b-growth 菱沼 匡|BtoBマーケターと企業をマッチングさせて事業グロースをサポート
3度の転職を通じて獲得したスキルと経験値を武器にb-growthを創業
起業を成功させる方法は数多くありますが、過去の経験を活かすことが最も堅実なアプローチの一つです。
b-growthの菱沼さんは、3度の転職を経てスキルとキャリアを積み上げました。その経験を活かし、BtoBマーケター役職者が集まる審査制コミュニティ『BtoBマーケティング研究会』を立ち上げ、後に独立。BtoBマーケターを紹介するサービス「b-growth Pro」をリリースしました。
そこで今回は、菱沼さんが起業に至るまでの経緯や会社員時代に培ったスキルをどのように事業に活かしたかについて、創業手帳の大久保が聞きました。
株式会社b-growth 代表取締役CEO
新卒で通販会社のベルーナに就職し、健康食品・化粧品の開発、WEBマーケティングの責任者として新規顧客の拡大とリピート率の改善施策を推進。エス・エム・エスに転職してからは医療機関の管理者向けのメディア運営に責任者として携わり、その後はポート株式会社にて業務改善や上場準備のプロジェクト、中途採用、新規事業責任者のポジションを歴任
IPO準備会社のエイスリーでは社長室と広報/マーケティング機能を有するコミュニケーション部の立ち上げなどを行う。
2022年に立ち上げた『BtoBマーケティング研究会』でマーケター向けの勉強会や懇親会などを主宰し、企業とマーケターの最適なマッチングやマーケター同士の繋がりを活発化させるべく奮闘中。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
個人事業主の家庭で育ったことで幼い頃から「起業」が身近にあった
大久保:起業を最初に志した経緯を教えてください。
菱沼:私の祖父母が戦後に開業したクリーニング屋を最近まで営んでおりました。
祖父が実業務となるクリーニング、祖母が接客と経理をするという役割で経営していました。
私の父親も臨床心理士の資格を活かして、個人事業主としてスクールカウンセラーや大学の非常勤講師をしており、家庭がいわゆるサラリーマン家庭ではなかったため、知らず知らずのうちに起業を意識していたのだと思います。
大久保:ご家族も菱沼さんに起業を勧めていましたか?
菱沼:起業や個人事業主の不安定さを心配して、祖父母は私に教師や公務員になってほしいと言っていました。なので私は公務員を目指して大学まで進学しました。
結局公務員や教職の道は自分には合わないと考え、大学卒業後の就職先は大手通販企業を選んだのですが、結果的にはすごく良い経験となりました。
大久保:大手通販企業ではどのような経験をしましたか?
菱沼:当時は意識しておりませんでしたが振り返ってみると、データマーケティングについて深く学べました。
例えば過去の売れ筋商品やデータを見て企画をすれば、新卒でも失敗せず成果が出せる、つまり高い再現性があることを知れたので、データマーケティングについて業務を通じて学べたことはとても貴重な経験になりました。
大手通販企業から人材系スタートアップに転職し挫折を経験
大久保:その後転職されたのはどのようなきっかけだったのでしょうか?
菱沼:1社目では社内MVPに選ばれるほどになり、外の世界でどれほど通用するのかを試したくなったのが主な動機です。これに加えて1社目での経験と実績をもとにキャリアアップを狙いたいという思いもあり、最終的に転職を決意しました。
大久保:転職してみていかがでしたか?
菱沼:すごい人たちがいるという噂の企業に転職しましたが、全く通用しませんでした。私が今までやってきたマーケティングってなんだったんだろうと自信をなくすほどです。
大久保:具体的にはどのような業務を担当されましたか?
菱沼:配属後は新規事業の立ち上げに関わることになりました。
オペレーションやマネタイズ手法などの細かいことが何も決まっていない中で、売り上げは作らなければいけないという状況でした。
新規事業の立ち上げを行う時には、マーケティングのフレームワークに当てはめて、事業戦略の解像度を上げていくことが必要です。ですが、当時の私はマーケティングのフレームワークを使いこなす知識がなく、ロジカルシンキングも弱かったため、周りについていくのが大変でした。
大久保:大手企業から規模の小さい企業に移り、仕事の進め方がガラッと変わったということですね。
菱沼:1社目は過去の成功事例を踏襲するという、いわば負けない戦いをするという思想が強く、自分で考える幅が狭かったと思います。将来起業するかもしれないと漠然と考えていたため、転職先での厳しい環境で様々な経験ができて良かったです。
社内アセットを活用した新規事業の立ち上げから得た多くの経験
大久保:2社目ではどのような業務を経験されましたか?
