全就連 萩原京ニ|日本の働き方を変えるために。執筆やラジオ出演、NPO立ち上げなど多方面で活躍

創業手帳
※このインタビュー内容は2024年04月に行われた取材時点のものです。

同業者にノウハウを提供。社労士事務所とパートナーシップを組むビジネスモデルとは


株式会社全就連は、10年以上の会社勤めを経て社労士事務所を開業した萩原さんが、「社労士事務所の経営コンサルティング事業」をするために設立した会社です。

同社では、顧客開拓や売り上げアップのためのツールを会員制で提供し、社労士事務所の経営をサポートしています。しかし、萩原さんの活動はそれだけにとどまらず、執筆やラジオ出演、企業と労働者の間での労働契約を支援するNPO法人の立ち上げなど、多岐にわたります。

今回は、萩原さんに社労士事務所を開業した経緯から、今後力を入れたい取り組みまでお伺いしました。

萩原 京二(はぎわら きょうじ)
株式会社全就連 代表取締役
早稲田大学法学部卒、東洋大学大学院博士前期課程修了。
(株)東芝、ソニー生命保険(株)勤務を経て、1999年社会保険労務士として開業。(株)全就連代表取締役。特定非営利活動法人労働契約エージェント協会理事長。
平均年商500万円と言われる社労士業界にあって、顧問先を持たず、職員を雇わず、たった1人で年商1億円を稼ぐ「カリスマ社労士」となる。
そのノウハウを体系化して、現在は「社労士事務所の経営コンサルタント」として顧客獲得や売上アップの支援サービスを提供している。
全国に200人超の会員組織を擁して、年収1000万円超えの社労士を多数輩出。
「日本でいちばん社労士を稼がせる社労士」として独自のポジションを確立している。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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保険をきちんと売るため取得した社労士資格で開業


大久保:起業までの経緯を教えてください。以前は会社にお勤めだったんですよね。

萩原:1986年に新卒で東芝に入社して約10年間勤務しました。その後、ソニー生命へ転職し4年くらい在籍しましたね。

大久保:東芝からソニー生命へと、まったく違う業界へ転職された理由をお伺いできますか?

萩原:父親が詐欺にあって3億円ほど失ったんです。サラリーマンの給料でお金を返すのは難しいので、稼ぐために完全歩合の生命保険の営業マンになりました。

大久保:ゼロから営業マンとしてスタートされたのですね。

萩原:もちろん生命保険を売るのは初めてでした。

だからまずは、「公的な社会保障でカバーされているところを勉強しよう」と考えて、社労士資格を取得したんです。

大久保:ソニー生命は普通の保険会社と違って、「コンサルティング営業」をしているイメージです。

萩原:そうですね。今でこそ当たり前ですが、当時は「ライフマネジメントまでしながら保険を売るスタイル」の先駆けだったと思います。だから営業マンは、パソコン上で簡単なシミュレーションもできました。

でも私はそれだけでなく、「病気になったときにでる傷病手当金」や「亡くなったときにでる厚生年金」など、既にカバーされている部分を伝えた上で、「あなたに足りないのはここです」という形で保険を売りたかったんです。

大久保:保険営業マンをしながら社労士の勉強をするのは、大変だったのではないでしょうか?

萩原:夜19時ごろから資格の学校へ通っていたので、夕方からの保険の商談ができないことには苦労しました。

でも私の周りには、社労士の資格を持って保険の営業をしている人はいませんでした。そのため資格を取れば道が開けると考えていたので、モチベーションの維持はできましたね。

大久保:社労士資格を取得された後に、起業をされたんですね。

萩原:ソニー生命を辞めて、社労士として開業したのが今から25年ぐらい前になります。

大久保:保険という市場は、ものすごいレッドオーシャンだと思います。その中で培われた営業ノウハウやマニュアルを、萩原さんはブルーオーシャンに持ってこられたわけですよね。

萩原:社労士はどちらかというと営業が苦手な方が多いので、ソニー生命で学んだ「お客様のニーズに合わせてカスタマイズする営業方法」は役に立ったと感じます。

人事コンサルタントとして企業の研修も担当


大久保:開業してからはいかがでしたか?

萩原:私が開業した1999年は、助成金バブルがスタートしたころでした。ところが当時は、「タダでもらえて返さないでいいお金」の助成金を、怪しいものだと思い込んで使う人が少なかったんですよね。

そこで私は助成金に特化した事業をしてみたところ、順調に伸びていきました。

大久保:その後、人事コンサルタントとして「マインドマップ研修」など、企業の管理職に向けた研修もされています。どのような経緯で人材育成へと事業を広げたのでしょうか?

