「採用モンスター」が語る、人事と組織づくりの極意 メイプルシステムズ人事部長・鴛海敬子インタビュー
株式会社メイプルシステムズの人事部長・鴛海敬子氏に聞きました
(2019/09/05更新)
社員の「キャリアファースト」を第一に掲げ、SES(システムエンジニアリングサービス)事業を展開しているメイプルシステムズ。エンジニアのキャリアアップのためには、1社に長年留まるのではなく、他社から求められるようなスキルを身につけ、様々な場所で活躍してほしい、という考えで「離職率100%」を目標としているユニークな会社です。
逆張りの発想で事業を急成長させてきた同社には、「採用モンスター」の異名を持つ名物人事部長がいます。その名も鴛海敬子氏。SNSなどを通じて自社の魅力を発信し続け、精度の高い採用で豊富な人材を獲得してきた鴛海氏に、人事としてのキャリアストーリーや、採用による組織づくりの秘訣、今後のキャリアプランについて聞きました。
アミューズメント業界での人事経験を経て、2017年11月に株式会社メイプルシステムズにジョイン。 人事責任者として年間68名のエンジニア採用を実現。従来の採用手法にとらわれない手法で採用を行ったことから、ついたあだ名は採用モンスター。2019年7月から個人で採用コンサルタントとして活動。採用ブランディング、採用設計など行う。2019年8月よりプロ人事と組織に課題を抱えている企業をマッチングさせるサービスをプレで開始。株式会社採用モンスターを創業予定。
「退職希望の人を引き留めるのは正義なのか?」人事の葛藤から選んだ道
鴛海:もともと代表の望月祐介と知り合いで、久しぶりにフェイスブックで連絡をとって飲みに行く機会がありました。
前職でも人事に携わっていたのですが、退職希望者が出た時に、引き留める面談の担当もしていました。仕事として引き留めるような話をするんですけど、仮に辞めたいと考えている人が自分の友達だったら、「3年働いたんだし、そろそろ転職すれば、きっといい年収になると思うよ。やってみなよ!」と背中を押したい気持ちになると思います。
個人的には「引き留めるのは正義じゃ無いかもしれない」という気持ちがあるのに、仕事としては口に出せないモヤモヤを抱えていました。
その気持ちを、そのまま望月に話したところ、望月がちょうどその時人事の担当者を探していて、「うちの会社は、卒業も応援するような会社にしていこうと思う」という話をしてくれました。退職する人を応援できるような会社であれば、面白く人事ができそうだと思い、入社を決めました
鴛海:人事全般担当しています。メインは採用で、組織作りにも携わっています。給与計算や労務は別でバックオフィスがやっているので、直接実務担当ではないんですが、労務に関わる調整をやることもあります。
鴛海:採用担当は「選ぶより選ばれる側である」ということを意識しています。入社してもらう時に「自社を選んでもらう」だけでなく、入社後も、「この会社を選んで良かった、これからも居続けよう」と行った形で、常に選ばれ続けるような対応を、人事で関わるすべての人に対してできるよう心がけています。
採用担当をしていると「こちらが人材を選んでいる」という気持ちになってしまいがちですが、実際は今売り手市場で、実は選び放題なのは求職者なんです。だから、求職者からちゃんと選んでもらうためには、真摯に、正直に向き合うことを大事にしています。
例えば面接に来た方を採用したい!と思っても、その人が他社からも内定をもらっていて、かつそちらの会社の方が求職者のキャリアにとって良い環境だと感じたら、「ウチではなく、そっちの会社の方がいいのでは?」と伝えることもあります。
自社の都合だけではなく、求職者にとってのベストアンサーも考えながら人事に携わっています。
鴛海:私はSNSなどでも採用のモットーなど発信してきたのですが、この話をTwitterなどで広めてくれる人がいたり、私のスタンスを知った上で会いにきてくれる人が増えるという好循環が生まれました。
採用活動において、「情報を出し惜しみしない」というスタンスが良いと思っています。例えば、結婚相手を選ぶにも、誰だかわからない人選ばないじゃないですか。相手の人間性だったり、趣味が合いそうだとか、いろんな情報を共有できた上で初めて、「この人好きかも?」と思うわけです。
採用活動も同じです。人事の人がこんな人で、こんな社員がいて、社長がこんな人で、会社としてはこんなことやってます、といった情報を、キレイな側面だけでなく全て惜しまず出すことによって、共感してくれる人が集まってきます。情報を出すことが、相思相愛度合いをあげることに繋がるのです。
人事が気にかけている労務のポイントはたくさんある
鴛海:就業時間とか法律に関わりそうな相談は、曖昧にならないようちゃんと確認してから回答するようにしています。会社に社労士もついているので、少しでも不安があれば確認します。労務面で曖昧だったり、間違った対応をしてしまうと、社員との信頼関係も崩れてしまうと思うので、そこは徹底していますね。
鴛海:例えば弊社ではエンジニアを招いたイベントなどを開催することがあるのですが、社員に協力を仰ぐときに、労働で換算するのか、任意のボランティアでお願いしていいのかは判断に迷いましたね。人事や広報、運営担当は業務として携わるのですが、任意で遊びに来る社員もいて、その人達にちょっとイベントの手伝いをしてもらった場合はこれって労働なの?と。
社員が退職したいという意思確認や、退職届の提出などの連絡を取れないまま退職になってしまった時に、不当解雇にならないよう正式な段階を踏むにはどうしたら…ということもありましたね。
