役員退職金の経費算入の条件や時期は?計算方法や仕訳方法なども解説

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役員退職金は経費に算入できる


会社を退職する際、役員に対して「役員退職金」の支給が可能です。
その際には、全額を経費に算入できるため、法人税を節税できるといった魅力が企業側にあります。
しかし、退職金を高額にしてしまえば資金繰りの悪化を招き、税務調査で否認される可能性もあるため注意が必要です。

そこで今回は、役員退職金の概要について解説すると共に、メリットやデメリット、経費にできる条件や参入時期などをご紹介していきます。
経費処理の方法や役員退職金を決める際に役立つ計算方法についても解説していくので、役員退職金について理解したい人は参考にしてください。

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役員退職金とは?


会社を退職する際に支払われる給与を退職金といいます。
退職しなければ支給されない給与となり、退職後に雇用主から一括または分割で支給されます。
一般的な退職金であれば、企業による就業規則に記載されている規定に基づいて支給される仕組みです。

一方、役員退職金は取締役や監査役、執行役や会計参与といった役員が会社を辞める時などに支給される退職金です。
一般的な退職金とは異なり、就業規則の規定に関わらず支給することができます。
しかし、支給する際には株主総会での決議が必要になるほか、会社の定款で定められているケースもあります。
決議がスムーズに進まなかった場合には、役員退職金を支給することができません。

また、2011年に実施された税制改正によって役員退職金の取り扱いが見直されています。
役員退職金を企業が支給する際には、形式的な退職ではなく下記のような退職の事実が明確である必要があります。

  • 常勤の役員ではなく非常勤の役員になった
  • 取締役から監査役になった

役員の地位や職務内容の変更などによって役員報酬が減少したといった場合だけでは退職金を支給できません。
勤務状況から役員が退職した事実を明確に確認できるようにする必要があります。

【企業側】役員退職金のメリット・デメリット


役員退職金を支払う際に企業側が受け取れるメリット・デメリットは以下の通りです。

メリット

役員退職金を支払うことで企業側が得られる最大の利点が法人税の節税効果です。
法人税は、「益金-損金=所得×法人税率」で算出できる仕組みです。
企業が支給した役員退職金は全額が損金として参入できるため、所得を圧縮することができ、法人税の節税につながります。

また、役員退職金は標準報酬月額には含まれません。
そのため、社会保険料の適用対象外となり、企業側は社会保険料を納付する必要がない点もメリットです。
人材の確保やモチベーションの向上も企業側が得られるメリットの1つです。
人材を確保する際や従業員を役員に昇格させる際、あらかじめ退職金の支給を約束しておけば、優秀な人材を役員として長期的に確保しやすくなります。
既存の役員のモチベーションを高めることも期待できるでしょう。

デメリット

役員退職金にはメリットがある一方、下記のようなデメリットもあります。
その1つが資産の流出です。当然ながら、支給した退職金の分の資産が減少します。
そのため、資金繰りが難しい企業の場合は、財務状況に大きな影響を与える危険性があります。

また、前述したように役員退職金を支給する際には一般的に株主総会での承認が必要です。
この過程において、株主間で意見の相違や対立が起これば、会社の内部統制に影響を与える危険もあります。
職務環境が悪化する懸念もあるため、人材流出にもつながってしまいます。

退職金の額が不相当に高額だと判断されれば、税務調査の対象にもなるので注意が必要です。
その場合、損金算入が認められないケースもあります。追徴課税となれば財務に影響を与えるので注意してください。

【役員側】役員退職金のメリット・デメリット


続いては、役員退職金を支給された役員側のメリットやデメリットを解説していきます。

メリット

役員退職金は税務上退職所得に該当するため、受け取った役員側には所得税が課せられます。
「税負担が多くなる」と考える人もいますが、退職所得には退職所得控除があります。税務上優遇されているため、税負担が軽い点が特徴です。
役員退職金の所得税は以下のような計算式で求めることができます。

