「賃金の5原則」って知ってる?起業家が知らないとやばい労働環境の話

創業手帳

労働環境を整えることで得られるメリットとは

5principles

(2018/04/09更新)

スタートアップでは足りないお金と、多い仕事という状況でスタートすることが多いです。最初は勢いで仕事ができていても、会社が大きくなって社員を採用するようになると、社内体制を整えていかないといけません。

例えば、賃金の原理原則を知らないと、訴訟、助成金が受けられない、社会的信用、優秀な人材の確保に関してのリスクが付きまといます。

今回は、経営者が知らないといけない労働環境について、地方発・気鋭の社労士である荒木麻友氏にお話を伺いました。

荒木麻友

1970年鹿児島県薩摩川内市生まれ。
社会保険労務士リーガルオフィス所長。荒木麻友ナビオフィス代表取締役。
都市銀行10年を経て2003年から社会保険労務士として東京渋谷に事務所を構える。
2007年帰鹿。現在、県内外130企業に関与し、女性6人できめ細かいサービスを行っている。
得意分野は「採用コンサル」と残業時間削減等、ITツールを利用した「事務効率化コンサル」

絶対に覚えておきたい「賃金の5原則」

ー早速ですが、労働者と経営陣の間で、どんなトラブルが多いのでしょうか?

荒木:よくあるトラブルは、大きく分けて3つ。「労働時間」、「休日と有給休暇等休暇」、「賃金の未払い」についてです。

ー例えば、賃金のトラブルに関してはどんなケースがありますか?

荒木:そもそも口約束で、「言った」、「言わない」でもめるケースがほとんどです。
古くからいる社員というよりは、中途採用で入ってから3ヶ月から1年くらいの方が、よく相談に来られます。

残業代を払っていないケースについては様々ですが、悪気なく払っていないことが多いです。
過去訴えられた例をあげてみると…

1 お客様の為に自主的に残った時間は、誠意の問題なので残業ではないとしている。
2 タイムカードを押してから終礼をするのが慣習となっている。
3 朝の町内清掃や、会社内の清掃は人間をつくる修行としている。
4 失敗して居残る場合、反省文を書いたり、失敗について教えを頂く時間は残業ではないとしている。
5 日報は時間外に書くのが当然であると思っている。
6 家に持ち帰って仕事をさせれば残業ではないとしている。
7 朝の早出は残業でないとしている(夕方のみが残業)。
8 業務外の上司のお世話、例えば社長のスマホの設定など頼まれた時間は残業ではないとしている。
9 会社指示の道徳系の研修時間や、課題図書を読む時間、義務とされている感想文提出は自己啓発と考えている。
10 残業の上限を10時間など定めてそれ以上の残業時間はつけてはいけないというルールが存在する。

このような事例がありました。

ーあえてお伺いしますが、このような労働環境の整備をしていないことによって、どんなリスクが考えられるのでしょうか?

荒木社員から見ると、急な残業が多くあるため、予定を立てられなくなりますよね。また、本人の体調不良や、あるいは帰りが遅いため家族と不仲になって会社を辞めてしまったり、残業続きでモチベーションが下がったまま働いているケースもあります。
労働環境の整備を考えている経営者の方はその点を意識して労働環境を考えないといけませんね。

そして、会社から見ると、やはり訴訟のリスクがあります。最近では、労基署や労働組合、弁護士等に訴えられて、連絡が来るケースが増加しています。上記のようなケースは訴えられると負けてしまう可能性が高いです。

ーでは、労働環境の整備することで得られるメリットはなんでしょうか?

荒木:例えば私たちの事務所では、労働環境の整備と周知を徹底した結果、適正な労働環境を求めている良い人材を採用できるようになりました。

時間の制約があり働きたいけど働けなかった育児、介護中の優秀な方々、また能力があるにも関わらず残業があって前社で働き続けられなくなった方が応募して来るなど可能性が広がりました。

私たちでコンサルティングをやらせていただいた会社では、今まで社員1000人分の給与計算を手作業で行なっていたため、膨大な時間が掛かっていました。ですが、現在は電子タイムカードを導入したことで、作業時間は2名で3時間程度になりました。人件費の問題だけでなく社員のストレスも減り、より正確な給与支払いが可能となります。

つまり、労務環境を改善することで、優秀な人材の採用とコスト削減、社員のストレス減少につながるということです。

また、助成金を申請する際にも、労働環境の整備はとても重要です。
各種労働分野の助成金の申請時には、労働環境が整備されているかどうかを細かく見られます。
「就業規則」をもとに「雇用契約書(労働条件通知書)」が作成されていること。
「賃金規定」に基づいて、「タイムカード」を正確に計算した結果がきちんと「賃金台帳」(給与)に反映されていることなどがチェックされるので、労働環境の整備はしっかりやっておいたほうが良いですね。

ー労働環境を整備するにあたって、どんなところに注意すれば良いのでしょうか?

