グランサーズ 筧 智家至|1,500社以上が利用!バックオフィスの課題を解決する専門家集団

創業手帳
※このインタビュー内容は2022年12月に行われた取材時点のものです。

税理士法人の代表が、バックオフィスを支援する会社を立ち上げた理由

自身が代表社員を務める税理士法人を母体としたグランサーズ株式会社は、経理・税務をはじめとしたバックオフィス課題を解決するサービスを展開しており、支援実績は1,500社以上を誇ります。

今回は、代表取締役社長を務める筧さんに、スタートアップや中小企業におけるノンコア業務のDX化やアウトソーシングの現状と未来について、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。

筧 智家至(かけひ ちかし)
グランサーズ株式会社 代表取締役社長/公認会計士/税理士

1980年生まれ。
慶応義塾大学商学部卒業。
大学卒業後の2004年に監査法人トーマツへ入社。
2012年にグランサーズ株式会社の前身となる、筧会計事務所を設立。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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起業したら、まず「箔」をつける


大久保:起業の経緯を教えていただけますか?

:大学卒業後、監査法人トーマツ(現:有限責任監査法人トーマツ、以下トーマツ)に入所し、「人の役に立ちたい」という気持ちを強く抱きながら仕事をしていました。約8年間勤務する中で、中間管理職まで出世することができたんですが、独立をした方がより人や社会の役に立つ仕事を幅広くできるんじゃないかと思い、31歳の時に筧公認会計士・税理士事務所(現:税理士法人グランサーズ)を設立しました。

大久保:起業を決意されたきっかけはありますか?

:独立を考えていた時、周りからは「起業したら年収が3分の1に下がる」と言われました。トーマツではそれなりの年収を得られていたものの、漠然と「このままでいいのかな」という思いがありました。「このまま大組織の中で出世を目指していくこともできなくはないだろうけど、それは本当に自分がやりたいことなのか」とずっと考えていたんです。大企業には、組織を運営していくために様々なルールがあるので、そのルールに従おうとすると、お客様と直接向き合ってサービスを提供し、課題解決をすることができにくくなると感じていました。

ちょうどその時、スティーブ・ジョブズ氏が2005年に行ったスタンフォード大学の卒業式での祝辞を聞き、「自分の人生に貪欲に生きなければいけない」と強く感じたんです。収入を取るか、自分がやりがいを感じられることを取るか。究極の選択で悩みましたが、「お金は30歳前半の今追い求めなくてもいい。まずは後先考えずにやってみよう」、「1度しかない人生だから、自分のやりたいことをやって、自分が社会の役に立ったと誇れるような人生を歩んでいきたい」と考え、起業を決意しました。

大久保:年収の忠告について、実際はいかがでしたか?

:私の場合は、有り難いことに最初から仕事をいただく機会が多かったので、そういうことは全くなかったです。

大久保:私も創業手帳を始める際、「こういう事業を始めようと思う」と周りに相談したら、起業した経験がない方の反応は悪く、起業経験がある方からは「すごくいいね!絶対にやるべきだ」という反応が返ってきました。何か新しいことを始めようとする時には、必ずと言っていいほど、最もらしいことを言ってくる人が現れますが、相談する人が適切かどうかも含めて、自分自身でしっかりと内容を吟味し判断を下すことが大切ですね。

:そう思います。何か新しいチャレンジをする時には、マウントを取る方もいますから。10年前は起業した人との繋がりを持てる機会が少なかったので、どうしても身近にいるサラリーマンに相談することが多かったんですよね。今振り返ってみると、そもそも相談する相手を間違っていたのかもしれないなと思います。

大久保:筧さんは公認会計士と税理士の資格をお持ちですが、専門的な業種で開業され、どのように顧客を開拓されていったのでしょうか。

開業当初は、まず箔をつける必要があったので、商工会議所に飛び込み営業をして「セミナーをやらせてほしい」とお願いしました。箔があるところが後ろ盾になってくれる環境を作ることが先決だと考えたんです。また、自分で新たに営業ルートを確立していくよりも、既に営業ルートを持っているところに対してアプローチをしていった方が、より早く確実に顧客を獲得できると考えました。

