パーソナルCHINTAI 山下悠子|一人ひとりに寄り添った「部屋探しサービス」を提供したい

創業手帳woman

トップセールスとして活躍、どんな仕事でも1番を目指して人脈をチャンスにつなげる


部屋探しのポータルサイト「CHINTAIネット」をはじめ、ひとり暮らしの女性のための「Woman.CHINTAI」、二人暮らし・カップル向けの「ぺやさがし」、賃貸暮らしのお役立ちメディア「CHINTAI情報局」など、住まいに関するさまざまな情報を提供するメディアカンパニー、CHINTAI。

一人ひとりの価値観やライフスタイルに合わせた部屋探しの提案は、AI全盛の時代においても人の手が加わり、ユニークなサービスに発展、CHINTAIの子会社、パーソナルCHINTAIとしてひとり立ちしました。

その成長を支えてきたCHINTAI副社長でパーソナルCHINTAI代表取締役の山下悠子氏に、社内で新規事業を成功させる秘訣や営業の極意などについて、創業手帳代表の大久保が聞きました。

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山下悠子(やました ゆうこ)
株式会社パーソナルCHINTAI 代表取締役兼株式会社CHINTAI 副社長

2003年に新卒で賃貸住宅ニュース社(現CHINTAI)に入社。情報誌の紙面広告を取る営業を経験後、広報宣伝部を経て、メディアグループにてグループリーダーに就任。2017年にWEB上で顧客に対してお部屋を提案し来店に繋げるCHINTAIの子会社「パーソナルCHINTAI」を設立。パーソナルCHINTAIではCHINTAI初の女性の代表取締役に就任。2021年にはCHINTAIの副社長に就任。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

新卒1期生として入社


大久保:社長就任までの経緯についてお聞かせください。

山下:2003年に新卒1期生で賃貸住宅ニュース社(現CHINTAI)に入社しました。新聞記者志望だったのですが、面接で落ちて、なんとなく受けた会社でした。入社して3年半ほど、情報誌の誌面広告を取る飛び込み営業をしていました。もう夢中ですから、つらいと感じたこともなく、営業成績は良かったです。

仕事に飽きて転職を考え始めていたころ、広報・宣伝部への異動を伝えられ、広報・宣伝の仕事を3、4年経験。2010年にCHINTAIとエイブルが共同持株会社(現エイブル&パートナーズ)を設立したので、その広報・宣伝を7年務めました。その間、2012年にプロパー初の管理職にも登用されました。

2017年、CHINTAIの子会社としてパーソナルCHINTAIが設立され、社長に就任したのは30代半ばでした。設立時のパーソナルCHINTAIは、メールや電話、チャットなどで、クライアントである不動産会社のサービスをきめ細かくサポートしたり、新規サービスのテストを実施したりしていました。現在ではそこから、CHINTAIをご利用いただく店舗に向けてインサイドセールスやカスタマーサクセスを担う役割へと変化しています。

どんな仕事でも1番になる

大久保:会社員として社内でチャンスをつかんだわけですね。新しい挑戦をしたいという会社員は少なくありません。日頃から心がけておくことはありますか?

山下新しい挑戦をするには、上司をはじめ部下・同僚などさまざまな人に認められることが重要だと思います。仕事を選ばず、まず与えられた環境で期待値以上の成果を上げること。私は、どんな仕事でも、たとえそれがトイレ掃除でも、人を傷つけない限り1番になること、また人の役に立つことが信念です。

自分たちのレガシーを活かす


大久保:営業で数字をつくるのと、新規事業を生み出すのでは、多少頭の使い方が違うように思いますがそのあたりはいかがでしょうか?

