ブレイブテクノロジー 磯本 悟|LINEミニアプリ「matoca」「yoboca」で社会の時(とき)をデザインする

創業手帳
※このインタビュー内容は2024年04月に行われた取材時点のものです。

待ち時間を有効活用できればユーザーにも店舗にもメリットが生まれる


社会のあらゆる場所に「待ち時間」が発生しています。人気のある飲食店の行列だけでなく、駅の窓口、スポーツのチケット売り場、病院や調剤薬局の窓口など、順番待ちのために時間を有効に使えていない人が多くいます。

同じ待ち時間が発生するにしても自分の順番が来るまでは、近くで他の用事を済ませられたら助かると思いませんか?

この問題の解決に取り組んでいるのがブレイブテクノロジーの磯本さんです。LINEに通知を送るアプリ「matoca(マトカ)」「yoboca(ヨボカ)」を開発し、店舗に行く前にLINEで順番待ちの人数を把握できたり、自分の順番が来たことをLINEの通知で知れたりと、順番待ちにより発生するストレスの軽減を実現しています。

今回は磯本さんがLINEミニアプリの開発に至るまでの経緯や、matoca・yobocaの導入事例について、創業手帳の大久保が聞きました。

磯本 悟(いそもと さとる)
株式会社ブレイブテクノロジー 代表取締役

1972年 大阪府出身、FAシステムの設計など、10年間に亘り工業系のエンジニアとして従事。その後、IT系の企業へ転職をし、ソフトウェアエンジニアや事業責任者を務め、Android™ アプリ開発事業の立ち上げを行う。2011年に当社を設立し代表取締役に就任。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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エンジニアとしてハードとソフトの両方に精通

大久保:起業する前はどのようなことをされていましたか?

磯本元々はハードウェアエンジニアで、クライアントの工場で行われている手作業の製造ラインを様々なセンサーやシーケンサーと呼ばれる特殊なコントローラーを使い自動化する仕事をしていました。

当時はまだインターネットがない時代でした。その後インターネットが出始めたタイミングで、今後はITの時代だと思い、この分野で独立したいと考えるようになりました。

ちょうど30歳の時にIT企業に転職をして、ガラケーのソフトウェアの開発に始まり、Androidのソフトウェアや鉄道の自動改札機の開発に従事、そして10年ほど在籍したタイミングで独立しました。

大久保:独立に踏み切ったきっかけは何かありましたか?

磯本:ガラケーの時代は、今のように個人やサードパーティーの企業がアプリを作って販売することはできず、ガラケーを製造するメーカーや限られた企業しかアプリを開発することはできませんでした。

しかし、iPhoneやAndroidが出てきたことで、サードパーティーの企業が作ったアプリをアプリストア内で自由に販売できるようになり、ここに可能性を感じました。

Android関連の仕事をいくつか経験したり、有給休暇を使って自費でアメリカに行き、Googleのイベントに参加して勉強をしたりする過程で、Android界隈である程度の人脈を構築できました。

そのころ、独立を後押ししてくれる仲間がいたこともあり、今の自分ならやっていけると思えるようになり、独立に踏み切ったという流れです。

大久保:当時のGoogleは今のように世界を席巻する前の時代ですよね?

磯本:ITの世界ではすでに王者という感じでしたが、当時のAndroidはガジェット好きにしか認知されていなくて、今のように生活の至る所にあるという感じではありませんでした。

当時はまだ電車の中で新聞を読むことが当たり前の時代だったので、当時から今後Androidが普及したらどんな未来になるか?と仲間たちと語り合っていましたね。

大久保:かなり時代の先を見ていらしたのですね。磯本さんは時代の先を見る能力が長けていると感じますが、今はどのような分野に注目していますか?

磯本:今は縦型動画が面白いですね。昔は「動画は横画面」という固定観念があったので、ガラケーでもわざわざ画面を横向きに変えられるような機種すらありました。

その点、今では縦向きで使っているスマホで、そのまま縦型動画が見られるようになっているので、この分野は今後さらに面白いことが起きそうですね。

アプリの受託開発から自社サービスへの転換期

大久保:ブレイブテクノロジーを起業されて、初期から順調に行きましたか?

