やさしく解説!定款の記載事項
定款の記載事項についてポイントを解説します
(2020/01/17更新)
定款は、会社運営の基本規則を定めたもので、「会社の憲法」ともいわれます。定款の作成は、会社設立の最初の山場であり、特に株式会社の場合は公的役場で認証を受ける必要があります。定款の認証が完了してはじめて、「登記」に進めるのです。
認証を受けるためには、当然ながら記載の内容が適切な定款を作成する必要があります。しかし、定款の作成には必ず記載しなければならないこと(絶対的記載事項)、記載しなくてもよいが、記載がないと有効にならないもの(相対的記載事項)、記載してもしなくてもよいもの(任意的記載事項)とあり、その内容は複雑です。作成にはベースとなる知識が必要となります。今回は、定款を作成するにあたって特に抑えておくべきポイントをピックアップして解説します。
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この記事の目次
絶対的記載事項のポイント
定款には、会社の商号や目的・本店所在地・どんな機関をおくのか(例えば取締役会はおくのか置かないのかなど)・事業年度をいつからいつまでにするのかなど、会社運営の基本規則となる情報が記載されます。
作成にあたって最初に抑えなければならないのが、「絶対的記載事項」です。記載されていないと定款自体が無効になり、会社を設立することができなくなります。絶対的記載事項は、以下の5種類です。
- 事業の目的
- 商号
- 本店の所在地
- 設立に際して出資される財産の価額またはその最低額(資本金)
- 発起人の氏名または名称及び住所
抜け漏れがないことに加えて、内容が適切でないと後の営業活動を行うのに大きなマイナスの影響が出てしまうこともあるので注意が必要です。それぞれの事項について、ポイントを見ていきましょう。
事業目的
事業目的は複数定めることが可能ですが、記載内容は精査する必要があります。3つのポイントを紹介します。
【許認可を受ける予定の事業は記載が必須!】
建設業・人材派遣業のような許認可事業の場合、定款に必ず許認可対象の事業目的を入れることが必要です。「当たり前だから」と見落とさないようにしましょう。
【実態のない事業目的を書くと思わぬトラブルの可能性が】
「将来行う予定があるが、当面は取り組む事ができない事業」まで記載することは避けましょう。定款で記載された事業内容は、公に公開される登記謄本にも反映されますが、ここに実態のない事業の記載があると、例えば金融機関の口座開設の際などに不利になる可能性が高まります。
【営利のない事業目的は記載できない】
株式会社は営利事業のための法人なので、寄付やボランティアを事業目的にすることはできません。
商号(会社の名称)
会社の名称となる商号を決めるにあたって、抑えておくべきポイントは4つあります。
【同一商号調査を必ず行う】
会社の名称である「商号」には、商業登記法上で「同じ本店所在地に同一商号の会社を登記することはできない」という制限があります。そのため、会社の名称は、法務局の「商号調査簿」、インターネットの「登記情報提供サービス」などを使い、同じ名称の会社がないか必ず調べましょう。
【有名企業と同じ会社名もNG】
有名企業と同じ会社名を使用することは、不正競争防止法違反になる可能性があります。たとえ同一商号調査の結果、重複がないことを確認できたとしても、有名企業と同じ名前を使うことは避けましょう。
【商標登録している商品名を使うのも避けたほうがいい】
他社が商標登録をしている商品名と同じ会社名を使うことも避けます。商標権侵害で訴えられてしまう可能性があるからです。商品名が商標登録されているかどうかは、特許庁の「特許電子図書館」のサイトで確認できるので、チェックしましょう。
【株式会社・合同会社の文字を名称に使うこと】
商号には、事業形態を示す「株式会社」という文字を必ず用いなければなりません。当たり前のことですが、見落とさないようにしましょう。
本店所在地
本店所在地の記載について、特に最近増えてきた登記のためのサービス「バーチャルオフィス」を使う場合は注意すべき点があります。
【バーチャルオフィスでは許認可の要件を満たさないことがある】
古物商や派遣事業などは、許認可の要件が実際に営業を営む本拠地を持つこととされており、登記上の所在地がバーチャルオフィスであるとこの要件を満たしません。
【法人口座を作ろうとするとき、金融機関の審査が厳しくなる】
バーチャルオフィスは、マネーロンダリングや特殊詐欺に利用されている実例があることから、金融機関の口座を作る際などに、審査が厳しくなる傾向にあります。事業の見通しをたてた上で使うか使わないかを精査しましょう。
資本金の記載
会社の設立資本金は法令の規定によれば1円からですので、1円会社も設立が可能です。したがって定款に資本金1円と記載することも可能ですが、記載する金額にも注意が必要です。
【あまりに少ない金額は避けたほうが無難】
その内容は登記にも反映されます。結果として、あまりに少なすぎる資本金を記載することが、のちのちビジネス上の信用を損なう恐れがあります。少なくともしばらく会社の事業を営むのに十分と思われる金額を資本金として記載しましょう。
【許認可のための資本金】
許認可事業の場合、最低これくらい資金の裏付けが必要、という業種があります。通常は資本金で資金の裏付けを証明します。第三種旅行業なら300万円・建設業や有料職業紹介事業なら500万円・一般労働者派遣業なら2000万円以上、というように決まっているのです。
これらに該当する事業を行う場合は、事前にチェックしておきましょう
【資本金が1000万円を超えると、初年度から消費税が課される】
