2023年版「中小企業白書」からわかる中小企業の現状!企業成長に必要な要素とは

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2023年版「中小企業白書」によれば中小企業はまだ厳しい状況。価格転換や投資拡大などが重視される


2023年4月末に、中小企業庁から2023年版の中小企業白書が公表されました。
総論では、新型コロナウイルス感染症や物価の高騰などの要因から中小企業は厳しい状況がまだ続く見通しとされています。

激変する経済環境を乗り切るためには、価格転嫁や国内投資の拡大、賃料・所得の向上などから好循環を生み出すことが大切です。
今回は2023年版中小企業白書をもとに、中小企業の現状や企業成長に求められる要素をご紹介します。

2023年版「中小企業白書」からわかる中小企業の業況・業績


中小企業白書から中小企業の1年間の業況や業績の動向を把握できます。2022年はどのような動向になったのかを詳しく解説します。

業況は新型コロナ感染症拡大前の水準に

中小企業白書によれば、中小企業の業況は新型コロナウイルス感染症が拡大する以前の水準に戻りつつあります。
2020年に感染症が流行したことで多くの企業で休業となり、経済活動が停滞しました。
その影響により企業の景況感がわかる業況判断DIは、リーマンショックを大きく超えるほどに急低下した時期もありました。

しかし、2022年の第2四半期に業況判断DIが大幅に上昇し、感染症が拡大する以前の水準に回復しています。
その後、2期連続で低下しているものの、中期的にみれば業況は回復傾向にあるようです。

外食や宿泊業など一部業種の売上高は大幅減

2022年の中小企業の業績は、第4四半期まで増加傾向にあります。ただし、売上高の動向に関しては、業種によって差がみられました。

生活関連サービスや娯楽業、飲食サービス、宿泊業の売上高の動向は大幅減となっています。
これらの業種は厳しい現状が続く見通しであるものの、工夫を凝らして売上高を回復させている企業がありました。
そのため、現状にマッチした事業展開ができれば、業績の回復は見込めます。

反対に、売上高が上昇した業種は、建築業や情報通信業、運輸・郵便業、小売業です。これらの事業は、感染症拡大前の2019年より高い売上高を達成しています。
一部の業種は回復に至っていないものの、このデータから多くの業種の売上高が回復している現状にあることがわかります。

経常利益は横ばい推移からの減少傾向

新型コロナウイルス感染症の影響が減ったことで、中小企業の経常利益も緩やかに回復していきました。そして、現在は感染症拡大前までの水準に戻っています。

しかし、2022年第1四半期以降の経常利益の動向は、大企業が大幅増であるのに対して、中小企業は横ばいの推移になりました。
2022年の第4四半期には減少傾向に遷移しています。

倒産件数は前年度よりも増加

2022年の倒産件数は6,428件でした。これは前年度の6,030件を超える件数となっています。
倒産件数が増えている要因には、やはり新型コロナウイルスの影響が挙げられます。

負債1,000万円以上のコロナ破綻の件数は、5,337件(2023年2月末時点)です。特にコロナ破綻が集中している業種には、飲食業と建設業が挙げられます。

2022年9月以降は、毎月200件以上の企業や事業者が破綻していることもわかりました。
さらに、2022年2月のコロナ破綻件数は249件となっており、前年度2月以降最多となる件数を記録しています。

休廃業・解散件数は減少傾向にある

2022年の倒産件数は増加となりましたが、休廃業と解散件数の動向は減少傾向となっています。
帝国データバンクの動向調査では、休廃業・解散件数は前年度よりも2.3%減少し、53,426件でした。

ただし、東京商工リサーチが行った動向調査では49,625件となっており、前年度よりも11.8%増加する結果となっています。
このように調査会社によって結果に違いがある点に注意が必要です。

2023年版「中小企業白書」からわかる中小企業の資金繰り


続いては、中小企業白書から2022年の中小企業の資金繰り動向をご紹介します。資金繰りの動向は、景況調査から判断されています。

2022年第2四半期には、中小企業の資金繰りも感染症拡大前の水準まで回復しました。
2020年度の売上げの減少とキャッシュフローの悪化により第2四半期には大幅の下落となりましたが、第3四半期には回復に転じて、現在の推移となっています。

水準は回復したものの資金繰りDIの推移は低下傾向にあり、資金繰りに悩む中小企業は依然として多いと考えられます。

2023年版「中小企業白書」からわかる中小企業の雇用状況


中小企業白書では、中小企業の雇用状況をチェックすることも可能です。現状だけではなく、雇用に関する課題や求められる取組みなどもわかります。
それでは、中小企業の雇用状況の現状についてご紹介します。

日本の雇用情勢は上昇傾向

2023年版の中小企業白書によれば、雇用情勢は上昇傾向にあります。完全失業率に関しては2009年中頃から低下傾向で推移していたものの、2020年には上昇傾向となりました。
しかし、その後は低下傾向に転じています。

