リモートワーク環境をセキュアに実現するJunify・楽天が11人から2万人になるまでを支えた安武氏が作ったアプリと海外と日本の開発事情

創業手帳

日本における社内情報システム部門の立場は複雑。そのような課題感も開発の原動力に。


リモート環境の構築は、各社の大きな課題となっています。社員の管理だけでなく、セキュリティも課題です。一方で自宅がオフィスになるテレワークでは、プライバシーの配慮も必要になります。新しい時代の悩みですが、こうした課題が解決できれば、働く空間と時間が自由になるリモートワークには大きな可能性があるでしょう。

そんなリモートワーク環境を、1つのアプリでまとめて整備できるのがJunifyです。IVSローンチパッドにおいて準優勝を獲得し、注目されています。

このJunifyを作ったのが安武弘晃氏。楽天が創業した頃から巨大企業になるまで開発面で支えていた人物で、現在はシリコンバレーに在住し、起業しています。そんな安武氏に創業手帳の大久保がJunifyの詳細や、日本と海外の開発事情などについておうかがいしました。

安武 弘晃(やすたけ ひろあき)
Junify CSO
1998年に初期の段階の楽天に入社し、エンジニアとして様々な楽天のサービスを作る。取締役常務執行役員として技術部隊をまとめ 2016年1月に退任。アメリカに移住し Junify という新しいスタートアップを立ち上げを行いながら、日本企業の先端技術やイノベーションを組織・経営に活かすアドバイザリーに従事。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計150万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。

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ワンタッチでリモート環境をオン・オフに。透明度を上げるJunify


大久保:Junifyって何ですか?

安武:最近は SaaS が便利です。会社の創業期は 、SaaS だけでオフィスも持たず始めるのが一般的です。そして、一般の会社でもテレワークが急激に普及して、便利な SaaS を次々と導入しているケースが多いかと思います。その結果として、誰がアカウントをもっていて、どこからアクセスしているかわからない、という問題が出てきます。それらを管理するのが Junify です。

今はほぼすべての人がスマホを持つ時代です。Junify はアプリという形でそこに鍵をいれて、会社の業務に必要なアプリケーションにログインをさせます。それにより利用者が誰であるか、また、どこからアクセスしているかを特定することができ、オフィスに出勤してオフィスの中からアクセスしているという形に似た環境を作ることができます。

単なるアプリですので、手持ちの個人のスマホでお使い頂くことも可能です。そうすることで、2台のスマホを常時持ち歩く手間や、会社支給のスペックの劣るものを使わなければならないストレスから解放もされます。

テレワークは勤務とプライベートの境目が曖昧になってしまいがちですが、Junify はオンとオフをスイッチひとつで切り替えます。オフの時はプライバシーを重視して、完全に会社の情報から切り離されます。

楽天で働いていた経験を通して、自分自身が欲しいと思える生のニーズから作り上げたツールです。

大久保:もともと安武さんは海外での管理などもしていて、まさに体験から生まれたサービスですね。そこにちょうど日本でもリモートワークの波が来たと。

しかし、導入すると自分の居場所が分かってしまうと困る人が反対しませんか?この人はずっとカフェにいるとか、今トイレ入ったな、とか追跡されて嫌がる人もいるんじゃないですか?

安武:働いている時に居場所を明らかにするのは、オフィスに出勤する、ということでした。それが置き換わった形になると思います。ジオフェンスという機能で、特定の場所を知らせずに「規定の場所に入っているかどうかだけを知らせる」という機能も開発をしています。また GPS では半径50mの円の範囲にいる程度のことしかわかりませんので、そもそも大雑把なものでもあります。

おもしろいエピソードもありますよ。導入した企業さんのメンバーで1名だけ強く反対した人がいたそうです。実はその人が普段からさぼっていることに、皆うすうす気がついていました。他の人達は何も抵抗もなく利用し始めて、結果として透明性が高まり、不公平感がなくなって、しっかり仕事をしていた人達のモチベーションがあがってやる気が出た、というレポートをもらいました。

世界のエンジニア市場は3つに分かれる。日本人エンジニアは優秀だが古い慣習の犠牲になっている。

大久保:今、シリコンバレーで起業してJunifyをやられている。楽天も日本では大きい企業ですが、アメリカにはGAFAMのような桁が違う会社があります。市場の大きさや成長力の違いなどもありますが、日本と海外の開発やエンジニアの力の違いはありますか?

安武:世界のエンジニアの人材市場はおおまかに言って英語圏、中国語圏、それ以外に分かれます。日本は人材市場が小規模で、日本に来てくれるのは日本のアニメが好きな外人とか、どうしても少数派なわけです。そうなると世界で最高峰、ベスト・オブ・ベストみたいな人材は獲得できませんが、日本はそれに次ぐ、割と良質な人材は多いと思います。

自分は日本、世界各国、今はシリコンバレーと仕事の場を移していますが、日本でもアメリカでも、エンジニア自体の力はそこまで変わらないと思います。日本人のエンジニアは、真面目だし、むしろ優秀で、海外と比べても劣ることはないと思います。

あとはコストの違いもあります。シリコンバレーはスタンフォードの新卒で年収1200万円といったクレイジーな相場になっています。ちょっと前に、GREE、DeNAのゲームが好調だった時にエンジニアの相場が急騰したこともありましたが、今は落ち着いています。日本で、それだけの金額を出したら相当良い人が獲得できます。

ただ、ITや開発の分野で、かなり水を開けられています。それは、日本人の能力というより、開発業界の古い慣習などが影響していると思います。日本のそういう古い開発業界の慣習も変えたいですね。

大久保:なんで水を開けられているんでしょう?

