解雇をするための要件とは?種類と解雇規制が緩和されたときの影響を解説

創業手帳

企業が労働者を解雇できるケースは限定的


自民党総裁選の中で、解雇規制緩和が話題になっています。企業が労働者を解雇する要件を緩和することで、より人材の流動化や労働者の専門性を高められる効果が期待されています。

ただし、労働者からすると「自分がいつ職を失うかわからない」という恐怖を感じるため、反発が起こっているのも確かです。実際に解雇規制緩和が実現するかは不透明ですが、今後日本でも働き方に変化が起こる可能性があります。

今回は、解雇規制緩和が中小企業にとってどんな影響を与えることになるのか、解雇の基本知識から解説していきます。

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そもそも解雇とは


解雇とは、企業が労働者との労働契約を一方的に解除することです。労働者に問題があるときや企業の経営状況に問題が生じたとき、解雇を行うことがあります。

ただし、解雇は企業がいつでも自由に行えるものではありません。労働契約法では労働者を保護するために、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でないときは解雇が認められない旨を規定しています。

例えば、解雇の理由として労働者側に落ち度があったとしても、1回の遅刻や無断欠勤などですぐに解雇が認められるということはありません。以下のように、さまざまな要素を勘案して客観的に合理性があるかを判断します。

  • 労働者の落ち度の程度や行為の内容
  • 会社が被った損害の重大性
  • 労働者が悪意や故意でやったのか
  • やむを得ない事情があるか

なお、労働基準法第20条では、労働者を解雇する場合に30日前の予告を義務付けています。解雇予告をせずに解雇する場合は、30日分以上の平均賃金の支払い(解雇予告手当)が義務付けられており、労働者の保護が図られています。

解雇の種類


解雇と一口に言っても、さまざまな種類の解雇方法があります。以下で、解雇の種類と特徴について、それぞれ解説します。

普通解雇

普通解雇とは、労働者の責に帰すべき事由や企業側の経営上の理由により、使用者が労働契約を一方的に終了させることです。

具体的な解雇事由としては、労働者の能力不足や勤務態度の不良、企業の経営悪化などが挙げられます。企業はいつでも解雇できるわけではなく、解雇権の濫用は認められていません。

なお、普通解雇をするためには客観的に合理的な理由があり、なおかつ企業が解雇回避努力を行っている必要があります。

整理解雇

整理解雇とは、企業の経営上の理由により、事業の縮小や廃止に伴って行われる解雇です。人員削減を目的として行われることが一般的で、経済的理由や組織再編など、企業側の都合で行われる特徴があります。

なお、整理解雇を行うためには以下の要件をクリアしなければなりません。

  • 人員削減の必要性がある
  • 解雇回避努力義務を履行している
  • 被解雇者選定の合理性がある
  • 労使間の協議・説明が行われている

整理解雇は、企業にとっても従業員にとっても大きな影響を及ぼします。そのため、以上の要件をクリアしないと整理解雇が認められないこともあります。

諭旨解雇

論旨解雇とは、能力や態度に問題がある労働者に対して退職勧奨を行い、それに応じない場合には懲戒解雇することを示唆して労働者の自主的な退職を促す解雇の形態です。

労働者の自主的な退職を促すことで、懲戒解雇よりも労働者の名誉や信用を守ることを目的としていることから、救済措置のような側面もあります。

労働者が諭旨解雇に応じない場合は、懲戒解雇に進むケースが一般的です。ただし、労働者の落ち度と退職勧奨との均衡性を保つ必要があり、退職勧奨の理由を明確に説明する必要があります。

懲戒解雇

懲戒解雇とは、労働者の重大な非行や規律違反を理由に労働者を解雇することです。最も厳しい懲戒処分であり、退職金の一部や全部が不支給となることもあります。

労働者の重大な義務違反や非行を原因とした制裁的な即時解雇である点が特徴で、労働者の責めに帰すべき事由がある場合、解雇予告期間なしで解雇の効力が発生します。

具体的に懲戒解雇の対象となり得るのは、横領や背任などの重大な法令違反があったときや重大なハラスメント行為、重大な業務命令違反があったときです。

懲戒解雇は労働者にとって不利益が大きいため、就業規則に懲戒解雇の事由が明確に規定されており、 さらに懲戒解雇の処分が相当であることが求められます。普通解雇よりも厳格な要件が求められる点は、懲戒解雇の特徴です。

企業が労働者を解雇できるのはどんなとき?


