ホンモノ 山田 研太|自分の個性や美意識に注目した「アート型ビジネス」のすすめ
「稼ぐよりも自分の気持ちを大切にする」「効率よりも無駄を大切にする」アート型ビジネスとは?
天才についての研究をし、「アート型ビジネス」という新しいビジネスのあり方を世に広める活動をしている山田研太氏。
従来の世間のニーズに合ったサービスやものを開発する、というマーケティング型ビジネスに対して、アート型ビジネスは自分が執着できる対象を見つけ、時間をかけてそれを追求することで、唯一無二のサービスやプロダクトを生み出すことができると説きます。
山田氏自身が起業に至った経緯や、新しいビジネスコンセプトであるアート型ビジネスについて、創業手帳代表の大久保が詳しくうかがってきました。
株式会社ホンモノ 代表取締役
天才研究家
毎日「天才」についての研究をしている変態研究家。 研究の傍、売上げよりも個性や美意識を優先し自分にしかできないことを形にする「アート型ビジネス」という考え方を体系化。その考え方を独自の「論文」形式にまとめて定期的に発表したり、実際にアート型ビジネスを設計構築する場として『天プロ』を主宰。2019年にKADOKAWAから「天才について書いた本を出します」と言って全然出る気配がないので、本を出す出す詐欺として一定の認知を得ている。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
自分の執着とは何かを見つけて事業が伸びた
大久保:天才研究家という肩書きで、さまざまな活動をしていらっしゃいますが、どういった流れで起業されたのでしょうか。
山田:最初はコンサルタントとして企業に勤めていました。3年が経って、東日本大震災が起こった2011年、25才のときに独立しました。
今後やっていくことを考えたときに、会社員ではなく、独立しないと自分の強みをいかした働き方ができないのではと思ったのが理由です。
3年間は協業禁止というルールがあったので、別の畑で起業しようとは思っていましたが、何をやるかは特に決めていなかったですね。
大久保:そこから、どうやって今の「その人の強みを活かす」というサービスを提供するに至ったのですか。
山田:起業1年目はいろんな事業に手を出してはできるようになって、飽きての繰り返しでした。
ある程度腰を据えた今の活動の原型になったのが、個人サロンむけの経営支援です。それをもう少し横展開させたのが2013年〜2017年ぐらいに手がけた「ホンモノ経営塾」で、「短期でその人の強みを生かしながら売上げを上げる」という個人事業主向けの経営塾です。
大久保:中小企業の経営支援とはまた層が違うのでしょうか?
山田:違いますね。女性が7割で、売上げの目標が月100万円ぐらいの個人の方です。お子さんがいる方も多いです。
大久保:そこに焦点を当てた理由はなんだったのでしょうか。
山田:最初はウェブマーケティングとかコンサルをやっていましたが、自分の仕事へのモチベーションを考えたときに、「その人の人生が根本的によくなる」というのが自分の強みでもあり、やりたいことだと思ったんですね。それで個人の方に軸を据えて、小さい業態でも日本一を目指すにはどうすればいいかを考えたときに、個人サロンやセラピストの方なら当てはまると感じました。
大久保:事業の立ち上げで苦労したことはありますか。
山田:個人サロンの事業は5年ぐらいで伸びていきましたが、その前の1年ぐらいはピボットしていましたね。
自分が本当に何に動機づけされるのかがわかっていませんでした。健康業界をターゲットにしようと事業を始めたりしましたが、自分が飽きずにずっと突き詰められるものではなかったんです。
自分のスタンスとして、執着が大事だと思っているので、朝から晩まで考えても嫌じゃない、自分が探究できるものを見つけるまでが時間がかかりましたね。マーケティングを勉強しながら、やっと今の「人の人生にインパクトを与えるような事業」というテーマに出会えて、成果を出せるようになりました。
大久保:副業やフリーランスがちょっとしたブームになっていますけど、そういった時代の流れも後押ししてくれたのでしょうか。
山田:一時期に比べると少し落ち着きましたが、Facebookやアメーバブログを中心とした女性起業やSNS起業の盛り上がりはありましたね。
スケールさせていこうというスタートアップ界隈とは違って、個人の収入を自分らしく自由に得ていきたいという層にうまくマッチしたのだと思います。
