中小企業白書2022から分かる中小企業の今とは

創業手帳

業況・業績は緩やかに回復。資金繰り支援策は一定の成果。資源価格高騰やSDGsへの取組が課題。


中小企業の最近の動向や、経営を取り巻く状況はどのようなものでしょうか。それらをまとめた「中小企業白書2022」の中で注目すべき最新情報について、グラフを引用しながらピックアップしたいと思います。特に、新型コロナウイルス感染症の流行、原油や原材料の価格高騰、経営者の高齢化、世界的なSDGsに対する関心の高まりが、中小企業にどのような影響を与えたかを考えてみましょう。

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業況・業績

まず中小企業について、業況判断DIの推移を見てみましょう。なお、このDIとはdiffusion indexes (ディフュージョン・インデックス) の略で、変化の方向性を把握するために用いる統計手法です。DIの算出方法は指標によって様々ですが、このグラフの場合は「好転」と回答した割合から「悪化」と回答した割合を引いた数値です。この記事の別のグラフでも、何度か出てきます。

業況


第1-1-11図のグラフによると、中小企業の業況は、2008年9月のアメリカ投資銀行「リーマンブラザーズ」の経営破綻が引き起こしたリーマンショック後に大きく落ち込みました。その後、2011年3月の東日本大震災、2014年4月の消費税率引上げなどの後に落ち込んだこともありましたが、全体的に緩やかに回復してきました。しかし、2020年には感染症流行により経済社会活動が停滞したため、業況判断DIは急速に低下しました。特に2020年第2四半期は、リーマンショック時を超える大幅な低下となっています。翌第3四半期には中小企業の業況が上昇し、その後は上下を繰り返しています。

中小企業を規模ごとに分けたグラフに注目すると、どのようになっているでしょうか。中規模企業は感染症流行前を上回る水準まで回復していますが、小規模事業者は回復しきれていない状況にあることが分かります。

なお、「中小企業白書2022」では触れられていませんが、2019年第4四半期にも業況が落ち込んでいます。これは、2019年10月の消費税率引上げの影響と考えるのが妥当でしょう。

業績

次に、中小企業の業績について見てみましょう。

第1-1-15図は売上高を示すグラフです。中小企業の売上高は、リーマンショック後と東日本大震災以降に大きく落ち込みました。2013年頃から横ばいで推移した後、2016年半ばから増加傾向です。2019年以降は減少傾向となり、感染症の影響によりさらに減少しましたが、2021年第1四半期を底に中小企業の売上げは緩やかに増加しています。

一方、第1-1-18図は経常利益を示すグラフです。中小企業の経常利益も、売上高と同様の傾向を示しています。リーマンショック後に大きく落ち込んだ後は緩やかに回復してきました。2020年に入ると感染症の影響を受けて減少しましたが、2020年第3四半期を底に中小企業の経常利益は再び緩やかに増加しています。

倒産状況

中小企業の倒産状況について、長期的なデータを見てみましょう。

第1-1-29図のグラフは倒産件数を示しています。2009年以降は徐々に減少しており、2021年の倒産件数は57年ぶりの低水準となりました。感染症流行で全国的に厳しい中でも倒産件数が増えなかったのは、資金繰り支援策の効果があったためと考えられています。

資金繰り支援策の例としては、日本政策金融公庫のコロナ特別貸付やセーフティネット貸付、商工組合中央金庫等の危機対応融資、中小企業活性化協議会の収益力改善支援を挙げることができます。これらの政策により、感染症の影響により売上高や経常利益が落ち込んだ期間中も、倒産件数が抑えられたと思われます。

休廃業・解散の状況

休廃業・解散件数については2つの会社がデータを収集しています。


第1-1-31図の上段の(株)東京商工リサーチの調査によると、2021年の休廃業・解散件数は44,377件で前年比10.7%減でした。一方、下段の(株)帝国データバンクの調査によると、2021年の件数は54,709件で前年比2.5%減でした。

このように、倒産件数と同様に休廃業・解散件数も、前年の件数を下回る結果となりました。これは、資金繰り支援策等の各種支援策の効果が発揮されたためと考えられます。一方、資金繰りの回復のスピードは弱まっており、業種によっては借入金の返済余力が低下していると見受けられるものもあります。今後、倒産件数や休廃業・解散件数は増えていく可能性があるため、注視する必要があります。