萩原:先ほどお話した通り、社労士事務所を開業した当初は助成金に特化していたのですが、2〜3年後には次のビジネスを探し始めました。そこでやってみたいなと思ったのが「人事コンサルタント」です。

でも、当時の私にはコンサルタントのノウハウなんてありませんから、いろんなところへ研修を受けに行きました。

そうしているうちに、「人事コンサルタントのビジネスモデルはどうなっているのだろう」という疑問が湧いてきたんです。人事コンサルティングだけで儲かるのであれば、研修の主催者たちはなぜ研修を開いているのだろうと。

そこで気づいたのが、彼らは人事コンサルティングをしている企業の人材育成の部分も担当することで、継続課金のビジネスモデルにしているのだということです。

大久保:確かに、コンサルティングは1件でも契約を獲得すると大きなお金が入りますが、契約を取り続けるのは大変ですもんね。

萩原:おっしゃる通りです。新規のお客さんを取り続けるのは、とても難しいことです。

そのため人事コンサルタントになりたいなら、研修講師にもならなければと考えました。そこで、たまたまご縁があった産業能率大学で企業の研修講師の仕事をスタートしたのが、社労士から人材育成に事業を広げた経緯です。

大久保:人事コンサルタントとして、従業員を雇ったり投資したりすることなく、たった1人で年商1億円を達成されていますよね。

萩原:ありがとうございます。コンテンツ型で会員制のビジネスだからこそ、実現できたことかもしれません。

大久保:萩原さんのビジネスモデルは、資格を持つ専門職系で起業したいと考えている方のヒントになると思います。資格だけに頼るわけではなく、資格を活かして付加価値をつけたビジネスを展開されていますからね。

社労士事務所へノウハウを提供する「全就連」を設立

大久保:その後、全就連を立ち上げられたのですよね。

萩原:そうですね。最初に開業した社労士事務所を経営しながら、2008年に経営コンサルティング会社として立ち上げたのが「株式会社全就連」です。

全就連は、同業者へノウハウやツールを提供する「社労士事務所向けのコンサルタント」が中心になります。

大久保:同業者をライバルだと捉えて「ライバルにノウハウは教えられない」と考える人も少なくない中、なぜ同業者を相手にしたビジネスをしようと思われたのでしょうか?

萩原相手が同業者であれば悩みもわかるので、ビジネスが生まれやすいからです。社労士業界でも、私の他にも同業者にノウハウを教えている方はいらっしゃいますよ。

ただ、うちにしかない特徴もあります。それは社労士とパートナーシップを組んで、役割分担をしている点です。

つまり、私は直接お客さんを取らずに社労士事務所の方に取ってもらっています。うちはメーカーで、社労士事務所が代理店のようなイメージですね。パートナーと一緒に、中小企業の経営をしていくビジネスモデルです。

大久保:ノウハウやツールの提供は、どのような形でされていますか?

萩原:基本的に継続課金のビジネスとして、会員制モデルで提供をしています。

ノウハウを学ぶための講座を受けるには、シミュレーションツールやソフトが必要なのですが、会員になればそれらのツールを継続的に使える仕組みです。今は全部で12ぐらいの会員制モデルを運営しています。

サブスクモデル成功のコツとは?


大久保:継続課金ビジネスですから、サブスクモデルになりますね。サブスクを成功させるコツは何でしょうか?

萩原:うちで取り入れているのは3つです。

まずは「何かで縛って解約されにくくすること」。多くのサブスクサービスで、解約後にはツールを使えないようにして縛っていると思います。

2つ目は、コミュニティを提供するという方法です。うちでは、月1でのミーティングをしたり、チャットグループで情報共有できるようにしたりしています。

3つ目は、会員がお客さんに提供するためのコンテンツを作ることですね。

例えばうちの場合は、助成金の最新情報の動画を月に1回渡したり、メルマガを毎週送ったりしているのですが、会員はそれらをお客さんに売ることができるんです。

ですから、会費月額2万円ぐらいで手に入るコンテンツを、会員の社労士は1社に対して1万円などで売るわけです。もちろん、10社に売れば10万、20社に売れば20万になります。

このように会員が自分のお客さんにサービスを提供する形にしてしまえば、解約されにくくなると思います。

働き方が多様化する時代に求められる「労働契約の支援」


大久保:社労士事務所、全就連に続いてNPO団体も設立されておられますよね。

萩原:「労働契約エージェント協会」という特定非営利活動法人を設立しました。

こちらはどちらかというと私のライフワークとして、「会社と労働者の間に入って労働契約の締結の支援をする」をコンセプトに活動しています。

大久保:これまで労働契約において、会社と労働者の間に人が入ることはありませんでしたよね。

萩原:そうなんです。例えば、不動産の取引には宅建士が間に入って、重要事項の説明をしますよね。不動産取引は高額になるので、間違えがあってはいけないからです。

労働契約も年収で考えると500万円や1,000万円の契約です。生涯賃金でいうと2億円、3億円の取引になることもありますよね。にもかかわらず、雇う方も雇われる方も、法律やルールを正確には把握しないまま契約しているから、トラブルが起きるんです。

大久保:確かにかなり高額な取引なのに、法律を知らないまま契約している人が大多数かもしれません。

萩原:最近は働き方が多様化してきましたし、徐々に会社と個人が一対一で契約する「個人契約型」に近づいていくと思います。

将来的には会社と個人の間に立って労働契約締結の支援をするのが「社労士の役割」になるだろうと考えて、2018年に労働契約エージェント協会を立ち上げたのですが・・・ようやく時代が追いついてきたと感じています。

大久保:時代を先読みされていますね。

萩原:ちょうどこの4月から「労働契約の内容をもっとしっかりと説明しなければならない」という内容の法改正がされます。「労働契約締結の支援」は今後はますます需要が高まってくるのではないでしょうか。

大久保:労働契約エージェント協会は、労働者側なのでしょうか?会社側なのでしょうか?

