エンジェル税制とは?仕組みとベンチャー企業・エンジェル投資家への影響

創業手帳

エンジェル税制の優遇措置でエンジェル投資家からベンチャー企業への出資が活発に


エンジェル税制は、ベンチャー企業とエンジェル投資家に関係の深い制度です。
ベンチャー企業側としては、これから設立予定の場合や出資を希望している場合に、関係してきます。
また、投資家側としては、一定の条件を満たすベンチャー企業に出資する時に関わる制度です。

エンジェル税制を利用する際には、仕組みや手続き方法について知っておくことが大切です。
ベンチャー企業と投資家双方のメリットやデメリット、制度の利用の仕方を解説します。

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エンジェル税制とは


エンジェル税制とは、国内のベンチャー企業へのエンジェル投資を促進するために作られた税制上の優遇措置です。
エンジェル投資とは起業して間もない企業に資金を出資することであり、出資する投資家をエンジェル投資家と呼びます。

エンジェル税制は「租税特別措置法」や「中小企業等経営強化法」に基づき、実施されています。また、2020年度の税制改正を経て、より一層使いやすくなりました。

国内の開業率向上を目的

エンジェル税制とは、起業して間もない企業への個人の投資に対して税の優遇措置を取ることにより、国内の開業率を向上させる目的を持った制度です。
個人投資家はベンチャー企業への投資に前向きになり、ベンチャー企業は成長に必要な資金を集めやすくなります。

ベンチャー企業は新しい成長分野の開拓者として、また、雇用創出やイノベーションの担い手として経済再生への貢献が期待されている存在です。
しかし一方では、資金調達先に不足する場合もあります。

エンジェル税制は、そのようなベンチャー企業を支援しやすくする制度のひとつです。個人の投資が増えることで、ベンチャー企業の活躍もより促進されます。

2020年度税制改正

エンジェル税制は、2020年度の税制改正によって利用できる条件が緩和されました。
エンジェル税制は、ベンチャー企業への個人投資の優遇による開業率を向上させる目的があります。

しかし、これまではベンチャー企業の要件などが厳しく、利用できないこともありました。
それが税制改正によって緩和され、より多くの投資家とベンチャー企業が制度を利用できるようになりました。

エンジェル税制の優遇措置の内容


エンジェル税制の優遇措置の内容を紹介します。エンジェル税制で優遇が行われるのは投資と譲渡のタイミングです。
優遇は投資家のためのものですが、投資を受けるベンチャー企業にも間接的に影響します。
投資家もベンチャー企業も、エンジェル税制の優遇措置をチェックしておきましょう。

投資時の優遇措置

エンジェル税制を利用すると、エンジェル投資を行った際に優遇措置のAまたはBのどちらかを受けられます。
どちらの優遇措置も内容は控除であり、それぞれに要件が定められています。

優遇措置A

優遇措置Aは、設立5年未満の中小企業のうち、経過年数に応じた規定を満たす企業を対象とした投資に適用される優遇措置です。
条件を満たす企業にエンジェル投資をした投資家は、その年の総所得から控除を受けられます。

控除できる金額は、エンジェル投資対象企業に投資した金額ー2,000円です。
また、控除の対象となる投資上限額は、総所得金額×40%もしくは800万円のどちらか低いほうとなっています。
経過年数別の規定は、以下の通りです。

経過年数 要件
1年未満
(最初の事業年度未経過)
研究者または新事業活動従事者が2人以上かつ常勤社員の10%以上
1年未満
(最初の事業年度を経過)
研究者、新事業活動従事者が2人以上かつ常勤社員の10%以上で、直近の営業までのキャッシュフローが赤字
1年以上〜2年未満 研究者、新事業活動従事者が2人以上かつ常勤社員の10%以上で、直近の営業でキャッシュフローが赤字
もしくは、
試験研究費などが収入金額の5%を超えていて、直近の営業までのキャッシュフローが赤字
2年以上〜3年未満 試験研究費などが収入金額の5%を超えていて、直近の営業までのキャッシュフローが赤字
もしくは、
売上高成長率が25%を超えていて、直前の営業までのキャッシュフローが赤字

また、このほかにもエンジェル税制を利用するには、企業要件や投資家要件などを満たす必要があります。

優遇措置B

優遇措置Bは、設立10年未満の中小企業であり、経過年数の各規定を満たしている投資先であれば利用できます。
優遇措置Bは、エンジェル税制対象企業への投資額全額を、そのほかの株式譲渡益から控除できる措置です。
控除の対象となる投資額に上限はありません。経過年数ごとの要件は以下の通りです。

