JFRカード 二之部守|決済・金融ビジネスで、J.フロント リテイリンググループの未来を変えたい

創業手帳
※このインタビュー内容は2023年11月に行われた取材時点のものです。

大企業にいながらスタートアップも支援。その中で見えてきた「起業家の成功に必要なもの」とは


大丸や松坂屋、パルコなどの商業施設を持つ「J.フロント リテイリンググループ」において、決済・金融事業を担うJFRカード株式会社。2018年から同社の代表取締役社長を務める二之部守さんは、百貨店業界の常識にとらわれない変革に取り組み、大きな注目を集めています。

アメックスやVisaといった大企業でキャリアを重ねながら、スタートアップ支援にも取り組んできたという二之部さん。「多くのスタートアップと関わる中で、見えてきたものがあります」と語ります。

今回は二之部さんにこれまでのキャリアや今後の展望のほか、二之部さんから見たスタートアップに必要なものについて、創業手帳の大久保がインタビューしました。

二之部 守 (にのべ まもる)
JFRカード株式会社 代表取締役社長
1986年3月東京大学文学部卒業、91年5月ニューヨーク大学経営大学院MBA修士課程修了ファイナンス専攻、86年アメリカン・エキスプレス・インターナショナル日本支社入社。2000年11月同社グローバル・ネットワーク・サービス 日本/韓国地区副社長、05年8月同社トラベラーズチェック・プリペイドサービス副社長、07年9月リシュモン・ジャパン カルティエ・リテール本部長、11年9月ビザ・ワールドワイド・ジャパンのビジネスデベロップメントⅡのヘッドに就任。15年10月ビジネス・アドバイザリー・サービス代表、17年2月Origamiアドバイザーを経て、18年3月から現職。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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決済ビジネスとリアルを融合させ、老舗百貨店グループの強みを活かしたい

大久保:これまでのご経歴を簡単に教えていただけますか。

二之部:大学卒業後、新卒でアメリカン・エキスプレスに入社しました。アメックスには21年いましたが、40代半ばになって「このままだと1社だけのキャリアになってしまう」と感じて、転職を決意しました。転職先はそれまでとは全く別の業界で、リシュモン・ジャパンというカルティエなどのブランドを扱う会社です。

それから再度ペイメントの世界に戻り、Visaに4年ほどいました。その後は個人事業主だった時期もあります。ちょうど「フィンテック」が流行りはじめた頃で、ペイメント業界に長くいた経験を活かしコンサルティングをしていました。「Origami(オリガミ)」という決済サービスを手掛けるスタートアップをアドバイザーとして手伝っていたんですよ。

当時はそのまま個人として仕事をしていこうと考えていたのですが、JFRカードから声をかけていただき、面白そうだなと思って入社しました。実はJFRカードに入ってからもOrigamiの支援は続けていたのですが、Origamiがメルカリの子会社「メルペイ」に吸収合併されたため、現在は今の仕事一本です。

大久保:大企業にいながら、スタートアップとも深く関わってこられたんですね。

二之部私自身「スタートアップを支援したい」というのは、以前からテーマとしてずっと持っているんですよ。現在も業務提携や協業というかたちでスタートアップの方々と組ませていただいています。

大久保:御社は、お金の流れを含めた多くのデータを持っています。スタートアップから見ても、提携するメリットは大きいと思います。

大久保:そうですね。私たちのグループには、大丸や松坂屋といった百貨店のほか、パルコやGINZA SIXといった商業施設もあります。さらにグループ以外の施設でも、お客様はカードをお使いになります。ですから個人情報や決済情報、信用情報など、さまざまなデータが集まります。

正直、現状はこうしたデータをフル活用できているとは言えません。今後うまく利活用していくつもりです。

大久保:私自身ECの会社にいましたが、決済データはやはり魅力があると思います。特に御社のような百貨店グループの場合、ECと違ってリアルな情報を掛け算できるのは強みですよね。

二之部:おっしゃる通り、店舗に入って何を見たとか、何を手に取ったとか、そういうデータを取れるのはリアルならではですね。技術的には可能なので、今後掛け算できるようにしていきたいと考えています。

ただ、データの利活用にはプライバシーへの配慮も欠かせません。特にヨーロッパではすごく厳しいですし、日本でも個人情報にはセンシティブです。ここは難しいところですが、チャレンジなのかな、と思っています。

大久保:御社の強みを教えていただけますか?

