雑損控除は事業用資産でも申請可能?雑損控除を受ける条件や申請方法を解説

創業手帳

災害や盗難などによる被害に対して受けられる雑損控除。取扱いや申請方法を解説します。


自然災害や人的災害、盗難などによって財産の破損や損失があった時、その被害額から雑損控除額を計算し、所得から差し引くことができます。
ただし、雑損控除を受けるには条件があり、また事業用資産における破損・損失の扱いは気になるところです。

今回は、雑損控除について詳しく解説します。

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雑損控除とはどのようなものか


雑損控除とは、所得控除のひとつに数えられます。
地震や水害の自然災害、火災の人的災害に加え、盗難や横領などに遭った場合に発生した資産の損失を、その年の所得から差し引くことができるものです。

対象となる損失は、生活にかかる住宅や家財などの財産であり、趣味に使用するものや高額な貴金属、骨董品は除外されます。
これらの損失については、本人および生計を共にする家族に対しても適用され、確定申告を行うことで所得からの控除が可能です。

事業用資産は控除の対象外

雑損控除は、生活にかかる部分にのみ適用されるもので、事業用の固定資産や棚卸資産といった各種資産は対象外です。
事業用資産に損失を受けた場合、損失額は「災害損失」や「盗難損失」などの特別損失、または修復を行う場合は「修繕費」として経費計上します。

損害とみなされる事象について

雑損控除が適用される損害については、下記のような事象があります。

・自然災害
地震や水害に加え、風害・雪害・落雷のように、自然現象により起こりうる様々な災害を指します。
また、これらの災害の復旧、もしくは防止のために使用した備品の購入費用も含まれます。

・人的災害
例えば、火災や爆発など、人為的な事象から起きた災害の中で、予期できず被害の程度が異常な場合も、雑損控除の対象です。

・盗難
盗難に関しては、あくまで適用範囲は生活に必要である家財などのみであり、例えば通勤車は対象になりますが、レジャー用車は対象外です。
また、財産の損失について明らかな盗難と判断できず、損失したタイミングが測れないケースでは、単なる紛失とみなされ、対象に含まれません。

・横領
金銭の管理を任せている第三者に金品を横領された場合は、法律における判断によって適用されます。
ただし、経営者が従業員に管理を委任していることが証明できる場合に限ります。

・害虫、害獣による損失
シロアリの害虫やハクビシンの害獣などによって、居住用の建物に甚大な被害を受けた時も、雑損控除を受けることが可能です。

雑損控除を受けられる条件とは

雑損控除は、生活にかかる住宅や家財すべてに適用されるわけではなく、控除を受ける人について以下にあげる条件を満たしていることが必要です。

・所得税を支払う本人が所有するものであること
・上記の人と生計を共にする家族が所有するもので、家族の総所得金額が48万円以下であること(2019年以前では38万円以下)

雑損控除に含まれないもの

雑損控除の適用範囲の中に含まれないものについては、下記の通りです。

  • 自分の意思で財産を譲渡した詐欺もしくは恐喝などによる損失
  • 事業用資産
  • 生活に必要な各種財産であり、別荘や貴金属、骨董品のように生活の域を超えた趣味や娯楽のうち、個別の価格が30万円を超えるもの
  • 住宅といった生活に必要な財産の修復の際に、原状回復以上の価値や機能を付け加えた部分(資本的支出)

損害にかかる費用の範囲

雑損控除を受ける時、その損失にかかる費用にも範囲が設定されています。

  • 保険金以外で、損失に対して支払った各種費用
  • 住宅などの取壊しや撤去にかかった費用
  • 災害が落ち着いてから1年以内に、原状回復のために供した費用
  • 被害の拡大および再発を防ぐための対策費用
  • 盗難、横領にかかる損害を原状回復するための費用

基本的には、損失から原状回復するまで、またさらなる災害を防止するための費用が雑損控除として認められています。

雑損控除の計算方法


雑損控除に含まれる損害が、どれくらいの金額に匹敵するのか判断しづらいこともあります。そのために、雑損控除には決められた計算方法があります。

わかりづらい損失額を計算するには

損失を受けた金額について、明確でない場合には基本的にその財産の時価を鑑みて計算を行います。

また、住宅の場合は柱や床、屋根といった主要構造部に損失を受けた時のみ算出が可能です。
わかりやすい例では、時価1,000万円の住宅が全壊した場合、その損失額は1,000万円と簡単に求めることができます。
しかし、時価が判断できない場合や、半壊・部分的な損害の場合、損害がいくらになるのかは計算しづらいです。このような時、以下のような計算方法で損失額を算出します。

ちなみに、下記で使用する減価償却費は、財産の取得価額×0.9×償却率×財産の新品からの経過年数で求めることができます。
上記の計算式の中で、取得価額がわからない時は、それぞれのケース別に規定された計算方法を用います。

