爆発的に売れ続ける巻き爪矯正器具「ネイル・エイド」 形成外科医が自ら矯正器具を開発した理由とは?

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巻き爪・陥入爪(かんにゅうそう)の矯正器具「ネイル・エイド」を開発し、今年、国内で初めて巻き爪・陥入爪の専門サイトを立ち上げられた簗医師に、矯正器具開発の苦労と専門サイト立ち上げの狙いを伺いました。

全国の大学病院でもめずらしい足の創傷治療やフットケアに力を入れている埼玉医科大学形成外科で、「巻き爪外来」を開設。現在は大学病院だけでなく、埼玉県内を中心に多くの病院で専門的な治療を提供する簗医師。金属加工会社との共同開発で生み出した巻き爪矯正器具「ネイル・エイド」は、僅か2年で累計2万個出荷を果たすヒット商品になりました。形成外科医自ら矯正器具を作り出した理由、巻き爪・陥入爪専門サイトを立ち上げた狙いを伺いました。

簗 由一郎(やな ゆういちろう)
合同会社ひまわりコーポレーション代表
【主な経歴】
平成15年 高知大学医学部卒業
平成17年 東京大学形成外科入局 関連病院勤務
平成19年 埼玉医科大学 形成外科勤務
【所属学会・資格】
日本形成外科学会(専門医)、日本美容外科学会、日本眼形成再建外科学会、日本リンパ浮腫治療学会(評議員)、日本フットケア・足病医学会

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少しでも多くの患者さんを診察するため大学を非常勤にして、埼玉県の複数の病院で勤務する道を選択

―医療関係者のためのサイトではないので、まずは読者のために、ご担当である形成外科医の対象疾患など、基本的な診療内容を教えてください。

:身体で生じた組織の異常、変形、欠損、あるいは見た目の不満足に対し、外科的な技術を使って再建修復を行うのが形成外科です。機能だけではなく、形を正常により美しくするもので、病気を治すというよりも、患者さんの生活の質、QOL(QualityofLife)に貢献する外科系の治療科ですね。

具体的には皮膚のできものを取ったり、体表の奇形を治したり、顔面骨の骨折なども治しますが、これが発展すると美容で骨を切ってあごの位置を変えるなんてことも行います。眼瞼下垂といって、まぶたを開くようにしたり、切断された手をつなげる、乳がんで乳房を取った後や、顔の悪性腫瘍を摘出した後の再建手術するなど、非常に幅広い症例に対応するという特徴を持っています。

―形成外科の中で、簗先生が巻き爪・陥入爪治療にとくに注目された理由を教えていただけますか?

:私が専門にしているのは巻き爪・陥入爪だけではなく、眼瞼下垂を代表とする眼形成外科、リンパ浮腫です。これらの分野に注目した理由ですが、困っている患者さんがたくさんいるのに、専門で診ている先生が非常に少なく、だったら私が診ようと勉強をしてきました。その中で、自然に患者さんが増え、いつの間にか専門になっていたみたいな流れになります。

眼瞼下垂なども最近は形成外科の分野として注目されるようになりましたが、10年くらい前は専門にしている形成外科医は少なかった。やっぱり、再建外科であるとか、子どもの奇形を治すことなどが形成外科の王道なんです。巻き爪も手術としては特殊な技術を使うわけではないので、形成外科医が専門としてやりたがる分野ではなかったですね。

―埼玉医科大学病院のほかに、埼玉県の複数の病院で勤務されていますが、こうした働き方をされている理由は?