磯本最初は3名で会社をスタートさせて、受託開発でアプリケーションを作る事業を行っていました。

大久保:やはり最初は受託開発で売り上げを安定させつつ、徐々に自社サービスに移行する流れが良いですよね。

磯本:最初から大きな案件を受注できていたので、独立してもやっていけると考えていましたが、タイの大地震と洪水の影響で案件がなくなってしまいました。

クライアントだったメーカーの工場がタイにあり、しばらく復旧に時間とお金がかかるということで、ほとんどの外注をストップするという判断です。

このことで起業初期に早速路頭に迷いそうになりましたが、今までのつながりから案件をいくつかご紹介いただき、首の皮一枚つながりました。

大久保:受託開発と自社サービスには大きな違いがあると思いますが、磯本さんはどのようにお考えですか?

磯本:受託開発は納期に追われて大変な部分はありますが、営業をしっかりと行い、良いものを確実に納品すれば確実にお金が入ってくるので安心感はありますね。

しかし、受注できない時には資金繰りが大変になるので、いつかは自社サービスに切り替える必要があると感じていました。

実際に自社サービスをやってみると、当初は売れるか売れないかもわからない状態で資金繰りも相当大変ですが、開発時期やアプリの内容など自社でコントロールできる部分が多いのは進めやすいですし、社員にも無理をさせなくてよくなりました。

LINEミニアプリ「matoca」「yoboca」で社会の待ち時間を軽減

大久保:店舗の順番待ちサービス「matoca」や呼び出し通知サービス「yoboca」などのLINEに通知を送るアプリの開発に踏み切った理由について教えてください。

磯本:LINEさんが、外部アプリからもLINEプッシュメッセージを送信できるAPIを公開したタイミングで、偶然その技術が使えそうな受託開発の案件があったので提案したところ、すぐに価値を実感してもらえて採用されました。この時にLINEの可能性を感じました。

この技術は、「順番待ちしている人が、呼び出しの通知をLINEで受け取れたら便利かもしれない」と考え、受託開発としての受注ではなく、もっと世の中に広めていけるのではないかと思い、自社サービス開発に踏み切りったのです。

大久保:かなり早いタイミングでLINEに通知を送るアプリを開発されたのですね。

磯本:後日LINEさんにお聞きしたところ、そのAPIを順番待ち呼び出しのプッシュメッセージとして送る使い方をしたのは弊社が一番早かったらしいです。

大久保:若いIT起業家の中には「世の中にはGoogleやYahoo!があるからもうポジションがない」と言っている人がいますが、その点はどうお考えですか?

磯本:GoogleやYahoo!の機能を使いこなせる人は使えばいいですが、社会にはGoogleやYahoo!を使いこなせない人もいます。

そのため、人々の困りごとを解決することにアンテナを張りつつ、既存のサービスを上手く掛け合わせるだけでも、まだまだIT業界にも可能性はあると思います。

また、一言にIT業界と言っても、大手企業が参入してこないニッチな領域もあります。我々はそのようなニッチ領域に特化したサービス開発をしていますし、今後も可能性を探り続けたいと考えています。

大久保:必ずしも世界一、日本一を狙う必要はないですよね。

磯本:もちろん世界一、日本一を狙いたい気持ちはありますが、そればかり狙っても上手くいきません。よりニッチなジャンルで一位を取りに行くことも有効な戦略です。

今は、弊社が本社を置く「千葉県流山市」で飲食店導入率No.1のポジションを狙っていますし、次は沖縄県でNo.1になりたいと思っています。

コメダ珈琲店やプラージュなどの大手企業にも選ばれている理由

大久保:matocaやyobocaのLINEミニアプリはどのような企業に導入されていますか?

磯本全国に約1,000店舗を出店しているコメダ珈琲店様に導入していただいていたり、理美容業界No.1のプラージュ様の全国約600店舗ある全店に導入が決まったりと、飲食業や理美容業など幅広い業界で導入が進んでいます。

大久保:matocaやyobocaのLINEミニアプリを使うことで、ユーザーにはどのようなメリットがありますか?