山下:基本的には同じです。新規事業を起こすにあたって過去に起こったことを否定するのであれば、その会社でやる意味がありません。先輩方が築いてきた良い部分を受け入れてからという感じでしょうか。

大久保:なるほど。自分たちのレガシーを活かすということですね。

山下:そうです。世の中で勝つためには、その会社の持つ文化や歴史を振り返りそれを活かすことが重要だと考えます。自分たちの武器を見極めて新規事業をつくり上げることが大切です。

プッシュ型メディアに戻りつつある

大久保:雑誌から始まって現在にいたるまで、サービスの変遷についてはどのように考えていますか? 創業からこんな風に変わったということがあれば、教えてください。

山下:今は昔に戻っているのかなと思います。もともと不動産会社における物件情報は、伝える内容や伝え方などが店舗ごとに異なり、それをユーザーが見やすい形に整理し、まとめるところから始まりました。雑誌は特定の層にアプローチするプッシュ型メディア。プロである不動産会社が厳選した物件情報を掲載していました。それが、不特定多数に向けたプル型メディアのインターネット時代になると、とにかく情報量を増やして、多くのなかからユーザーに選んでもらうのをよしとすることになったのですね。その流れでは、私たちは他社に勝っているとはいえない状況になりました。

しかし今再び、プッシュ型メディアの方向に戻りつつあります。その人にとって本当に必要な情報は何かを意識して絞る傾向になってきました。

大久保:レコメンドエンジンなどで、その人に合ったものを自動的に整理する世界に変わってきているのですね。

山下:どのエンジンを使うと反響率が高いのか、いろいろ試しました。結局自分たちで構築して2022年3月にリリースした「CHINTAIエージェント」の独自ロジックが1番よかったですね。過去7年間10万人を超えるユーザーに対する物件提案実績をもとに最適化したものです。テクノロジーを活用した技術は使いようで、AIだけに頼っていては勝てないと実感しています。

パーソナルCHINTAIはラボ的存在

大久保:エイブルとCHINTAI、それに共同持株会社の関係を整理していただけますか?

山下:エイブルとCHINTAIは別々の会社です。エイブルの前身のダイケンから情報誌発行業務を譲り受け、1992年に賃貸住宅ニュース社(現CHINTAI)ができました。1996年にインターネットでの賃貸住宅情報の提供を開始し、不動産業者向けの不動産支援システムの提供、北海道特化型リフォーム専門誌「プランドゥリフォーム」の発刊などを行いました。その後2010年、共同株式移転により、エイブルCHINTAIホールディングス(現エイブル&パートナーズ)が設立されました。

大久保:CHINTAIとパーソナルCHINTAIはどのように棲み分けしているのですか?

山下パーソナルCHINTAIは、チャレンジを続けるラボに近い感じです。当初福岡にセンターをつくり、ひたすらウェブでユーザーに物件を提案。それを不動産会社に届けて、フィードバックを受けていました。そこで集めたデータが、先に挙げたCHINTAIエージェントの元になっています。

またCHINTAIでは不動産会社を訪問する従来型のフィールドセールスもやっていましたが、数十人の営業部隊では大手と勝負になりません。勝てるやり方はないかと考えて始めたのが、オンライン・コミュニケーションを用いたインサイド(内勤型)セールス、また不動産会社に能動的にアプローチし成功へ導くカスタマーサクセスになります。この新しいアプローチをパーソナルCHINTAIでは担っています。

大久保:主に研究開発や新しい企画をパーソナルCHINTAIでやって、サービスの実行部隊はCHINTAI本体というイメージですか?

山下:CHINTAIもパーソナルCHINTAIも共に新しい企画をつくっていますが、小規模の派生型サービス、たとえば、子育て世代の部屋探しのお手伝いをするなど、ちょっとしたきめ細かなサービスや実験的な内容は、パーソナルCHINTAIで立案して実践します。

不動産営業のDX化


大久保:「CHINTAIエージェント」についても特徴を教えてください。

山下:LINEで登録して待っていると、勝手に情報が届きます。家賃や希望の沿線など、絶対に譲れないこだわりの条件を設定することも可能です。インターネット検索の杓子定規的なところは臨機応変に調整しています。

私たちがCHINTAIエージェントに期待しているのは、反響率が高い、つまりユーザーがCHINTAIエージェントを使うことで、不動産会社に問い合わせをしたいと思ってくれていることです。利用者は、CHINTAIエージェントの前身であるエイブルAGENTを含めると6万人を超え、物件を提案した数は110万件を超えます。そしてなんと2人に1人が問い合わせをしています。