大久保:既に信用を得られている組織にアプローチし、講演活動を行うことで、信用や波及効果を得られるのですね。

:はい。マーケットコストも負担してくれますから、設立したての身としてはとても助かりました。また、当時は消費税が5%から8%に上がるタイミングだったので、誰よりも早く「消費税増税」をテーマにセミナーを行ったんです。先陣を切って行うことで、「この分野でなら、一番が取れる」と考えました

大久保:すでに大手がいる業種であっても、世の中の時代の変わり目ならベンチャーが入れるチャンスがあるんですね。今だとインボイスが当てはまりそうですね。

:まさにそうだと思います。

ココ重要!
  • すでに大手がいる業界でベンチャーが業績を伸ばしていくには、情報のアンテナを張り巡らせ、時代の変わり目の波にいち早く乗り、先陣を切ってチャンスを掴むことが大切。

組織としてより多くの方の役に立つために挑戦


大久保:スタートアップに対する時代の変化について、専門家としてどう感じていらっしゃいますか?

:昔と比べて、スタートアップの理解度が上がっていると思います。昔は特定の組織が既得権益を持っていて、そこに踏み込むのは相当大変でしたが、今はSNSなどを活用することで、割と簡単に食い込めるようになったと感じています。

大久保:SNSを活用して、企業自ら発信できる時代ですからね。

:そうなんですよ。昔はSNSやYouTubeがなかったので、どこかの団体に所属しないと、不特定多数の方々に向けて発信するルートを確保できなかったのですが、外部の力を借りずに自分発信で拡販できるようになったのは大きいですね。

大久保:ご自身のYouTube「社長の資産防衛チャンネル【税理士&経営者】」のチャンネル登録者数が11万人を突破されましたが、社名や氏名を出した状態でYouTubeやSNSを運営していく上でのコツや留意点があれば教えてください。

:やはりブランディングが重要になってきます。例えば、一人会社であれば私個人の名を広めることができればいいのですが、組織の場合は違います。多くの場合、私個人についたお客様は、私が担当しなければサービスを継続してくれなくなってしまうので、私個人を売るというより、監修している仕組みに落とし込んでいき、それを訴求することで、組織全体としてサービスを提供できる旨を伝えています。

大久保:個人のキャラクターにファンがつくことは大切ですが、そこで終わってしまうと会社としては成長できないので、仕組みに落とし込んでいくことが重要なのですね。

:そう考えています。組織が成長していくと、自分一人で対応することに限界を迎えるので、落とし込む仕組みを作っておくことが大切ですね。私自身、自分一人でできる範囲に限界を感じた時に、そこに留まることもできたんですけど、「より多くの人の役に立ちたい」という原点に立ち返り、仕組み化が必要だという発想に至りました。

大久保:なるほど。それは、グランサーズ株式会社を立ち上げた理由にも繋がるのでしょうか。

:はい。税理士法人として組織を大きくすることはできたのですが、このままではコンサルティングに留まってしまい、再現性が低いと感じていました。元々、「自分自身が社会の役に立つ仕事をしたい」という思いで起業し、徐々に自分のできることが広がって、個人として社会の役に立つことはできたので、次のステップとして「組織としてより多くの方の役に立ちたい」と思い、グランサーズ株式会社を立ち上げました。組織で勝っていくために、体系化しやすいバックオフィス系に挑戦することにしたんです。

大久保:職人みたいな形で、一人でやっていきたい方もいると思いますが、世の中にインパクトを与えたい場合は、仕組化することが大事なのですね。

専門知識でバックオフィスの課題を解決


大久保:グランサーズ株式会社の事業内容を「バックオフィスの支援」に決められた経緯を教えていただけますか?