:大学でずっとやって、アカデミックな分野を究めるという道もあったのですが、私は臨床で患者さんに接することが好きなんです。研究して論文を書いてというのが大学の大きな目的の一つですが、私は直接、患者さんを治して喜んでもらうことにやりがいを感じる人間なので。逆に大学で頑張るような先生は、手間のかかる外来を負担と感じる先生が多いですね。

ただ、大学にいれば最新の情報に触れることができますし、若い先生との交流の機会もあります。なので完全に辞めてしまうのではなく、非常勤という形で大学に籍を残し、それ以外の時間を埼玉県内の複数の病院で診療することにしました。開業することも考えたのですが、そうすると私の病院に患者さんが足を運ぶ必要があります。それは患者さんにとって大変なので、私がいろいろな病院を回って診療を行うスタイルになりました。

もともと、埼玉県は医者の数が少なくて問題になっているのですが、形成外科医はさらに少ない。私は以前医局長として人事を調整する立場だったのですが、よく形成外科医を派遣して欲しいという依頼を受けていました。そのときは、医局の形成外科医が少なく、なかなか派遣ができなかったのですが、非常勤になったことで、私自身がその依頼に応えて診察を引き受けることができますし、その延長がいまの複数の病院での勤務につながっている部分もあります。

なかなか理解が進まない巻き爪と陥入爪(かんにゅうそう)の違い

―巻き爪と陥入爪の違いについて、簡単にご説明ください。

:巻き爪は単純に爪が巻いている状態を指します。痛みがある場合も、ない場合もあります。巻いた爪が皮膚に当たって、刺激したり傷をつけたりするのが陥入爪です。また、よくお子さんで幅の広い爪の角が皮膚に当たって痛むことがありますが、このように爪が巻いていなくても、皮膚を傷つけ痛みがあるような症状は巻き爪ではなく陥入爪といいます。

世間一般では、爪が原因の痛みを巻き爪と呼びますが、皮膚に食い込んで痛いなら、それは陥入爪です。巻き爪という言葉に迷わされますが、巻いていることが痛みの原因でないのなら、巻き爪を矯正しても痛みは改善しません。皮膚に食い込んでいる部分を切るなり治療しないと、痛みを取り去ることはできないのです。

―爪先の痛み、イコール巻き爪と勘違いされている人は多いと思います。

:私も機会があるごとに巻き爪と陥入爪の違いを説明しているのですが、世間一般の知識不足を改善できないジレンマはあります。そもそも、病院でも専門知識をもって治療をしているところが少ないと感じます。高い治療費で矯正の必要のない爪にワイヤー矯正をやり続けたり、手術が怖いという患者さんに手術以外の方法を提示せずに、患者さんが何の治療も受けれずに悪化していくといったような相談を受けることもあります。

爪の角の食い込んでいる部分を外科的に取ってしまえば、痛みがなくなるケースは多いのですが、手術をしない病院だと塗り薬だけで何ヵ月も治らない状態が続いたり、矯正をメインにやっている施設だと、手術を勧めず矯正をずっとやり続けるといったことにもなります。こういった必ずしも適切とはいえない治療が行われている背景には、爪が巻いているだけだと疾患として認められず健康保険の適応とはならないことや、そもそも健康保険で認められている巻き爪の矯正治療はないという現状があるためかなとも考えています。

巻き爪の矯正治療は、患者さんの全額自己負担が必要な自費診療になりますが、健康保険の治療をメインで行っている医療機関では採用しづらい部分もあると思います。また、陥入爪に対する外科的な処置や手術による治療は健康保険の適応になりますが、他の処置や手術に比べて診療報酬が低く、適切な価格が設定されていないという点も、医療機関で巻き爪の治療が広まらない利用の一つと感じています。そのような状況で、患者さんの利用が増えているのが接骨院やフットケアサロンなど非医療機関による巻き爪の補正。チェーン展開などもされていて、結構流行っています。

もちろん、巻き爪で困っている方の少しでも助けるになるといった視点では、個人的にはこういった施設も近くにあれば利用することは悪くないと思っています。ただ、巻き爪の矯正治療は、足の環境が変わらなければ再発する場合がほとんどです。また足の環境を変えるとひと言でいっても現実的には難しい場合が多いです。つまり、ずっとケアが必要になり、保険適用外の矯正にお金を払い続けなければなりません。症状を繰り返す患者さんに手術を勧めてくれればいいのですが、定期的にケアを続けてもらうことを目的としている施設では、それもなかなか難しいという事情もあるようです。

―必要なのが矯正なのか手術なのか、なにか目安のようなものはありますか?

