コインチェックテクノロジーズ 天羽 健介│現場から見たNFTの未来 ~第2回 – NFTを普及させるための取り組み

創業手帳
※このインタビュー内容は2022年04月に行われた取材時点のものです。

制度が整っていない状況下における動き方

進化が速いテクノロジーの世界では、法律は常に後手に回ります。そして、法的な要素がはっきりしないと企業が安心してビジネスができないという側面があります。とりわけブロックチェーン分野では、暗号資産を介在する場合が多く、この傾向が顕著になっています。このような傾向は、NFTも例外ではありません。

今回は、日本の暗号資産業界におけるリーディング企業であるコインチェックの子会社、コインチェックテクノロジーズ 代表取締役の天羽健介氏からの取材と著書『NFTの教科書』をもとに、全3回にわたりNFTを活用する未来がどのようになっていくのかを探っていきます。

第2回は、制度が整っていない状況下において、実際にコインチェックテクノロジーズがNFTを普及させるためにどのように取り組んでいるのかについて注目していきます。

天羽 健介(あもう けんすけ)
コインチェック株式会社 執行役員
コインチェックテクノロジーズ株式会社 代表取締役
日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)NFT部会長
大学卒業後、商社を経て2007年株式会社リクルート入社。複数の新規事業開発を経験後、2018年コインチェック株式会社入社。主に新規事業開発や暗号資産の新規取扱、業界団体などとの渉外を担当する部門を統括し暗号資産の取扱数国内No.1を牽引。2020年より執行役員として日本の暗号資産交換業者初のNFTマーケットプレイスや日本初のIEOなどの新規事業を創出。2021年日本最大級のNFTマーケットプレイス「miime」を運営するコインチェックテクノロジーズ株式会社の代表取締役に就任。日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)NFT部会長。著書に『NFTの教科書』(朝日新聞出版)。

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追いついていないNFT関連の法律

天羽氏によると、日本におけるNFTに関する法律の整備は「白黒がはっきりしていないグレーな状態である」と言い切ります。その1つが所有の概念になります。
一般的に、自分がNFTを持っていればNFTのコンテンツを所有していることになると思われがちです。
実質は確かにその通りではあるものの、法律上の解釈は異なっています。

天羽氏曰く例えばNFTにも関わりがある、民法上の所有権の概念は、現状では物理的に存在する「有体物」のみが対象とされています。
そのため、物理的に存在しない「無体物」であるNFTは、実質的に自分がNFTコンテンツを所有していたとしても、法律的にはNFTコンテンツを所有していないことになってしまいます。
また、NFTをある人から別の人に送信しても、法律上は別の人にNFTコンテンツの所有権は移転しないことになってしまいます。

一方で、金融庁は2019年9月に発表した暗号資産関係の事務ガイドラインの改正案に寄せられたパブリックコメントの回答では、「NFTは暗号資産に当たらない」との見解を示しており、現状では「NFTはモノ」という扱いになっています。

しかし、同時に「NFTの暗号資産該当性については実態に即して個別具体的に判断されるべき」ともしています。例えば、NFTで唯一性のあるものはモノである一方、同じコンテンツのNFTが複数発行されて取引できるようになっていると、暗号資産にあたる可能性があります。

このように、まだまだ未整備な状況下ですが、海外では飛躍的に市場が広がっており、さらにTwitter創業者のジャック・ドーシーのツイートやアート作品の高額売買などをきっかけに2021年3月頃より日本でもNFTが話題になり、日本企業も興味を持つ企業も増加していました。

さらに、NFTのビジネスはIPコンテンツと親和性が高く、日本に大きなチャンスがあり、自社でサービスを展開するだけでなく、日本でも参入企業を増やし市場を垂直立ち上げしたいと考えたと天羽氏は語ります。
そこで、コインチェックが加盟している日本暗号資産ビジネス協会では、NFTが何に分類されるのか、またどのような関係省庁や法律に該当するのかを明確化し、NFTビジネスへの参入を増やすことを目的としたガイドラインを公表しました。

また、日本ブロックチェーン協会はNFT分科会を設置し、Japan ContentsBlockchainInitiativeではコンテンツを対象とするNFTについての考え方を策定しています。

しかし、ガイドラインがある程度整ったとしても、解釈により一概に判断できない場合があります。例えば、メタバースの土地NFTを所有し、メタバース内の土地を貸出して賃貸収入を得る場合、土地NFTが金融商品に抵触するという解釈があります。
一方で、土地NFTがメタバース空間へのアクセス権であることから、アクセス権を貸すという視点で見ると、金融商品に抵触しないという解釈もあります。実際にビジネスを展開していく際には、このような業界に強い弁護士の方に相談しながら進めるのがベターと言えるでしょう。

コインチェックはどのようにNFTに取り組んでいるのか?

様々な障壁がありながらも、コインチェックでは初心者のユーザーでもNFTの取引しやすいサービスを提供しています。2022年3月現在、コインチェックはCoincheck NFT(β版)と、コインチェックの子会社であるコインチェックテクノロジーが提供するmiime(ミーム)、この2つのNFTマーケットプレイスを提供しています。

天羽氏は、2つのマーケットプレイスを用意している背景として、NFTを売買するためには暗号資産が必要である点を挙げています。海外で主流になっている方式でNFTを購入する場合、日本の取引所の口座開設をしてそこに日本円を振り込んで、それをイーサリアム(ETH)に替える作業が必要になります。

さらに、別のウォレットを作成してそのウォレットにETHを送り、そのウォレットをマーケットプレイスに接続して、NFTを買うことになります。
このように、NFTを買うには多くのステップを踏む必要があります。

さらに、ウォレットを使うと資産を管理する難しさに直面することになります。
例えば、ETHの送金先を誤ったり、秘密鍵と言われる英数字の羅列を忘れてしまうとそのままETHを失って取り戻せなくなることがあります。このようなことは、暗号資産の扱いに慣れた上級者でさえ経験することがあり、初心者にとってはましてや高いハードルになっています。

そのため、Coincheck NFT(β版)ではコインチェックに口座開設をして、暗号資産を買えば、同じサービス内でNFTを購入することができるようになっています。これは日本居住者向けのサービスになりますが、より多くの人に簡単にNFTを取引して欲しいという考えのもと作られています。

また、より魅力的なマーケットプレイスにするために、コインチェックは世界で有名なNFTを取り扱っています。
特に、世界的に有名なメタバースゲーム「The Sandbox」でコインチェックが保有する土地を販売した際には、わずか3秒で完売したほどの人気ぶりだったといいます。現在のCoincheck NFT(β版)では、引き続き世界的に人気の高いコンテンツを取り扱っていく方針であるとしています。

一方で、miimeは日本を含むグローバルユーザー向けになっています。日本は、世界で戦える大量のIPコンテンツを持っているため、海外の人が日本のNFTコンテンツを買えるようにしようとしています。

今回は、制度が整っていない状況下において、実際にコインチェックテクノロジーズがNFTを普及させるためにどのように取り組んでいるのかについて注目していきました。次回は、実際にNFTを保有や売買する上で、どのような視点で見ていけばよいかを、現場にいる天羽氏ならではの目線で取り上げていきます。

第3回に続く

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(取材協力: コインチェックテクノロジーズ株式会社 代表取締役 天羽 健介
(編集: 創業手帳編集部)



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