菱沼:在籍期間としては1年半ほどで、事業内容は病院向けの新規事業に携わっていました。
病床数が20以上ある病院は全国に約8,500箇所と言われています。そこの事務長をコミュニティに集客し、病院の給食やリネンなどのコスト削減を提案し、業者側から紹介料をもらうビジネスでした。
その中で私の役割としては、ターゲットとなる病院の事務長をできるだけ集めることでした。今ではその事業自体は終了していますが、立ち上げて間もないサービスに携わることができたのは大きな経験値になりました。
大久保:事業の立ち上げから終了までの1周を経験できたのは良かったですね。
菱沼:そもそも会社のメイン事業は看護師向けの人材紹介でした。そこの社内アセットを活用した新規事業の立ち上げという観点を学べたので、とても良い経験となりました。
BtoBとBtoCの両方を経験したからこそわかるマーケティング手法の違い
大久保:2社目で新規事業を担当した後はどうされましたか?
菱沼:就活生向けのメディアを中心とした企業に転職しました。
私が転職したのは上場する2年前というタイミングで、あらゆる環境整備と売上の拡大を同時に推進する必要がある状況でした。その中の役割の1つとして、上場に向けたガバナンス整備や開発ディレクションチームの立ち上げなどを担当することになりました。
大久保:その会社が起業前に勤めた最後の会社ということですか?
菱沼:いえ、その後もう一度転職をし、起業前にいた最後の会社は、タレントのキャスティング会社です。
いわゆるマッチング会社のような立ち位置で、タレント事務所とタレントを活用したい企業をマッチングするというイメージです。そこでは、社長室長とマーケティング部長を兼任していました。
私のキャリアを振り返ると、BtoBマーケティング、マッチング、ビジネスを中心とした新規事業が大きな軸でした。
大久保:BtoCビジネスとBtoBビジネスは、手法が似ているようで異なるように感じているのですが、その点いかがでしょうか?
菱沼:おっしゃる通り、異なる点はいくつかあるのですが、わかりやすい例で言うと意思決定プロセスに大きな違いがあります。
BtoCでは人に相談をすることはあっても、最終的に自分の主観で購入決定をします。
BtoBだと逆に自分1人で決済することは少なく、チームの同意や上長の承認、稟議が必要といった形で、不特定多数の意思決定が関わってきます。
これはマーケティングのアウトプットにも関わってきて、BtoCだと個人の感情が動くプロモーションやクリエイティブにすれば良いのですが、BtoBではロジカルに商品を買った方が良い理由を伝え続ける必要があります。さらに意思決定のリードタイムも長くなるため、コンテンツの質が大事になってきます。
大久保:マッチングビジネスにはマッチングビジネスならではのコツがありますか?
菱沼:マッチングビジネスを展開している仲介者の業界理解、専門性は必須だと思います。
例えば恋愛をしたことがないのに恋愛のマッチングをしても失敗しそうですよね。
私がBtoBマーケティングを経験してきたからこそ、マーケティングができる人のアセスメントが可能になりますし、マッチングする側とされる側、両方とマーケティング界隈での共通言語で話すこともできます。
社外の居場所として立ち上げたSNSコミュニティが起業の足がかりとなる
大久保:会社員経験を経てから起業までの経緯を教えてください。
菱沼:起業の前に「BtoBマーケティング研究会」という審査制のSNSコミュニティを立ち上げていました。
BtoB事業会社のマーケター役職者とBtoB関連の事業主だけが入れるものになっています。
現在約1,000人ほどの規模になっておりますが、独立するタイミングでは500〜600人ほどの人数でした。この規模になると勝手にコミュニティ内でビジネスマッチングが発生していきます。
それを見て事業化できそうだと思い、独立したという流れです。
大久保:なぜそのコミュニティを立ち上げたんですか?
