特許庁お墨付きのスペシャリスト直伝 スタートアップのための知財戦略講座(基礎編)

創業手帳

スタートアップの知財戦略の専門家・山本飛翔弁護士にインタビューしました

(2020/04/24更新)

知財戦略」は事業の将来に大きく影響する重要事項です。しかし、日本では、知的財産権を取得している中小企業の数が5割弱にとどまっています。いまだに「知財戦略は事業が大きくなってから考えるもの」というイメージが強く、知財戦略に取り組んでいないスタートアップが多いのが現状です。

最近では、特許庁が中心となって、スタートアップに対する知財戦略の重要性を啓蒙する活動を積極的に展開しています。今回は、特許庁からスタートアップの知財戦略の専門家として表彰された山本飛翔弁護士に、知財の基礎的な知識や、スタートアップを取り巻く知財戦略の現状と課題などについて聞きました。

山本飛翔(やまもと つばさ)弁護士
中村合同特許法律事務所に所属し、スタートアップの知財戦略に注力。スタートアップ、投資家向けのセミナー・勉強会の開催や、地方自治体主催のスタートアップ向けプログラムで知財戦略講師などを務めるなど、スタートアップ・エコシステムに関連する啓蒙活動にも積極的に取り組んでいる。

2019年、特許庁・経済産業省が主体となって実施した知財活用のための調査研究では、知財の専門家として参加。2020年3月に、特許庁主催の「第1回IP BASE AWARD」で、知財専門家部門奨励賞を受賞した。主な著書に『スタートアップの知財戦略』(勁草書房)。

知財戦略は「守り」と「攻め」を兼ね備えた、珍しい法務分野

ースタートアップの知財戦略専門の弁護士になった背景を教えてください

山本:知財戦略は、法務分野の一つですが、事業戦略に密接にかかわり、事業の成長に寄与できる「攻め」の側面をもっています。一般的に「守り」のイメージが強い法務分野の中でも、珍しい領域です。ある企業の知財部で働く妻から、このことを教わり、知財戦略に興味を持つようになりました。

知財戦略は、事業戦略の一環であり、「経営」と「知財」の双方について知見を持って取り組まなければ、決して良い取り組みにはなりません。

キヤノンの元専務取締役であり、知財部門で活躍された丸島儀一氏も、著書『知的財産戦略』(ダイヤモンド社)で指摘していますが、大企業では経営陣と知財部の距離が遠い場合が多く、適切な知財戦略の構築が難しいケースも少なくないようです。

 逆に、スタートアップでは、経営者(または、経営者に近いメンバー)が知財を取り扱うケースがほとんどなので、知財の専門家が組織の知財部としての役割を担えば、経営陣と知財領域の密な連携を取ることができます。

スタートアップのほうが、適切な知財戦略を構築できる可能性が高いのではと思い、この世界に飛び込みました。

一方で、スタートアップは大企業に比べてヒト・モノ・カネが足りないため、リスクを取って新しい市場を切り開いたり、新たなサービスを生み出したりしたとしても、その優位性を守る術が少ないという現実があります。この点でも、スタートアップにとって、新しい発明などを保護する知財活用は重要です。

私は、スタートアップに知財戦略を浸透させ、効果的な知財戦略でスタートアップの成長をサポートし、数多くの成功例の誕生に貢献したいと考えています。

ー弁護士としての仕事のほかに、どのような啓蒙活動に取り組んでいますか?

山本:まずは、スタートアップや投資家に「知財は使えるものだ」と認識してもらわなければいけないと考え、各種勉強会を開いたり、Twitterやnoteでスタートアップの知財戦略に関する発信活動を続けたりしています。

活動を評価され、書籍を執筆する機会をいただき、2020年3月に『スタートアップの知財戦略』を出版しました。

知財の主な種類と特性について

ー「知財」には、どんな種類があるのでしょうか?

山本:いわゆる「知財」と呼ばれるものは、以下のように整理できます。

知的創作物に関するもの 営業上の標識に関するもの
特許権(特許法) ・発明を保護
・原則、出願から20年有効
商標権(商標法) ・商品・サービスに使用するマークを保護
・登録から10年有効(更新可能)
実用新案権
(実用新案法)
・物品の形状等の考案を保護
・出願から10年有効
商号(商法、会社法) ・商号を保護
意匠権(意匠法) ・デザインを保護
・出願日から25年有効
商品等表示
(不正競争防止法)
・周知または著名な商標などの不正使用を規制
著作権(著作権法) ・文芸、学術、美術、音楽、プログラムなどの精神的作品を保護
・著作権者の死後70年(法人は公表後70年、映画は公表後70年)有効
地理的表示(GI)
(特定農林水産物の名称の保護に関する法律)
(酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律)
・品質、社会的評価など、「確立した特性が産地と結びついている産品(産地の名前を冠するブランド品)」の名称を保護する。
回路配置利用権
(半導体集積回路の回路配置に関する法律)
・半導体集積回路の回路配置の利用を保護
・登録から10年有効
   