有効求人倍率においても2020年には大幅な低下となったものの、現在は上昇傾向に転じました。
このデータから失業者の数は減っており、また、企業側も積極的に人材を確保する動きをとっていることが考えられます。

さらに、雇用者数も増加傾向にあります。ただし、正規雇用と非正規雇用では動きに少し違いがみられました。
正規雇用での雇用者数は2015年以降から毎年増加していますが、2022年の増加幅は前年と比べて大幅に縮小しています。

一方、非正規雇用の雇用者数は、2020年と2021年は大幅減となっています。しかし、2022年は大きく増加しました。

中小企業の雇用に関する課題

中小企業では、雇用に関する課題が浮き彫りになっています。中小企業白書で指摘されている課題は以下の2点です。

1.人材不足

2013年第4四半期に全業種で従業員数過不足DIが低下してから、人材不足感が増しました。
2020年第2四半期には、製造業と卸売業を中心に従業員数過不足DIが上昇に遷移したものの、現状はどの業種でも従業員数過不足DIが低下しています。

日本国籍と外国籍の両方の人材が不足していると感じている企業も少なくありません。
2022年度の日本国籍の新卒・中途採用において、人材が不足していると回答した中小企業の割合は新卒採用で32.1%、中途採用で46.9%と高い数値になっています。
また、IT・デジタル人材でも不足と答えた企業の割合が20.7%となっており、適正と答えた企業よりも大幅に上回っていました。

外国籍の人材確保状況では、専門的・技術的分野に強い人材に不足感を感じる企業がみられます。
その一方、外国人技能実習生や資格外活動の許可を受ける労働者に対しては、不足感はそれほどないようです。

2.時間外労働の上限規制への対応

中小企業では、2020年4月から時間外労働の上限が規制されました。規制の導入により、時間外労働の上限は「原則45時間・年360時間」となっています。

この規制に対して、一部の業種・業務では猶予期間が設けられています。
しかし、災害時の復旧・復興事業以外は、2024年4月から上限規制が適用されるため、各企業は対応しなければなりません。

人手不足に悩む中小企業の場合、ひとりあたりの仕事量が増え、どうしても時間外労働が増えてしまうことがあります。
上限規制に対応できるかどうか、不安に感じる企業は多いと考えられます。

人材不足・確保に対する中小企業の取り組み

中小企業が人手不足に対応していくためには、正規の職員やアルバイト・パートなど有期雇用の職員など人材採用を強化することが求められます。
人材を確保するためには様々な工夫が必要です。

具体的に給与水準の引上げ、長時間労働の解消、育児や介護と仕事を両立させる制度の整備、福利厚生の拡充など、職場環境の改善や魅力を向上させる取組みを行う企業が多くあります。
さらに、シニア人材や外国人材、兼業・副業人材などを積極的に雇用している企業も少なくありません。

また、業務プロセスの見直しや従業員の能力開発、IT設備の導入などにより、業務効率化と生産性の向上を講じることも、人手不足の解消につながります。

2023年版「中小企業白書」からわかる中小企業の物価高騰の影響


2023年版中小企業白書によれば、2022年度の国内企業物価指数は119.8、消費者物価指数は110.4となっています。
前年度比べて両指数は上昇しており、企業同士が取引きをする財の物価や消費者が購入するモノ・商品の物価は高騰しています
特に企業物価は消費者物価を大きく上回っている現状です。

物価の高騰は、中小企業の業績に影響を与えます。原材料や資源の価格高騰により、過去2年と比べて売上高は低下傾向にあります。
さらに、経常利益は過去3年を通して、低下の影響が強まっている現状です。その一方で、今後は物価が落ち着く可能性もあるという見方もあります。

2023年2月に、鉱物性燃料の価格が下落に転じました。この価格下落は国内企業物価を低下方向に押し下げる要因になっています。
このまま鉱物性燃料の価格が安定すれば、貿易赤字は縮小される可能性が高くなるでしょう。

また、2021年以降は円安方向に進んでいます。為替変動により輸入物価は減少傾向にあります。これらの傾向から、企業物価と消費者物価は少しずつ衰退するかもしれません。

しかし、物価の高騰は続いている現状です。企業側は値上げ以外にも、経費削減や業務効率化などの取組みを通じて、物価高騰に対応していく必要があります。

2023年版「中小企業白書」からわかる企業成長のためのポイント


2023年版中小企業白書の第2部では、企業成長に着目して分析が行われています。ここからは、中小企業の成長につなげるためのポイントをご紹介します。

成長するための価値創出の実現

日本経済の発展には、世界市場のニーズを汲んでいくことが求められています。
特に中小企業は、小回りの利いた経営やイノベーションにつながる取組みがしやすいことが特徴です。
ひとつでも多くの中小企業が価値創造に取り組み、成長することで、日本経済の発展につながります

