バイウィル 下村雄一郎|カーボンクレジットを起点に、地域との連携で脱炭素社会の実現を目指す
2050年カーボンニュートラル達成に向けて、二酸化炭素排出量削減のための道を切り開きたい
地球温暖化の原因とされる二酸化炭素(CO2)といった温室効果ガスの削減は世界共通の課題です。日本は、排出量を実質的にゼロとする「カーボンニュートラル」を2050年までに達成すると宣言しています。
その目標に向けて活発化しているのが「カーボンクレジット」の取引です。株式会社バイウィルは、自治体や企業によるカーボンクレジットの創出や売買をサポートしている会社です。
今回は代表取締役社長の下村さんに、会社を設立するまでの経緯やカーボンクレジットの今後の展望などを創業手帳代表の大久保がお聞きしました。
株式会社バイウィル 代表取締役社長
公認会計士試験合格後、財務・会計コンサルティングの株式会社エスネットワークスに入社。関西支社を立ち上げたのち、執行役員を務める。エスネットワークス在籍時には約3年間、三井住友銀行 法人戦略部に出向し、顧客向けに事業戦略・ファイナンス戦略・ビジネス構築の支援を行う。
退職後に起業し、 株式会社未来工房を創業。「ユメあるヒトを勝手に応援する会社」として、エンジェル投資と経営支援を実施。
その後、Waara株式会社の代表取締役を経て、2023年4月に株式会社バイウィルの代表取締役社長に就任。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
目的達成のために「お金に強い」社長になるべく、公認会計士に挑み、ベンチャーでチャレンジし続け経験を積む
大久保:まず下村さんの経歴からお聞きしたいと思います。元々起業したいという思いがあったのですか?
下村:岐阜の高校から明治大学の法学部に進学したのですが、大学生活を楽しむことに夢中で、自分が何になりたいのかを考えもしませんでした。そのため、3年生になって就職活動が始まると、ノートにやりたいことを書き出したり、本屋や図書館に行ったりしましたが、2、3カ月はずっと、人生とやりたいことについて考えていました。
そのなかで、家族に認められたいという気持ちが出てきました。姉が起業して社長をしていたので、同じ土俵で!と思い、社長になろうと決めたのが22歳くらいの時です。
ただ、社長になろうと決めても、どうやったらなれるのかわからなかった。SNSもない時代でしたので、新聞や雑誌に載っている社長さん30人ほどにお話を聞かせてほしいと手紙を書いたところ、3人の社長さんが会ってくれたんです。みなさん口をそろえて言っていたのが「お金に強くなれ」ということでした。
お金に強くなるにはどうすればよいかと考えた結果、公認会計士という資格に出会って、勉強して取得しました。とはいえ、監査という仕事自体に関心があったわけではないので、社長である方々を近くで見ることができ、自分も社長に近づけると思い、まずはベンチャー企業の会計コンサルティング会社に入社しました。
大久保:いきなり起業するのではなく、経験を積んでからというお考えだったのですね。
下村:はい。次のターニングポイントは30歳の時です。別の会社からCFOとして引き合いがあるため退職したいと当時の社長に伝えたら、「社長になりたいんじゃなかったのか」と言われ、「だったら2,000万円渡すから大阪に行って1人で事業を立ち上げてこい」と、新しい拠点を作るために大阪に行くことになりました。
縁もゆかりもない、友人もいない大阪に行ってゼロから事業を立ち上げたことは、会社には属していたものの「これが初回の創業」と自分では思っています。
大阪での経験を経て東京に戻り、三井住友銀行への出向なども終えた後、2021年に「ユメあるヒトを勝手に応援する会社」として「未来工房」を設立しました。やりたかったベンチャー出資やベンチャー支援の会社で、「夢の大きさ」を基準に応援してきました。
予期せぬ社長就任を「運命」と考え、現在の事業へと踏み出す
大久保:そこからバイウィルまではどのようなつながりがあったのでしょうか?
下村:未来工房の経営と並行して、バイウィルの原形と言えるWaara(ワーラ)という会社で社外取締役を務めていたのですが、経営体制の刷新に伴い、一旦私が社長を引き受けることになりました。
その後に、フォワードという会社と合併して、2023年4月からバイウィルになった経緯があります。
大久保:社長になる目標は実現しましたが、いざ社長になった時はどのような気持ちだったのですか?
下村:最初はどう会社を整えようかと悩んでいたのですが、Waaraでやっていた「環境」というテーマは大きな風が吹いているというのは感じていました。
ちょうどその頃、友人から「これは運命だから本気でやった方がいい。そういう運命はなかなか巡ってこない」と言われたことで、社長として本気で取り組むことを決意しました。
ですが、ビジネスモデルを考え直すなかで、Waaraだけで事業を大きくしていくのは難しいと感じ、株主が同じ兄弟会社のフォワードと合併することにしました。
大久保:起業というよりは再建や統合の方が近いイメージで、ゼロイチの起業と違ってこういうやり方もあるという例にもなりますね。再建の経験から経営で行き詰まってしまった時はどうすればよいなど、お考えはありますか?
