起業して初めてのオフィス選び10のポイント ‐賃貸オフィス編のまとめ(後編)‐
失敗しない賃貸オフィスの選び方
【前編】起業して初めてのオフィス選び10のポイント ‐賃貸オフィス編のまとめ(前編)‐
「起業して初めてのオフィス選び」のまとめの2回目となる今回は、水回りや照明、空調などの設備面と、オフィス内装の重要性について振り返る。入居するオフィスによって業務効率も左右されるということを踏まえ、オフィス選びの重要性についてあらためて考えてみよう。
この記事の目次
1. 賃貸オフィス編・不動産会社の巻
2. 賃貸オフィス編・立地の巻
3. 賃貸オフィス編・建物とBCPの巻
4. 賃貸オフィス編・エントランスの巻
5. 賃貸オフィス編・共用部の巻
6. 賃貸オフィス編・水回りの巻
7. 賃貸オフィス編・照明の巻
8. 賃貸オフィス編・空調の巻
9. 賃貸オフィス編・内装の巻 その1
10. 賃貸オフィス編・内装の巻 その2
6. トイレと給湯室のチェックは女性目線で
オフィスビルにおける水回りとは、主に「給湯室」と「トイレ」のこと。給湯室でお茶を淹れるひと時は、オフィスワーカーにとって貴重なリフレッシュのひと時だ。
設備が整って使い勝手がよく、雰囲気の良い給湯室を備えたオフィスは生産性も大きく上がることだろう。給湯室の有無は文字通りオフィスの潤いを左右するといってよい。
給湯室と同様に、トイレもオフィスの快適性に深く関わってくる。一般的に、男性より女性の方が洗面スペースでの滞留時間は長い。女性従業員が多い企業では、水回りの充実度が優秀な人材の確保にも影響すると言われるほどである。
こうした効果があるということを念頭に、古くても清潔かつ使いやすさに配慮された水まわりを持つオフィスビルを選ぶように意識したい。
水回りが共用の場合は、トイレと給湯室の規模も確認しておきたい。オフィスビルにおけるトイレ設備の適正数は、従業員が20名で男6:女4の場合、男子小便器2、男子大便器2、男子洗面器2、女子便器2〜3、女子洗面器2〜3が目安となっている。
水回りが専有なら他の入居者に気兼ねすることなく自由に使用できるが、清掃は入居者が行うのが基本。しかし水回りの清掃は多くの労力と時間がかかる。オフィスビル側で清掃を行うこともあるので、これも事前に賃貸ビルオーナーや管理会社確認しておくといいだろう。
水回りが共用の場合、光熱費は賃料に含まれている場合がほとんどだが、専有となっているオフィスビルでは注意したい。水道会社やガス会社から請求されていれば問題はないが、オーナーから光熱費を請求される場合は特に注意しなければならない。ビルオーナーから請求される場合、実際の使用料に上乗せされているケースが少なくないからである。一般的な賃貸オフィスビルでは「子メーター」で水道やガスの使用量を確認して請求するが、なかには子メーターが無いオフィスビルもある。
さらにいえば、水道会社やガス会社が定める料金に上乗せして請求するビルのオーナーもいる。ただし料金の上乗せは、入居者との合意があれば基本的に違法ではない。子メーターの交換費用や検針料など根拠のある場合もあるので、これも入居前にしっかりと確認をしておきたい。
賃貸オフィスの「トイレ」「給湯室」のチェックポイントについて、詳しくはこちら。
【関連記事】起業して初めてのオフィス選び -賃貸オフィス編・水回りの巻-
- 賃貸オフィスビル「水回り」のポイント
-
- 水回りは清潔か
- 給湯室はあるか、また設備は整っているか
- 給湯室の広さ、トイレの数は十分か
- 水回りは共用か、専有か
- 水道料金、ガス料金の徴収に不明確な点はないか
7. オフィスの照明は業務効率にも大きく影響
震災後、省エネ・節電という観点から照明を落としているオフィスが少なくない。
日本工業規格による基準(JIS規格)では、事務室の明るさは750ルクス〜1500ルクス程度を推奨しているが、国が定めた労働安全衛生規則では「精密な作業」に必要とされている明るさでも300ルクス以上、「普通の作業」に必要な明るさは150ルクス以上とされており、「粗な作業」に至っては70ルクス以上であれば充分とされている。
もっとも300ルクスでは暗く感じる人もいるため、実際のオフィスでは500ルクス程度が目安となるだろう。