また、償却率や被害割合については、国税庁のホームページで確認できます。

・取得価額がはっきりしている時の計算式
財産の取得価額が明確にわかる場合は、以下の計算式で損失額を計算します。

(財産の取得価額-減価償却費)×被害割合

・取得価額がはっきりとわからない時の計算式
財産の取得価額がわからない場合、損害を受けた財産ごとに以下の計算式が適用されます。

※住宅
〔(1平方メートルあたりの工事費用×住宅の総床面積)-減価償却費〕×被害割合

この時、取得価額にあたる部分は、「建物の標準的な建築価額表」をもとに計算します。

※家財
家族構成別家庭用財産評価額×被害割合

家族構成別家庭用財産評価額とは、世帯主の年齢や家族の人数に応じて、家財の価値を概算するものです。こちらも、国税庁ホームページに掲載されています。

差引損失額を計算する

次に、雑損控除の金額を計算するために用いる差引損失額を計算します。差引損失額は、以下のように計算します。

損失額+損失にかかる最低限の支出額(修繕費など)-保険金・損害賠償金などの補てん金

この計算で算出された差引損失額を使用し、下記で説明する計算式に当てはめて雑損控除額を求めます。

具体的な計算方法の例

雑損控除額は、以下のように算出します。

①上記で求めた差引損失額-総所得金額×10%
②上記で求めた差引損失額のうち、災害にかかる支出額-5万円
①か②のいずれか多いほうが雑損控除額

ここで注意したいことは、②の「災害にかかる支出額」は、あくまで自然災害・人的災害に関する支出であって、盗難・横領のケースには適用されないことです。

では、前述の計算式を使って、実際に計算をしてみます。

・差引損失額の計算
損失額50万円、災害にかかる支出30万円、保険金による補てん分10万円とすると、計算は以下の通りです。

50万円+30万円-10万円=70万円

・雑損控除額の計算
ここでは、所得税を納める本人の総所得金額を300万円とし、雑損控除額の2種類の計算方法に当てはめます。

①70万円-300万円×10%=40万円
②30万円-5万円=25万円

そして、①と②では①のほうが金額が多いため、雑損控除額は40万円となります。

雑損控除額が所得金額を超える場合

雑損控除が適用される条件を満たし、その金額を所得から差引いて赤字になった場合、赤字部分は雑損失とみなされます。
この場合、翌年以降3年間にわたり所得と相殺(損益通算)する「雑損失の繰越控除」が利用できます。

そのため、もし赤字が出た場合は、この3年間のうち赤字額が相殺できるまで確定申告を行う必要があります。

事業用資産の損害を受けた時

事業用の固定資産や棚卸資産が損失を受けた場合、これにかかる費用は前述のように特別損失や修繕費として扱われます。
この金額を所得から差引いて赤字になる場合、赤字部分は純損失です。
純損失は、確定申告の際、基本的に翌年以降3年間の所得と相殺(損益通算)できる「純損失の繰越控除」を適用することができます。

これは、青色申告でも白色申告でも同様です。

大規模災害での事業用資産の損失には特例がある

東日本大震災などの大規模災害で事業用資産を損失した場合、被災事業用資産とされ特例が設けられています。
その内容は、前述の繰越控除の期間について5年に延長できるとするものです。適用には、以下のルールが設けられています。

  • 大規模震災による損失であること
  • 大規模震災により事業用資産の1割以上の損失を受けた時は、被災事業用資産の他に生じた純損失も合算できる

年収1000万円以下で適用される災害減免法


生活にかかる財産の時価の2分の1以上を災害により損失した場合、その年の総所得額が1,000万円以下であれば、災害減免法の適用を受けることができます。

雑損控除と何が違うのか

雑損控除も災害減免法も、災害による損失をもとに所得税を圧縮するものであることは共通していますが、それぞれに性質が異なっています。
その違いを、以下にあげていきます。

・総所得額の制限について
雑損控除に総所得額の制限はありませんが、災害減免法はその年の総所得額1,000万円以下の人にのみ適用されます。

・対象となる範囲について
雑損控除の対象は比較的幅広いものの、災害減免法は災害での損失のみが対象です。

・損失額の下限について
雑損控除額は損失額の下限は設けられていない一方、災害減免法は対象物の時価の2分の1以上の損失を受けていることが条件です。

・所得税の圧縮方法について
雑損控除では、確定申告によっていったん納めた税金から還付されますが、災害減免法の場合は確定申告で所得税額そのものを軽減します。

災害減免法による所得税の軽減割合

災害減免法を利用した場合、所得税の軽減には割合が決められています。その割合を、以下の表に示しています。

総所得額の合計 軽減・免除される所得税額
500万円以下 全額
500万円超~750万円以下 所得税額の2分の1
750万円超~1,000万円以下 所得税額の4分の1