二之部:大きな特徴は「マルチブランド」だと思っています。他社の百貨店やスーパーさんは、だいたい1つのブランドでビジネスをされています。一方私たちには大丸と松坂屋があり、さらにパルコやGINZA SIXという商業施設もあります。今後も新たな商業施設を作っていく予定ですが、やはり異なる屋号で作っていきます。

1つの大きなブランドを持つのも強いと思いますが、どうしても広がりに欠けるところがあります。私たちは多様なブランドを持つことで、いろいろなタイプのお客様を獲得しています。いわば顧客のダイバーシティですね。ここは大きな強みだと思っています。

ただ強みである分、どうやってデータを分析してクロスセルしていくか、というところはチャレンジだと思っています。

大久保:確かに大丸とパルコでは客層が全く違いますね。

二之部さまざまなタイプのお客様をどう相互送客したり、回遊してもらったりするか。これはグループ全体として大きなテーマです。その中で私たちは決済・金融の会社として、重要な役割を担っていると考えています。

新しいことを始めるには意識の改革が必要。最初に見直したのは「服装」


大久保:百貨店業界出身ではない二之部さんがJFRカードへ入られてから、いろいろと改革されたとお聞きしました。

二之部:サービスとしては、2021年にカードをリニューアルして「QIRA(キラ)ポイント」という仕組みを導入しました。グループが持ついろいろなブランドを将来つないでいきたいという思いで、ゼロから立ち上げたものです。

「新しいことをやる、今までなかった世界を目指す」というのは、この会社で常に意識しています。

大久保:老舗百貨店のグループ企業となると、新しいことをはじめるのは大変だったと思います。どのように進めたのでしょうか?

二之部まずは人ですね。マインドセットです。おっしゃる通り、百貨店の子会社からスタートした会社ですから、どうしても百貨店の考え方に引っ張られているところがありました。それはそれで大切な部分ですが、そうではない部分もあります。

まず取り組んだのが服装です。例えば靴。以前はコールセンターのような表に出ない職種の社員も含め、全員が革靴を履くことになっていたんです。百貨店だから当たり前、みたいな感じでしたね。でも通勤でそれなりに歩くような人は、スニーカーでもいいじゃないですか。

大久保:外見から入ると、中身も変わりますか?

二之部:見た目が1番わかりやすいですからね。服装を変えることが目的というより、意識を少しずつ変えていこうと考えました。

これは採用にも影響すると思ったんです。新しいことを目指して新しい仲間を迎える時に、今までの考えを押し付けるような会社だと人は来ませんから。

大久保:積極的に新しい人材を採用しているのですか?

二之部:現在300人ぐらい社員がいるんですが、その半分の150人くらいは、ここ4年で新しく採用したんですよ。長い歴史のある会社では、10年とか15年とか一緒に仕事をしている人たちが多いですよね。ここまで人が入れ替わっているのは、あまりないと思います。

いろいろな経験を持った人や違った考えを持つ人が来ることで、新しいアイデアも出やすくなりました。「これまでのやり方でいいのかな、もっと変えていこうよ」という意見も出るようになったんです。

もちろんいい面だけではありません。ここ最近はコロナ禍で在宅勤務が増え、社内で雑談できないような状況でした。そんな中で100人くらい新しい人材を採用したので、社員同士で顔と名前が一致しないとか、オンラインでしか会ったことがないとか、そういうことも増えてきました。

社員同士の信頼関係をどう作って、どう情報を共有していくか。ここは会社としてチャレンジですね。現在は出社できるようになってきましたが、やはりいろいろな面でチャレンジだと思っています。

大久保:困難なことをチャレンジとおっしゃるのがいいですね。言い方を変えるだけで、思考もポジティブになりそうです。

二之部:そうかもしれないですね。事業についてもそうです。競合他社は大きくて強いブランドがあります。でも視点を変えれば、私たちには百貨店もあればパルコやGINZA SIXもある。さらに新しいブランドも増えていく。それならチャレンジできるよね、という考え方です。チャレンジというのは「逃げずに向き合う」という意味も込めています。

大企業とスタートアップの決定的な違いとは?


大久保:大企業とスタートアップ、それぞれ見てこられてきたと思います。単純な比較はできないと思いますが、どのようなところで違いを感じましたか?