資金繰り

中小企業の資金繰りについては、前述の通り多くの支援策が出されました。その効果は、景況調査にも表れています。

第1-1-26図のグラフは、資金繰りDI、つまり資金繰りについて「好転」と回答した割合から「悪化」と回答した割合を引いた数値です。中小企業の資金繰りDIは、リーマンショック後に大きく落ち込みました。その後は、東日本大震災や2014年4月の消費税率引上げに伴い一時的に落ち込みましたが、全体的に見ると改善していました。2020年第2四半期に大きく落ち込んだ原因は、感染症流行による売上げの急激な減少と、それに伴うキャッシュフローの悪化です。支援策が一定の効果を上げたことにより、翌第3四半期には大きく回復しています。ただし、2021年以降は回復のスピードが弱まっており、特に小規模事業者の資金繰りDIは感染症流行前の水準に戻っていないことから、今後も継続的な支援が必要とされていることが分かります。

雇用

感染症の流行は、雇用環境にどのような影響を及ぼしたでしょうか。中小企業の従業員規模別に、各業種における雇用者数の動向を確認しましょう。

雇用者数


第1-1-50図が示す従業員規模が「1~29人」の区分では、「宿泊業、飲食サービス業」や「生活関連サービス業、娯楽業」という感染症で大きな影響を受けた業種について、前年同月比で雇用者数が減少している月が多いことがわかります。一方、「情報通信業」の雇用者数は、感染症が広がっている中でも前年同月を上回る月が多くなっています。

一方で、第1-1-51図が示す従業員規模が「30~99人」の区分でも、「宿泊業、飲食サービス業」と「生活関連サービス業、娯楽業」は減少しているのですが、その減少幅が「1~29人」の規模と比較して大きくなっています。このことから、「30~99人」の従業員規模において、雇用者数の減少が加速していることが分かります。

賃金

賃金に直接影響を及ぼすのは最低賃金の引上げです。この期間中にも継続して最低賃金は引き上げられていきました。2021年10月の最低賃金は全国加重平均で930円となり、前年2020年の902円から28円の引上げとなりました。これは約3.1%の上昇になります。最低賃金引上げは、従業員にとっては所得の増加につながりますが、会社にとっては人件費の増加につながります。日本商工会議所と東京商工会議所が2022年4月5日に公表した「最低賃金引上げの影響および中小企業の賃上げに関する調査」によれば、「人件費が増大したが対応策がとれない(とれなかった)」と回答する会社が42.2%ありました。製品やサービスへの価格転嫁も進んでいません。従業員の所得は増加しているものの、会社の経営が圧迫されるままになっており、抜本的な対応策が求められる会社が多いようです。

最低賃金引上げが中小企業に与える影響について詳しく知りたい方はこちらも
最低賃金引上げが中小企業に与える影響について

原油・原材料価格の高騰

日本は国内だけではなく、国境を越えてサプライチェーンが構築されています。そのため、世界中で生じるいろいろな状況がこのサプライチェーンを通じて日本の経済に影響を及ぼします。最近では感染症の流行だけでなく、東ヨーロッパの緊迫化などの影響のため原油・原材料価格が高騰しています。中小企業はどのような影響を受けているでしょうか。

参考として、原油先物取引の価格を見てみましょう。

第1-1-52図のグラフによれば、2020年4月ごろ、原油価格は感染症の流行に伴う経済活動の停滞により大幅に低下しました。その後は順調に上昇傾向が続き元の水準を回復しました。しかし2022年2月下旬ごろから、東ヨーロッパの情勢の変化を受け、原油価格は急騰しています。さらに、天然ガス、金属類、非鉄金属、木材といった資材等全般も同様の傾向を示し、原油・原材料の取引価格が上昇しています。

中小企業が今後も事業を継続していくためには、原材料が価格高騰する中でも利益を確保するため、製品やサービスの価格転嫁を進めていく必要があります。この点で、中小企業が直面する状況を示すグラフがあります。