こんなに反響率が高いのはウェブ世界ではあり得ない。初めは数字が間違っているのではと疑いました。

それと、物件の提案後不動産会社へお客様を送客するだけではなく、不動産会社とユーザーの登録情報を共有して、接客に役立ててもらっています。単なる機械的な提案ではなく、常に「人」を意識しながらやっています。

人の動きを機械に学習させるために、7年間人と場所とお金を投資して情報を取得してきたのです。自動化できたらすごいことになると、私は会社に言い続けました。

大久保:まさに不動産営業のDX化ですね。気の利いた営業マンの思考を自動化に落とし込むとき、こんなところを踏まえたほうがいいとか、ポイントはありますか?

山下物件の提案や問い合わせで終わらせないことでしょうか。不動産会社に、「この人来店しましたか?」「契約までいきましたか?」と詳しく聞いて、全然条件が違っていた、こんな文句を言われたなど、最後まで追って、フィードバックを反映させていきます。複雑なことはやっていません。今でもフィードバックを反映し続けています。

大久保:こういったシステムの自動化はあるところまでは人間に追いつけないけれど、閾値(しきいち)を超えると、蓄積されたデータを用いて安定的にいい結果が出る。そこまで調整するのはかなり大変だったのではないでしょうか?

山下:私は迷ったときには、世の先人の例を参考にすることにしていますが、YahooもGoogleも、当初インデックスへの登録は手動だったようです。この検索のときにはこれを出すのがいいと、人の感覚を入れている。世界規模の企業がそうなのだから、私たちも地道にやるしかないと思いました。

成果を出せば人脈は拓ける

大久保:これから起業する人に向けて、アドバイスはありますか?

山下:起業はいろいろなスタイルがあります。自ら起こす人もいれば、私のように、起業しようと思っていなかったのに起業させていただいたケースもあるでしょう。与えられた場所でどんな仕事であっても成果を出せば、人脈や機会が勝手についてくるものです。チャンスはいろいろなところに転がっていますから。目の前にあることで人の100倍の成果を出せば、きっと誰かが助けてくれます。

大久保:営業ウーマン時代はやはり1番だったんですよね。

山下:自分で言うのは憚られますが、トップを取っていました。

大久保:どうすれば営業がうまくいくのか、ナンバーワンセールスウーマンとして、コツを教えてください。

山下:「お前は何も考えずにバットを振っている」と、上司によく言われました。考えるのが苦手だったら、誰にも負けない量をこなすしかありません。今の時代はやらない手法ですが、朝8時に不動産会社を訪ねると、「まだやってないから」と断られ、昼ごろ再訪すると「今忙しい」と断られ、それでまた夕方閉店した頃に行くと、10人に1人くらいは話を聞いてくれました。

創業者がよく、うちは「お人好し商売」だと言っていました。人対人の仕事ですから、あの人のためにと思って一生懸命やっていれば、困ったときに助けてくれる人が何人か出てくる。企業はお金儲けがすべてではない。「お人好し商売」を、最近すごく意識するようになりました。

営業の極意は数とフィードバック

大久保:数とフィードバック、それが営業の極意でしょうか?

山下100の妄想よりも1つの経験なので、数は大事だと思います。やってみないとわからないことがたくさんあります。「100万円でひとつの企画をやるなら、10万円で10個やれ」と、部下には言っています。

大久保:企画も数が勝負ですか?

山下:企画は完全に数が勝負です。ウェブで毎日のようにいろいろな企画を回していますが、本当に当たるのは何年かに1度。失敗例から学ぶことのほうが多いです。

数をこなすことは、年を取るとできなくなります。若いときに数をこなすことに慣れて、勉強を始めると楽になります。

大久保:部下の企画が行き詰っている場合、上司としてどんな風に対応しますか?