:元々、「人手が足りないから、バックオフィス系の仕事を代行でやってほしい」という依頼があったんです。サービスを開始した2018年頃は、東京オリンピックで一時的に景気は良くなるが、それ以降は景気が悪くなると予想されていました。リーマン・ショックの時もそうでしたが、景気が悪くなると、雇用を業務委託に切り替える傾向があるんです。特にバックオフィスは、リストラの対象になりやすい職種といわれていますが、バックオフィスを回していくためには、どこかで業務委託に切り替える波が起こるだろうと思っていました。すると、コロナ禍でDX化の推進が始まり、弊社のサービスを利用される企業が増えてきたんです。

大久保:コロナ禍が追い風となったのですね。貴社は、バックオフィス業務代行サービス「SUPPORT+iA(サポーティア)」やバックオフィスのDX化、経理人材のスキル・キャリアアップ支援「スタディジョブ」などのサービスを展開されていますが、今後、世の中の動きとしてノンコア業務はどのように移り変わっていくと思われますか?

:弊社のサービスは、今までの慣習からしたらアーリーアダプターの考えだと思いますが、徐々にノンコア業務が業務委託に移行する流れになるのは間違いないと考えています。特に、中小企業は大企業と比べて採用力が弱いので、「採用ブランディングの重要性」をいくら提起されたところで、なかなか対応することは難しいですよね。そうすると、5年後、10年後に、さらに採用難となっていく流れの中で、業務委託への移行がより活性化してくる可能性が高いと考えています。

大久保:中小企業の場合は特に、ノンコア業務については貴社のようなサービスを利用し、様々な負担を抑えることで、コア業務の部分で競争力を高めていくことができますね。

:そう考えています。

大久保:スタートアップや中小企業は、雇用人数が少ない分、どうしても管理系が弱くなる傾向にあります。その辺をプロに依頼できるのもメリットですね。

:はい。弊社は、公認会計士を中心に経理・税務・IPOなどの専門的知識を持つプロフェッショナル人材が多数在籍し、サービスを提供しています。昔、私が公認会計士になりたての頃、ある大学の先生が「公認会計士が本気になれば、日本はもっと良くなる」と話されていて感銘を受けたんですが、今の日本は、会計に詳しい人が企業の深くまで入り込んで、経営者と対話する機会が少なすぎると思っています。起業の中に数字に強い方がいれば別ですが、プロが隣にいる環境下で経営していくことは、企業にとって支えになりますし、そうすることで、経済をもっと活性化させることができると考えています。

大久保:規模が大きくない会社でCFO(最高財務責任者)を採用することは、費用の面でも採用の面でも難しいですから、サービスを活用することで専門家の知識を自社に活かした方がいいですね。

:そう思います。

大久保:貴社は、財務・経理に特化するのではなく、バックオフィス全般のサービスを展開されているんですよね。

:はい。公認会計士や税理士が業務監修やディレクションを行い、財務、経理だけでなく、庶務、人事・労務、総務、補助金・助成金などのバックオフィス業務全般について、ハイレベルなオンラインアシスタント・秘書サービスを提供しています。また、単一のサービスではなく、複数のサービスを展開することで、お客様の課題を総合的に解決できるのも特長だと考えています。

ココ重要!
  • 多様な分野に対応できる専門家やプロフェッショナルを作るのは困難だが、SaaS化し仕組みに落とし込むことで、サービスを展開しやすくなる。

いかに少人数で売上を上げるか

大久保:税理士や会計士などの専門職は、年々採用が難しくなっていると聞きますが、いかがですか?