退職所得額=(収入金額-退職所得控除額)×1/2
所得税=退職所得額×所得税率-所得控除額

退職所得控除の計算は、勤続年数によって異なります。

  • 勤続20年以下:40万円×勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)
  • 勤続20年超:800万円+70万円×(勤続年数-20年)

退職所得は、給与所得の計算と比較して課税対象となる所得額が少なくなります。
そのため、支給額が同等でも役員報酬として支給するよりも役員退職金として支給したほうが税額を抑えられる仕組みです。
税負担が軽くなる点は、役員側にとって大きなメリットとなります。

デメリット

役員退職金を受け取った役員側のデメリットは特にありません。
万が一、退職金額が法人税法上過大だと判断されたとしても、所得税法上退職金に該当する額を正しく納税したのであれば、受け取った役員側が負担する納税額に影響はありません。
企業側が指摘を受けた場合でも納付すべき所得税額は増えないので安心してください。

役員退職金を経費にできる条件や算入時期


次に、役員退職金を経費にできる条件や算入時期をみていきます。

役員退職金を損金にできる条件

損金にできる条件を知るためにも、損金への算入が認められないケースを解説していきます。
1つ目は、退職金額が不当に高額な場合です。役員退職金額には上限に定めがありません。
そのため、自由に金額を決めることができますが、適正と認められる範囲を超えた金額を支給している場合は、損金算入の対象とはならないケースもあります。
下記で紹介する「役員退職金を決める際に参考になる計算方法」を参考に支給額を検討し、不当に高い額を支給しないよう注意してください。

2つ目は、退職の事実がないと認められた場合です。前述したように役員退職金は退職する役員に対して支払われる退職金です。
そのため、退職の事実がなければ役員退職金として認められません。
「常勤の役員ではなく非常勤の役員になった」「取締役から監査役になった」以外にも「任期満了で役員を退任した」「病気や死亡等によって役員ではなくなった」といった例が退職の事実として認められます。

損金算入時期は退職金額が確定した日に属する事業年度

退職した事実が認められ、退職金額も適正だと認められれば役員退職金を損金算入できます。
損金に算入する時期は、原則として株主総会の決議などによって退職金額が具体的に決定した日に属する事業年度です。
例えば、4月~翌年の3月が会計期間であれば、2025年5月の株主総会で退職金額が決定した場合、2026年3月期に損金算入をする仕組みです。

退職金を支払った事業年度や未退職でも算入できるケースもある

企業が役員退職金を支給した事業年度に損金処理をすれば、退職金を支払った事業年度を損金算入時期にすることが可能です。

また、役員が退職していなくても法人の使用人が役員に昇格した際に支給する退職金は、損金算入が認められています。
退職給与規定に基づき、使用人だった期間の退職金として計算される金額を支給した場合、支給した事業年度に損金算入が可能です。

役員退職金の経費処理方法


続いて、役員退職金の経費処理方法を解説していきます。

役員退職金の勘定科目

役員退職金の勘定科目は「役員退職金」もしくは「役員退職慰労金」が一般的です。ただし、会社によって勘定科目は異なります。
上記以外の科目で仕訳しているケースもあるので注意してください。

ケース別・役員退職金の仕訳例

役員に退職金を支払った時の仕訳例をケース別に紹介していきます。

決議後すぐに退職金を支給した場合

役員が1名退職することになり、800万円を退職金として支給することが株主総会で決議された場合の仕訳例は以下の通りです。(源泉徴収あり)

借方 貸方
退職金 8,000,000円 預金 7,211,278円
預り金 788,722円

決議後すぐに退職金を支給しない場合

役員退職金は退職後に支給されるのが通例です。しかし、会社によっては諸事情によって支給時期がずれ込むケースもあります。
その場合、税務上は退職から3年以内に支給が確定すれば退職金として処理できると言われています。
ただし、意図的な後ろ倒しは利益調整と認められる可能性があるので注意してください。
すぐに退職金を支給しない場合の仕訳例は以下の通りです。

