GMOグローバルサイン・HD 青山満|電子契約・電子署名ビジネスをグローバルに展開。急成長を遂げた背景にあるものとは
社員の新たなチャレンジを後押しする「ホラクラシー」の中身に迫る
テレワークの普及やグローバル化などを背景に、日本でも「電子契約」や「電子署名」の導入が急速に進んでいます。こうした分野で国内だけではなくグローバルに展開するのが、GMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社です。
代表取締役社長を務める青山満さんは、同社の前身であるレンタルサーバ会社を起業。その後GMOグループに参加し、株式上場も果たしました。
最近では、新たな組織形態である「ホラクラシー(※)」を導入したことでも注目される青山さん。「会社の成長を続けるためには社員のチャレンジが必要。そこで個人に裁量と責任を与えるホラクラシーを導入しました」と語ります。今回は起業のきっかけや今後の展望、さらに企業の成長に必要なものについて、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。
※ホラクラシーとは、社内に役職や階級などがないフラットな組織形態。組織全体に権限が分散されるのが特徴。
GMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社 代表取締役社長
1967年、福井県生まれ。東海大学卒業後、エンジニアとして航空機のシステム設計に携わる。その後独立しスノーボードメーカーを設立。1996年には株式会社アイル(現GMOグローバルサイン・ホールディングス)を創業。2001年資本提携によりGMOインターネットグループにジョインし、2014年には東証一部に上場する。現在は電子認証・印鑑、クラウドインフラ、DXの3つの事業を世界11ヶ国で展開。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
スノーボードを売ろうとインターネットに目を付けたのが、今の事業につながった
大久保:まずは起業されたきっかけを伺えますか?
青山:会社員だった時、副業としてスノーボードの並行輸入をしようと思ったのが最初ですね。当時は日本とアメリカのスノーボードの価格差がすごくありまして、ビジネスになると思いました。
ところが全部準備をした後に突然アメリカのメーカーから横やりが入り、物が一切入ってこなくなってしまったんです。貯金もかなり使ってしまったので、あせりました。
その後、準備で知り合った方々と話す中、自分たちがメーカーになりスノーボードを作って販売しようということになりました。それから独立して、スノーボードのブランドを立ち上げて、ボードを作って、プロモーションするためにプロと契約して、ということを一通りやりました。
大久保:スノーボードのビジネスが最初というのは意外でした。その後、事業は順調でしたか?
青山:いわゆるスノーボードバブルになって、競合がすごく増えてしまったんです。大手も次々に参入して、僕らでは太刀打ちできませんでした。大量の在庫を抱えてしまい、どうしようかなと思っていた時、当時少しずつ広がっていたインターネットに目を付けました。
青山:スノーボードをインターネットで販売する方法を調べているうちに、レンタルサーバのことを知りました。日本には当時まだレンタルサーバを手掛ける会社がほとんどなかったので、自分でやろうと思ったわけです。
僕は元々エンジニアなので、ホームページを簡単に持てるサーバが今後重要になるかなと思いました。実際にアメリカではウェブホスティングの会社が急成長していましたから。将来インターネットは絶対なくてはならないものになるという確信があったので、1社でも多くの企業に使ってもらおうという想いでレンタルサーバ事業を始めました。
レンタルサーバを立ち上げることに夢中になって、1分すらもったいないという感じでした。もうスノーボードの在庫のことは頭から消えていましたね。これが起業したきっかけです。当時28歳くらいでした。
大久保:その後GMOグループにジョインされましたが、その経緯を教えていただけますか。
青山:当時レンタルサーバでは、クレイフィッシュという会社が日本とアメリカのナスダックに同時上場して、話題を集めていたんです。今はない会社ですが、当時の僕らにとって大きな存在でした。
どの国でも業界の3番手ぐらいまでが大きくシェアを奪い、それ以下になるとなかなか伸びません。圧倒的に差がつくことを海外で見ていたので、日本もいずれそうなると思いました。当時クレイフィッシュが圧倒的に大きくなっていたことに危機感を持って、どこかと組む必要があると考えたんです。
いろいろな会社と話し合った結果、考え方や戦略が一致したGMOの前身であるインターキューと提携しました。これによってGMOグループの一員となりました。
大久保:その後株式上場されましたが、上場後はどのような変化がありましたか?