:私が運営する「専門医と学ぶ巻き爪・陥入爪治療の相談室」というサイトの中で、テーピング法やコットンパッキング法などセルフケアについて紹介しています。まずはこうした方法を試してみて、効果が得られなければ矯正をする。すぐに再発するようなら手術を検討するという流れがいいかと思います。矯正した後、どのくらいの期間で爪がもとに戻ってしまうかにはかなり個人差があるので、もしその間隔が長いのなら、手術をせずに定期的な矯正で対処するという方法もありかと思います。

高い費用を払いながら矯正を続けてきた患者さんが、専門医の存在に気づき、私のところに来ることもよくあります。手術をすると、「こんなに簡単に痛みが取れるなら、もっと早く先生のところに来ればよかった」と、複雑な表情をされるんです。短い期間で何度も矯正をされているような方は、一度、専門医を受診されることをお勧めしたいですね。

(左)テーピングによるセルフケア(中・右)コットンパッキングによるセルフケア

コロナ禍でのリモート出社や外出自粛が巻き爪に影響するケースもある

―コロナ禍でリモート出社になったり、外出自粛などで、運動したり、歩く時間が減っている人が多くなっています。こうした環境が爪に影響を及ぼすことはありますか?

:実は少し懸念しています。もともと爪には巻こうとする性質があるのですが、歩行などをすることで足の底面からの圧力でバランスを取ることができます。個人個人の骨格の影響が大きいのですが、外出自粛で歩く機会が減り、そうした影響が爪に出てしまう人もいるはずです。影響の出方は本当に個人差が大きいので、そこが難しいところなんですが。

懸念しているのはリモート出社が解除になり、会社に行くようになったときです。巻き爪が進んでいても、靴を履かなければ症状に気づかないことも多く、リモート前と同じ靴なのに爪先が痛くなる方が増えそうな気がしています。適度に歩くことも大事ですが、もっとお勧めなのが自分に合ったインソールを作ること。土台となる足の接地面が安定することで、矯正の効果を長く持続できる可能性を高めてくれます。

自分に合ったインソールを作る施設はまだまだ少ないと感じています。私が巻き爪治療のアドバイザリー医師を務めている「足のクリニック表参道」の院長先生は、巻き爪を含めた足の治療に熱心で、オーダーメイドのインソール作成を手掛けています。また、知り合いの先生で足の総合診療医として、web上でオーダーメイドのインソールを作成するサイトを運営し、とても熱心に足の研究をされている先生もいます。将来的には私のサイトから、こうした先生たちと連携できればいいなとも考えています。

営業がきっかけで始まった「ネイル・エイド」の開発

―巻き爪矯正器具のネイル・エイドについて教えてください。形状記憶合金加工の技術を持つアクトメントさんとの共同開発と伺っています。

:ネイル・エイドができる前の私は、非常に困っていたんです。従来の矯正器具の多くは単回使用(1回しか使用してはいけない器具)で、装着するたびに器具の費用を患者さんに請求しなければならなかった。矯正にはとても時間がかかりますし、それなのに、外来の患者さんはどんどん増えていく。もっといい矯正器具があればなとは思っていたのですが、といって、具体的にこんな矯正器具が欲しいというアイデアがあったわけではなかったのです。

開発のきっかけは、アクトメントさんからの営業です。巻き爪用の矯正器具を使ってくださいと渡されたのが、名前はいまと同じネイル・エイドですが、使ってみると非常に扱いづらい。これでは使えない、ではどうすれば?というやり取りを繰り返し、何度も改良をして完成したのが現在のネイル・エイドなんです。強度を持たせないと矯正ができませんし、強すぎると扱いづらい。開発には時間も手間もかかりましたが、素晴らしい器具ができたと思います。

(左)ネイル・エイド (右)爪に穴を開けず簡単装着

―従来、先生が治療で使われてきた矯正器具に比べて、ネイル・エイドの優れた点を教えていただけますか?