:そうですね。税理士事務所の9割は10人未満の組織だといわれているんですが、一般的に10人未満の会社に入社したいと思う方って少ないと思うんです。そうすると、ある程度の規模の組織ではないと求職者が集まらないので、士業系は採用難だという現状に繋がっています。特に士業系は保守的な業界なので、余計に採用が厳しくなっているのもありますね。

大久保:士業に限らず、スタートアップも採用は大きな課題の一つですよね。

:そうですね。スタートアップや中小企業では、一人のプレイヤーにいろんなことを求めてしまう傾向がありますから、私も起業した当初は、「この人も自分と同じことができるだろう」と思い込んで接してしまうなど、人材の育成やコミュニケーションに失敗することがありました。起業したての時はやることも多く、気持ちがいっぱいいっぱいになりがちですが、まずは自分自身の気持ちを落ち着かせ、「人手が足りないから」という理由で採用するのではなく納得できる採用をし、責任を持ってその人を育てようとする覚悟を持つこと。そして、コミュニケーションを取っていくことが大切だと実感しました。

大久保:アウトソーシングを活用すれば、雇用人数は少なくても大きな事業を動かせる時代になってきましたからね。

:そうですね。昔は、社員の規模でマウントを取るという時代もありましたが、今は「いかに少人数で売上を上げることができるか」が重要になってきていると思います。

大久保:ちなみに、アウトソーシングを導入する際、注意すべきことはありますか?

:自社の中にローカルルールが多数存在している場合は、まずはそのルールを整理することが必要です。業務が属人化している場合も、業務を整理することが必要ですね。

大久保:一見手間がかかるように思えますが、アウトソーシングを導入する過程で業務を見直し、改善するきっかけになりますね。

:そう思います。

自分の方向性を見失わないことが大切


大久保:グランサーズ株式会社としての、今後の展望を教えてください。

:2021年の年末に「上場に向けて」という趣旨で資金調達を行ったので、今後もサービスを広げ、上場を目指していきます。

大久保:それでは最後に、これから起業される方に向けてメッセージをお願いします。

:いろんな起業家がいて、いろんな人生があって、上には上がいると思えば思うほど「他人に負けないように」と必死になってしまいがちですが、この10年を振り返ってみると、結局重要なのは「自分がどういう未来を切り開きたいか」だなと感じています。だから、必ずしも企業規模を大きくすることが正解だとは限らないですし、一人会社として世界観を守っていくという選択もあると思うんです。大切なのは、周りに振り回されず、自分のスタイルを確立させることに尽きると思います。

大久保:先ほどの最もらしいことをいう先輩の話と同様に、どんなに素晴らしい先人の知恵や経験も、自分がやりたいこととは違う場合もありますから、自分で考えて決めることが大事ですね。

:そう思っています。人の意見を聞くことは大切なんですが、聞きすぎると方向性を見失ってしまうこともあるので、自分にとって何が正しいのか、何が必要なのかを冷静に見極めて取捨選択するのがいいと思います。

大久保の感想

大久保写真
今日のグランサーズ筧智家至さんのインタビューで、起業家に一番役立ちそうなポイントを2つに短くまとめたよ。

1つ目は、「起業すると年収は3分の1に下がるからやめておけ」というもっともらしいことを言う人もいる。でも、その人がどういう背景でそういうことをいっているのかを考えることも重要だよね。アドバイスも大事だが、最後に決めるのは自分だということ。

2つ目は、起業した時のバックオフィスの重要性だ。
起業した時は事業のことや資金のこと、採用など考えることが多い。そこでバックオフィスが疎かになって苦労している会社が多い。バックオフィスを安定させることと、専門家を使うことは悪いことは言わないので、やっておいたほうが良い。なぜそう言えるかというと、自分自身がバックオフィス系の仕事で苦労し、専門家を使って驚くほど楽になった経験があるからだ。
起業家はバックオフィス・管理系の仕事が好きでない人も多いしね。皆さんも参考にしてね。

起業や事業をしている皆さんのヒントになればと今回のインタビューで役立つポイントをまとめました。お役に立てれば嬉しいです!

ぜひ、この記事を拡散したり、他にも役立つ情報満載の創業手帳の無料登録してみてくださいね。

では、また。

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(取材協力: グランサーズ株式会社 代表取締役社長 筧智家至
(編集: 創業手帳編集部)



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