萩原:完全に中立の立場で、対等な契約を支援しています。

大久保:採用するときに出ていくのではなく、すでに勤務している労働者と会社との間に立つイメージですか?

萩原:採用も最後は労働契約の締結の場がありますから、必要になると考えています。

昔は会社の立場が強いことも多かったと思いますが、働き手が少なくなった今は、労働者の立場が上であることも珍しくありません。だからこそ私たちは、どちらかの味方をするわけではなく、お互いの権利義務を尊重したウィンウィンな契約ができる社会を目指しています。

大久保:労働契約エージェント協会へ支払うお金は、どこから出るのでしょうか?

萩原:企業からいただく形になります。

私たちは弁護士ではないので、労働契約の代理人はできません。企業側の仕組みを労働者へきちんと説明して、質問が出ればそれに答える役割を担います。

大久保:非常に重要な仕事だと思います。この先「労働契約締結の支援」が必要不可欠になれば、国から助成金が出るようになるかもしれませんね。

萩原:今後の需要を鑑みて、労働契約が適正に行われることを支援する専門資格として「労働契約エージェント制度」を創設しました。ゆくゆくは、宅建士のように国家資格になれば嬉しいですね。

活動を通じて誰もが自分の働き方を選べるように支援したい

大久保:萩原さんは本をたくさん出されたり、ラジオに出演されたりもしています。こういった発信活動のメリットを教えていただけますか?

萩原:本は「ブランドになる」というメリットがありますね。

電子書籍が登場してからは気軽に本が出せるようになりましたが、初めて私が本を出版したころは、本を出して著者になること自体が、1つのブランドだったんです。特に「本を出している社労士」と「本を出していない社労士」は、世の中からの信頼度が全然違います。

だから信頼してもらうという意味で、本を出すのはメリットがあると思いますね。一方で、ラジオは趣味でやっている部分が大きいかもしれません。

大久保:今後力を入れていきたいことをお伺いできますか?

萩原「日本の働き方を変えるプロジェクト」で取り組んでいる3つの活動に力を入れていきたいですね。

1つ目は、先ほどもお話した労働契約エージェント協会での「労働契約締結の支援」です。

2つ目は、「中小企業に人事部を設置しよう」という取り組みです。

従業員が100名以下くらいの規模の中小企業には、総務や経理はあるものの、人事を専門に扱う部署はないことが少なくありません。

「企業にとって人は重要だ」「人的資本経営だ」と言われる時代ですから、中小企業にも人のことを専門に扱う部門を作ってほしいんです。そのため、人事部の設置や運用の支援をしていきたいと考えています。

3つ目は、働き手側への「ワークリテラシー教育」です。

働き方が多様化している今だからこそ働き方について誰でも簡単にWEB上で知識を身につけられるよう、「働き方デザインの学校」や「働くルール検定®」を作りました。

大久保:最後に、これから起業する方にアドバイスをいただけますか?

萩原:今私は開業の支援もしているのですが、お金の話は必ずします。「開業資金はきちんと準備しないといけません」と。

なぜなら、私自身も資金調達に苦労したからです。開業資金として200万〜300万円を用意してもあっという間になくなっちゃうんですよ。そして経営者が資金繰りのために飛び回るようになると、事業はうまくいきません。

開業資金だけでなく、銀行からお金を借りられるように財務体質を整えたり、税金をきちんと払ったりするのも大切です。節税を頑張るよりも、税金を払った方が手元にお金が残ることが多いんです。そのような財務会計の知識も、早くから身につけた方がいいと思います。

大久保:「これはやっておけばよかった」と思われることはありますか?

萩原:うちは社員が多くても3人くらいしかいなかったので当てはまらないのですが、組織を大きくしたいなら、人の管理は大事だと思います。

もし、採用や教育といったマネジメントが自分ではできないのであれば、それを任せられる、自分の右腕になる人を見つけるといいと思います。私もそういう人がいれば、違う事業展開ができたかもしれません。

大久保:ただ、萩原さんはシステム化して、最小限の人数で利益を上げられていますよね。

萩原人を増やす路線にするのか、コンパクト路線でいくのか。自分に合ったスタイルを選ぶのも必要ですね。


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(取材協力: 株式会社全就連 代表取締役 萩原 京二
(編集: 創業手帳編集部)



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