賃貸オフィスの照明を確認するには、昼間だけでなく夕方や夜間も内見を行うのがベターだ。西日の差し込み方は夕方でなければわからないし、夜間、窓からオフィス室内に漏れるネオンサインの光に気づけるのは夜間の内見時だけである。窓からの光も一種の照明ということも頭に入れて、オフィスの窓の外もチェックしておこう。夜間作業の多い創業期のベンチャー企業であれば、特に留意して不動産業者にしっかり内見を依頼したいところだ。
またオフィスの内見の際は、実際にデスクを置く場所や椅子に座った際の目の高さから照明器具を見てみよう。光のあたり具合やまぶしさなど、立った状態で見るのとはまた違った点に気づくはずだ。
照明の選び方としては、節電も重要なポイントだ。一般的なオフィス内で使用される電力量のうち2割強が照明といわれており、その対策としてLEDを採用するオフィスも増えている。
しかし「以前の蛍光灯と同じ『明るさ』のはずなのにLEDにしたら暗くなった」という声が聞かれることも少なくない。LEDの光は特性上、直進する性質がある。いわばスポットライトのような光で、そのままではオフィス全体を照らすことができないのである。実際に点灯して明るさを確かめよう。
照明に関してはこのように、あらゆる角度から細かく見ることが肝心だ。照明の善し悪しは生産性にさえ影響を与えることも考慮にいれて、適切な照明をもったビルを選びたい。
賃貸オフィスの「照明」のチェックポイントについて、詳しくはこちら。
【関連記事】起業して初めてのオフィス選び -賃貸オフィス編・照明の巻-
- 賃貸オフィスビル「照明」のポイント
-
- エントランス、共用部の照明はビルの雰囲気とマッチしているか
- LEDなどの高効率照明が設置されているか
- 明るさを調節できるか
- 室内の明るさは十分か
- 照明器具とデスクの位置関係にギャップはないか
8. オフィスの電気代の5割は空調
オフィスの快適性を大きく左右する要素のひとつに温度や湿度といった空気環境がある。
暑すぎたり寒すぎたりしては快適に過ごすことはできず、仕事の効率も落ちる。またエアコンなどの空調の電力消費割合は賃貸オフィスビル全体の5割近くに達するため、コストの観点からも賃貸オフィス選びの際は、空調に注意したいところだ。
空調設備は、機種などによって性能が大きく異なる。一般的なオフィスビルで導入されている空調設備は「セントラル空調」と「個別空調(ビル用マルチエアコン)」の2種類に分けることができる。
一つ目のセントラル空調とは、ビル全体の空調をまとめて制御する方式。建物内の空調を一括制御したほうが効率的であるとの判断から採用が進んだ。
しかし空調の運転時間や冷暖房の切り替え、温度設定など基本的な運転設定がビル側の判断で制御されるというデメリットがあるため、就業時間が早朝や深夜におよぶ業種には不向きとな空調の方式だといえる。また細かい温度調節ができない場合もあり、暑すぎたり寒すぎたりといった事態を招く可能性も高い。
一方の個別空調とは、フロアごと、あるいは部屋ごとに空調機器を設置し、個別に運転制御を行う方式。建物全体を冷やしたり温めたりする場合には不向きだが、業務時間が異なる企業が多く入居するビルなどでは効率的だ。
冷暖房の切り替えや温度設定などが全て個別に制御できるため、使用していない部屋に空調が効いているといった無駄もなくなる。また在室人数や時間帯など状況に合わせて細かい運転制御ができるため快適性の向上が見込めるのもメリットだ。
一般的にはセントラル空調に比べ個別空調の方が電気料金は安いとされているが、実際は製造年に差がない限り両者の空調効率に大きな差はない。電気代の差としてあらわれるのは、むしろ無人の部屋にも空調が効いてしまうような運転の無駄だ。
またセントラル空調同士、個別空調同士でも差はあらわれる。空調機器の技術開発がすすみ、特に省エネ効率はここ20年で平均40%も向上している。電気代に占める空調の割合を5割とすれば、最近建てられたオフィスビルと20年前に建てられたオフィスビルの電気代の差は平均2割ということになる。
さらに経年劣化によって空調機器の電気使用量は年4~5%も増加していくというデータもある。セントラル空調・個別空調ともに、新しいほうが効率が良いという認識で間違いはないだろう。
「事務所衛生安全基準規則」では、オフィスの温度は17℃以上28℃以下、湿度は40%以上70%以下になるよう努めなければならないとされている。
しかし快適なオフィスを実現するためには、実際の温度とともに「体感温度」も重要だ。湿度が低いと涼しく、高いと暖かく感じるため、適正な湿度管理ができる機種か否かもポイントとなるのである。