育成者権
(種苗法)
・物品の新品種を保護
・登録から25年(樹木30年)有効
   
営業秘密
(不正競争防止法)
・ノウハウや顧客リストの登用など不正競争行為を規制する    

以上のとおり、知財は、その種類に応じて、用途や保護できる対象が異なります。そのため、各種の知財を複合的に活用して保護することが有効です。

ー「知財」を守るための権利や法律と、それぞれの概要を教えてください

山本:知財を守る際に、特によく関わるのは、「特許権」、「商標権」、「意匠権」、「著作権」、「不正競争防止法」です。

1.特許権

特許権は、発明(独創性があり、技術を利用した新しいアイディア)を保護する権利です。例えば、有名なものだとAmazonのワンクリック特許(ワンクリックで商品を購入できるシステム)があります。ほかにも、少し意外かもしれませんが、「いきなり!ステーキ」のサービスの特徴である「ステーキ量り売りシステム」も特許に認定されています。特許権を取得するためには、特許庁への出願が必要となります。

2.商標権

商標権とは、商品・サービス名やロゴなど、ブランドを保護する権利です。例えば、「メルカリ」というブランドネームや、メルカリのロゴが商標権の対象となります。
なお、会社名と商品・サービス名が違う場合には、会社名についても商標権を取得しておくことが望ましいです。商標権を取得するためには、特許庁への出願が必要となります。

3.意匠権

意匠権とは、物品の形状(デザイン)や画像(UI等)などを保護する権利です。たとえば、iPhoneの筐体のデザインや、アプリのロゴ、UIなどが意匠権の保護の対象となります。商品やサービスのデザイン性が重要視される昨今、意匠権もますます重要になってきているといえるでしょう。

意匠権を取得するには、特許庁への出願が必要となります。

4.著作権

著作権とは、動画・音楽・写真など、創作性のある具体的な表現物を保護するための権利です。これまでの権利とは異なり、登録の手続は必要なく、表現物を作った時点で自動的に発生する権利です。

5.不正競争防止法

不正競争防止法とは、営業秘密や一定のデータ(「限定提供データ」)等を不当に侵害する行為からの保護を受けるための法律です。

スタートアップは、どのタイミングで知財戦略を立てるべきか

ースタートアップを取り巻く知財保護の現状と、課題について教えてください

山本:特許庁が、スタートアップ向けに知財保護の重要性を訴える活動に取り組んでいることもあり、知財について考えるスタートアップが増えてきていると感じます。

しかし、取り組むタイミングが遅れたことで、知財活用の可能性を逃してしまうスタートアップや、知財を活用する方向性を間違えてしまうスタートアップもまだまだ多いのが現状です。

たとえば、製品開発が完了してから特許などの保護を検討する場合と、製品の構想段階から検討した場合を比較すると、前者の場合は知財を活用できる可能性が下がりやすい傾向にあります。事業戦略の幅がどうしても狭くなってしまうのです。

ほかにも、技術担当の方が特許を取ることができると考えているポイントが、必ずしも事業戦略上有効なポイントではない、といったケースもあります。

ースタートアップが「知財」戦略を考え始めるべきタイミングと、その理由を教えて下ください

山本サービスや商品の開発初期段階から、知財の専門家を交えたディスカッションをすることが望ましいと考えています。専門家の中でも、スタートアップの事業戦略について知見がある、もしくは知財以外の事業戦略についても根気よくスタートアップのメンバーと議論できる専門家を迎えると、よりよいでしょう。

出願手続だけでなく、訴訟やライセンス交渉、アライアンス時における知財活用の経験や上場準備、M&Aなど、幅広い知見を持っている専門家であれば、事業の目標から逆算して戦略を構築できる可能性が高まります。

ー投資家は、企業の知財戦略のどういった点を評価するのでしょうか

山本:投資家も、スタートアップの知財への取り組みに注目しています。たとえば、一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会理事の山中卓氏は、投資先企業の知財保護について、下記のような見解を示しています。

  • ベンチャー企業の知的財産について、デューデリジェンス(企業価値査定)時点から着目している
  • 投資の際、特に留意するのはベンチャー経営者の知財への感度。知財戦略に取り組む努力をポジティブに評価する
  • 単なる発明家に投資をするのではなく、発明がビジネスに発展し、社会に貢献することが重要。知財は事業化して初めて価値を生む

その上で、「曖昧なままでは知財戦略は成功しない。高い意識で専門家とコミュニケーションしながら取り組んでほしい」としています。

このように、投資家がスタートアップの知財への取り組みに注目している以上、スタートアップとしても、知財戦略へ積極的に取り組み、その取り組みをアピールすることで、資金調達をより良い形で実現していくことが重要といえるでしょう。

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(監修: 中村合同特許法律事務所/山本飛翔弁護士
(編集: 創業手帳編集部)

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