自分が追い詰められている状況で、事故になる一歩手前です。

山の事故というのは突発的なこともありますが、振り返ってみたら、そもそもあまり行く気がなかったり、楽しめていなかったり、そういった感情が関係してくるのだと思います。やはり自分自身がワクワクしない時は、一旦止めた方が良いですね。苦しくてもワクワクしていたらまだ行けますが、ただもう苦しいだけになってしまったら、危ないと思って後退します。

ー起業はどんなに失敗しても、登山の様に命に関わるリスクはなくまたチャレンジできますね。ただ、大きく失敗してしまうと、次のチャレンジを怖がる人が多いと思います。

栗城僕がもし「登った山と登れなかった山のどっちが思い出深いですか?」と聞かれたら、登れなかった山の方が思い出深いです、と答えます。

今まで登った山は「成功した!登った!」という記憶はあっても、気持ちの中で薄れてしまう気がしますが、登れなかった山はいつまでも心に残っています。それは悔しいという感情もあるかもしれませんが、決してマイナスの思い出にはなりません。

起業においても、失敗したこと自体がダメなのではなくて、そういう経験があることによってより深みのある自分になれたり、また次に向かっていく時の原動力になったり、学びになるのかなと思います。一度も失敗したことがない人より、失敗したことがあって、いろんな想いのある人の方が、より良いサービスやいろんなものを作れるような気がします。

「見えない山」を登る冒険を楽しんでほしい

ー最後に起業家の皆さんにメッセージをお願いします。

栗城:僕は起業することを「見えない山に登ること」と言っていますが、皆さんそれぞれ自分の見えない山があると思います。山登りというのは全て計画通りにいくわけではなくて、悪天候やいろんな急変もあるので、自分が危ないと感じた時は一旦下がって、また自分のペースで上がっていけば良いと思います。

ですが、基本はやはり山登りは楽しむことが大切です。苦しいことも含めて、自分の冒険を楽しんでもらえたらなと思います。僕もエベレスト登頂に向けて冒険を楽しむ気持ちを持って頑張っていきたいと思います。

「夢と希望と孤独」との向き合い方
「誰でも自分の目標、山がある」単独無酸素・世界中継で 7大陸最高峰に挑む登山家 栗城史多氏インタビュー(前編)

(取材協力:登山家/栗城史多
(編集:創業手帳編集部)

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