中小企業白書では、企業成長につながる価値創出に向けた戦略と実施の核となる経営者にフォーカスを当て、以下のポイントをまとめています。

競合他社との差別化を図る戦略

企業の価値を創出するためには、競合他社との差別化を図る戦略が求められます。
例えば、競合の少ない市場で事業を展開する企業は、競合の多い市場で事業を行う企業とよりも業績が高い傾向にあります。
付加価値額増加率の中央値は、競合の多い市場が38.1%に対して、少ない市場では43.7%でした。

差別化を図る戦略を構想・実行していくためには、市場の特徴にマッチした顧客やニーズなどの設定が重要です。
また、価値創出は継続や試行錯誤を繰り返していく必要があります。

経営者は経営力の向上・成長を支える重役

企業の経営力の向上や成長に、経営者の存在が必要不可欠です。
例えば、戦略の構想や実行力に不安があれば、ノウハウや経験のある外部プレーヤーに一定期間だけ社長になってもらうことで戦略を実行できます。
経営者を自社従業員に戻した後も、継続的に支援してもらえれば、企業成長を支えてもらえます。

また、経営者同士で積極的に交流するのも良い方法です。外部の経営者と交流したことで、成長意欲が高まったと感じている経営者の割合は8割以上となっています。

リソースや体制を整えることが重要

戦略を実現するためには、人材や資金が必要です。必要な人材を得るためには、人材戦略の策定が欠かせません。
人材戦略は人手不足の解消につながる上に、経営戦略と連動させることで売上高の増加につながります。
特に求める人材を明確にしている企業は、業績が向上傾向にあります。

資金を確保するため手段として注目されているのは、エクイティ・ファイナンスの活用です。
エクイティ・ファイナンスとは、新株の発行により資金調達を行う方法です。返済期限のない資金調達であるため、資源体制の強化につながります。

また、外部から資金を調達するためには、ガバナンスの構築や強化に取り組むことも重要です。
管理体制が整っており健全な経営ができている企業であれば、スムーズな資金調達を実現できます。

事業承継やM&Aは企業改革のチャンス

事業承継やM&Aは、世代交代により企業変革が可能です。そのため、価値創出の戦略を実施する手段として有効とされています。

近年は、中小企業でもM&Aの件数が増加してきました。実際、M&Aを実施したことで、新たな事業分野に進出し、成長した企業事例は多くあります。

M&Aの障害となっている要素は、売り手先の従業員から理解を得られるかという点です。
この障害に対しては、早期から経営統合(PMI)に取り組むことがポイントになります。

特にM&Aの基本合意締結前からPMIを検討している企業は、期待以上の評価を実感していました。
早いうちから譲受後の体制を検討しておくことで、売り手側も買い手側も安心してM&Aを進められます。

中小企業・小規模事業者に共通する基盤

続いては、中小企業白書をもとに中小企業と小規模事業者に共通する基盤についてご紹介します。

取引適正化に向けた施策

中小企業や小規模事業者は、賃上げ資源の確保やエネルギー価格・原材料価格の上昇に対応しなければなりません。そこで求められるのは、取引きの適正化です。

適切な価格転嫁できる環境にするためには、価格交渉推進月間やフォローアップ調査などの実施が有効です。
価格交渉推進月間は、毎月9月と3月に設定されています。この期間中、広報や講演会、業界団体による価格転嫁の要請などが実施されます。

月間の終了時に主要取引先との価格交渉・価格転換の状況を調査するのが、フォローアップ調査です。
価格転嫁率や業界ごとの順位などが明らかになり、状況が悪い事業者に対しては経済産業大臣名で指導や助言が行われます。

積極的にデジタル化に取り組む企業は多い

感染症拡大をきっかけにテレワークやリモート会議・商談などが普及し、中小企業でもDX化が進展しています。また、経営者自体がデジタル化を推進する動きも増えてきました。

デジタル化の問題には、IT人材が不足している点が挙げられます。
しかし、デジタル化に必ずしも高度な技術が求められるわけではなく、IT人材が不十分な企業でも戦略的にデジタル化を進めている企業も存在します。

現在は様々なツールがあるので、使いやすいツールを導入できれば、高度なIT人材がいなくてもデジタル化を進めることが可能です。
また、DXに関する支援サービスを活用するのもひとつの手段といえます。

伴走支援の活用による自己改革も重要

課題設定からの対話を重視する課題設定型の伴走支援は、外部環境の激しい変化に適用しなければならない中小企業や小規模事業者にとって重要な存在です。
それにともない、中小企業や小規模事業者の多くは、支援機関の支援を通じて根本的な課題設定ができることに期待を寄せています

このような背景から各地の支援機関では伴走支援と取組みが広まりました。企業は伴走支援を利用し、自己改革を進めていく必要があります。

まとめ

新型コロナウイルス感染症の拡大以降、日本経済は著しく低下しました。
しかし、その影響も減ったことで業況・業績などは回復傾向にあるものの、まだまだ油断できない現状であることもわかりました。
これから起業する方や創業したばかりの経営者は、中小企業白書から最新の動向を確認し、企業戦略に反映していきましょう。

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(編集:創業手帳編集部)

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