具体的なケースを交えて、企業が労働者を解雇できるケースを解説します。

就業規則に解雇に関する定めがある場合

企業が労働者を解雇する際には、就業規則に解雇に関する定めを設ける必要があります。就業規則とは、労働条件や職場秩序に関する規則を定めたものであり、解雇に関する規定も就業規則に含まれる点を押さえておきましょう。

例えば、就業規則に「正当な理由なく連続して10日以上無断欠勤した場合、懲戒解雇とする。」という文言があり、実際に労働者が10日以上無断欠勤を繰り返すと、解雇対象となり得ます。

他にも、「正当な理由なく業務上の指示・命令に従わず、かつ改善の見込みがない場合は、普通解雇とすることがある。」という規定があれば、上司の業務上の指示・命令に従わず改善の見込みがない労働者に関しては普通解雇と対象となることもあります。

ただし、就業規則に定めがあるからといって、すべての解雇が有効になるわけではありません。解雇の正当性や手続きの適切性など、他の要件も満たす必要がある点を押さえておきましょう。

就業規則の内容が合理的である場合

就業規則の解雇条項について、合理性も求められます。単に規則で定めるだけでなく、合理的な理由があることが重要です。

合理的な理由に加えて客観性も求められており、誰が見ても「解雇はやむを得ない」と納得できる理由であることが求められます。

例えば、以下のようなケースでは合理性があると考えられるでしょう。

  • 教育訓練や指導を繰り返し行ったにもかかわらず、職務遂行能力が著しく劣り、改善の見込みがないと認められる場合は解雇することがある
  • 会社の重要な機密情報を故意に外部に漏洩した場合は、懲戒解雇とする

不合理的な解雇条項の例として、以下のような事例が考えられます。

  • 会社の評判を損なう行為をした場合、解雇することがある(抽象的)
  • 女性従業員が結婚した場合は解雇する(差別的)
  • 遅刻を3回した場合は、懲戒解雇とする(客観的に厳しすぎる)

このように、企業が就業規則の解雇条項を作成する際には、客観的な合理性があるかどうかにも注意を払う必要があります。

もし労働者側が「合理性がない」と感じると、解雇をめぐって裁判になるケースも有り得るため注意が必要です。

解雇理由が相当である場合

労働者を解雇する場合、解雇事由が相当であることが求められます。些細な理由で解雇をしてしまうとトラブルや裁判に発展する恐れがあるため、注意が必要です。

例えば、解雇事由が相当である例として以下のような事例が考えられます。

  • 重大な業務上のミスをした
  • 長期にわたって能力が向上せず業務に不適格である
  • 注意をしてもハラスメントを繰り返した
  • 傷病により就業困難な状況にある
  • 著しく協調性が欠如している
  • 重大な非行をした

職場環境を著しく害する場合や業務を遂行するための十分な能力がない場合、解雇対象となり得ます。また、重大な非行を行い企業の評判を損ねてしまう場合も、解雇に関して相当な理由があると考えられるでしょう。

