創業手帳代表が日経をさくっと解説 米中摩擦とAI。スタートアップにどう関係する?

2019年1月4日の日経新聞に、以下のニュースが取り上げられました。

1面
・市場動揺、株安
・新幸福論「崩れる勤勉」

2面
・社説 新たなジャパンモデルを

3面
・キャッシュレスは遠い話

4面、5面 
・コメンテーターが読む2019

9面
・ディスラプション・アマゾン死角はあるのか

13面
・日本経済新聞賞 AI深層学習ソフト Chainer プリファードネットワークに

17面
・主要30業種の天気図

起業家、スタートアップアップの観点で、創業手帳代表の大久保が、さくっと解説します。

1面:市場動揺、株安

円高の新興と株安について。アップルの下方修正が引き金になり世界、特に中国と米国で経済が減速。アップルは予想を超える中華圏の減速を理由に下方修正し株価の下落の引き金になっている。

スタートアップの視点からすると、株価下落・景気減速は、資本調達に影響を与える(BS、キャッシュ)のと、景気そのものは売上(PL)に影響を与えます。拡大しつつある日本のスタートアップ市場に水を指しかねない状況に懸念。

米国の対中制裁は、アップルの業績という形で自国に跳ね返ってきており、両者ダブルノックダウンの様相を呈しています。経済に混乱をきたしており、冷静な対応をしてほしいと思います。

1面:新幸福論「崩れる勤勉」

ニュージーランドの銀行に導入されているAI「チェイミー」、ボルボの自動運転は横になって移動できる車を2030年台に向けて開発中。そんな中人は何をするのか。
労働自体が尊いと考える禁欲的なマックスウェーバー的な価値観が20世紀。
労働のスマイルカーブ。0→1と9→10に付加価値がある仕事が修練していく。

AIの進展で人は機械の補完的な仕事、もしくは創造的な仕事を担っていくと考えられます。
日本は高齢化・労働人口減少が深刻なので、労働を奪うという観点というより、人手不足を解消するという面も強いですが、労働人口の減少とAIの進展による「社会に必要な総労働量」がタイミングよく釣り合えば理想的です。

一方で、どちらに偏っても労働力不足・失業の問題が起こるため、テクノロジーと社会構造の変化の微妙なバランスが必要になります。

日本においては、労働力不足が深刻になるため、他国に比べてAIにチャレンジしやすい土壌があるといえるのでそれを社会が柔軟に受け入れられるかどうかが鍵になるでしょう。

記事中にある、スマイルカーブ(工程の最初と最後、ローエンド・ハイエンドに人が必要。中流の消滅も意味する)については、スタートアップにとっては、0→1(無から有を生み出す)、9→10(完成度を上げる)に労働が集中するということは、そこに人のビジネスがある、お金の稼ぎ場があるとも言えるでしょう。特に起業は究極の0→1であり、AI時代に特に必要とされる領域と考えています。

2面:社説「新たなジャパンモデルを」

工業・カイゼンで一時は世界を席巻したが不適合を起こしている。大手が社内のVCをはじめており、次を模索している。政府はあらゆる課題をデジタルで解決する「ソサエティー5.0」を掲げており高齢化社会をチャンスにすべき。

日本の戦後~高度経済成長期の機能したジャパンモデルについての考察。日本は工業化の時代に成功した一方で、デジタル時代には完全に遅れをとっています。創業手帳でも大手の企業内VC(CVC)などからも相談を受けるケースがあり、従来の日本企業は社内で世界の先端を行く新事業を次々生み出していたが、今では革新的な商品を生み出す力が海外などに比べると弱くなっている部分もあります。

会社や産業の時代の変化もありますが、今は、大企業もオープンイノベーションという形で、今まで相手にしなかったような小さいな会社、ベンチャー・スタートアップの小回りの良さ、革新性に目を向けており、起業家にとってはチャンスをつかみやすい時代とも言えます。
また、日本は世界に類を見ない超高齢化社会を迎えて「世界に先駆けた社会課題の実験場」であるので、社会課題をデジタルで解決する新事業やビジネスに勝機があると考えます。