中小企業を対象にした第1-1-63図のグラフによれば、石油製品の価格高騰によるコストの上昇分を自社の製品サービスの価格に全く転嫁できていないとする割合が、全体の68.6%を占めています。

中小企業にとって、生産性を向上させつつ、製品やサービスの価格を徐々に上げていくことの必要性が明らかになっています。価格転嫁は、消費者の立場から考えれば望ましいものとは言えませんが、世界情勢に柔軟に対応していくためには必要な措置となるでしょう。

事業承継

日本では、全人口の高齢化が進展することに伴い、企業経営者の高齢化も進んでいます。そのため、中小企業の事業承継は社会的な課題となっています。経済の持続的な成長のためには、中小企業の経営資源を次世代に承継していくことが重要です。

休廃業・解散した企業において、高齢化がどのように進んでいるかを示すデータがあります。

第1-1-80図は、各年別に休廃業・解散した企業の代表者の年齢層をグラフにしたものです。年を追うごとに代表者年齢が高齢化しており、2021年は全体の62.7%が70代以上となっています。

政府は、円滑な事業承継と事業引継ぎを後押しするため、「事業承継・引継ぎ補助金」を設けています。この補助金の特徴として、「M&A支援機関登録制度」があります。事業承継においては、情報収集や判断の助言等のサポートを受けることが重要ですが、この補助金ではアドバイスを提供する専門家があらかじめ「M&A支援機関登録制度」に登録することになっているため、有益なアドバイスを受けられることが担保される仕組みになっていると言えるでしょう。後継者不足に悩む中小企業が、貴重な経営資源を絶やすことなく次世代に引き継ぐことができるような支援策となっています。

SDGsなどの新たなる取り組み

世界的に、SDGsへの関心が高まっています。中小企業におけるSDGsの取り組み状況はどのようなものでしょうか。ここでは、SDGsと同じ方向性を持つ脱炭素化への取り組みについての調査を取り上げます。

脱炭素化に向けて具体的に何か取り組みを行っているかどうか、調査が行われました。

第2-2-139図によれば、何らかの取り組みを実施している企業の割合は17.4%であり、脱炭素化に向けた取り組みが十分に進んでいないことが明らかになりました。「今後実施する予定はない」と回答した企業が過半数となっています。

では、中小企業は脱炭素化に全く関心がないのでしょうか。興味深いのは、脱炭素化について「今後実施する予定はない」と回答した企業を対象にした、どのような条件であれば脱炭素化に取り組むか、というアンケートです。

第2-2-145図のグラフによれば、最も多かった回答は「顧客からの評価向上」でした。自社の企業価値を高める効果を期待していることがわかります。また、「コストカット」という回答も多かったことから、光熱費や燃料費を節約できるなら取り組みたいと考えている企業が多いこともわかります。

今後、中小企業においても脱炭素化に向けた取組への対応が求められます。その第一歩として、自社の温室効果ガス排出量の把握を行うことから始めることができるでしょう。

まとめ

中小企業を取り巻く経営環境は、感染症の流行、原油や原材料価格の高騰、人材不足といった制約がある中で引き続き厳しい状況にあります。業況や業績は、感染症の流行直後に多くの業種で急激に悪化しました。そこから緩やかな回復傾向にあるものの、感染症流行前の水準まで回復していない企業も多くあります。一方で、政府が行う資金繰り支援策の効果などにより、倒産件数は少なく抑えられています。

雇用については、特に感染症の影響を受けた宿泊業、飲食サービス業、生活関連サービス業、娯楽業において雇用者数が回復していません。

賃金については、最低賃金の引上げにより人件費が徐々に増加する中、サービスや製品の価格にスムーズに転嫁することができておらず、有効な対策を打てていない状況が続いています。

事業承継については、高齢化に伴い後継者が見つからないまま休業、廃業、解散に至る中小企業が多くあります。これを防ぐため、M&Aに使える補助金などの制度を設けることにより、企業が必要とする有用なアドバイスが届くよう、政策が立てられています。

SDGsに対する取組は中小企業において十分に進んでいない現状が明らかになりました。世界的に脱炭素化がスタンダードになりつつあります。企業価値を高めるためにもコストカットのためにも、多くの企業が対策を立てる必要があるでしょう。

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(編集:創業手帳編集部)

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