適用の幅の広いところが、もっとも優れた点だと思います。従来の矯正器具も、あるピンポイントの爪の状態では使えるのですが、そこから外れると使いずらいという欠点があります。器具を販売している通販サイトには、購入者の評価が出ているのですが、高評価と低評価が両極端で、使える人にとっては非常にいい器具であり、それ以外の人にとってはまったく役に立たない器具なんです。

これに比べると、ネイル・エイドの購入者評価は大部分が高評価で、少ない低評価もコメントを読むとほとんどが破損か紛失です。医療関係者がネイル・エイドを使用すると、破損することはほぼないのですが、一般の方が使用すると、数パーセントの割合で破損してしまう。装着方法はYoutubeなどでも紹介しているのですが、力を入れすぎたり、捻ったりしたときに破損することがあるようです。コメントはすべて確認していて、交換に対応しています。高評価のコメントにも、もちろん目を通しています。喜びや感謝の言葉は、とても励みになりますね。

―2021年3月時点の出荷数が2万個を突破したそうですが、この出荷数というのは、先生の目標を上回るものですか?

ネイル・エイドは2019年に通販サイトで販売を開始したのですが、これは予想を大きく上回る数字でした。販売開始から3ヵ月くらいで在庫がなくなってしまい、慌てて増産して対応をしたんです。ネット販売はYahooでスタートして、その後、楽天、Amazonと購入可能なサイトを増やしてきました。

楽天のショップにて高い評価を受けているネイル・エイド

巻き爪外来の専門医が、国内で初めて巻き爪・陥入爪の専門サイトを立ち上げる

―先ほど紹介していただいた「専門医と学ぶ巻き爪・陥入爪治療の相談室」というサイトですが、巻き爪・陥入爪の専門サイトを立ち上げられた狙いは?

啓蒙とネイル・エイドの販売促進です。やはり、まずは巻き爪や陥入爪の知識をしっかり広めたい。また、ネイル・エイドで救える人がまだまだいると思うので、この矯正器具をより多くの人に知って欲しいと思っています。

ネイル・エイドの販売で儲けたいとか、あまり考えてはいなくて、ネイル・エイドを使うことで、安価に痛みから解放される人を増やしたいという想いが強いです。海外でもこの矯正器具が助けになる方はたくさんいるはずで、将来的には国内だけではなく、より多くの方にネイル・エイドを活用して欲しいと願っています。

巻き爪・陥入爪の専門サイト「専門医と学ぶ巻き爪・陥入爪治療の相談室」

―事業を行う合同会社ひまわりコーポレーションは、簗先生が代表社員を務められている法人ですが、会社立ち上げを合同会社にされた理由は?

:サイトを作る計画もありましたし、売り上げも出てくるということで、個人よりも法人にした方がいいかと考えて、2018年10月に合同会社ひまわりコーポレーションを創設しました。株式会社にしてもよかったのですが、合同会社にしたのは立ち上げ時のコスト面を考えての判断です。

医者の法人立ち上げは、開業医では結構あると思いますが、勤務医では珍しいんじゃないでしょうか。大学の先生たちは、「簗が面白いことやってるな」みたいな感じで、拒否反応はありませんし、みなさん、興味はあるみたいですよ。

―専門技術と知識を生かし、事業をしっかり軌道に乗せられていますが、もしよかったら、創業手帳の読者に事業を成功に導くためのアドバイスまたはメッセージをお願いできますか?

:会社を作ることは、全然大変ではありません。会社を作ったことで、やる気にもなりますし、もし迷っているんだったら行動した方がいいと思います。医者も論文作りとか学会の発表の準備とか、やり始めるまでは気乗りがしないんです。人間の脳みそって、やり始めることによって、やる気のホルモンとかが出てくるらしいです。なにかを始めるまでは気が重いことも多いと思いますが、やり始めることで回っていくこともあるはずです。

私も事業として頑張ろうと決めて合同会社を作りました。作らなくても結果として大きく変わらなかったかもしれませんが、振り返ってみると、会社のために、どうやってネイル・エイドを売ろうかと一生懸命に考えましたし、迷いながらも、まず会社を作るという行動を起こしたことが、いまにつながっていると感じています。創業手帳の読者さんも、迷っているなら、まずは行動することをお勧めします。

―ありがとうございました。
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(監修: 合同会社ひまわりコーポレーション/代表 簗 由一郎
(編集: 創業手帳編集部)

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