日本でAIで有名なプリファードネットワークスやABEJAなどもAIスタートアップだが、こういった会社に資金が集まる背景には、前述の社会的背景がある。時代背景に乗った会社にはお金と人が集まるため(例:通信自由化の時代のソフトバンクなど)スケールするスタートアップは時代背景を気に止め、そこにあった成長ストーリーを描くことは有益でしょう。

3面:キャッシュレスは遠い話

旧態依然の役所、学校で電子マネーが進まず現金主義。

日本では電子マネー化が進まず、中国、韓国、アメリカに大きく遅れをとっています。
例えば韓国は課税逃れを撲滅し、納税率を上げるという政府の意図もあり、カード普及を促進しました(結果、カードの使いすぎなどの社会問題も発生したが)。

日本は紙幣への信仰が強い傾向があります。例えば、アメリカドルなどは平気でドル札にペンで文字を書いたりするが、日本では現金の信頼性が高く(法律により通貨を痛めてはいけないという背景もあるが)、なかなか電子化が進みません。

ここで留意すべきは、電子マネーの普及は社会的な弱者にとって最大の福音になるということ。電子化が含むと課税逃れがしにくくなるため、納税率が上がり(かつ税金を集めるコストが下がる)、AIと相性が良いので社会的なコストが下がります(労働力不足に伴う、労働インフレの影響を受けるのは老人や子供など手のかかる社会的弱者である)。

したがって、電子マネーやAIは、社会的弱者を置いてきぼりにする、という誤った印象がありますが、実際は納税率と社会的コストの両面で、社会的弱者の救済にプラスになる面が強いと考えています。

4面、5面:コメンテーターが読む2019

買収先の統治・消費税増税

日経の新年の特集らしい、読み応えのある記事。
今後M&Aが活発に行われる(成熟市場ではM&Aが増えるのは自然な流れだろう)ため、買収先の統治が必要になるという記事と、先送りされてきた消費税の増税について。財政の健全化より景気を優先してきたが、ついに消費税10%増税に踏み切る、という内容ですが、年末年始の景気の減速から考えるとインパクトはかなりあるでしょう。

なお、日本の財政状況から考えると、長期的には消費税10%は国際的な水準からすると高いわけではないので、最終的に10%ですむということは考えにくく、その先もあると考えないといけないでしょう。

9面:ディスラプション・アマゾン死角はあるのか

世界6位・販売額20兆円に成長したアマゾン。タワーレコード、トイザらス、シアーズなどが消えていく中で拡大。
一方でフリマで米国に進出したメルカリは2018年7~9月に71億円に達した。

アマゾンは顧客情報と圧倒的な品揃え、サービスで売上を伸ばしており、GAFAの一角として他の小売業者に脅威を与えています。一方で、苦戦が伝えられるメルカリですが、なんだかんだでそれなりに米国でも大きな売上になっており、スタートアップのモデルケース、海外展開の成功例として、今後の拡大に期待です。

13面:日本経済新聞賞 AI深層学習ソフト Chainer プリファードネットワーク

AIの旗手のプリファードネットワークスが受賞。異色の受賞となり、時代の変化を実感させられます。

17面:主要30業種の天気図

人材などは好況、中国経済の減速を受けるメーカー・設備系の業種は減速

ここでも米中・摩擦の影響が。人材不足を反映して人材系の事業が、好況と出ています。
日本の社会課題である労働力不足に対して、「今の労働力を最適化する」既存の人材ビジネスと、「社会の総労働量を減らす」AIが伸びると見ていいでしょう。
米中摩擦とAI関連の話題が目立つ、今日の日経新聞でした。

解説者 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社の母子手帳、創業手帳を考案。2014年にビズシード社(現:創業手帳)創業。ユニークなビジネスモデルを成功させ、累計100万部を超える。内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学、官公庁などでの講義も600回以上行っている。

(編集:創業手帳編集部)

読んで頂きありがとうございます。より詳しい内容は今月の創業手帳冊子版が無料でもらえますので、合わせて読んでみてください。
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