一方で、解雇事由が相当でない例として、以下のような事例が考えられます。

  • 軽微な規則違反
  • 国籍、信条、社会的身分や性別が理由
  • 労働基準監督署に申告をした
  • 産前産後や育児、介護休業を取得したことが理由

解雇理由の相当性を判断する際には、労働者の行為や状況が会社の業務運営や職場秩序に与える影響の程度や、問題行動の頻度や継続性などを総合的に鑑みる必要があります。

改善の見込みがなかったり、他の労働者への悪影響が看過できず、社会通念上の相当性がある場合は解雇が認められるでしょう。

解雇と似ている「雇止め」に関しては、こちらの記事で解説しているので、参考にしてみてください。

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契約社員の雇用期間が終了しても辞めさせられない?創業者必読の「雇止め」とは

企業が労働者を解雇できないとき

労働関係法令において、一定の場合については法律で解雇が禁止されています。

法令 内容
労働基準法 業務上災害のため療養中の期間とその後の30日間の解雇
産前産後の休業期間とその後の30日間の解雇
労働基準監督署に申告したことを理由とする解雇
労働組合法 労働組合の組合員であることなどを理由とする解雇
男女雇用機会均等法 労働者の性別を理由とする解雇
女性労働者が結婚・妊娠・出産・産前産後の休業をしたことなどを理由とする解雇
育児・介護休業法 労働者が育児・介護休業などを申し出たこと、又は育児・介護休業などをしたことを理由とする解雇

なお、期間の定めのある労働契約(有期労働契約)については、企業側はやむを得ない事由がある場合でなければ、契約期間の途中で労働者を解雇できません。

企業が労働者を解雇するメリット


企業が労働者を解雇すると、生産性が乏しい労働者との労働契約を終了でき、人件費を削減できます。

以下で、具体的なメリットを解説します。

生産性が低い労働者との雇用契約を終了できる

労働者の中には、能力が低く生産性が低い者がいるかもしれません。生産性が低い労働者を解雇することで、雇用契約を終了でき、新しく労働者を雇い入れる枠が生まれます。

空いた枠に生産性が高く、業務に適した人材を採用できれば、企業の競争力を維持・向上させることができるでしょう。

人件費を削減できる

人件費は、企業にとってコストの一つです。労働者を解雇することで、人件費を削減できるだけでなく、労働者に係る社会保険料や福利厚生費も削減できます。

企業の財務状況を改善するうえで、解雇は一つの手段といえるでしょう。業務の効率化や自動化を進めれば、人間の手による業務過程を削減できます。

削減された人件費や社会保険料を、新規事業や設備投資などに振り向ければ、事業を発展させる好循環を生めます。

組織を再編して生産性を向上できる

労働者を解雇して組織をスリム化できれば、意思決定の迅速化や業務生産性の向上を見込めます。また、組織再編に伴い適材適所の人員配置を行えば、各労働者のスキルや能力に合った配置を実現でき、企業全体の生産性向上が期待できるでしょう。

人材配置の最適化を通じて、各部署やプロジェクトのコスト効率を改善できる可能性もあります。また、不採算部門を整理することで、成長が見込める事業に経営資源を集中させることも可能です。

企業が労働者を解雇するデメリット


企業はそもそも安易に労働者を解雇できないものの、実際に解雇することによるデメリットもあります。

以下で、労働者を解雇することによって見込まれるデメリットを解説します。

裁判に発展する恐れがある

解雇の有効性をめぐって、裁判に発展するケースは少なくありません。裁判に発展すると、生産性のない業務にリソースを割くことになるため、注意が必要です。

解雇理由の正当性が不十分な場合や、客観的に見て合理性がない場合、裁判に発展する可能性が考えられます。また、解雇する労働者への説明が不十分であるときも、トラブルに発展するでしょう。

