クラウドワークス 吉田浩一郎|働き方が劇的に変わる今、M&Aで新たな時代を一緒に作る仲間を増やしたい

創業手帳
※このインタビュー内容は2024年06月に行われた取材時点のものです。

フリーランス事業から人材市場の流動化を促す存在へ。価値観が変化するこの時代だからこそ面白い


日本のクラウドソーシングサービスの代名詞とも言える株式会社クラウドワークス。同社では、2023年に新たな中期経営目標「YOSHIDA300」を発表、売上高300億という目標を掲げ大きな注目を浴びています。

こうした中、同社が積極的に進めているのがM&Aです。ここ数年、幅広い分野の企業がグループにジョインしています。

同社の創業者であり代表取締役社長兼CEOを務める吉田浩一郎さんは「世界で最もたくさんの人に報酬を届ける会社になる、というのが我々のビジョン。この実現に向けて、ミッション『個のためのインフラになる』に共感する仲間を増やしたい」と語ります。今回は吉田さんにクラウドワークスのM&A戦略や今後の展望について、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。

吉田 浩一郎(よしだ こういちろう)
株式会社クラウドワークス代表取締役社長 兼 CEO
東京学芸大学卒業。パイオニアなどを経て、株式会社ドリコム執行役員として東証マザーズ上場を経験。その後独立し、アジアを中心に海外へ事業展開。日本と海外を行き来する中でインターネットを活用した時間と場所にこだわらない働き方に着目し、2011年株式会社クラウドワークスを創業。クラウドソーシングサービスを立ち上げ、日本最大級のプラットフォームに成長させる。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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過去にはM&Aで失敗した経験も。反省をもとに5つの指標を定義

(クラウドワークス社2024年9月期第2四半期決算説明資料より)

大久保:現在は新規事業とM&A、いわば社内と社外の両面から事業を作っているということでしょうか。

吉田:そうですね。上場前はプラットフォーム一本足打法で立ち上がった弊社ですが、上場後は社内で新規事業を立ち上げる文化を作りました。ただどうしても社内だけでは足りませんでした。

資本効率を考えると、既存事業と新規事業とM&Aの3つを同じように扱えることが上場会社として必要だなと感じました。ここ4年ぐらいは既存事業と新規事業に加えて、M&Aが第三の柱になってきています。

弊社は上場後しばらく赤字でしたが、2020年9月期に利益化を果たしました。その後売り上げ100億円、営業利益10億円を達成しました。このノウハウをパッケージにしてM&Aでグループ入りした会社さんに提供し、シナジーを出したいと考えています。

大久保:PMI(Post Merger Integration:M&A成立後の統合プロセス)が大変だったと思いますが、いかがですか?

吉田:おっしゃる通りです。実はM&Aで過去に大きな失敗をしているんですよ。

2017年に「電縁」という売り上げ規模約20億円の大きな会社を買収しました。この会社は常駐型の金融機関システムを作る会社で、当時はまだこうした業務ではフリーランスの活用余地がほぼなく、クラウドワークスとのシナジーが出せませんでした。結局この会社はその後ソフトバンクテクノロジーさんへ売却しました。

この時の反省をもとに、我々の強みを生かしたM&Aを実現するための5つの指標を定義化しました。

1つ目は、プラットフォームとして持つ約100万社の企業と600万人以上のワーカーのデータを活用できるかどうか。我々はプラットフォームで年間60万人のワーカーが自然に登録していますし、クライアントも年間8万社登録しています。これらをグループ入りした会社へ提供すると、コスト構造が大きく変わって利益が出ることもありますね。

2つ目はエンジニアリングと営業です。エンジニアと営業を両立させる時に、どちらかが足りないケースですね。営業はできるけどプラットフォームができないとか、プラットフォームがあるけど営業はできないとか。こういう場合は我々の価値が出せます。

3つ目は生産性向上です。我々はあらゆるものを「生産性向上=課題発見+プロセスチェンジ」という形で公式化して、ノウハウを蓄積しています。このフレームワークが活用できるかどうかです。

4つ目は我々が「CWセールスモデル」と呼んでいる、クラウドワークスの営業モデルです。これを活用できる余地があるかどうかです。

5つ目はアカウントセールスというモデルで、こちらはコンサルですね。通常エンジニア不足で単純に人材を紹介すると、1人しか契約できません。でもクライアントの経営課題から入れば、5人や10人も契約できる結果になります。