山下:弊社の場合、ターゲットが若く、SNSの中身は正直私にもわからないことが多いです。クリエイティブにはあまり口を出さないようにしています。

私が見ているのは、「誰の何をどのように」解決するかが明確になっているか。1度や2度指摘されたくらいでやめる人は成功しません。気合のようなところもあって、絶対できるという意思を感じれば、私はやらせることにしています。

経営者は最低限の技術の知識が必要


大久保:IOT、ブロックチェーンなど、新しい技術が次々に登場していますが、経営者としてはどんなスタンスで臨んでいますか?

山下:技術は誰かの役に立つことを実現するための手段です。CHINTAIエージェントのところでもお話しましたが、AIよりも人の手が加わったり、誰かの役に立ったりするほうがよかったりします。

私はシステム側もみているので、いろいろな技術を提案されます。最初にベンダーと話すと、明らかに「あなた、わからないですよね」という調子でくるんです。それが悔しくて、3年くらい勉強して、プログラムも多少組めるようになりました。すると、全然違いますね。わからないと質問もできませんから。

知らないのはダメで、最低限の知識は必要です。時代が変わっても、プログラミングの根本的な考え方は変わらないものです。

大久保:メタバースなど、トレンドのキーワードが出てくると、技術を知らない社長は大金をつぎ込んで失敗しますね。

山下:世の中の著名な経営者でテクノロジーの基本を知らない人はいないのではないでしょうか。技術だけでなく、財務も流通も、だいたいの知識を持っている。見えないところですごく勉強しているんです。

いまどきウェブサイトについて自分はわかりませんと言っていたら、起業しても無駄なお金と時間がかかってしまいますよね。最先端を理解する必要はないけれど、最低限押さえておかなければならないことはあります。

女性が働き続けられる環境を用意する


大久保:男性社会のイメージが強い不動産業界で、女性がトップになるのは大変な気がします。女性起業家に向けてアドバイスはありますか?

山下:弊社は全然男性社会ではないんです。女性が働きやすく、あまり男女差を意識したことがありません。現在も育児休業中の社員がたくさんいますし、今後は介護についてももっと考えていく必要がありそうです。

ただ、不動産業界全体でみると、男性社会というのはその通りで現場はきつい。とはいえ、どの不動産会社さんも、トップセールスは女性なことが多いです。女性のほうが物腰が柔らかく、生活がわかるのがメリットでしょうか。

大久保:確かに。しっかり結果を出す女性も多いですね。

山下:トップセールスの女性は、意外とバリキャリではないんですよ。女性のほうが世間体をあまり気にせず、意思が強い人が多いように思います。

大久保:地球上の半数は女性ですから、男性も女性も能力が発揮できるといいですね。

山下:女性は、体調やライフスタイルによってさまざまな局面があるので、そのあたりは配慮が求められます。

先日世界経済フォーラムが発表した2022年の日本のジェンダーギャップ指数は、146か国中116位で主要7か国(G7)中最下位。経済分野は121位で、特に管理職の女性割合の低さが目立っている。女性の活躍といってもまだまだなんですね。女性が働き続けられる環境をしっかり用意したいと思いました。

大久保:ちなみに、今日は在宅リモートですか?

山下:そうです。弊社は基本在宅の勤務で、必要がある場合には出社の形態をとっており、wifiの提供やテレワーク補助費などの制度も充実しています。実際、子育て中の社員は在宅リモートのメリットを実感していると思います。表情がわからないなどデメリットもありますが、そこは出社と在宅リモートのハイブリットで進めていくのがよさそうです。

大久保:「女性起業家」とくくる扱いに抵抗感を覚える人もいますが、山下さんはどうですか?

山下:私は1期生なこともあり、いろいろな機会をいただけましたが、弊社の役員及び管理的地位にある者に占める女性の割合は33.3%と高く、また、育休取得率は100%で、男女ともに活躍しやすい環境を整えています。女性だからと気をはらず、女性の持つコミュニケーション能力や優しさを大切にする。男女関係なくその人の良さが発揮できることが重要です。チャンスがあれば、それを活かせばよいと思います。

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(取材協力: 株式会社パーソナルCHINTAI 代表取締役兼株式会社CHINTAI 副社長 山下悠子
(編集: 創業手帳編集部)

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