青山:上場でキャッシュを得られたことが大きかったです。実は上場する数年前、電子認証事業に参入しました。最初はアメリカのものを仕入れて売るという販売代理店の立場でしたが、上場後は自社で電子認証局を保有する立場になりました。これは上場によって資金を得られたからこそ、できたことなんです。
大久保:レンタルサーバだけではなく、電子認証ビジネスも追加していったわけですね。
青山:僕自身、子どもの頃から親に「会社には複数の柱が必要」とよく言われていました。実家は田舎で旅館を本業とし、別の事業も行っていましたので。そういう意味では、複数のビジネスを手掛けるというのは、自然に意識していると思います。
世の中は変化していくので、同じ事業がいつまで続くかわからないですよね。ですから1つがダメになっても、他のものでカバーできるようにしなければいけない。「そこで働く人たちの生活もかかっているんだから」ということは、特に母からよく言われていました。
電子契約の先にある電子署名こそ、大きなマーケットがある
大久保:現在は、電子契約も手掛けているとお聞きしました。詳しく教えていただけますか?
青山:電子契約は契約書を全てデジタルでやりとりするもので、これ自体は以前からありました。日本でも2004年くらいからあったと思います。ただ日本では電子契約はなかなか広がりませんでした。
それでも2015年に弊社は電子契約サービスをスタートさせました。とはいえ、まだまだ日本で普及するには時間がかかるなと感じていたのも事実です。日本は紙と印鑑の文化が根付きすぎていますから。それに電子契約の場合、契約する双方が対応している必要がありますし。
ただ最近はコロナ禍によってリモートワークが普及したことで一気に風向きが変わり、ここ数年はニーズが急増しています。
大久保:あらためて電子契約のメリットについて伺えますか?
青山:まずわかりやすいのは、印紙がいらないことです。あとは、やはり効率的ですよね。例えば紙の場合、製本して郵送で送るという手間がかかります。こうなると総務部は大変ですよね。電子契約ではそういう手間と時間は一切かかりません。
大久保:契約書をデジタル化することで、他のサービスにつながる可能性もありそうですね。今はリーガルテックという分野も進んでいます。
青山:おっしゃる通りです。電子契約というマーケットは一部にすぎません。僕らはその先にある電子署名に大きなマーケットがあると考えています。証明書や改ざんされては困るものには、全て署名が必要ですから。
電子署名は契約書だけではなく、請求書などにも使われますし、意外なところで言えば大学の卒業証明書にも使われます。日本ではまだ少ないですが、海外の大学では実際に弊社の電子署名を使っていただいています。
大久保:今後はどのようなビジネスを目指していますか?
青山:電子署名のマーケットは大きいので、今はここに注力しています。電子署名で重要なのは、署名を多量に発行するスピードなんです。
契約書の場合、それほど発行スピードは求められません。一方で請求書となると企業によっては何十万ユーザー、何百万ユーザーに対して短時間で発行する必要があります。ですから、いかに電子署名の発行スピードを上げていけるかがポイントになります。弊社も、こうした大量発行システムに投資を行っています。
新しい組織形態を導入したのは、会社として成長を続けるため
大久保:御社は「ホラクラシー」という新しい組織形態を取り入れているとお聞きしました。どんなきっかけで導入したのでしょうか?
青山:数年前、将来うちの会社はどうなっていくべきかを考えたことがありました。その時に、このままの成長では足りないなと感じたんです。会社として成長するには、社員ひとりひとりが新しい自分を出す、新しい価値を生み出すことがすごく大事です。そのためにはやはりチャレンジが欠かせません。
一方で、社員になぜチャレンジしないのかを聞いたら、失敗が怖いという話が出てきまして。これではいけないなと思いました。社内でディスカッションを重ねる中で、それを実現するためにはホラクラシーが1番近いのではと考えて導入しました。もちろんホラクラシーをそのまま導入するわけではなく、カスタマイズしたところもたくさんあります。
これまでの組織構造は、管理職が権限(権力)を持っているので、どうしても上司を見て仕事をしてしまいます。例えばチャレンジしたいけれど、失敗したら評価に影響して給料が下がることが怖い、というのは上司を見ているからですよね。本来は上司ではなく、目的を見ていくべきです。全て目的をベースに考えるというのが、ホラクラシーの基本的な考え方です。
ホラクラシーは従業員にとって自由と言われますが、実際は逆でかなりルールが多いですね。まずはルールを守ることが前提で、それ以外は個人の裁量でやっていいよというイメージです。
大久保:従業員は自分で考え行動しなければならないので、高度なものが求められるわけですね。
青山:おっしゃる通りです。例えばミーティングで自分の意見を言う時も、自分の中でしっかり考えて発言する必要があります。従来の組織では、意見を言っても上司に反対されればそれで終わりですよね。でもホラクラシーでは、他の人から反対されなければ、もうその意見が採用されます。つまり自分の意志と責任をもって発言をして、行動することになるわけです。
大久保:従来の管理職だと、つい「黙って自分の言うことを聞け」という発想になってしまいやすいですね。
青山:僕自身、会議で「こうやろう」と言いたくなる時も確かにありますね。ただ一人一人に責任を与えないと、やはり成長していかないと思います。
僕が一生ここにいるわけではありません。ですから、全社員にオーナーシップを持ってもらうことを目指しています。全員が自分事として捉えることができたら、ものすごく成長につながると思っています。
大久保:実際にホラクラシーを取り入れた効果は見えていますか?