雑損控除・災害減免法を受ける際に必要な手続きについて


雑損控除または災害減免法を受けるにあたっては、それぞれに必要な手続きがあります。

雑損控除・災害減免法を受けるには会社員も確定申告を行う

会社員は、通常雇用先で年末調整を行ってもらい、所得税の算出について自ら行う必要はありません。
しかし、雑損控除および災害減免法の適用を受けるには、年末調整とは別に確定申告を行わなければなりません。

どのような書類を用意するか

では、確定申告時にはどのような書類を用意すれば良いのでしょう。

・確定申告書
個人事業主の場合は、通常提出する確定申告書Bに組込むことができます。
しかし、会社員などで雑損控除・災害減免法のみを申告する場合は、確定申告書Aを使用すればより簡単に記入できます。

・り災証明書
災害による損失を受けた場合、その被害について証明される書類です。発行は、災害であれば自治体、盗難であれば警察で受けることができます。

・被害を受けた建物の詳細
建物が損失被害を受けた時は、登記簿謄本や固定資産税明細書、また土地所有者や取得価額の詳細がわかる書類を用意します。

・被害を受けた家財・車両などの詳細
家財や車両が被害に遭った場合は、取得価額や購入時期がわかる領収書もしくは契約書類などを用います。

・修繕費などの明細
被害を受けた財産について、取壊しや撤去、修理を含む修繕費の支出が発生した場合、工事の見積書や領収書を準備します。

・補助金を受けた場合は、その金額を証明するもの
保険金や補助金で補てんを受けた場合は、その金額が証明できる銀行口座通帳のコピーや、支払通知書を提出します。

上記の書類をそろえきれない時は

財産について何らかの損失を負った場合、上記の書類をそろえるのが難しいこともあります。
また、財産自体が古いものであったり、譲り受けたものであったりした場合にも、書類を用意するのは困難かもしれません。

このような時は、「被災した住宅、家財などの損失額の計算書」を使用し、損失額を計算すれば確定申告に用いることが可能です。
この書類は、国税庁ホームページからダウンロードすることができます。

確定申告書の書き方

雑損控除の場合

雑損控除の申告の場合、確定申告書第一表に「雑損控除」欄があるため、算出した金額をそこに記入します。

そして、第二表の「雑損控除」欄には、以下のような詳細を記載します。

  • 損害の原因
  • 損害年月日
  • 損害を受けた資産の種類など
  • 損害金額
  • 保険金棟で補てんされる金額
  • 差引損失額のうち、災害関連支出の金額

災害減免法の場合

災害減免法により申告を行う場合、まず確定申告書第一表における所得金額の計算で、所得の計算を行います。
次に、その所得額を前述の災害減免法の割合に当てはめ、第一表の「税金の計算」欄内の「災害減免額」に該当額を記載します。

確定申告の期限には注意しよう

確定申告の期限は、申告をしたい年の翌年2月16日~3月15日までです。(該当の期日が土日祝であった場合には、翌日に繰越し)
個人事業主は、確定申告は毎年行う作業であるため、そこに組込んで申告すれば良いです。

しかし、会社員などの給与所得者にとっては慣れない作業であることから、申告期限にはよく注意しておきましょう。

被災者のための延長措置

災害により損失を受けた人は、上記の申告期限までに手続きを済ませることが難しいケースもあります。
このような場合を想定し、以下のような延長措置が用意されています。

・大規模災害が起きた地域での延長措置
災害により、特に甚大な被害を受けた地域の住民に対し、確定申告の期間を延長します。

・個人が税務署に申告することによる延長措置
期限内の申告が難しいと判断した場合、「災害による申告、納付書の期限延長申請書」を税務署に提出すれば、災害が落ち着いてから2ヵ月以内に限り、期限の延長が認められます。
こちらの書類も、国税庁ホームページでダウンロードができます。

また、万が一これらの延長措置を申請できなかった場合でも、所得税の還付に関する確定申告については、向こう5年間にわたり行うことができるとされています。

住民税糖の減税を行う自治体もある

所得税の圧縮のほかに、自治体によっては住民税や固定資産税、不動産取得税などの減免および納税期限の延長を行っていることがあります。
この減税対応については、自治体により対応が異なるため、在住している自治体に一度確認してみることをおすすめします。

まとめ

雑損控除は、生活にかかる財産の損失について、決められた計算式によって金額を求め、控除を受けることができます。
そして、雑損控除額の計算方法には取り決めがあるため、その方法に従い金額を算出します。

また、雑損控除と並んで災害減免法も所得税を圧縮する方法であり、いずれかを選ぶことができるため、それぞれに計算して適切な方法を選びましょう。

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(編集:創業手帳編集部)

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