消費税の免税は、資本金が1000万円を超えると初年度の適用がありません。免税を受けようとするなら、1000万円以下にする必要があります。資本金1000万円を超えない会社は、消費税の免税は最大で2年間(設立から6か月の売上が1000万円を超えない場合、2年目も免税が継続)受けられますので、免税も考慮に入れて資本金を決めましょう。
発起人の氏名または名称及び住所
発起人とは、会社設立時に出資してくれる人のことを指し、会社設立後は株主となって会社の運営に関わる存在です。発起人は会社設立手続きを進める上での中心的存在であり、複数の責任を追うことになるので、定款にも名前と住所を必ず記載しなくてはなりません。
ちなみに、発起人に数や制限はなく、人だけでなく会社が発起人になることもあります。
発行可能株式総数(実質必須)
発行可能株式総数は、株式会社が発行可能な株式総数のことです。こちらは絶対的記載事項ではありませんが、認証の段階で記載がなくとも、登記の前までに必ず定款に記載しなければならない項目であることから、実質必須となる記載事項と言えます。
発行株式総数は、株主の配当や議決権が不当に損なわれることを避けるために定められた、株式発行数の上限です。株主側に、「将来的にこの上限まで株式を発行する可能性がある」ということをあらかじめ知らせる意味があります。
経営サイドは、発行株式総数の上限までは、取締役会の決議のみで株式発行による資金調達を行えるというメリットがあります。次項で説明する「株式の譲渡制限」を設けるかどうかによって上限や対応が変わってきますので、注意が必要です。
相対的記載事項
相対的記載事項の中で特に重要なのが、「株式の譲渡制限」と「公告方法」です。
株式の譲渡制限
定款には、株式の譲渡制限(相対的記載事項です)を記載することができます。ここでいう譲渡制限とは、「株式を譲渡する際には、株主総会の承認を必要とする」という会社法上の制度を指します。
株主総会の承認がないと株式を譲渡できないという制限を作ることで、他人が会社経営に参入するハードルを高めることができます。つまり、経営に口出しできる株主が頻繁に変わる、という状態をさけることができるのです。
そのため、特に経営の地盤が固まっていない創業時の会社では、譲渡制限を記載することが一般的です。また譲渡制限を記載しておくと、役員の任期を10年まで伸ばすことができ、手続が少なくなる分より本業に集中しやすくなることもメリットです。
ちなみに、株式の譲渡制限がある会社は「非公開会社」、ない会社を「公開会社」と言いますが、公開・非公開によって前述した発行可能株式総数のルールも変わります。こちらも頭に入れておきたいポイントです。
公告方法
公告は会社が、株主や取引先など利害関係のある相手へ、重要な決定事項などを公に知らせることで、大きく分けて「決算公告」と「決定公告」という2つの種類があります。
詳細は以下の記事で解説しているので、参考にしてみてください。
決算公告の方法ですが、定款の絶対的記載事項と定められてはいないものの、登記の際に必要な項目なので、一般的には定款で定めることがほとんどです。
【「官報」か「電子公告か」】
創業時は、何かとコストを安く抑えることが課題となります。公告も官報・日刊新聞紙・電子公告の3種類から選ぶことができますが、最低数十万円かかる日刊新聞紙は創業時に一般的ではありません。そのため、多くの場合官報か電子公告かで選ぶことになります。
コストの安さから、「電子公告」を選ぶことを考える人も多いですが、電子公告では賃借対照表の全文を掲載する必要があります(官報公告や新聞公告は賃借対照表の要旨掲載のみでOKです)。加えて、電子公告は5年掲示しなければなりません。
創業時の経営が安定しない時期に電子公告を行うと、5年間掲示しなければならないことと、創業間もない会社なのに、勘定科目まですべて公開することが妥当とは言えないケースもあります。
官報か電子公告かは、慎重に検討しましょう。
任意的記載事項
任意的記載事項では、特にほとんどの定款に記載される「事業年度」を抑えておきましょう。
事業年度(決算期)
「事業年度=決算期をいつにするか」は任意的記載事項ではありますが、決算日を基準として納税義務があることから、基本的にはほとんどの場合定款に記載します。
どの時期を決算期として選べばよいのか、という基準には「これは絶対」ということはありませんが、次のような要素を考えて、時期を決めるとよいでしょう。
【消費税の免税期間を長くとりたいかどうか】
1月設立として、決算期は12月とすると、初年度の免税期間は12か月になります。しかし、同時期の設立で、決算期を3月にすると初年度は3か月です。決算期によって、消費税免税を受けられる期間も変わってくるので、免税を考えている人は決める基準にするとよいでしょう。
【売上・キャッシュフローがいつ多くていつ少ないか】
考え方の例として、売上の多い月は期末にしない、キャッシュが不足しやすい時期は期末にしない、といった視点も重要です。季節商売のように、売上の波の予想がある程度立っている事業の場合は、キャッシュフローを考慮した上で決算期を決めましょう。
【繁忙期を決算期にしない】
決算のための事務と、繁忙期が重なると、特に人手が足りない創業期の業務を圧迫することになります。将来的に見ても繁忙期と決算期がバッティングしないように調整すると良いでしょう。
まとめ
定款は専門家に作成を依頼する場合、自身で作成する場合とどちらも考えられますが、いずれにせよ注意すべきポイントの背景知識をある程度持った上で取り組むことが必要です。
会社の設立だけでなく、その後の事業や銀行口座開設・取引先との関係・税金などに影響が出るポイントを多く含むので、事業開始前に自社のありかたを改めて明確にする上でも、慎重に作成しましょう。
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