青山:正解だったかを判断するには、やはり業績にどう影響したかを見るべきだと思っています。ただこれを知るにはかなり時間がかかりますので、これから検証していきたいと考えています。
ただ、転職口コミサイトでの評価はすごく上がりました。ホラクラシーに取り組み始めたのは5年前くらいなのですが、それ以前は正直、弊社はすごく評価が低かったんです。通信業界で登録されている約1,300社の中でも、かなり下の方でした。
ところがホラクラシーを取り入れてからは評価が上がって、最新のデータでは順位が一桁台になりました。
大久保:お話を伺っていると、上場したり新しい組織形態を取り入れたりと、会社を大きくする選択を常にされていたように感じます。
青山:弊社のミッションにも入っていますが、特定の会社のためにビジネスをするのではなく、1社でも多くのお客様に対してサービスを提供したいと考えています。だからこそ、大きな規模でやりたいという想いはありますね。
僕自身、社長という立場に憧れていたわけではありません。とにかく世界中のお客様にサービスを届けたいという想いでやってきました。
組織やカルチャーは、本当に目指す姿になるための一部分だと思っています。ですから今後もいろいろなことに取り組んでいきたいですね。例えば社員の平均給与を上げるというのも、経営目標として掲げています。より収益を上げて、効率化して、成長して、報酬も上げる。そういう会社にしていきたいと思っています。
経営者に大切なのは、あらゆる立場で物事を考えられるバランス感覚
大久保:最後に起業家に向けてメッセージをお願いできますか?
青山:昔だったら寝ないで頑張れって言っていたかもしれませんが、僕が起業した頃と今では時代が全く違います。ただ経営者にとって、24時間は全て自分の時間です。僕の場合、起業した時にそれまで好きだった遊びは全てやめました。会社のことを最優先に考えて、時間をそこに全部使っていました。そこであらゆる視点で考える経験があったからこそ、バランス感覚が身に付いたと思っています。
バランス感覚があれば、例えば労働時間についても、法律の立場、働く人の立場、経営者の立場というように、いろいろな立場でものを考えられる。これがやはり重要だと思います。例えば誰かに提案をする時、自分の立場だけではなくて相手の立場や第三者の立場など、いろいろな立場で考えるようにしています。
「これを売りたい」ということばかり考えてしまうと、間違った方向に行きやすい。僕らの時代はそういう会社が実際にありましたし、その結果、無くなっていく会社もありました。今は企業も社会的な役割が重視されていますので、そういう意味でも経営者にバランス感覚がより求められていると思います。
大久保の感想
創業手帳は、起業の成功率を上げる経営ガイドブックとして、毎月アップデートをし、今知っておいてほしい情報を起業家・経営者の方々にお届けしています。無料でお取り寄せ可能です。
(取材協力:
GMOグローバルサイン・HD株式会社 代表取締役社長 青山満)
(編集: 創業手帳編集部)
元々SSLサーバ証明書(サイトが本物であることを証明するマーク)を手掛けていたので、これから需要が拡大していく電子契約・電子証明に同社が行くのは、事業の延長線上で自然な流れと言えます。
GMOグローバルサインHDは今や連結で社員数1000人規模の会社になりましたが、最初お会いしたのは15年前、まだレンタルサーバーがメインだった時代でした。
その後、セキュリティ、電子契約・署名と広げたアカウントに付加価値の高い時代の流れに合った商品を重ねていくスタイル。さらに同社だけでなく、GMOグループ全体(他にもサーバーやドメイン、決済、ECなど様々なその領域のナンバーワンになっている事業がある)のシナジーを生かした広げ方ができるのも強みだと思います。
しかし、会社の規模が大きくなり扱う商品が増え、組織の複雑性が増すと、機動力や社員のモチベーションがどうしても下がる傾向があります。
そんな状況で青山社長はホラクラシーという分権型のマネジメントを選択しました。今後、組織や商品が増えていき、組織の規模がステップアップしていくと社長が率先して会社の形態を進化・脱皮させていく必要があると思います。
今、日本中の中小企業で問題になっている後継者不足・承継問題も進化できない組織が多いことの現れでしょう。社長はある一定規模になったら一歩引いて部下や組織に答えを出させて組織をステップアップさせる、そんな姿勢を青山社長は教えてくれました。