裁判に発展すると、弁護士費用や訴訟費用の負担が発生したり解雇が無効となった場合の未払賃金支払いが発生したり、さまざまな経済的負担が発生します。

さらに、訴訟対応に多大な時間と労力が必要になるため、解雇は慎重に行わなければなりません。

労働者に不信感を与える恐れがある

企業が労働者を解雇すると、他の労働者に不信感を与えてしまう恐れがあります。

例えば、他の労働者が「自分も解雇されてしまうかもしれない」という恐怖を感じたり、残された労働者の業務負担が増えて、業務への意欲が減退したりする恐れがあります。

その結果、モチベーション低下や不安から業務効率が落ちたり、将来の雇用不安から能力の高い労働者が自主的に退職する可能性も否定できません。

特に昨今は人材の流動化が進んでいるため、能力が高く市場価値の高い人材ほど、転職する可能性が高いでしょう。企業と労働者間の信頼関係が損なわれてしまうと、建設的な意見交換が難しくなる可能性もあります。

安易な解雇は、長期的に見ると企業の競争力低下につながるリスクがある点は、事業主として押さえておくべきです。

助成金を受給する際に影響が出る恐れがある

助成金を受給する際に、労働者を解雇した履歴があると悪影響が出る恐れがあります。

例えば、雇用関係助成金には「支給申請を行った年度の直近年度及び当該会計年度から3年度前の期間について、雇用する雇用保険被保険者を事業主都合によって解雇等(退職勧奨を含む)していないこと」という要件があります。

新たに労働者を雇い入れたときや職業訓練を行ったとき、本来であれば助成金を受給できるケースであっても、解雇歴があることで受給できない可能性があり得る点に注意しましょう。

解雇規制緩和が中小企業に与える影響


自民党総裁選で話題になっている解雇規制緩和の中で特に注目されているのは、整理解雇の4要件の中の一つである「解雇回避の努力」を撤廃することです。

これにより、企業にとって解雇のハードルが低くなり、労働者の流動性と経営の柔軟性を高めることが期待できます。

以下で、解雇規制緩和が実現した場合、中小企業にとってどのような影響があるのか解説します。

柔軟に雇用調整できる

解雇規制緩和が進むと、ますます人材の流動化が進むと考えられます。中小企業は、企業の経営状況に応じて柔軟に人員を調整できるようになるでしょう。

例えば、人材過多になったときや能力が不十分な労働者がいるときは、これまでよりも容易に解雇して労働力を入れ替えることができます。

景気変動の影響を受けて雇用調整が必要になったときでも、柔軟に解雇できれば事業運営を持続させる際に有能な手段となるでしょう。

人材確保の重要性が増す

解雇規制緩和が実現すると雇用が流動化するため、人材を採用しやすくなる一方で、人材が離れやすくなります。つまり、人材を確保するためにも「労働者から選ばれる企業」である必要があります。

特に、中小企業は大企業と比べて知名度や待遇面で不利な立場にあるため、独自の魅力を打ち出して人材を引き付ける努力が必要です。労働者から選ばれないと、常に人材不足が生じてしまう事態になりかねません。

そのため、中小企業は自社の魅力を高めることに注力しつつ、常に人材確保に関するアンテナを張り迅速に採用活動を行える体制を整備する必要があるでしょう。

採用コストや教育コストの負担増

解雇規制緩和が進むと、採用コストや教育コストの負担が重くなります。採用活動が活発になり採用の機会が増える分、コストが発生するためです。

具体的には、求人広告に関するコストや採用担当者の人件費や時間的コストなどが発生します。採用に際して人材紹介会社を利用する場合、エージェントへの報酬も発生するでしょう。

新しく労働者を雇い入れた際には、仕事を覚えてもらうための教育コストが発生します。教育をする人が本来の業務に従事できないことで発生する損失は、無視すべきではありません。

まとめ

現行法において企業が労働者を解雇できるケースは限られていますが、実際に解雇する際には法令を遵守することが欠かせません。また、解雇に伴うメリットやデメリットも押さえておきましょう。

解雇規制緩和が話題となっていますが、実現するかどうかは不透明です。ただし、昨今はジョブ型雇用の導入が進んでいることを考えると、今後はますます雇用の流動化が進む可能性があります。

中小企業にとっては、人材を確保するためにも自社の魅力を高める重要性が高まっていくでしょう。

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(編集:創業手帳編集部)

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