下村:立て直した感覚はあまりないのですが、コンサルタントとして多くの会社を見てきた過去の経験から、「ビジネスをどの領域に絞るか」という考えは活きたと思っています。我々の事業ドメインをどこに持っていくか、いかに未来につなげるかを考えた結果、カーボンクレジットという領域を選びました。
また、新しいことを始める時に必要なのは、やはり情熱と揺るぎないビジョンではないかなと思っています。
今、何でもない会社から全国に連携先ができたのは、情熱×ビジョンのおかげだと思います。戦略を考えるのは技術ですが、それを広げていくためには情熱が欠かせないなと感じています。
カーボンクレジットが脱炭素に向けた取り組みのきっかけに
大久保:御社が提供しているカーボンクレジットのサービスはどのようなものなのでしょうか?
下村:脱炭素に向けた取り組みが「カーボンクレジット」として認定されるというもので、クレジットになると売買ができるようになります。主に大企業が購入し、CO2排出量削減の義務を果たすために活用されます。カーボンニュートラル達成に向けて自分たちでできる努力をしても削減しきれない部分は、カーボンクレジットを使ってオフセットできるという仕組みです。
日本で認証されるカーボンクレジットは「J-クレジット」といって、経済産業省や環境省、農林水産省が関わっています。森林の二酸化炭素吸収量や、省エネ促進などによる排出量削減分がJ-クレジットとなります。
私たちは地域金融機関などパートナーの皆さまと連携して、クレジットを創出し、できたクレジットについては購入者にお繋ぎしています。
カーボンクレジットを創り出せるのは、たとえば地方自治体や中小企業、林業や農業従事者の方々です。私たちは、地域金融機関などのパートナーに、創出元となる方々を紹介していただいています。そして、カーボンクレジットとはなんなのか、どのような手間がかかるものなのかなどのご説明をし、共感いただいた方々と創出への取り組みを始めます。
とはいえ、私たちは、手続きの手間を全て引き受けて、お金の負担も一時的にバイウィルが引き受けるという完全成果報酬型を取っています。カーボンクレジットが販売できたら、収益から一定の割合をいただく形です。
大久保:カーボンクレジットがどれくらいの価値があるのか一般の人はイメージがわきづらいかもしれませんが、目安はありますか?
下村:例えば島根県奥出雲町ですと、適切な森林管理によって8年間で約2万9,000トンのCO2吸収量が見込まれます。これを経済価値に換算すると2億9,000万円の可能性を持っています。
奥出雲町からすると、森が持つ価値が年間3,000万円から4,000万円になるのです。
大久保:工場を持つ企業などはそこからクレジットを買い、自治体は財源が増える可能性があるという流れなんですね。カーボンクレジットに関わる人たちの立ち位置はそれぞれどのような関係にあるのですか。
下村:まず国の制度として、経産省、環境省、農水省が関わっているJ-クレジット制度があり、その外側に、クレジット創出の妥当性を審査する第三者機関がある。ここまでが制度の大枠です。
次に奥出雲町のようなカーボンクレジットを作りたい方がいます。そして、自社の排出量を削減したいと、クレジットを購入される方がいます。私たちはこのような作りたい側と買いたい側の間に立って仕事をしています。
大久保:工場など二酸化炭素を排出する側にはどのような仕組みがあるのでしょうか?
下村:大手企業は二酸化炭素排出量を開示、削減することを求められています。結果として、GHG(温室効果ガス)の見える化SaaSなど排出量算出を支援する方々や、削減を支援する専門家も存在します。それぞれが、温室効果ガス削減に向き合う企業を支えるために、カーボンクレジットの分野で活動しています。
大久保:カーボンクレジットの価格は交渉によって変動するのでしょうか?
下村:カーボンクレジットの取引にはさまざまな形態があり、また、方法論によっても価格に差はあります。我々は、二酸化炭素1トンでも価値が異なると考えています。実際に、同じ森林由来のクレジットでもどこの水源地を守っているかや、どういう生物を守っているかによって価格が変わりはじめてきています。
大久保:なるほど。CO2削減のための設備については補助金が出るケースもありますが、導入し、カーボンクレジット創出に取り組むことで収益化も目指せそうですね。
下村:そうですね、CO2削減量が新しい価値に変わる世界になってきていると言えると思います。そもそもあった森などの存在価値が新しい価値として認知される、というのが、カーボンクレジットの魅力です。
思いと夢を強く持ち、正しい努力をする人に仲間が集まる
大久保:グリーン領域は世界的な流れもあり、ビジネスのチャンスもあると思いますが、起業家へのメッセージはありますか?
下村:私が自分で始めた未来工房は「夢がでっかい人」に出資するという趣旨がありました。
それは、思いと夢を強く持っている人には仲間が集まってくれると考えているからです。
どんなビジネスでも、強くて大きな思いを持つことで、応援してくれる人が増え、結果として成功しやすいのではないでしょうか。
リスクをとって創業している人たちは、何かしらの思いを持っている人が多いはずです。ですが、現実の売り上げや利益に目を奪われることもあります。
それはわかる一方で、当初の思いを持ち続け、誠意を尽くして正しく努力することで、応援団が増えると思うんです。私たちもまだまだですが、そう思ってやり続けたいです。
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(取材協力:
株式会社バイウィル 代表取締役社長 下村雄一郎)
(編集: 創業手帳編集部)