「アート型ビジネス」とは
大久保:個人事業主がつまづくポイントはどこにあるのでしょうか。
山田:やはり共通の問題は集客です。
皆さん自分の好きなことやできることでサービスを考えるわけですが、全員が広告やマーケティングが得意というわけではありません。短期で稼ごうと思うと、獲得するスキルは稼ぐことに直結しそうな整体やコーチング、デザイナーなど他との差があまりなくなってきます。
要するにコモディティ化してしまうわけです。そこをキャラとか文章力で売ろうとしても、なかなかうまくいかず埋もれてしまいがちです。
大久保:そこを抜け出すにはどうすればいいのでしょうか。
山田:2017年までやっていた「ホンモノ経営塾」の時代には、3ヶ月以内に売上をあげることが目標で時間軸が短期だったので、サービス自体を根本的に見直す時間がありませんでした。
よって、発信量を増やしたり、その人に合ったSNSの活用法を提案したりしていましたが、それだと根本にある「サービスがコモディティ化」という問題が解決されないままでした。それでは中長期では、いずれ行き詰まります。
そこで、短期で売上や集客をあげるマーケティング型ビジネスとはまったく真逆のアプローチとして「アート型ビジネス」という方法論を作りました。現状はそれを「天プロ」という新しいプログラムを通して教えています。
自分が本当にやりたいことは何か、朝から晩まで追求できるものは何かを考え、自分にしかできないものを形にするというビジネスです。
それに対して、従来の顧客のニーズに合うものを提供しようというビジネスのことをマーケティング型ビジネスと呼んでいます。マーケティング型ビジネスだと、売上げを上げるために型やテンプレートを使いすぎて疲れていたり、窮屈になっていてビジネス自体がつまらなくなってくるということが起こりがちです。
生活の糧ということだけをモチベーションに頑張っていると、頑張って稼いでも、途中で疲れて休んでしまうというケースを何度も見てきました。
そういったことで悩んでいる方々には、「そもそも、そんなに稼ぐ必要がありますか?」と問いたいですね。まず生活に必要最小限な金額を算出し、その上で「本当に自分がやりたいことは何なのか」というのをクリアにすれば、より自由にクリエイティブにビジネスを組み立てられるのになと感じます。
大久保:メディアには上場した人が華々しく取り上げられていて、事業は大きくするのが正解というムードがあらゆるところに漂っていますけれど、そもそもそれが自分にとって正解ですか、幸せですかということですよね。
山田:多くの人が最初から理想を目指しすぎていると思いますね。気持ちが楽になる最低ラインを定めて、自分が本当に追求したいことを選び直すほうが、対象に執着できることによってクオリティが上がり、長期的には売上げが伸びるのではないかと考えています。
大久保:いろいろな起業家や経営者に取材をしていますが、経営の達人みたいな方がいる一方で、全然違うタイプとして武田層雲さんなどのアーティストタイプの方もいます。
そういった方たちはとにかく楽しそうに活動していらっしゃるのが印象的で、年齢が高くても活動を続けていて、息が長いなと感じました。
どういった人がアート型ビジネスにむいているのでしょうか。
山田:アート型ビジネスは、オーダーメイドで細かくビジネスをつくっていくのが大事になってきます。
僕はそんなビジネスにむいているのは、次の3つのタイプの方だと考えています。まず美意識が強い職人タイプ、次に強みと弱みのでこぼこが激しいタイプ、最後にこだわりが強く、細かいことが気になる繊細タイプです。
例えば美意識に執着があるジョブスのような人ですね。プロダクトが満足がいくクオリティになるまでの時間はかかりますし、世間がついてくるまでも一定の時間はかかりますが、彼の美意識に熱狂するファンは多く、結局は唯一無二のプロダクトを生み出しました。
「超天才」と「身近な天才」がいてもいい
大久保:アート型ビジネスがむいているのは天才型の人という印象ですが、誰でもそういった天才になれるものなんでしょうか。
山田:もちろん全方位に才能を持っている人はなかなかいないですよね。他の人がやらないようなひとつのことをたくさん積み上げていったときに、周囲の人から真似できないな、すごいなと思われることはある意味天才性だと僕は思っています。
