金型に巨額の投資をする理由 竹本笑子氏インタビュー
社長の“器”が問われる時 竹本笑子氏インタビュー
(2016/03/16更新)
「会社の役に立ちたい」という一途な思いで3代目社長に就任し、東証2部への上場を果たした竹本笑子氏。創業65年の歴史を背負いつつ新たな挑戦を続ける竹本氏に、代々受け継いできた“社長としてのあり方”を伺いました。
中央大学法学部卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガンスタンレー証券)を経て、1999年に竹本容器入社。営業副本部長、取締役を経て、2004年から2 代目社長のお父様に代わり、3 代目社長として就任し、2014年12月には東証2部へ上場。
社長への試練で学んだ“逃げない姿勢”
竹本:幼い頃より、創業者の祖父から会社の話をよく聞いていました。
工場の開業式に同席したり、「不渡りを受けた」「資金繰りが苦しくなった」ということも面白可笑しく話しているのを聞いて、「仕事は大変だけど、楽しいものなのだ」というイメージを持って育ちました。
大学卒業後は証券会社の勤務を経て、竹本容器に入りました。まず経理を1年経験し、その後買収した会社の工場に出向いて経営を立て直しました。
そして営業責任者を経て、社長になりました。
竹本:工場は結果が出るのが早いので一番楽しかったです。
自らパートの方の輪に入り、一緒に作業を手伝うことで、受け入れてもらいました。作業することでより現場が見え、徹底的に分析した結果、不良品の削減に取組みました。
納期に間に合わせようとして作業が雑になるのであれば、納期よりも丁寧に作業することを優先し、一つ一つ品質を確認することを徹底させました。
従業員の中には退職される方もいらっしゃいましたが、会社にとって時間も材料もマイナスになる不良品の削減のためには、多少荒っぽい治療もしなくてはなりませんでしたね。
心が一つになれば不良品も減りますが、バラバラだとすぐに不良品が増えます。毎日成果が出るので、改善のしがいがありました。
竹本:営業責任者をやれと父から言われた時は、「営業の経験がないのにどうやって責任者になるのですか?どこでもいいから下準備をさせてください!」とお願いしまいたが、「そんな必要はないからとにかくやってみなさい。」と言われました。
これは私にとって1番の試練でしたね。
就任直後、会社が大きな損失を負いかねない2つのクレーム解決に苦労しました。先方も、若い女性が対応・謝罪に回ってきたので、びっくりしたと思います。
クレーム解決は全く経験がなかったため大変でしたが、「逃げない」ことと「正しいと思う部分は主張する」ことの大切さを学びました。
真正面から問題を受け止め、誠心誠意問題解決にあたることが大切です。その上で会社としてできること・できないことを伝えます。
全て相手の言いなりになるのではなく、譲れない部分は主張して納得してもらうのが難しかったですね。
会社の規模が拡大するにつれて、より多くの関係性が生じ、会社にとって都合の悪いことも増えていきます。
経営者は問題が起きた際、現実を受けとめる必要があり、自分は悪くない、悪いのは相手という姿勢で逃げてしまえば、結局後からもっと炎上してしまいます。
竹本:自分が継ぐという意識よりは「会社のために何ができるか」「役に立ちたい」という思いが強かったため、継ぐことへの抵抗はありませんでした。
父から学んだ「負けてもいいから、バットを振れ!」の真意
竹本:まず、金型は安いものでも数十万円、高いものだと数千万円します。
例えば、化粧品のボトルを作るのに700万円金型費がかかるとすると、10,000個しか売れなければ1つあたりの容器の費用は金型だけで700円になってしまいます。
初めて化粧品を創るというお客様にとって10,000個を売るというのはハードルが高くリスクも高いです。
そこで、我々容器専門会社がリスクを代わりに一旦引き受けて、カバーできる仕組みを採用しています。
一般的な形の容器であれば、国内外の他社から、その金型に対する需要を見込めるからです。
それでも、2:8の法則で売れ筋は大体決まり、全く使われない商品もあるので、やはり金型投資はリスクが伴いますね。
しかし、我々は売れない8割の脇役も必要だと考えており、ニッチやユニークなものにも積極的に投資しています。
竹本:「10勝0敗である必要はない」と割り切って、とにかく数多く開発したいと考えているからです。
全部が4番バッタ―である必要はないという割り切りは難しいのでしょう。
失敗が続くと、打席に立つのが怖くなって新たに開発しなくなってしまったり、売れるとわかっているものだけを作っていたいという風潮が出てきてしまいます。
父は、「負けてもいいから、バットを振れ!バットは振らなければ当たらない。」「囲碁のように陣地取りと考えればよい。」と話していました。
そのため、まず試してみています。競合が増えた背景から、作れば売れる時代ではなくなり、世の中の変化を上手に掴みながら事業を回していかなければなりません。
その際に、結局は、考えてばかりいてもわからず、やってみないと正解は見えないのです。
我々にできることは、1個当たりの開発費用を減らす工夫をして、試せる環境を作り、実際に試すことです。
上手くいかなくても致命傷にならない程度で試すのが大切ですね。リスクヘッジをきちんとやっておくということを心がけています。
竹本:失敗を許容するというのは重要だと思います。とは言っても、やはり失敗すると腹が立ち、文句を言う時もありますけれども…(笑)。失敗を許容することは、経営者の器を問われるところだと思います。
3代目が描く未来とは?
竹本:まだ規模が小さいので、国内でメジャーな企業になることを目指しています。
海外においても、日本の企業がもっと活躍できるようにしていきたいです。
現在、中国を中心にアメリカ・東南アジア・ヨーロッパでも販売をしていますが、日本の企業が作る“もの”の良さを改めて感じています。
まずは、我々の海外進出を成功させます。“もの”が良いからこそ逆に経営手腕が問われます。
海外進出では相手の国の慣習があるので、現地の詳しい人達と相乗効果の出る組み方をできるかがポイントです。
相手の強みと今の自分の会社の強みが化学反応を起こすような、相思相愛のパートナーを見つけたいですね。
また、環境問題を解決できる容器のあり方の開発も課題です。
現在は、容器の軽量化で資源の使用量を減らし、二酸化炭素の排出削減が可能になるバイオ材料を使用する取り組みをしています。
ですが私は、今後は“繰り返し使うこと”に着目しています。繰り返し使うとは、容器を捨てずに、再度同じものを充填して使うことです。
昔の量り売りのような感覚ですね。そうすれば、ゴミは本当に減らせると思います。
そのためには、入っていたものが一回で負荷なく衛生的にきれいになり、簡単に同じものが入れられる装置を作り、普及させる必要があります。
どのように仕組みを作っていくかが難しいですね。容器の消費は減ってしましますが、循環型社会の実現のために、挑戦する価値があると思います。
(取材協力:竹本容器 竹本笑子)
(編集:創業手帳編集部)