金融データ活用推進協会 岡田 拓郎|データ活用で日本の金融機関の可能性を高める
スタートアップ投資に金融機関も積極的な姿勢を見せている今がチャンス。生成AI活用のポイントとは?
さまざまな業界でAI活用の動きが広まってきている中で、金融機関もそれは例外ではありません。しかし「AIを業務に取り入れようと思っても、何から始めたら良いかわからない」という方もいるかもしれません。あるいは、「もっとAIを有効に活用してビジネスの付加価値を高めたい」という思いをお持ちの方もいるでしょう。
今回は、自身も三菱UFJ信託銀行などの金融機関でお勤めの経験をお持ちで一般社団法人金融データ活用推進協会代表理事・デジタル庁勤務の岡田拓郎氏に、「金融×AI」の可能性について伺いました。
一般社団法人 金融データ活用推進協会 代表理事
東北大学工学部卒業。七十七銀行、全国銀行協会、三菱UFJ信託銀行で一貫して金融デジタル分野に従事。
一般社団法人 金融データ活用推進協会の代表理事、NPO法人 金融IT協会の理事を併任。デジタル庁では民間専門人材として金融業界のデータ活用に関する施策に従事、現職。編著に「金融AI成功パターン」。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
一般社団法人金融データ活用推進協会とは
大久保:一般社団法人金融データ活用推進協会とは、どのような組織なのでしょうか。
岡田:簡潔に言えば、金融機関同士のつながりを作るための組織です。銀行や保険会社、証券会社、IT企業、コンサルティングファーム、官庁、大学など、さまざまな方々にご協力いただいています。定期的にミートアップを開催して、それぞれの知見を共有し合っています。最近では生成AIを勉強するためのワーキンググループも開催しました。
大久保:なぜその活動を始められたのですか。
岡田:私のキャリアは地方銀行から始まったのですが、そこで東日本大震災を経験しました。私の同期にも不幸にも亡くなった方もいました。そんな経験を経て、個社のためというよりも、より地域のために、日本のために何かできることがないか、という気持ちが大きくなっていきました。
その後私は、全国銀行協会や政治家秘書、三菱UFJ信託銀行、デジタル庁などさまざまな職を経験する中で、「業界の横のつながりをより強化することで、より金融業界を生産的にできるのではないか」という思いが強くなっていきました。
みなさんが最初に金融機関に入るときは「世の中のために」「日本のために」「地域のために」という気持ちがあったのにも関わらず、日々の業務に追われていく中で、それを忘れてしまう構造があると思いました。
その構造を変えて、金融業界の横のつながりを作ることで、解決できる問題もあるのではないか。金融業界が1%でも良くなれば、世の中は5%くらいは良くなるのではないか。そんな思いから、一般社団法人金融データ活用推進協会を立ち上げました。
大久保:岡田さんはITの分野から金融業界を良くしたい、ということなんですね。
岡田:そうですね。私自身、ITのバックグラウンドを持っているので、こういったアプローチになりました。例えば、東日本大震災のときに、紙幣・小切手などの紙が流れたことによって多くの企業が倒産してしまいました。そうした倒産の中には、書類をデータ化していれば防げていたものもあったはずです。他にも、データ化することによって、企業を強くできることはたくさんあります。
大久保:会員はどのように集められたのでしょうか。メガバンクや大手保険会社、証券会社などを含め、錚々たる金融機関が参加されていますよね。
岡田:こちらが「金融業界を本当に良くしたい」という思いで話すと、共感してくれて参加してくれることが多いです。
AI×金融の可能性。生成AIをどう金融機関で活かすか
大久保:AI×金融という分野でスタートアップにチャンスがたくさん眠っていると思うのですが、いかがでしょうか。
岡田:まだ大手金融機関の多くはAI、特にChatGPTに代表される生成AIなどの最新技術を使いこなせていないので、チャンスはあると思います。
「どういう使い方をすれば良いのか知りたい」という大手金融機関も多く、そこでスタートアップは連携できるチャンスがあるのではないでしょうか。
大久保:岡田さんがみたところ、生成AIは金融機関でどのように活用できそうですか。
岡田:例えば法人営業であれば、提案書の作成や情報収集などに活用できますよね。業務効率化できた分、本当の意味でお客さんの課題に向き合う時間をたっぷり取ることができるようになります。他にも活用できることはたくさんあります。金融機関の方はぜひ生成AIを武器にしてほしいです。ただ現状では、まだ生成AIに積極的な金融機関と、消極的な金融機関と二極化しています。
大久保:金融機関が生成AIを使いこなすためのポイントは何でしょうか。
岡田:データ活用の基礎が重要です。今まで積極的にデータ活用してこなかった組織がいきなり生成AIに手を出しても、結果は出にくいです。
