特許庁お墨付きのスペシャリスト直伝 スタートアップのための知財戦略講座(実践編)

創業手帳

山本飛翔弁護士に、スタートアップが取るべき実践的な知財戦略について聞きました

(2020/04/27更新)

知財戦略」は事業の将来に大きく影響する重要事項です。しかし、日本では、知的財産権を取得している中小企業の数が5割弱にとどまっています。

山本飛翔弁護士は、スタートアップの知財戦略の専門家として、経営者が創業初期から知財戦略に取り組む重要性を訴える啓蒙活動を続けています。山本弁護士に、スタートアップが取るべき、実践的な知財戦略について話を聞きました。

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特許庁お墨付きのスペシャリスト直伝 スタートアップのための知財戦略講座(基礎編)

山本飛翔(やまもと つばさ)弁護士
中村合同特許法律事務所に所属し、スタートアップの知財戦略に注力。スタートアップ、投資家向けのセミナー・勉強会の開催や、地方自治体主催のスタートアップ向けプログラムで知財戦略講師などを務めるなど、スタートアップ・エコシステムに関連する啓蒙活動にも積極的に取り組んでいる。

2019年、特許庁・経済産業省が主体となって実施した知財活用のための調査研究では、知財の専門家として参加。2020年3月に、特許庁主催の「第1回IP BASE AWARD」で、知財専門家部門奨励賞を受賞した。主な著書に『スタートアップの知財戦略』(勁草書房)。

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知財戦略、スタートアップの経営者がつまずきやすいポイントは?

ー知財の保護で、スタートアップの経営者がつまずきやすいポイント・見落としやすいポイントを教えてください

山本:「とにかく権利さえ取得できればよい」という認識で相談に来る方もいるのですが、スタートアップは、大企業と異なり、何十~何百件もの知的財産権を取得することは困難です。そのため、1件あたりの重要性が極めて高くなります。事業戦略や目的を明確にしないまま取得すると、使い勝手や費用対効果の悪い投資になりかねません

スタートアップだからこそ、知財1件ごとに、経営陣と専門家で、納得がいくまでしっかりディスカッションして、「切れ味の鋭い権利」になるよう戦略を立てることが重要です。

また、「知財の活用を検討し始めるタイミングが遅く、戦略の選択肢が減ってしまう」というのも、スタートアップにありがちなつまずきポイントです。知財の活用方針が固まり切っていない段階でも構わないので、まずは気軽に専門家へ相談してみることをおすすめします。

ースタートアップの知財保護に関して、具体的にどんな悩み・相談を受けることが多いですか?

山本:特許と並んで、「商標権」の取得について相談を受けることが多いです。

商標は、使用する「ブランド名(ロゴ)」と「権利取得したい商品・サービスの領域(指定商品・指定役務)」を適切に組み合わせる必要があります。そのため、いま行っている事業と今後行う可能性のある事業を正確に把握した上で、商標出願に反映できるかどうかがポイントになってきます。

「新しいビジネス」については、いっそう慎重に出願を考える必要があります。たとえばシェアリングエコノミー事業を展開する場合、現時点で「シェアリングエコノミー」という指定商品・指定役務は存在しないため、何を扱うシェアリングエコノミーなのかを明確にし、既存の指定商品・指定役務に落とし込んでいくことになります。

また、大企業と、共同研究開発などでアライアンスを組むにあたって、「成果物の権利帰属」や「利用関係」についての枠組み作り、契約交渉について相談を受けることも多いですね。この場合、Win-Winの契約条件に到達するためには、大企業が提示してきた内容に理解を示しつつ、スタートアップ側の事情を丁寧に説明するなど、根気よく交渉していく必要があります。

大企業側から、成果物の権利を全て大企業のみが吸い上げることや、成果物の権利を大企業とスタートアップで共有するよう提案される場合も多いです。しかし、スタートアップにとって、知財1件1件の重要性は大きいもの。知的財産権を他社と共有することで、上場やM&Aのときに支障が出てくる(共有者の合意がなければ利用を許可できない、M&Aをスムーズに進めることができないなど)可能性もあります。このことを考えると、知財の権利はスタートアップに単独帰属させた上で、大企業に対しては一定の範囲で成果物を独占的に使用させるようにするなど、権利の棲み分けがしっかりできるよう交渉を進めなければなりません。

スタートアップ特有の事情に精通し、アライアンス交渉に長けた専門家に相談することが重要です。

スタートアップの知財戦略の実例に学ぶ

ースタートアップの知財戦略の成功例にはどのようなものがありますか?

山本ペプチドリーム株式会社という、東大発のバイオベンチャーが好例です。同社は、事業の初期から東京大学とともに知財戦略に取り組み、IPOに成功しました。

具体的には、まず国内外の大手製薬会社と提携する際に、契約段階から「契約一時金」を受領することで、創薬研究の初期から売上を生み出す形を作りました。

その後、順調に研究が進むと「創薬開発権利金」や「目標達成報奨金」を受け取れるようにしたり、最終的に薬がリリースされたりすると、その売上金額の一部を「売上ロイヤルティ」として受け取るという形で、創薬研究の各段階に応じて収益を獲得できるビジネスモデルを構築したのです。

スタートアップでありながら、自社に有利な条件で事業を進めることができたのは、同社の技術力の高さだけではなく、創業初期から知財戦略をしっかりと立て、独自の特許ポートフォリオ(下図参照)を構築できたことが大きいでしょう。

ー知財戦略で起きた問題の例についても教えてください

山本:知財戦略への取り組みが不十分だとどのようなリスクがあるのかを知っていただくために、Facebookの事例が参考になります。

2012年3月、Facebookが上場する直前にYahooから特許侵害訴訟を起こされました。これが、上場に大きな影響を与えたといわれています。

FacebookはYahooに対抗するため、提訴された直後にIBMから数百件の特許を購入しました。その特許の一部を活用してカウンターで特許侵害訴訟を提起し、和解までもち込んだという経緯があります。

このように、知財に関わる訴訟に対応するには、多額の費用と工数がかかってしまいます。知財に関連する訴訟を起こさせないようにするためには、競合他社に対して権利行使できるような知的財産権を、自社で保有していることが有効な対策の1つです。そのため、スタートアップがEXITを目指すときに、攻めの経営だけではなく、守りとして特許権などの知的財産権群(ポートフォリオ)を構築していく必要があると考えます。

知財は、よりよい事業戦略を構築するきっかけになる

ー知財戦略について詳しく学びたい!と思ったときに、おすすめの方法や、活用すべきサービスについて教えてください

山本:まずは、特許庁が展開している、スタートアップのための知財コミュニティポータルサイト「IP BASE」をご覧いただくのが良いと思います。知財になじみのない方でも理解しやすい基礎的なコンテンツから、専門家も活用できるレベルの高度なコンテンツまで、知財に関する豊富な情報を無料で活用できます。

拙著の「スタートアップの知財戦略」も、私がこれまで携わってきたスタートアップの知財戦略に関する知見をすべて詰め込んでいますので、ぜひ読んでいただきたいです。

ースタートアップの知財戦略に関して、経営者に「これだけは伝えたい!」一言をお願いします

山本知財は事業の強みを活かし、よりよい事業戦略を構築するための引き出しやきっかけになります。

経営者の皆さんも、創業の初期段階から、パートナーとなる専門家を見つけ、事業成長のツールの1つとして知財を活用していただき、世界を代表する企業へと成長してください!私も伴走者として尽力いたします!

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(監修: 中村合同特許法律事務所/山本飛翔弁護士
(編集: 創業手帳編集部)

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