経過年数 要件
1年以上 研究者または新事業活動従事者が2人以上かつ常勤社員の10%以上
1年以上〜2年未満 研究者または新事業活動従事者が2人以上かつ常勤社員の10%以上
もしくは、
試験研究費などが収入金額の3%を超えている
2年以上〜5年未満 試験研究費などが収入金額の3%を超えている
もしくは、
売上高成長率が25%を超えていて、直近の営業でキャッシュフローが赤字
5年以上〜10年未満 試験研究費などが収入金額の5%を超えている

譲渡時の優遇措置

エンジェル税制では、売却損失が発生した場合、譲渡時にも優遇措置を受けられます。
未上場のベンチャー企業の株式を売却することで生じた損失は、その年のほかの株式譲渡益と相殺でき、さらに相殺し切れなかった分は翌年以降3年間にわたり、株式譲渡益と相殺していけます。

エンジェル税制のメリット・デメリット


エンジェル税制には、メリットとデメリットがあります。
投資家として利用する際にもベンチャー企業の資金調達に活用する際にも、良い面と悪い面を両方知っておくことが大切です。

投資家のメリット

エンジェル税制を利用する投資家側のメリットは、優遇措置による節税効果とベンチャー企業の成長によるリターンの大きさです。
投資が目的の人は、より多くのリターンを得られます。また、エンジェル税制を利用することで、低コストでハイリターンを目指せます。

投資しながら節税できる

投資家側のエンジェル税制のメリットには、投資しながら節税できる点があります。
エンジェル税制では、投資した年の所得や譲渡益から投資額に応じた金額の控除を受けられます。
また、売却で損失を出した場合にも、譲渡益との相殺が可能です。

急成長によるハイリターンも期待できる

ベンチャー企業への投資の魅力を節税しながら得られるのも、エンジェル税制のメリットです。
ベンチャー企業はこれからの急成長を遂げる可能性もあり、その際には株式の価値が高まり、ハイリターンも期待できます。
ほかの投資方法よりもリターンを求めやすく、少額の投資であっても大きく利益を上げられるかもしれません。

ベンチャー企業のメリット

エンジェル税制は投資家に対する優遇措置ですが、その対象となるベンチャー企業にもメリットが間接的に発生します。
エンジェル税制により、エンジェル投資が積極的になれば、ベンチャー企業への投資が活発になり、資金調達もしやすくなります。

訴求ポイントとしてアピールできる

エンジェル税制は、ベンチャー企業への投資の訴求ポイントとして投資家へのアピールとなります。
投資家へ出資を募る際、自社がエンジェル税制の対象であることを伝えると、自社への投資が節税効果も期待できるものだと知ってもらえます。

個人投資家からの出資機会が広がる

エンジェル税制の優遇措置は、個人投資家の投資メリットを増やすことで、ベンチャー企業が出資を受けられる機会を増やしました。
エンジェル税制で節税できるならと考え、個人投資家がベンチャー企業への投資に前向きになれば、資金調達もしやすくなるでしょう。

投資家のデメリット

エンジェル税制は投資家が優遇措置を受けられる便利な制度ですが、そのメリットだけを重視して安易に投資を行うと、投資家側も不利益を被ることがあります。

ベンチャー企業への投資はハイリスク

エンジェル税制は、若いベンチャー企業への投資のハードルを下げますが、だからといって投資が本来持っているリスクを減らすことはありません。
特にベンチャー企業への投資は、ほかの投資に比べてハイリスクです。
投資先のベンチャー企業が大きく成長することもありますが、必ずしも利益を出すわけではありません。
大企業と比べると、ベンチャー企業は倒産する恐れもあり、リスクが高くなります。

確定申告の書類の準備が煩雑

エンジェル税制を利用することで、投資家は節税効果が期待できますが、その際の手続き書類の準備は煩雑です。
エンジェル税制を利用して節税する際には、確定申告が必要です。
一般的な申告でさえ面倒だと感じている人には、確定申告の手間が余計に増えることは大きな負担となるかもしれません。

ベンチャー企業のデメリット

エンジェル税制がベンチャー企業に与えるデメリットはあまり多くありません。しかし、実際に資金調達を行う際にやりにくいと感じる場合もあります。

出資を受けるまで準備に手間がかかる

エンジェル税制では、投資家が優遇を受ける際にも確定申告の手間がかかります。
しかし、投資を受けるベンチャー企業側も、制度を利用しない時よりも利用する時のほうが手間がかかります。

エンジェル税制では、出資を受けるベンチャー企業側もいくつかの手続きが必要です。
主に、事前の確認や申請書類の交付など、出資してくれた個人投資家のためにエンジェル税制を受ける準備を行います。

