Siiibo証券 小村 和輝|利息を得ながらベンチャー企業を応援できる新しい投資「私募社債」を広めたい

創業手帳
※このインタビュー内容は2024年04月に行われた取材時点のものです。

他の調達手段や他の投資商品にはない、社債ならではの面白さとは


スタートアップエコシステムが発展しつつある現代では、様々な資金調達の選択肢が登場しています。これまでは銀行・日本政策金融公庫からの融資やVC・エンジェル投資家からの出資が主流でしたが、新しい資金調達手法として注目されているのが「社債」です。

社債とは、企業に対して一定期間資金を貸し付けると、返済までの間定期的に利息を受け取れる仕組みです。投資家の立場からは、単に資金を提供するだけでなく、資金を提供した企業の成長と変化を応援できる面白さもあります。企業の立場からは、資金を集められることに加えて、サービスの顧客や連携先となる可能性もある投資家と繋がることができます。

この社債の普及のためにSiiibo証券を創業したのが小村さんです。

今回の記事では、小村さんが社債に着目した背景や、シード期から資金調達に成功した際の工夫について、創業手帳の大久保が聞きました。

小村 和輝(こむら かずき)
Siiibo証券株式会社 代表取締役CEO
東京大学大学院工学系研究科修了後、ドイツ証券株式会社に入社。
トレーダーとして国内外の社債、CDS、仕組債等のクレジット商品全般の取り扱いを経験。
その後、ブラックロック・ジャパン株式会社にて、国内の運用会社・公的金融機関に向けたリスク分析及び投資プロセスのアドバイザリー業務に従事した後、株式会社Siiibo(現Siiibo証券株式会社)を設立、代表取締役CEO就任。キャピタルマーケッツ、スタートアップ支援の分野を中心に情報発信・提言活動に取り組む。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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大手証券会社を経てSiiibo証券を創業

大久保:これまでの経歴を教えてください。

小村:大学では工学部に進学しましたが、その頃からWebサービスの構築や企業向けのSNS活用サポートといった学生起業に近い活動をしていました。

大学院に進学してからは、金融関連のビッグデータを分析する機会が増え、金融市場や金融の仕組みに興味を持つようになりました。

このような経緯でファーストキャリアとして選んだのが証券会社でした。

大久保:証券会社ではどのようなご担当でしたか?

小村:私は主に債券を取り扱う職務を担っていましたが、債券は投資額に応じて一定額の利息を受け取れるという特徴を持つ金融商品なので、日本人の性質に合っていると感じていました。

さらに、海外では金融機関が間を取り持って大規模に金融商品を取り扱うのではなく、個人対個人や個人対企業が直接かつ分散型で資金の融通を行う動きが加速していました。

この動きを日本でも再現する方法を考えた結果、今のSiiibo証券の会社名の由来にもなっている「私募」の仕組みで社債を活用することで、透明性の高い市場を作れると思い「Siiibo証券株式会社」(当時は株式会社Siiibo)を創業したという流れです。

シード期の資金調達は「夢」と「仲間」が成功の鍵

大久保:いざ起業する際には不安や緊張はありませんでしたか?

小村:企業に勤めていて収入が安定した状態から独立・起業したので、当然不安はありました。しかし、この不安を払拭してくれた要因が大きく2つありました。

1つ目は、日本でもスタートアップエコシステムがある程度立ち上がっていたタイミングだったことです。

シード期から資金調達に成功できたり、起業初期から支えてくださるエンジェル投資家の方にも出会えました。

勤め人からシームレスにベンチャー経営に移行できたことは大変ありがたかったです。

2つ目は、現在までSiiibo証券のCTOを務めている松澤や初期からジョインしてくれた仲間と早い段階に出会えたことで、安心感を持って進められました。

大久保:早い段階でエンジェル投資家からのサポートを受けられたとのことですが、どのような経緯でしたか?

小村:たまたま人伝てに紹介していただきました。そして、最初のエンジェル投資家の方からVCや他のエンジェル投資家の方をご紹介していただき、シード期には3名の投資家の方に入っていただきました。

大久保:シード期にエンジェル投資家からサポートを受けるために工夫したことがあれば教えてください。

小村:大きく2つの工夫をしていました。

1つ目は、シード期はサービスも実績も何もない状態ですので、エンジェル投資家の方に私の夢に一緒に乗っていただけるようにお話をしました。

具体的には、自分が作るサービスが社会に与える変化や影響について、高い解像度でご説明するように工夫していました。

今からもう一度やるとすれば、簡単なサービスサイトを作って、見込み客を提示するところまでやるかもしれませんね。

2つ目は、シード期は「会社」というよりは「人」に投資をしていただくようなものですので、自分自身のことやメンバー構成、それぞれのスキル・経歴をしっかりと開示して、エンジェル投資家の方々に判断していただくように工夫しました。

規制の厳しい業種でもスムーズに許認可申請を進めるための工夫

大久保:Fintechの領域は規制や法律への対応が大変そうですが、どのような点に苦労しましたか?

