「誰でも自分の目標、山がある」単独無酸素・インターネット生中継でエベレスト登頂に挑む登山家 栗城史多氏インタビュー(前編)

創業手帳

「夢と希望と孤独」との向き合い方

(2017/08/28更新)

どんなに孤独で厳しい自然の洗礼を受けようとも、決して挑戦することを止めない栗城史多さん。挑戦する姿をありのままに、失敗も挫折も共有することで、多くの人に感動や勇気を与え続けています。
未開の地で己の限界に挑戦する登山の精神は、起業にも通じるところがあります。現在は人材育成のアドバイザーとしても活躍している栗城さんのインタビューを前編・後編に分けてお送りします。

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栗城史多(くりき のぶかず)
1982年生まれ。大学時代に登山を始め、6大陸の最高峰を単独登頂。その他、8000m峰4座を無酸素、単独にて登頂。2009年から「冒険の共有」として、登山中のインターネット生中継を始める。2012年、貴重条件の厳しい秋季エベレスト西稜からの下山中に重度の凍傷になり、手の指9本の大部分を失ったものの、2014年に標高8047mのブロードピークに無酸素、単独で登頂し、復帰を果たす。現在、無酸素・単独でのエベレスト登頂の挑戦を継続中。

山は希望的観測をもってはいけない。現実と向き合うことが大事

ー栗城さんは単独登頂にこだわっていますね。単独にはどんな魅力や難しさがあるのでしょうか?

栗城:そうですね。グループでいるから安全かというと、そうでもありません。グループでいる時に何が起こるかというと、甘えが生じてしまいます。自分が体調不良でも「あいつがいるから多分大丈夫だろう」と良い様に考えてしまいがちです。

でも、自然と向き合う時には、自分自身にものすごく素直にならないといけません。実際、単独の場合は自分の体調などをしっかり診ようとします。そういう面では、実は単独の方が、山の中ではやり易い部分もあるのかもしれません。

天候の判断をする時でも、山では希望的観測をもってはいけません。入山前は希望をもって頑張りますが、現実にはきちんと向き合わなければいけません。その判断などを含めて、人数が多ければ多いほど曖昧になってしまう傾向があります。

ー単独で判断し易い一方、孤独ではないですか?

栗城:ものすごく孤独です。体調不良になっても、全部自分でやらないと生きては帰れません。テントの中も寒いですし、一人用のテントはとても狭いので、孤独感も高まります。

しかし一方で、自然と向き合う時には、孤独や不安と感じることが正常なのではないかと思っています。例えば、人間誰でも山の中に一人で入って行って、ふとした瞬間にとても怖いと感じるのは、自然と向き合っている瞬間の様にも感じます。

孤独感と不安が100%あるとしたら、二人いれば半分になりそうですよね。僕は孤独や不安が、人間の感情の中ではすごくマイナスに考えられていますが、それと向き合うことによって生きる力が出てきたり、学べることが沢山あるように思います。なので、どうしても登りたい山は一人で行くようにしています。

思わぬ人が言ってくれた「ありがとう」

ー単独と矛盾するようですが、一人で登る様子をなぜネットで配信するようになったのでしょうか?

栗城:配信をやり始めたのは、2007年でした。当時はテレビ局が「インターネットを使って何ができるのか」を模索している時期で、たまたまテレビ局の方とお会いして、「チョ・オユーという山に行くので現地からの配信を一緒にやりましょう!」という話になりました。

それで問題だったのが、企画のタイトルが「ニートのアルピニスト はじめてのヒマラヤ」となったことです。元々ニートではありましたが、全国のニートの人たちから、「そもそもニートは山を登らない」とか、「頑張っているのが嫌いだ」といった批判の声が沢山届きました。

そのメッセージを見ながら登っていきましたが、チョ・オユーへの挑戦は、登頂間近で悪天候を理由に断念することになりました。

ボロボロになって帰ってきて企画は終了。テレビのスタッフは全員帰る準備をしていました。帰ってきた時にメッセージを見たら、「やっぱり栗城は登れなかった」っていうコメントを見たんです。その時は本当に悔しくて、「もう一回行きます!」とみんなに頭を下げて帰国日を延ばしてもらいました。その結果、無事に登頂することができました。

みんなが無理だと言って企画も終了しかけていたのを、無理やり引き延ばして登ったのに、みんなはリアルタイムで見ていてくれました。

そうしたら、「栗城は登れない」って書いていた人から「ありがとう」と一言だけ書かれたメッセージが届いたんです。
僕は、登頂して人から「ありがとう」と言われたことは初めてでした。その「ありがとう」というメッセージを見た時に、彼らはきっといろいろと言いながらも、僕に奇跡や希望を求めて一緒に登ってくれていたのではないかと思えるようになりました。