成功事例を積み重ねること、人材育成、組織づくり、この3つの観点から腰を据えてデータ活用に取り組んでいなければ、難しいです。
大久保:生成AIを使いこなすために求められる人材像はどのような人ですか。
岡田:ビジネスを理解している人が重要です。AIなどの技術の基礎や限界を分かった上で、それをビジネスでどう使うか、というアイデアを持っているかどうか、です。私は「データビジネス企画力」と読んでいますが、この力を持っている人材の重要性が増していきます。
データ活用で金融機関の可能性はさらに引き出される
大久保:金融機関でAIを導入するにも、データ活用の基礎が重要ということですが、データ活用ができていない金融機関は多いのでしょうか。
岡田:まだデータ活用に本格的に取り組めている金融機関は多くはありません。足で稼ぐ文化が残っているので、データ化できてない情報の方が多いです。
例えば、スタートアップや中小企業の困りごとなどは財務情報に載っていないものも多いですが、それこそが重要な悩みだったりしますよね。でもまだデータ化できていないんです。
そのため、金融機関のデータ活用はまだまだ伸び代があると考えています。
金融機関が持っている人的ネットワークの価値はものすごく、これらを生かせば金融業界の可能性をまだまだ引き出せます。
大久保:そこで岡田さんのやっている金融データ活用推進協会ができることは大きそうですね。
岡田:はい。そのように考えています。金融機関のデータ活用の成功事例をミートアップなどで共有して、横展開していくことに貢献したいです。
最近は金融機関のスタートアップ投資も以前より活発になってきましたが、そこでもデータ活用が進むことのメリットは大きいです。
リスクをとる融資の判断をするときに、財務情報だけではなくて、企業の成長力や社長の性格、経営スタイルなども含めてそれらをデータから判断できるようになれば、これまで融資できなかったような企業にも融資ができるようになり、日本経済はより活性化されるはずです。
また、スタートアップ側も、信用が高い企業の場合は、より低利率かつ簡単に融資が受けられるようになるでしょうね。新規事業の創出を応援することは、金融機関の重要な役割ですから、今後に期待したいです。
大久保:スタートアップの人が金融機関と何か取り組みをしたい、というときにどうすれば良いでしょうか。
岡田:まずは金融データ活用推進協会への入会をお考えいただくのも一つの案です。
最近ではデジタル部門だけでなく、金融機関の事業部門もスタートアップとの取り組みに積極的になってきているので、デジタル部門がダメなら他のリテール事業部などに当たる、などというのも良いかもしれません。
スタートアップは金融ジャンルで起業する好機
大久保:岡田さんの今後についてお聞かせください。
岡田:金融データ活用推進協会の方では、まだ会員が金融機関の人たちばかりなので、これからはシードレベルのスタートアップの方々などもより巻き込んでいければなと思います。
また、23年に『金融AI成功パターン』(日経BP)という著書も出版しましたが、今後も発信活動は続けていきます。
最終的には、業界横断的なデータ標準を作る、というのが協会の大きな目標です。
個人のミッションとしては、これまでと変わらず、金融とデータ活用という領域で世の中を良くすることに貢献していきます。
大久保:最後に、起業家と金融機関の方々にそれぞれメッセージをお願いします。
岡田:金融機関もどんどん「チャレンジしよう」という機運が高まってきているので、シード期のスタートアップでも、金融機関と何かやりたいという方がいらっしゃいましたら、ぜひ協会までご連絡ください。
また、金融機関の方々には、ぜひ引き続きご協力いただければと思います。
大久保の感想
創業手帳冊子版は毎月アップデートしており、起業家や経営者の方に今知っておいてほしい最新の情報をお届けしています。無料でお取り寄せ可能となっています。
(取材協力:
一般社団法人 金融データ活用推進協会 代表理事 岡田 拓郎 )
(編集: 創業手帳編集部)
岡田さんは銀行の世界から飛び出して、デジタル庁・団体・スタートアップの三刀流の究極の複業を展開しています。面白いのが全て相互にシナジーになっているということです。
金融は起業やビジネスにとってはなくてはならない存在だが、あまりにもアナログな部分が大きい。一方でお金と莫大なネットワークをもっており、デジタルやAIが最も効きやすく本来相性が良いのも金融です。
そんな金融業界で、大きくて古い組織を結びつける役割を担っているのが岡田さんです。
欧州ではインダストリー4.0といって、メーカーの業界標準化が進んでいる。標準化するから同じ苦労をしなくて済むし、それであるがゆえに結びつくことも可能となります。
バラバラに動きがちな日本の金融界も、同じように金融データの標準化、金融版インダストリー4.0が実現したら日本はかなり変わると思います。岡田さんの今後に注目ですね。