小村:最初はスモールスタートとして、規制や法律の範囲外の小さなサービスから開始する予定でしたが、金融庁の方と話す中で、構想していた事業を実現するためには、そもそも「第一種金融商品取引業」の登録を受けないと始めることができないとわかりました。

当時は売上がゼロの状態でしたが、登録要件を満たすために、数億円規模の資金調達と10名近くの採用を行う必要があったのは大変でした。

大久保:金融庁とベンチャー企業は考え方や物事の進め方が大きく異なると思いますが、スムーズに進めるコツがあれば教えてください。

小村同じ金融庁の中でも、部署ごとに担当している内容が大きく異なります。

ベンチャー企業が許認可申請をスムーズに進めるためには、適切な担当者の方と話すことがとても大切です。

また、2022年から日本政府が「スタートアップ育成5か年計画」を掲げており、様々な規制が緩和され、各省庁がスタートアップへのサポートにも力を入れています。

今後、許可や登録資格を取得する必要があるベンチャー経営者の方は、スタートアップ育成5か年計画のテーマや、規制改革推進会議をはじめとする審議会やワーキンググループでの議論を読み込むことをおすすめしたいです。

Siiibo証券が提供する「私募社債」とは

大久保:私募社債やSiiibo証券のサービスについて詳しく教えてください。

小村:まず社債とは、お金を貸す投資家とお金を借りる企業をつなぐ借用証書のような役割の金融商品です。

Siiibo証券で取り扱う社債の募集では「少人数私募」という形態を取っており、社債の勧誘を受ける投資家の人数を49名以下としています。Siiibo証券のプラットフォームに従って私募社債の発行準備を行うことで、特別に意識しなくても法令を遵守しながらオンラインで投資家を集めることができ、より気軽に社債で資金を調達できるようになります。

大久保:サービスにおける料金体系についても教えていただけますか?

小村:基本的には、社債を発行する企業側から調達に成功した金額に準ずる手数料を頂いており、投資家の方は無料でご利用いただけます。

企業側に発生する手数料としては、発行した社債の金利の半分以下程度をイメージしていただければと思います。

投資家側のリターンとしては、これまで金利2〜7%台の社債を取り扱っており、直近ですと5〜7%程度の案件が多くなっております(※1)。

大久保:社債を発行したベンチャー企業が倒産した場合、投資家への保証やサポート等はありますか?

小村:Siiibo証券ではこれまでまだ投資先のベンチャー企業が倒産した実例はありませんが、万が一の場合は、債権回収の専門家を投資家の方々へご紹介する形になります。

大久保:Siiibo証券で社債を購入しているのはどのような方が多いですか?

小村:Siiibo証券をご利用いただいている方の中には、もちろん純粋な投資目的で社債を購入されている方もいらっしゃいますが、事業法人として投資される場合や、経営者の方の割合も多くなっています。

そのような方々は、新興企業を応援したいという目線もお持ちですし、資本業務提携ほど固くないにしても、社債という形で資金を入れて、自社とシナジーを生み出したいという目的の方も多いですね。

(※1)将来取扱いを行う社債の条件を保証するものではありません。

社債と他の資金調達手段との違い

大久保:VCやエンジェル投資と社債を比べた時の違いは何でしょうか?

小村株式はエクイティ調達手段、社債はデット(負債)調達手段という点で大きな違いがあります。デットは一定期間で返済をする必要がありますが、エクイティは返済の義務がありません。

また、投資家が期待するリターンに大きな違いがあり、VCやエンジェル投資の場合は年間数十%以上の成長を期待する反面、デットは年利数%から十数%に止まります。

大久保:それぞれのメリットとデメリットについても教えていただけますか?

小村:デットは返済があることがデメリットですが、比較すると低い金利と元本だけ返済すれば、それ以上に投資家から期待されることが少ないのがメリットです。

VCやエンジェル投資は返済がない代わりに、投資家が望む方向性と成長スピードでの経営が求められるというデメリットがあります。

大久保:資金調達をしたいベンチャー企業にとっては、エクイティ調達手段とデット調達手段はどのような基準で選ぶべきですか?

小村:ベンチャー企業の領域や成長フェーズによっては、無理に年間数十%の成長をすると組織が崩壊するリスクもあります。

売上よりも基盤を固めるフェーズにあるベンチャー企業は、社債などのデット調達手段を活用することで着実に会社経営を進められます。

近年は、様々な資金調達手法を組み合わせることが主流ですので、フェーズや条件に合った資金調達手法を検討していただければと思います。

投資家にもベンチャー企業にも、私募社債独自のメリット

大久保:今後、注力していきたい分野があれば教えてください。

小村:現在の市況ではミドルステージにいるベンチャー企業を支援する投資家が少なくなりつつあり、資金調達が難しくなっています。

しかし、ミドルステージのベンチャー企業は、正念場を乗り越えることでレイターステージ、そしてExitへと近づくことのできるフェーズですので、本来であればもっとサポートが必要です。

今後は社債という枠を超えたファイナンスや連携といったサポートに繋がるような施策にも力を入れていく計画があります。

大久保:Siiibo証券を投資家向けにどのような使い方がおすすめですか?

小村:Siiibo証券で取り扱ってきた社債は、他の国内債券に比べると金利が高いものが多く、分散投資先を探されている投資家の方々のポートフォリオの1つとして検討いただければと思います(※2)。

社債は単に利息が得られるだけでなく、自分が出資した資金がどんな会社のどんな成長に役立っているのかも実感できるので、単なるお金のための投資よりも応援要素を含んでいて面白いという側面もあります。

大久保:資金調達の選択肢として考えているベンチャー企業にとってのおすすめの使い方も教えてください。

小村:ベンチャー企業の資金調達となると、銀行からの融資は難しいので、エンジェル投資家やVCからの出資が中心となるイメージを持たれている方は多いと思います。

しかしそれだけではなくので、経営の柔軟性を高めるデット調達手段、中でも応援してくれる投資家から資金を集める社債もその選択肢の1つとなることを知っていただき、資金調達手段の選び方に迷われた際には、お気軽にご相談いただければと思います。

(※2)元本及び利金が保証されているものではありません。

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(取材協力: Siiibo証券株式会社 代表取締役CEO 小村 和輝
(編集: 創業手帳編集部)



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