彼のほかにも、実は夢や何かにトライしたいという想いをもっている人が沢山いるんじゃないだろうか?と感じたのが、配信を続けるきっかけです。

成功や失敗を超えた世界の価値観を共有したい

ー栗城さんの挑戦に自分を重ねるということですね。

栗城:重ねてくれる人たちがとても沢山いることを感じています。僕は普段いろんな企業や学校で様々な研修や講演をさせてもらっているんですが、講演の後に「こんなことやってみたかったんですけど、実はこんなことを言われまして・・・。」といった相談を受けることがあります。

僕自身もそうですが、初めてデナリという北米最高峰の山に行きたいと言った時、一番苦しかったことは、行くこと自体ではなくて、周囲からの否定でした。誰一人「栗城頑張れ!」と応援してくれる人はいませんでした。

その時に、父が出発直前に一言、「信じているよ」という言葉をかけてくれたことは、とても救いになりました。何かを否定して、「できないよね」というスタンスで生きていくのは世の中つまらないし、失敗や成功を超えた世界の価値観をみんなと共有できたらいいなと思っています。

ー起業にも「嫁ブロック」「親ブロック」という言葉があって、パートナーや親など周りの人が良かれと思って止めることがよく起こるんですが、栗城さんのお話を伺って、それにも似ているなと感じました。
資金集めも含め、冒険の共有を成立させることや、全ての準備も考えると、普通の登山より随分大変そうですね。

栗城:普通の登山であれば、トレーニングして、費用も1人分だとそんなに掛からないので行きやすいですし、登った事実を伝えれば良いだけなのでより気が楽です。

共有することやその為の資金集め、スタッフのマネージメントを含めて、大変な部分はあります。スタッフも「頑張ります!」と付いてきてくれても、具合が悪くなったりして途中で断念する人もいます。行ってみないとわからない部分もあるので、そこの調整が難しいですね。実は登山以外の問題もいっぱいありますね。

ー特に人が関係しているといろんな問題がありますよね。聞けば聞く程、起業と似ている部分を感じます。

栗城:そうですね。冒険する価値は、営業利益の様に分かり易い形で対価として返ってくるものではありませんが、見ている人のマインドがちょっと変わったり、コメントをもらったりというのがすごく嬉しいです。そういう意味では、NPOに近い様な感じもしています。

ベンチャーとアドベンチャーの共通点


栗城:少し資金集めの話をすると、最近は若者たちの間でクラウドファンディングが人気になってきていると思います。たまに相談を受けたりもしますが、本当にやりたいことだったら、企業に飛び込みでスポンサーをお願いすることをお勧めします。

大体断られますが、僕がなぜ続けられたかと言うと、ほとんどの社長が3分でも5分でも時間をつくって話を聞いてくれたからです。それが本当に嬉しかったです。

昔、ある会社に飛び込み営業に行った時の話です。その社長は北海道出身で、僕も北海道出身なので、もうそこしかないだろうと思って押しかけました。

「社長には会えないかもしれないけど、受付の方にプレゼンをしよう」と思って何回もアタックしました。そんなことを何度も何度も繰り返していたら、やっと社長にお会いできるようになりました。お会いした社長は、「ついに6回も来たやつが現れたか!」と訪問したことをすごく歓迎してくれました。後で聞いた話ですが、僕がプレゼンをした受付の方が、僕の資料をいろんなところに広めてくれていたそうなんです。それを聞いた時には感謝の気持ちでいっぱいでした。

何が言いたいのかというと、やはり偉大な経営者の方たちはゼロから頑張ろうとしている人を応援してくださいます。ベンチャーとアドベンチャーは語源が一緒だと思っていますが、似ている心を感じるのかもしれないですね。

ー大企業の受付の人の中には、そういうノイズをブロックするのが仕事でもありますよね。

栗城:そうですね。でも、人は純粋なものを見た瞬間に、何とか応援しようという気持ちになるのではないかと信じていたので、断られても大丈夫という気持ちでした。

あと、僕は断られる時に必ず言うセリフがあります。
例えば、社長さんに「いや、うちはそういうことはできないから。」と断られたら、「じゃあすみません、お友達を紹介してもらえませんか?」と返します。

社長さんの友達は社長さんなので、社長さん一人に会えば、その周りに社長さんがたくさんいるわけです。やはり人脈はクラウドの様になっていて、一人繋がったらどんどん繋がっていくのではないかと思います。こんな形でいろんな方を紹介して頂きながら、直接社長さんに会わせてもらったり、プレゼンさせてもらったりという形でやってきました。

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(取材協力:登山家/栗城史多
(編集:創業手帳編集部)

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