また空調機器の設定温度・湿度が適正であっても、空調からの直射風はあまり快適とはいえない。同様に、直射日光が当たる位置にデスクがあれば夏季は実際の気温以上の暑さを感じる。
デスクの配置などオフィス内のレイアウトを想定し、空調の吹き出し口の位置や日の当たり方にはじゅうぶん気を配りたい。
賃貸オフィスを快適な温度・湿度にたもつ空調について、詳しくはこちら。
【関連記事】オフィスの電気代の5割は空調です!起業して初めてのオフィス選び -賃貸オフィス編・空調の巻-
- 賃貸オフィスビル「空調」のポイント
-
- 共用部の温度、湿度は適正か
- ビル内に不快な臭いがこもっていないか
- 細かな運転調整が可能か(セントラル空調の場合)
- 空調運転時間と業務時間にギャップはないか(セントラル空調の場合)
- オフィス内のレイアウトと空調の効き方にギャップはないか
9. オフィス内装は「機能」と「グレード感」で決まる
賃貸オフィスの室内を見るポイントは大きく分けて2つ。「機能」と「グレード感」だ。
機能面で重要なのは平面形と扉の大きさ、柱の位置と数、それに窓の位置と数など。特に扉は重要で、開口部が小さいと什器が搬入できないといった事態も考えられるし、小さな出入り口は閉鎖的という印象を与えてしまう。柱も同様で、基本的には室内に柱や梁はないほうがいい。もし柱がある場合は、デスクや什器の配置を想定しながら導線などをしっかりシミュレーションしたい。
また間取り図と実際のサイズが異なっている場合もあるので、内見時には必ずメジャーを持参して室内レイアウトをシミュレーションしよう。
見落としがちだが、床荷重の確認もしておきたい。一般的な賃貸オフィスビルの床荷重は1㎡あたり300㎏~500㎏ほど。重量級の複合機でも150㎏ほどなので一般的なデスクワークなどなら問題はないが、サーバーは一式で400㎏を超えることも珍しくない。床に損傷を与えてしまっては、弁償を請求されないとも限らない。
ビル自体の床荷重が高くても、OAフロア(床の上にネットワーク配線などのための一定の高さの空間をとり、その上に床を設け二重にしたもの)など床がかさ上げされていると荷重が低くなる場合もある。重量物を設置する予定の起業家は、必ず確認しておこう。
もう一つのポイント、「グレード感」を見極めるうえで重要なのが、使用されている内装材の質だ。パネル天井に白い壁、それにグレー系の落ち着いた色合いのタイルカーペットという仕様が一般的だが、同じに見えても部材の質や機能は物件によって異なる。
とはいえ上級品か否かを見ただけで判断するのは難しい。オーナーや仲介業者によく確認するとともに、内見時に写真を撮っておくことも効果的だ。室内の印象や雰囲気、使用されている部材などを記録しておけば、多物件との比較も容易になるだろう。
またオフィスの扉は企業の顔という意識を持ち、扉の見栄えにも気を使いたい。
グレード感を演出する上では、天井の高さも重要だ。一般的なオフィスの天井高は2.6m前後。なかには3m近いものもあるが、中小の既築ビルではほとんど見かけない。高い天井はOAフロアにした際の圧迫感を緩和するという実利的なメリットがあるだけでなく、天井の高い建物は「良い建物」というイメージの高評価につながる。オフィスの天井が高ければ高いほどグレード感がアップすると考えていいだろう。
賃貸オフィス選びで内装をチェックする際の注意点について、詳しくはこちら。
【関連記事】雰囲気だけで選んでいませんか?起業して初めてのオフィス選び ‐賃貸オフィス編・内装の巻 その1‐
- 賃貸オフィスビル「内装」のポイント その1
-
- 使い勝手のいい平面形か
- 扉や窓、柱などの位置や大きさは適正か
- OAフロアが採用されているか
- 床荷重は十分か
- 天井の高さは十分か
10. 内装工事の費用負担は明確に
賃貸オフィスの内装を見るうえで、重要なのが引き渡し時の内装の状態だ。内見時の内装の状態で引き渡されるのか?あるいは、契約後に壁紙などの貼り替え工事が追加されるのか?は、必ず事前に確認しておきたい。
また何らかの不具合があれば内見時に指摘し、引き渡しまでに改善されるのか否か、改善されるのであればオーナー、入居者のどちらが費用を負担するのか、工事によって追加された設備の所有権はどちらに帰属するのかといった点も詰めておきたい。