安武:開発会社のビジネスモデルや日本の管理系部門と開発部の社内的な力関係なども影響していると思います。

楽天で感じたさまざまな課題が原動力に

大久保:楽天に創業期に入ったんですよね。

安武:はい、学生の頃から楽天でバイトをしていました。モックアップを作ったりしていました。いったんNTTに就職しましたが、やはり面白そうだと思って、創業期の楽天に改めて就職しました。まだ楽天本社が祐天寺にあった頃で、創業から1年経った1998年です。

当時はまだ「株式会社エム・ディー・エム」という名前でした。その後、順調に楽天市場のサービスが伸びて、社名を楽天株式会社に変更する、というアナウンスがありました。社員は既に「エム・ディー・エム」という社名に愛着もあり、抵抗感はありましたね。今となっては、それが正しい判断だったと思いますが。

入った時は社員番号11番。11人目です。辞める時はグローバルで2万人の大所帯になっていました。楽天では、技術を統括していましたが、その中で、今の事業につながる経験が2つありました。

1つは楽天の英語化/国際戦略に伴って、海外拠点の仲間と共に働く機会が増えたことです。日本全国を含めて海外も常時出張者が数多く出るようになり、行き先のオフィスのみならず、空港でもホテルでもどこでも働くことが普通になり、情報システムがそれに対応をしてなくて苦労する課題に直面しました。

もう1点が、情報システム部門の位置付けです。買収した先の北米の会社では技術がわかる人が最先端のソリューションを使ってリードをしていたのですが、日本ではコーポレート部門の下にあって、どちらかというとコピー機や電話/FAXの延長として管理されている部分がありました。昔はそれが当たり前だったと思いますが、時代の流れと共に存在の意義が変わって、古い考え方のままであると、働きやすさを阻害し、ビジネスを前進させることが難しくなってしまうという課題も感じました。

日本においては、まだ社内情報システム部門が置かれている立場は複雑であり、難しい局面が多く見られます。こうした課題感も今のプロダクトを作る原動力になりました。

日本のマネジメントにおける技術分野の問題とは?


大久保:なるほど。日本と海外での違いがあるわけですね。情報システム部門のみならず開発体制やCTOの話もよく聞きます。そのあたりはいかがでしょうか?

安武:歴史が長い会社や、上場というイベントを越えた会社さんなどで起きやすい問題があると思います。インターネットやスマホの普及、高速通信がどこでも提供される時代になったのに、古い時代のベストプラクティスを適用しようとしてしまうケースです。CEOやCFOがあまり技術に明るくない場合は、経験者を連れてこよう、という話になるのですが、前の時代の実績を見て採用し、その人が古い仕組みを使おうとすると、時代の流れとずれてしまいます。これが企業に悲劇をもたらしてしまいます。

そういう時代の流れに疎く、過去に実績があるやり方だから正しい、という姿勢だと、使いにくかったり無駄が多かったり、働きにくい環境やビジネスの競争力を落としてしまったりする結果にもつながります。今は SaaS が発達してきているので、過去に自前で作ったシステムとほぼ同じようなものを、他社がすぐ使い始めて追いついてくる、ということすら起こりえます。テクノロジー1つで今まで苦労していたことが簡単になってしまう時代であり、業界のゲームチェンジが起こってしまうことだってあるわけです。

社内情報システムも、歴史的な経緯から管理/総務部門の下にあって、新しい技術の導入に後ろ向きの風潮があると、よいテクノロジーに目利きがある人がいても、意見が通りにくい環境になってしまいます。

成長のカギを握る技術者の存在

私のお勧めは、「コア業務」と「ノンコア業務」にわけて考えることです。ノンコア業務とはどこの会社でやっても同じような業務で、だいたいそのようなものは SaaS で提供されているので、あるものを使った方がよいのです。「車輪の再発明をしない」という考え方が大事になります。一方、「コア業務」は自社のビジネスの競争力を生み出す技術分野です。技術者の採用はいつも容易ではないので、限られた技術者の資源はこの部分に集中して投入すべきだと考えています。

ありがちな問題が「コア業務」であるにも関わらず、外注に任せきりにしてしまうことです。確かに言うことを聞いてくれるし、リソースの確保などの苦労も外部化できますので進めやすいでしょう。しかしながら外注した瞬間に、それはシステムを完成することが目標になってしまい、ビジネスを成功させる、という本質的な目標とずれてしまいます。多くの場合、外注される側は単価をあげて、期間を長くしたほうが売上が増えますので、ビジネスの成功と違うモチベーションが働いてしまいます。小さな改善、細かい方向転換も難しくなってしまいます。

大久保:傭兵は使い方次第では威力を発揮するけど、頼り切ると危険ということですね。

安武:外注に依存しがちな理由に、会計基準と雇用制度の背景があると考えています。日本が工業立国という背景もあり、ソフトウェアの開発は、工場の装置と同じ考え方をするような会計基準になっているかと思います。固定資産として計上しなければならないところが多く、一度作ると長年償却をしながら使うことが前提です。これが重たくて、素早い改善を妨げたりもします。

そして、重たい資産になるものを作る人達を社員として抱えることは、日本はレイオフがほぼないので、長期的な重石となります。それで外部化したくなる、という背景もあり、結果として細かい改善が進まない、ということが起こりやすいのかと考えています。そういう日本のソフトウェア開発の現状も、日本CTO協会の理事としての活動などを通じて啓蒙していきたいと思っています。

大久保:ありがとうございました。

日本人エンジニアは大変優秀な人が多いのに、ビジネスの成功において活かしきれていないのであればとても残念です。ビジネスが常に前進していくための課題は多々ありそうですが、現場での経験が、プロダクトを作る大きな原動力となるところに、今後の希望がありそうです。

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(取材協力: Junify CSO 安武弘晃
(編集: 創業手帳編集部)

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