この5つのアセットのどれかが役に立つという合意ができて初めてM&Aが実現し、グループにジョインしていただく形にしています。

大久保:最近はデューデリジェンス(買収監査)を行うケースも増えていますが、やはり最初に何をするか決めておくことが重要というわけですね。

吉田:そうですね。我々は「5つのモデルの中でどれが役に立ちますか」という対話を、デューデリジェンスの過程でやっています。例えばM&Aの対象会社さんが持つクライアントとうちのクライアントが、どれぐらい重複しているかも重要です。

実際、かなり重複していることもあれば、全く重複しないケースもあります。全く重複しない場合はすごく可能性があるとも言えますが、一方でビジネスの性質が違ってシナジーが出ない可能性もあります。そういう時は、まずテストマーケティングをしてみましょうという形で進めています。

M&Aで重視するのは対話。グループ社長の個性を知ることが、双方にとってモチベーションになる


大久保:起業家の中には、御社に出資してもらいたいという方がいるかもしれません。一概には言えないと思いますが、吉田さんにとっての「M&Aをしたい会社」についてお聞かせいただけますか?

吉田:弊社のミッションは「個のためのインフラになる」ですので、個人の意志を起点にインターネットで人がつながり、新たなインフラを作りたいと考えています。ですから、やはり個人の意志が明確な方と組みたいですね。

例えば成長の限界を感じている場合、今の事業についてもっと学びたいのか、それとも一旦今の事業をやめたいのか、そういった意志をお聞きします。もっと学びたいならば我々はノウハウを提供しますし、別のビジネスに関心があればそういう体制を整えます。

ですから、やりたいこと・やりたくないことを率直にお話いただける方が、我々としては組みやすいと思います。そうではなく「うちはこういう条件だから」と一方的なスタンスだったり、反対に「何でも言うことを聞きます」みたいなスタンスだったりすると、対話にならないので難しいかなと感じます。

大久保:対話の過程で価値が生まれるということですね。

吉田:おっしゃる通りです。我々は事業会社ですので、ファンドさんとは違います。会社の売却額も大切ですが、お金だけではないところに、私たちは価値があると思っています。

大久保: M&Aにおいてそこまで相手との対話を重視するというのは、なかなか珍しいのではないでしょうか?

吉田:そうですね。私自身、自分のやり方を通すタイプではないんです。常に「自分は間違っているんじゃないか」「他の人の方がうまくいくこともあるんじゃないか」ということを考えています。

M&Aでグループ入りされた会社さんに対しても、私よりその人の方が得意なこと、詳しいことがあるだろうと思って接しています。「我々が成果を出しているから従え」みたいな発想は一切ありません。

本来人間は、独自性が高くて自由なものだと思うんです。その人たちをインターネットでエンパワーメントする(力を与える)ことが私の理想です。ですから対話をしてグループの社長それぞれの個性を知ることが私にとってモチベーションになりますし、その人の人生に貢献する一番の手段だと思っています。

大久保:お話を伺っていると、一般的な創業者のスタイルとは大きく異なるように感じます。

吉田:創業者っぽくないかもしれないですね。正直ここまでやってこられたのは、たまたまだと思っているんですよ。私の場合、中学と高校は進学校に所属していましたが、その6年間は下から数えた方が早い成績でした。ですから、学校というコミュニティからつまはじきにされた感覚がありましたね。

そんな中で漫画を書いてコミケ(コミックマーケット)に出してみたら、初めてながら30分で完売したんです。場所を変えるだけで認められることがあるということを、10代で強烈に体験しました。ですから、今いる場所で認められない人に対して、やはり強い共感があります。

常に成長の限界を感じて、失敗を繰り返してきたことが今につながる

大久保:成長の限界というお話がありましたが、吉田さんがこれまでに感じた成長の限界について伺えますか?

吉田:物心ついた時から、成長の限界しかないという感じです。実際、クラウドワークスの前に起業したビジネスでは、大きな壁にぶつかった経験もあります。

1回目の起業では、男性用スカート専門の比較サイトを立ち上げました。当時「ビジネスモデルは掛け算をするとオンリーワンになる」と言われていたので、比較サイト×メンズスカートなら超オンリーワンだなと思ったんです。それ以外のことは、よくわかってなかったわけですよ。

実際オンリーワンでしたから、女性誌やテレビ局から「スカート男子の時代」とか言って、取材が来たこともありました。そのビジネスは月間で30万円くらい売り上げましたが、それが天井でした。

このビジネスを1年半やって学んだことは、事業を始めるのは簡単だけど撤退は難しいということです。月に30万円の売り上げが立つものの、粗利が20%とすると6万円ですので、人も雇えません。とはいえ一応売れているので、これから伸びるんじゃないかと思うとやめられない。そこでサンクコスト(回収費用を惜しんで事業をやめられないこと)いう考え方を学びましたね。