エンジェル税制を利用するまでの流れ


エンジェル税制を利用するまでの手順を、ベンチャー企業側と投資家側のやるべきことを流れにそって紹介します。
エンジェル税制では、ベンチャー企業は出資者へのアピールや申請書類の交付などが求められ、投資家側も優遇を受けるための手続きが必要です。
それぞれの立場で必要な行動を、順を追って理解しておきましょう。

1.ベンチャー企業:情報発信

出資が必要なベンチャー企業は、積極的に出資者を募る必要があります。エンジェル税制があるからといって、何もせずに出資者が現れるわけではありません。

まずは、中小企業庁ホームページの対象企業一覧に掲載されることから始めてください。
自社のPRを具体的に行いながら出資者を探したい企業は、クラウドファンディングを利用する手もあります。

中小企業庁の事前確認制度

中小企業庁のホームページは、エンジェル投資家がエンジェル税制の対象企業を探す際に利用するもっとも一般的な方法です。
対象企業であることが確認されたベンチャー企業が掲載されています。

ホームページの対象企業一覧に掲載されるためには、事前確認の申請が必要です。企業の本店所在地の都道府県で申請できます。
対象企業と確認されると対象企業には都道府県知事の「事前確認書」が交付され、ホームページに会社名が公表されます。

株式投資型クラウドファンディング

株式投資型のクラウドファンディングでも、エンジェル投資家に自社をPRし、出資を募ることが可能です。
クラウドファンディングは、プラットフォームで情報を発信し、資金を集める方法です。
株式投資型は、その中でも資金と引き換えに株式を得られるタイプであり、エンジェル税制の対象となっています。

2.投資家:情報収集

ベンチャー企業に投資をしたいエンジェル投資家は、上記の情報発信の場を使ってエンジェル税制の対象となる企業を探します
中小企業庁ホームページでは、各企業名・法人番号・企業の連絡先・ホームページなどを閲覧できます。

3.投資契約の締結

エンジェル税制を利用して投資を行う、または出資を受けることが決まったら、投資契約を締結します。
投資契約では、実際に投資する個人投資家と対象企業との間で、エンジェル税制に関する約束事を記載します。

4.ベンチャー企業:都道府県に申請

事前確認制度を利用して投資を受けるベンチャー企業は、投資後に確認申請を行い、都道府県知事の確認書の交付を受けてください。

事前確認制度を利用しない場合でも、投資が行われたあとに確認を受けられます。企業要件と個人投資家要件を満たすことが確認されると確認書の交付を受けられます。

5.ベンチャー企業:投資家へ書類交付

都道府県から確認書を交付されたベンチャー企業は、次にエンジェル税制を利用するための書類を投資家へ交付します。必要なのは以下の書類です。

  • 都道府県知事の確認書
  • 一定の株主に該当しない旨の確認書
  • 株式異動状況明細書

6.投資家:確定申告

投資家は、ベンチャー企業から各種書類を受け取ったあと、確定申告の準備を行います。必要なのは以下の書類です。

  • 都道府県知事の確認書
  • 一定の株主に該当しない旨の確認書
  • 株式異動状況明細書
  • 投資契約書の写し

これらの書類を確定申告書に添付して提出します。

エンジェル税制利用時の注意点


エンジェル税制を利用する際には、以下の点にも注意してください。

ベンチャー企業と個人投資家は投資契約を締結する必要がある

エンジェル税制を利用するためには、ベンチャー企業と個人投資家は投資契約・組合契約を締結する必要があります。
組合を経由した投資の場合には組合契約を交わします。
その際に参照したいのは、租税特別措置法第41条の19など、エンジェル税制についての法令に関する約束事を定めた書類です。

この投資契約書はエンジェル税制についての約束事を盛り込んだ契約で、上記書類では適切に約束を交わすための様式が定められています。

ベンチャー企業は状況の変化について報告義務がある

エンジェル税制の確認書の交付を受けたベンチャー企業は、状況の変化があった場合には税務署への報告義務があります。
個人投資家が発行株式を譲渡・贈与したことを知った場合や、清算・破産開始決定の手続きに入った場合など、速やかに都道府県へ報告しなければいけません。

まとめ

エンジェル税制は、個人投資家にもベンチャー企業にもメリットのある制度です。
個人投資家が税制の優遇を受けながらベンチャー企業に投資できるようになると、ベンチャー企業に資金調達のチャンスが巡ってきます。

ただし、出資や資金調達までの手間が増えるため、メリットとデメリットや手続き方法を理解した上で利用しましょう。

また、制度を利用しても投資リスクはあるため、投資家はリスクを十分理解して投資を行う必要があります。

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(編集:創業手帳編集部)

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