磯本「matoca」を使うことで、店頭に足を運ぶ前に順番待ちの状況を把握でき、LINE上で順番の列に並べます。その上で、自分の順番が来たらLINEで通知を受け取れます。

「yoboca」は、フードコートで使われる「呼び出しベル」のようなサービスで、LINEで通知を受け取れるので、呼び出しベルの電波が届かない遠い場所で待つことや、翌日以降に呼び出しすることもできるようになります。飲食業以外にも、調剤薬局やリユース業者の買取査定での呼び出しなどで使われています。

大久保:特に百貨店やショッピングモールにとっては、1つの店舗の前で顧客に止まって待たれるよりも、店内を周遊してくれた方が他の店舗への集客につながりそうですね。

磯本:まさにその通りです。店舗の回遊率が上がるというのは大きなメリットの1つです。LINEで自分の順番を確認でき、順番が近づいたら通知を受け取れるので、ユーザーのストレス軽減にもなりますし、店舗にとっても売り上げアップにつながりやすくなります。

大久保:matocaやyobocaには顧客データも蓄積されていると思いますが、ビッグデータ分析やデータ活用も行っていますか?

磯本:matocaやyobocaを使うことで、ある顧客は3ヶ月に1回の頻度で来店しているということや、店舗に来て整理券は取ったけど入店はしなかったということまでを把握できます。

これらのデータを使って、告知やキャンペーンを効果的に打てるようになるので、今後機能を実装するためにメッセージ配信機能の開発を終え、今はテストを進めている段階です。

飲食店以外にも駅、スポーツ、物流、病院などあらゆるシーンに対応

大久保:matocaやyobocaを導入している企業では、具体的にどのような使い方をしていますか?

磯本:順番待ちの解消と聞くとどうしても飲食店をイメージされるのですが、弊社では「時(とき)をデザインする」という言葉をミッションに入れていることもあり、世の中にあるあらゆる待ち時間の解消に挑戦したいと考えています。

最近の事例ですと、JR西日本様に導入していただきました。具体的には、福岡県北九州市の小倉駅のみどりの窓口に導入していただいたことで、チケット売り場の順番待ちをLINEで確認できるようになっています。その他、JR東日本様の目黒駅のみどりの窓口にも同様に導入していただいています。

大久保:他の業種の事例も教えていただけますか?

磯本Jリーグの横浜F・マリノス様は、matocaをカスタマイズして導入していただいています。

以前は、自由席のチケットを持っている一部のサポーターが、良い席を取るために前日から並ぶなど、警備の負担やサポーター同士のトラブルの原因になっていました。

この問題を解決するために、matocaで前日に抽選のエントリーを受け付け、締切後に抽選で整理券を配布する仕組みを作りました。

これにより、横浜F・マリノスの自由席チケットを持っているサポーターは、入場ゲートが開く1〜2時間前に集まり始め、お互いにLINEに届いたmatocaの整理券を見せ合いながら、列に並ぶようになったことで、警備やサポーターの負担を軽減することができました。

大久保:日本には「行列のある店舗は繁盛している」と見なす風潮がありますが、本来はお客様を待たせることはよくないことですよね。

磯本:確かにそうなのですが、店舗側は「行列がなくなるのは困る」と考えていることが多々あります。

実際に店舗様に、matocaを導入すれば「行列をなくせる」とお伝えすると、matocaの導入を懸念されることがあります。

例えば、もう次のお客様が入店できる状態なのに、お客様が待合室にいないと空席の時間ができてしまいます。

つまり、ある程度待合室にお客様がいる状態を保つことが大切になります。

この絶妙なニーズに応えるために、待ち組数が一定数になったら自動でLINEに通知をして、店舗に戻ってきてもらうという設定を可能にしています。

大久保:今後の展望を教えてください。

磯本:別会社で物流業界に特化したサービスを提供する「BRAVELOGIS(ブレイブロジス)」という会社があります。

物流業界では、荷物の積み下ろしに何時間も待つことが多く、ドライバーの待機時間、残業時間が長くなるという問題が発生しています。最近よく聞くようになった「物流業界の2024年問題」です。

この問題を解決するために、matocaの技術を応用して、物流業界の待ち時間の解決にも挑戦しています。

さらに、もう一社ある「ブレイブメディカ」という会社では、医療業界の待ち時間の解決にも乗り出しました。

今後もあらゆる業界の「時(とき)をデザイン」しながら、多種多様な業界の問題解決を行えたらと思います。

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(取材協力: 株式会社ブレイブテクノロジー 代表取締役 磯本 悟
(編集: 創業手帳編集部)



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