あとはやはり市場が小さすぎました。ですから、できるだけ大きな市場を取らないといけないということを、このビジネスモデルから学べたわけです。

この経験があるから、できるだけ広い人材市場に対してビジネスモデルを取っていくというクラウドワークスにつながっています。

大久保:一周してみてわかったわけですね。

吉田:そうです。エス・エム・エスの創業者である諸藤周平さんによると、そういうモデルはエフェクチュエーションと言うそうです。経営モデルにはコーゼーションとエフェクチュエーションという2つのモデルがあるそうなんです。

コーゼーションは逆算型で、未来が決まっていてそこから逆算すると今やるべきことがわかる。一方エフェクチュエーションは今ある資産を基に最大限できることをやって、それによって学んで次へ行く。

私はメンズスカートの事業でビジネスを学び、それが今のクラウドワークスの事業選択にも確信を持ってつながりました。そういった経験が他にもいくつかあって、その失敗を元にクラウドワークスを始めたら3年後に上場しました。

エフェクチュエーション型で対話をして一緒に考え、失敗したらそこから学ぶ。成長の限界を感じながらも、この繰り返しでこれまでやってきました。

劇的に働き方が変わっている今にワクワクしている


大久保:今日本では働き方が大きく変わってきていると思いますが、吉田さんはこの状況をどう捉えていますか?

吉田:実は最も興味のあることが、オムロンの「SINIC(サイニック)理論」なんです。これは1970年に科学と技術と社会がどうつながって、シーズとニーズがどう作用し合って世界が変わっていくのかについて書かれたものです。50年以上前に書かれたものなのに、まさに今のことなんですよ。

この理論では、現在は工業社会の次の「最適化社会」にあたります。工業社会というのは、新しい技術に人間が合わせていくような時代のことです。この時代は工場の自動化が進むとか、インターネット技術で情報をたくさん得られるとか、技術が新しいことに意味がありました。

でも工業社会は終わり、最適化社会を経て自律社会になり、その後自然社会になると書いてあります。これがすごく自分の肌感的にしっくりきているんです。

例えば最近はYouTuberに続き、VTuberが流行っていますよね。VTuberはもはや人ではなくて、擬人化されたCGです。他にもコールセンターとかユーザーサポートはAIが対応するようになって、むしろその方が顧客満足度は高いという話もあります。

つまり、これからは技術か人間かは関係なくなっていくわけです。こうなると仕事そのものが大きく変わっていきます。

例えば先日、あるスーパーの店員さんが年収1,000万を超えたというニュースがありました。一方で大企業にいる30~50代の賃金は下がっているというニュースもあったんです。こうなると「大学を出たらホワイトカラーの仕事につく」という発想自体が変わりますよね。このように1つの方向に向かっていた価値観が、劇的に変わっています。

こういうタイミングでクラウドワークスをやっていることが、すごく面白いと感じています。新たな働き方に、私はワクワクしているんですよ。

大久保: M&Aのお話もありましたが、御社の今後の展望についてあらためて教えていただけますか?

吉田:現在「YOSHIDA300」という中期経営目標を掲げています。これはマッチングビジネス、SaaS、M&Aという3つの柱で売上高300億、EBITDA(※)25億円を目指すというものです。

※EBITDAとは「Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization」の略で、固定資産の償却費を差し引く前の利益のこと。

これまでフリーランス事業を10年続けてきましたが、副業をカバーすることで正社員のデータが増えました。さらにコロナでリモートワークが進んだことによって派遣とフリーランスが併用になって、その垣根も曖昧になりました。

今はこれらを活用して、コンサルティングの領域に踏み出し始めています。これまではフリーランス事業だけだった弊社が、今は人材市場の流動化を促す存在になってきたわけです。

人材市場全体の給与総額は200兆円を超えると言われていて、200兆円の1%がオンラインで流動化されるだけでも2兆円になります。我々のビジョンは「世界で最もたくさんの人に報酬を届ける会社になる」というものですが、これを実現できるのではないかと考えています。

大久保:ありがとうございました。最後に起業家へのアドバイスをお願いできますか?

吉田:今の時代、やりたいかどうかが全てだと思うんですよ。やりたい気持ちが弱ければ出資は受けず、まず自己資金でやってみるのがいいと思います。これなら失敗しても取り返しがつきます。一方でやりたい気持ちが強ければ、出資を受けてもいいと思います。

今はいろいろな手段がありますから、やりたい気持ちが弱くても強くても、まずやってみる。これが大事だと思いますね。

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(取材協力: 株式会社クラウドワークス 代表取締役社長 兼 CEO 吉田浩一郎
(編集: 創業手帳編集部)



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