菱沼:そもそもこのコミュニティを立ち上げた理由としては、マーケターをやっていた時にフラットに友達感覚で相談できる人が欲しいと思い、自分で作ろうと思ったのが発端です。
当時はBtoBマーケターが集まるようなコミュニティは少なく、外部のマーケターと交流する機会が限定的でした。
周りに聞いても同じようなことを考えている方が多く、いざやってみると、多くの方が取り組みに共感してくれました。
大久保:会社というのは1つの強力なコミュニティだと思うのですが、社外にもコミュニティを自分で作ったという感じなんですね。
菱沼:居場所は社内だけではないと考えていましたね。
大久保:起業の際に役立ったお話として、コミュニティを作った点以外に何かあれば教えてください。
菱沼:他社のことをすごく研究していました。
ビジネスアイディアはいくつかあったのですが、それを先にやっている会社はすでにあると考えていました。
実際に競合になり得そうな会社が出している広告を研究したり、サービスを使っている知り合いに話を聞いてみたりとあらゆる方法で情報収集を行い、事業の解像度を上げていきました。
あとはバックオフィス系の業務をやっている知り合いにも実務面の相談をして、起業するにあたってコストを抑えるポイントや税理士に依頼する際の相場など、バックオフィス経験者だからこそ知っていることを教えてもらいました。
BtoBマーケティング人材をマッチングさせるb-growthの3事業
大久保:改めてサービスについて教えてください。
菱沼:弊社のメインサービスは3つあります。
1つ目の事業は業務委託人材を紹介する「b-growth Pro」です。
BtoBマーケティングの経験豊富なスキルセットをもつ副業人材やフリーランス、場合によっては法人のマーケターを紹介しつつ、専門性の不足やリソースの不足をフォローしています。
現場目線で“実績を出せるか”という軸で事業グロースを支援しています。「b-growth Pro」を活用された企業様からは、短期間で専門性を持った業務委託人材の確保に成功し、獲得リード数も過去最大になったという嬉しい成果も出ています。
2つ目はBtoBマーケターに特化したエージェントサービス「b-growth Agent」です。
これは当初は想定していなかったのですが、業務委託ではなく正社員として採用したいというニーズが大手企業を中心に多い一方で、BtoBマーケティングという専門性の高い職種ゆえに、他の転職エージェントが取り扱っていない領域である、という点にニーズを感じて始めた事業となります。
大久保:仮に紹介したフリーランスの方が正社員で転職してしまうと、「b-growth Pro」の売上は減ってしまいますが、紹介料を頂くことで事業として成り立つようにしたのですね。
菱沼:おっしゃる通りです。そして、3つ目はBtoB事業特化の広告運用サービス「b-growth AdMaster」です。
デジタルマーケティングが多様化する中、BtoB事業でも広告運用への取り組みは必須になってきましたが、広告にかけられる予算が少ない場合は大手代理店などに発注することが難しいケースがあります。「b-growth AdMaster」では、低予算の場合でも、専門知識のある方に事業伴走してもらうことが可能となります。
マッチングする人材はBtoB事業の経験者に絞っているので、しっかり実績がある方をご紹介できます。
すでにプロダクトが決まっている起業家はまずは行動あるのみ
大久保:起業初期にもっとこうしておけば良かったと反省する点があれば教えてください。
菱沼:良くも悪くもですが、売り上げが予期できないという点にはもっと注意すべきだったと思います。
こことは取引は生まれないだろうと思っていたところから大口の取引が生まれたり、関係性が良好なところから急に切られることもありました。
また、起業するとやることが想像以上に多く、意図的に営業活動に時間を割くようなスタンスや体制構築をしないと、中長期的にキツくなるなという気づきもありました。
立ち上げ当初は事務処理を自分一人で抱えて処理していたため、営業活動に専念できない時期がありました。今思うと出来るだけ早く専門家に頼るべきだったと反省しています。
大久保:最後に起業される方へのメッセージをお願いします。
菱沼:私は勢いで起業して色々トライアルをして、売り上げが立ったビジネスを今もメイン事業にしています。
プロダクトは決まっているが起業に悩まれているという状況であれば、まずは世に出して売れるかどうかの手応えを感じてから、本格化させる流れでも良いと思います。
保守的な考えかもしれませんが、新規事業のマーケティングと同様にスモールでPDCAを回して、勝ち筋をつかんでから本格的な起業に踏み出すことが失敗確率を下げてくれると思います。やりたいことが明確な方はぜひ今日から行動を開始していただければと思います。
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(取材協力:
株式会社b-growth 代表取締役CEO 菱沼 匡)
(編集: 創業手帳編集部)