あと、一部社員に任意で付けていた手当を廃止するときに、どのような流れで、フローで廃止するのが正しいのかという話は実際に社労士さんに相談しました。金銭に関する制度を変えるときは社員の9割以上の同意を得ないと廃止にできないことや、社員に合意を得るためにアンケートをとるなどの手はずを踏む必要があるといった判断を受けました。
こんな形で、折に触れて労務に関わる疑問や不安が出てくるので、気軽に相談できる専門家がいればなぁと思うことが多々ありました。
なので、TECC(東京圏雇用労働相談センター)という、無料で労務について専門家に相談できる場所があると知ったときには、もっと早く知っていれば!となりましたね。細かな疑問が出てきた時に、逐一専門家に持ち込んでいると、大きなコストがかかります。TECCさんでは、本格的に専門家が必要なのか、自社で対応できる範囲なのかといったことまで相談できるので、とても使いやすいと思います。
鴛海:今の会社は私が入ったときは30名ぐらいの小さな規模で、知名度も高くなく、最初のうちの採用は苦労しましたね。一人ひとりにスカウトメールを打って、「知らない会社かもしれないけど、いい会社なんで見ませんか」ってな感じで(笑)。とにかく地道に行っていました。
通常面接では企業が自社に求職者を呼ぶことが多いですよね。私は、逆に求職者に会いに行っていました。「もう何時の時間でも行くんで、ちょっとでも良いんで話しませんか」みたいな感じですね。優秀な人ほど「平日の夜は忙しいです」という人が多いので、「じゃあランチの時間、職場近くまで行くので、ご飯食べながらとかどうですか」とか、「朝、モーニングとか早めに来てどうですか」とか、なるべくこちらが相手のスケジュールに合わせて会いに行くみたいなことを意識してやってました。
人・物・金の「人」を一番大事にしている会社で働く大事さ
鴛海:人事の仕事は天職だと考えているので、今後も人事の仕事に携わっていきたいと考えていきます。進路については、ありがたいことに、退職を決めた段階で色々な企業様からオファーをいただいて、そのどれもが素敵な会社なので、組織に入るという観点だとすぐには選べないなと迷っています。
一方で、「事業を作って独立しては?」という提案をいただくこともあり、最近はそちらの道を真剣に考えています。
今スキルシェアをしたい人事と、人事でお困りの企業様をつなぐプラットフォームの事業を構想しています。『採用モンスターズ』というサービス名でプレで始めたところ、反響が良かったので事業化をしていこうと考えています。
採用や人事の手法が多様化していく中で、人事のスキルシェアが活発化していければ、様々な手法が組織に影響を与え、活性化し、業績アップにも繋がるのではと感じています。
今までは1組織に入って人事担当者として役割を担っていましたが、これからは今までの自分の知見を生かし、人事に困っている企業様を外側からサポートする立場として、多くの企業様のお役に立てたらと考えています。
鴛海:人が好きで、人・物・金・情報の中の人の部分を一番大事にしている経営者の方と一緒に仕事をしたいなと思っています。「自分は事業とサービスを作るのが好きだから、人事のことは任せた」みたいな経営者ではなくて、「どんなにサービスやプロダクトがあっても、人がいないと上手く回らないから、人事が絶対大事だと思ってる」というモットーの方と一緒に仕事をしていけるのが、自分が目指してる世界観と合うなと考えています。
組織づくりは「船の行き先」をしっかり示すことが大事
鴛海:先程話した内容と被るかもしれないんですけど、「人・物・金・情報のなかで、やっぱり人が大事」という意識が無いと、組織は大きくならないと考えています。組織が大きくならないということは、いくらいいプロダクトやサービスを作ったとしても、広める人がいないとグロースしません。
もちろん起業家の方は、まず作りたいプロダクトやサービスがあることが大前提ですが、一方で働く仲間を大事にし、メンバーが自分の事業を通じて市場価値を上げられる組織づくりをするためにはどうすればいいか、という視点を根本で持っておく必要があると思います。
弊社は「エンジニアの離職率100%」を掲げ、どこに出しても恥ずかしくない人材としてスキルアップができる会社というブランディングを打ち出したのですが、これで多くの採用ができたということは、エントリーしてくれた人たちに「ここに来たらエンジニアとして確かな技術を得られそうだな」ということが一番共感を得たポイントだと思います。
スタートアップとして最初規模が小さかったとしても、「この会社ではあなたのキャリアにとって、こんな経験ができて、市場価値を上げる上でこんな付加価値をつけられる仕事だから、一緒に頑張ろう」という具合に、現実的な価値を伝えながら仲間を呼び込める企業であれば採用力も高まります。
また、会社が大きくなってくると、経営者が末端の人全てにしっかりビジョンを共有するというのが難しくなってくるので、大きくなって来たときこそ社内ブランディングが重要になってきます。行き先がわからない船に乗るのは誰でも不安ですよね。「今ここに向かってる途中だよ」という情報がちゃんと共有されていれば、多少波があっても安心して乗っていられる。そういうことだと思います。
例えば最近、社員の結婚など社内で起きた出来事を3か月に一回くらいの割合で社長が動画にしてまとめて、社内で共有することを創業以来続けている会社を訪問しました。離職率が低く、大企業でキャリアを積んだ人も「この会社いいね」と入社してくれるそうです。社長が社員のことを大切にしている企業の良い成功例だと思います。そういう組織はやはり素敵ですね。
起業時の労務の悩みはTECCに相談しよう!
メイプルシステムズの鴛海氏も「もっと早く知っておけばよかった!」とオススメするTECCの利用はこちらから。
(監修:
TECC(東京圏雇用労働センター))
(編集: 創業手帳編集部)