二之部大企業は考え方やフレームワーク、リーダーシップ、コミュニケーションなど、学べることが多いですね。私はアメックスに21年いましたが、多くのことを学びました。これは自分にとって大きな糧になっていると感じます。

一方でスタートアップの良さは、スピード感ですね。意思決定の速さは圧倒的です。経験が少ないからこそ逆転の発想で考えられるし、新しいことがすぐできる。決済サービスをしていたスタートアップの「Origami」を支援した時もすごく感じましたし、今もスタートアップの方と話しているとそういう良さを感じます。

大久保:JFRカードも大丸・松坂屋という大企業のグループですが、やはり学びはありましたか?

二之部:そうですね。「大丸の歴史300年」という冊子がありまして、これを2回読んで、歴史から学べることってすごく多いなと感じました。

長く続く会社の歴史を見ると、天災や戦争といった困難をどう生き抜いたかがわかるんです。例えば江戸時代は、すごく火事が多かったんですよね。うちの百貨店の本社は東京・江東区の木場にあるのですが、火事で店が焼けてもすぐ立て直せるよう、材木を貯蔵していたそうです。江戸時代からリスクマネジメントがちゃんとできていた。だから現在も会社が生き残っているわけです。

それにもともと呉服屋だった店が百貨店になったわけですから、長い歴史の中で発想の転換もたくさんあったようです。よく進化論で「生物は強いものが生き残るのではなく、変化に対応できるものが生き残る」と言われますが、企業も同じですよね。

今も百貨店として変わろうとしているし、私たちの会社も変わろうとしています。今のままではダメだよ、という危機感を持つのは企業としてのDNAかもしれません。

大久保:確かに歴史という意味では、スタートアップはかなわないですね。

二之部スタートアップは歴史がない分、ゼロからスタートできるところが大きな強みだと思います。ゼロから作れるって、実はすごく強いですよね。私たちは顧客基盤や信用力という大きなアセットがある一方、負のアセットもありますから。例えばシステムはすごく古いものを使っています。

でもスタートアップは最新のテクノロジーを使って、安くて、柔軟性のあるものをスピーディーに作れます。もちろん、お客様も信用もゼロからのスタートなので大変ですが。

スタートアップに大切なのは、顧客ニーズとマネタイズの見極め

大久保:今後の展望について教えていただけますか?

二之部:お話したように、私たちにはいろいろなブランドの商業施設があります。そこをどうつないでいくかが一番大きなテーマです。

現在私たちの店舗は、札幌から福岡まで大きく分けて7つのエリアにあります。このエリアに絞って勝負したいと思っているところです。私はこれを「局地戦」と呼んでいます。

例えば、今デジタルでまともに楽天やGoogleと勝負するのは厳しい。グループの強みをどう活かして勝負できるかを考えた時、やはり店舗があるエリアで勝負すべきだと思っています。

私たちは百貨店として長い歴史がありますし、地域のステークホルダーとのリレーションもあります。そういうところと組みながら街の賑わいを創出して、百貨店の売り上げも上げながら、カードやポイントを利用してもらいながら、エリアで勝つ。これを目指しています。例えば、ある地域では地元のスーパーがすごく強いことってあるじゃないですか。そういうイメージです。

もちろんデジタルでも新しいことをやっていきますが、リアルな世界で、地域のお客様から支持されることを重視しています。グループにおける決済・金融の会社として、決済やポイントという面でこれからもチャレンジを続けていきたいですね。

大久保:それでは最後に、読者の方へメッセージをいただけますか?

二之部:これまで多くのスタートアップとお付き合いをしてきましたが、その中には残念ながら失敗してしまった方もいらっしゃいます。そういう方を見ると、テクノロジーに走ってしまうケースが多かったように思います。

強い想いがあることも、得意なものがあることも理解できます。とはいえテクノロジー先行だと、お客様がお金を払えないところを作り込んだり、違うところで収入を得ようとしたり。そういうギャップが出てしまいやすいですね。

難しいことですが、スケールしていく段階で「お客様のニーズがしっかりあるか」「どこでマネタイズできるか」を見極めることが大事だと感じます。

大久保写真大久保の感想

大企業、外資、スタートアップ、個人事業と様々な経験をしてきた二之部さん。

インタビューで印象的だったのが何回か「難しい」「厳しい」と言うところを「チャレンジ」といっていたところに強さを感じました。ちょっとした口癖ですが、チャレンジと捉える姿勢はリーダーの姿勢は伝播すると思います。

今後、金融、スタートアップの歴戦のつわものの二之部さんが、JFRグループのデータの中核になるカードの決済データを活用してどう次の手を打っていくのか注目です。

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(取材協力: JFRカード株式会社 代表取締役社長 二之部 守
(編集: 創業手帳編集部)



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