したがって、アート型ビジネスとは、天才に向くというよりは、凡人の人がユニークな存在になり、他にはないプロダクトを作るための方法論です。その鍵が「執着」です。
いってみればジョブスは「超天才」であり、普通の人から見てすごい人は「身近な天才」です。絶対的なものじゃなくて主観的評価ですね。自分の個性や美意識を発揮するための原動力は執着であり、最初は低空飛行かもしれませんが、その上に時間が積み上がっていけば、マーケットがついてくるでしょう。
「三田のガウディ」を知っていますか? 岡啓輔さんという方で、1級建築士の資格を持ち、ひとりで15年以上も自分の家をセルフビルドし続けているんです。紛れもなく天才だと思いますし、こうなると才能というより執着の話ですよね。活動についての本も出版されています。
大久保:突き抜けていますね。今は変わっている人で終わらず、拡散やマネタイズがしやすいSNSなどがあるので、テクノロジーの後押しでいろいろな可能性が考えられますよね。
山田:そうですね。テクノロジーもそうですが、最近は世の中の流れとしても、限られたひと握りのエリートに焦点をあてるのではなく、熱量のすごさにフォーカスする流れが広まりつつあるのではないかと感じています。森美術館で開催された「アナザーエナジー展」は、1950年代から70年代に活動を始め今日まで継続してきた70代以上の女性アーティスト16名の作品を展示し、話題になりました。
大久保:やはり好きでやっていることというのは自然と継続できるという好例ですね。こういった熱量をビジネスにも活かそうということでしょうか。
山田:はい。女性アーティストにとっての絵画のように、好きなもの、取り組むだけで感動するものを追求し、無駄なこだわりや好き嫌いをすべて反映させたプロダクトは、癖が強いけど好きな人はすごく好きなんですよね。ただ品質が高いだけのものに飽きている人には刺さるんです。
現在は、そこそこ完成度が高いものが世の中にあふれています。昔は多くの人に受け入れられるものというのが大事でしたが、1人のファンに熱狂的に受け入れられるものを作ろうというのがアート型ビジネスのコンセプトです。
大久保:しかし、最初からそううまくいくものでしょうか?
山田:本田健さんが「好きなことを仕事にしよう」といったコンセプトでいろんな本を出された2000年代中盤ぐらいから15年以上経ちましたが、多くの人の事業を見てきて、残念ながら好きなことをすぐにマネタイズしようとすると、無理が生じることが多いんです。
長期的な視点で計画できればよいのですが、短期だと焦りが入ったり、不純物が混ざってしまいます。できるだけ時短で、ストレスがあまりないライスワークで生活に必要な金額を稼ぎつつ、自分が本当に好きなものを思う存分時間をかけて大切に育てたほうが、結局はいい結果を産むと思いますね。
自分に関しても、天才の研究の本を出すと言い続けてなかなか出していないんですが、その理由としては、天才の研究には5年から10年ぐらいかかるなと思っているからなんです。言葉や概念ってすぐ真似されるじゃないですか。真似できないのは本人がかいた汗の量、使った時間の量だと僕は思っているので、競合が気づいたときには真似できないぐらいに積み上げてから世に出したいという思いがありますね。
大久保:アート型でこだわってやっていきたいというときに、この方向で正しいかどうか不安になったらどうすればいいのでしょうか。
山田:本人がそれを見極めることは難しいかもしれないので、迷ったときに相談できて、アドバイスがもらえるプロデューサーや編集のような人が身近にいるといいですね。
特に、まだ世の中にないサービスは最初は売ることが難しいですし、どれぐらいの規模のビジネスになっていくのかも予測が難しいといえます。外部やスポットでもいいので、サポーターの力を借りるといいと思います。
大久保:最後に、読者へのメッセージをいただけますか。
山田:アート型ビジネスというコンセプトを世の中に広めようとしてはいますが、僕は10人中9人はマーケティング型ビジネスでいいと思っています。
ただ、マーケティング型ビジネスで行動が止まってしまう人、自分の個性を置いてビジネスをするのが苦手な10人中の1人の方には、アート型ビジネスというものがあるよ、ということを知っておいてほしいですね。
(取材協力:
株式会社ホンモノ 代表取締役 山田研太)
(編集: 創業手帳編集部)