荒木まず経営者は「賃金の5原則」を正確に理解し、残業代は全て支払わなくてはならないと考えることです。その上で、残業ゼロに近づける努力をしましょう。

また、社員には「自分の給与の3倍稼がないと会社は成り立たない」という意識を持ってもらえるような環境を作りたいですね。その環境作りを、経営者はやっていくべきです。

ーちなみに、今お話に出ていた「賃金の5原則」とはなんでしょうか?

荒木労働基準法(24条)が定める賃金の支払いに関する5つの原則のことです。
以下の5つですね。

賃金は、通貨で払う
賃金は、労働者に直接払う
賃金は、全額払うこと
賃金は、毎月1回以上払うこと
賃金は、一定期日に支払うこと

賃金を支払う上での基本中の基本なので、労働環境を整備する上で絶対に覚えておきたいですね。

ー労働関係、賃金関係でエピソードがあれば教えてください。

荒木よくある勘違いとして、「理念や道徳系の研修時間は、業務ではなく人間教育という事で残業ではない」と考えている方がいらっしゃいます。
そのような考えは、前述した訴訟のリスクにつながる可能性があるので、改めたほうがいいと思います。

残業代についても「何ヶ月かに1回、まとめて払っている」、「ボーナスを払っているから帳尻はあっている」と考えている方がいらっしゃいますが、そうではありません。

先ほどご説明した賃金の5原則で「賃金は一ヶ月に一度全額払わなければならない」と決められています。残業代は、前払いは許されていますが、まとめて半年や一年後払いは認められないんです。その点もしっかり押さえておきましょう。

成功のためには「直接の努力」と「間接の努力」が必要

ーご自身も起業されたと伺いました。起業して大変だったことはありましたか?

荒木:すぐには利益が上がらなかったので、給与や各種支払いをする為の資金繰りに苦労しました。ですが、会社としての仕組みづくりを先に行なった結果、ある程度安定して仕事が取れる体制になりました。

仕組みづくりの一環で行ったのは、入社と同時に社員ファイルを渡すことです。
社員ファイルとは、労働条件通知書、業務指示書、研修カリキュラム、当社の評価シート(評価される基準表)、俸給表、就業規則、各種申請用紙など、入社時の必要書類から退職までに必要なものをまとめたファイル一式のことです。

このように紙に記載する事で、新入社員のやることや目指す目標が明確になり、努力する人が増え、辞めにくくなりました。

ー起業家が成功するうえで、大切なことはなんだと思いますか?

荒木:大切なことは、会社が永続するための仕組みづくりを考えることだと思います。
そのためには、「直接の努力」と「間接の努力」が必要です。

「直接の努力」とは、技術力、商品力、営業力、売上利益の獲得。対して「間接の努力」とは、価値観、人間性、モラルなどを向上させることです。具体的には勉強、自己啓発、組織の仕組みづくり、人脈作り、人材育成、健康づくりなどですね。

「「直接の努力」と「間接の努力」を同時期にどれくらい出来るかが、永続する会社になるかどうかの分かれ目である。」様々な企業を見てきた私は、そう思います。

売上だけを追う努力だけでなく、様々な仕組みを作っていくと良いと思います。

ーありがとうございます。それでは最後に、創業者・経営者の方にメッセージをお願いします。

荒木:安定というのは、ジェット機が前に進み続けて飛んでいる状態と同じだと思います。安定するためには、推進力となる努力が必要になるということです。

また、新しい自分に出会うため、常にチャレンジし続けていく事を楽しみましょう。
新しいことを始めると抵抗も大きいのですが、起業した時の思いを忘れないでください。

「正論では革命をおこせない。革命をおこすものは僻論」
「断じて行えば鬼神もこれを避ける」
西郷どんの言葉です。

恐れず、迷わず、捉われず、信じる道を進みましょう。

(取材協力:社会保険労務士リーガルオフィス 所長/荒木麻友ナビオフィス 代表取締役 荒木麻友)
(編集:創業手帳編集部)

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