その上でオフィスの内装工事を行うことになった場合に備え、「A工事、B工事、C工事」という言葉を覚えておきたい。A工事とはオーナーは費用を負担する工事で、工事内容の決定や設計、施工業者の選択などもオーナーが行う。
B工事は入居者が費用を負担するが、施工業者の選定はオーナーが行う。工事内容や設計についてはオーナー、入居者の双方の話し合いで決められる場合が多く、基本的に双方の合意が必要だ。
最後のC工事は、費用負担や工事内容、設計、施工会社の選定などをすべて入居者が行う工事のことを指す。
工事がどの方式で行われるかは、費用の問題だけでなく設備の所有権の問題にも関わってくる。例えば、A工事はオーナー負担で工事を行い、工事で追加された設備もオーナーの所有となる。C工事で追加された設備は工事費用を負担した入居者の所有となるが、B工事は入居者が費用を負担するにもかかわらず所有権はオーナーとなるので注意が必要だ。
もちろん工事の内容はケースバイケースであり、上記はあくまで一般的な分類であり、例外も多い。賃貸オフィスで内装の工事を行う際は、条件を必ず確認しておこう。
内装の改装が前提となっているのであれば、スケルトン物件に入居するという選択肢もある。店舗の場合は基本的に改装するのが前提となっているため、内装が一切ない「スケルトン」という状態で賃貸するのが一般的だ。
スケルトン状態で賃貸しているオフィス物件はそれほど多くはないが、見つけることができれば内装を造り込みたい起業家にはラッキーだ。さらに原状回復不要の物件なら、費用はさらに抑えられる。
スケルトンで借りた物件の内装工事は基本的に「C工事」となるが、ゼロから内装を作りこむことができるため意匠もレイアウトも自由自在。企業理念を具現化したオフィスを構築することができる。しかし一般のオフィスに比べて工事の規模が大きくなるため改装費用がかさみ、原状回復の際にはスケルトンに戻さなければならないため原状回復費用もかかるというデメリットもあるので注意したい。
さて内装工事を行うか否かに関わらず、入居時にしておきたいのが原状回復への備えだ。原状回復とは、借りていた部屋を退去する際、入居した当初の状態に戻すことをいう。
原状回復にはある程度の資金が必要になるが、現状では入居時に預けておいた敷金(保証金)を充当する場合がほとんどだ。しかし敷金は基本的に「家賃の保証金」であり、敷金を原状回復のための費用として使用する際は入居者の同意を得る必要があるということを覚えておこう。
また敷金を原状回復費用に充当する場合、気を付けたいのが経年劣化に対しては原状回復の必要はないという点だ。これも、入居時の状態を撮影して保存しておき、経年劣化によるものであるということをはっきりさせられるような備えをしておきたい。
内装を改装する際は原状回復にどの程度資金が必要になるかは必ず考慮に入れておこう。
「良い内装」のオフィスを実現するためのポイントについて、詳しくはこちら。
【関連記事】内装を自分好みに! 起業して初めてのオフィス選び ‐賃貸オフィス編・内装の巻 その2‐
- 賃貸オフィスビル「内装」のポイント その2
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- 設備に不備はないか
- 内見時の状態で引き渡されるのか、工事が追加されるのか
- 工事が追加される場合、その内容や費用負担、原状回復義務はどうなるのか
「起業して初めてのオフィス選び10のポイント ‐賃貸オフィス編のまとめ-」のまとめ
「良いビル」「良いオフィス」に入居したいという思いは、創業ベンチャーのみならず企業人に共通した思いだろう。しかし何をもって「良いビル」とするか、「良いオフィス」とするかは企業によって異なる。
今回までにお伝えした内容はごく一般的なものであり、あくまでオフィスの選び方の入門編である。「自社にとって最も良いオフィスの実現は、企業のポリシーを具現化する作業でもある」ということを念頭に、楽しんでオフィスを選ぶとよいだろう。
【関連記事】起業して初めてのオフィス選び10のポイント ‐賃貸オフィス編のまとめ(前編)‐
【関連記事】賃貸オフィス編・水回りの巻
【関連記事】賃貸オフィス編・照明の巻
【関連記事】賃貸オフィス編・空調の巻
【関連記事】賃貸オフィス編・内装の巻 その1
【関連記事】賃貸オフィス編・内装の巻 その2
(監修:オフィス経営コンサルタント 久保純一)
(創業手帳編集部)