この場合の仕訳は、上記仕訳例の貸方を「未払役員退職金」として仕訳を行ってください。

引当金として計上する場合

役員に対して支給する役員退職金に対して、引当金を計上していた場合の仕訳例は以下の通りです。
毎月10万円を積み立てる場合には、以下のような仕訳例となります。

借方 貸方
役員退職引当金繰入額 100,000円 役員退職引当金 100,000円

役員退職金を支給するなら規定を作成しよう


役員退職金に関しては、退職金規定の作成は必須ではありませんが、作成しておけば支給基準が明確化します。
規定が必要な理由や規定づくりのポイントを解説していきます。

役員の退職金規定が必要な理由

役員退職金をする際、規定を作成しておけば税務否認を回避できる可能性があります。
退職金を支給する際、支給額が不適切だったり適正な手続きを踏まなかったりすれば、税務署は損金算入を認めない場合もあります。
退職の事実がないほか、支給額が高額だった場合です。上記の場合、法人税や所得税に影響を及ぼす可能性があります。
あらかじめ規定を作成し、適正な手続きを守れば税務否認の回避に効果的です。

また、役員間のトラブルを防ぐことにも役立ちます。規定を作成して評価基準が明確化していれば、透明性の高い退職金制度を構築できるでしょう。
社内の信頼関係を維持するだけではなく、会社運営の円滑化にもつながるため、退職金規定の作成を検討してみてください。

役員退職金の規定づくりのポイント

退職金規定づくりでは、以下のポイントに注意してください。

  • 適用範囲の明確化
  • 支給基準の設定
  • 支給金額の設定
  • 減額や不支給規定
  • 改廃規定の設置
  • 財源を確保するための方法

上記ポイントを押さえて規定を作成すれば、不公平感やトラブル防止に役立つだけではなく、税務対応の基盤整備にも役立ちます。

役員退職金を決める際に参考になる計算方法


役員退職金は退職金規定を定める必要がありません。
しかし、役員とのトラブルを防ぐために前もって役員退職金規定を作成して計算方法や支払い方法などを記しておく企業もあります。
ここでは、役員退職金を決める計算方法として挙げられる「功績倍率法」と「1年当たり平均法」を紹介していきます。

功績倍率法

役員の最終報酬月額を基準にして役員退職金を計算する方法が功績倍率法です。一般的に使用される方法で、以下のような計算式によって計算されます。

役員退職金額=最終報酬月額×勤続年数×功績倍率

功績倍率は、役員の役所に基づいた倍率を指します。
功労倍率の相場は以下の通りです。

  • 代表取締役(創業者):3.0~3.4
  • 代表取締役:2.4~3.2
  • 専務取締役:2.2~2.7
  • 常務取締役:2.0~2.6
  • 取締役:1.2~2.0
  • 監査役:1.0~1.6

代表取締役は取締役の功績倍数よりも高くなることが一般的です。
最終報酬月額が60万円だった取締役が、30年勤務した会社を退職する場合の計算例は以下の通りです。(功績倍率は2.0)

60万円×30年×2.0=3,600万円

上記3,600万円を役員退職金として支給します。特に大きな功績を残した役員は役職金額の30%ほど「功労加算金」を追加する形で支給することも可能です。
功労加算金は、以下のように算出できます。

功労加算金=役員退職金額×30%

30%は一般的に定められている上限割合となり、明確な制限はありません。

1年当たり平均法

類似する役員の退職給与の1年当たりの平均額に支給対象役員の在籍年数を乗じて計算する方法が1年当たり平均法です。
紛争処理といった特段の事情がある際に用いられる方法です。
以下のような計算式で退職金を導き出せます。

役員退職金額=1年当たり退職金×勤続年数

例えば、類似する役員の退職金が200万円で勤続年数が8年だった場合、退職金は以下の通りです。

200万円×8年=1,600万円

まとめ・役員退職金は適切な金額を設定して経費に算入しよう

役員の退職金は法律上、支払う義務はありません。支払う場合には、会社法に基づいて株式総会での決議が必要となります。
支給額や条件が明確化されていない場合には損金算入の否認や役員間でトラブルが起きる可能性もあるので注意が必要です。
トラブルを防ぐためには、役員退職金規定の作成を検討してみてください。

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(編集:創業手帳編集部)

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