法人と個人事業主の違い~税金・会計に関する違い編~
法人と個人事業主で税金・会計面の異なるポイントを知っていますか?
「事業を始めたいけれど、法人がいいのか?個人がいいのか?」このような疑問を持つ人は実に多い。
また、「個人事業主なんだけど、法人設立すべき?」というように、すでに起業して個人事業を営んでいるが、法人を設立して個人事業主から法人に移行(法人成り)した方がよいのか悩んでいる方もいるだろう。
今回は、そんな悩める起業家や起業家予備軍、個人事業主のために、法人と個人事業主とで会計面や税金面でどういったことが異なるのかをまとめてみた。
創業手帳の冊子版(無料)では、法人設立後の会計や税務について、さらに詳しく解説しています。法人を選択した場合に必要な情報をまとめていますので、記事とあわせて参考にしてみてください。(創業手帳編集部)
この記事の目次
法人設立でかかるお金
個人事業を開始するには、手続き上は届出関係を税務署に提出するのみだ。
法人設立の場合は、まずは法人登記が必要だ。定款作成から登記まで、一通り司法書士に依頼すれば30万円ほどが必要になる。細かいことだが、その他に法人印の作成なども必要となるし、ある程度の期間と出費が必要になる。
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税金関係の届出に関する法人と個人事業主の違い
以前、紹介したが、法人の場合は、法人を設立後、税金関係では次の届出をするのが一般的だ。
- 法人設立届出
- 青色申告の承認申請
- 給与支払事務所等の開設届出
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法人設立・開業の届出
法人を設立した場合には、税務署や都道府県税事務所、市区町村への「法人設立届出書」の提出が必要となる。法人設立届の手続きは、法人設立後2か月以内だ。
一方、個人の場合は、「個人事業の開業等届出書」を提出する。個人の場合は法人と異なり、事業開始後1ヶ月以内に提出する。
青色申告の承認申請書
「青色申告の承認申請書」は、法人設立後3カ月以内に提出する必要がある。個人事業主の場合は、所得税関係で「所得税の青色申告承認申請書」を提出する。「所得税の青色申告承認申請書」は事業開始から2月以内に提出する。
給与支払事務所等の開設届出書
給与支払事務所等の開設届出書は法人も個人も同じ様式を使用する。
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課税に関する法人と個人事業主の違い
個人事業主は赤字だと課税されない
個人事業主は他に所得がなく、事業が赤字であれば、所得税はもちろん、住民税の均等割も課税されない。
住民税の内訳は、所得の金額によって課税される所得割と、所得金額にかかわらず定額で課税される均等割からなる。
法人は赤字であっても税金を支払う
法人の場合は、事業が赤字であっても住民税の均等割は納税しなければならない。資本金等の額が1千万円以下、従業者数50人以下という一番小さい枠に該当したとしても、決算から2か月以内に7万円を支払う。
資本金や従業者数が大きくなればなるほど、均等割額も大きくなる。また、支店を出せば支店ごとに均等割がかかってくるので要注意だ。
また、ベンチャーを起業したとしても創業当時に資本金が1億円ということはめったにないと思うが、事業が順調で増資した結果、資本金が1億円を超えてくると外形標準課税の対象となる。
外形標準課税とは、資本金・売上高・事業所床面積、従業員数など、事業規模を外観から判断できるものを基準の課税ベースとして税額を算定する課税方式のこと。
法人と個人事業主が確定申告する難易度の違い
個人事業主の確定申告は自分でやっている人も多い
個人事業主は、毎年2月から3月に苦しみながらも、自ら確定申告することも多い。処理量は多くとも、収入や経費の計上についての判断がそれほど難しくない場合が多いためだ。
法人の確定申告は専門家に依頼がベター
法人の場合は、経理や会計について専門の知識や経験がなければ、本を読みながらでも確定申告書を作成するのは大変である。
まず、各別表(税務申告には複数の書類を作成して提出する必要がある)の連動性を理解することが難しいからだ。
また、財務会計と税務会計での収入(法人税法上は益金)、経費(法人税法上は損金)の意味が異なる部分の理解が難しいという理由も大きい。例えば、財務会計上は経費として計上しているが、法人税法上は損金としないものがある。
個人事業の場合は収入から経費を除いて利益を出せば、簡単に所得が求められたが、法人の場合は財務会計上の利益と法人税法上の所得が異なるため、財務会計上の利益を調整して税法上の所得を算出しなければならない。
よって、専門知識や経験が無い場合は自分で申告するのは難しいため、法人の場合、最低限、決算時にはある程度の報酬を支払い、税理士など専門家に確定申告を依頼することとなる。
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【参考】ベンチャー起業家が覚えておくべき3つの会計
- 財務会計
株主や融資元などの外部の利害関係者に対して企業の経営状況を開示することが目的の会計。金融商品取引法・会社法などの法律や会計基準に基づいて財務諸表を作成する。 - 税務会計
国や地方自治体に納付する税金を計算することが目的の会計。法人税法などに従って納税額を算出して確定申告する。 - 管理会計
経営上の意思決定や業績管理を行うことが目的の会計。社内向けの予算・売上管理などに活用される。特に法律などに基づいて作成されるわけではないので、各社でフォーマットが異なるのが一般的である。
【参考】経費なの?損金なの?の例
財務会計の基本的な考え方では、経営者がある期中の利益を意図的に大きくしたり小さくしたりしないように、将来的に生じる見込みの費用もできる限り計上することになっている。よって、実際の経費としての支払が発生していなくても、引当金のようなものが発生する。
一方で、税務会計の基本的な考え方では、経営者がその期中の利益を意図的に小さくしないように、未発生の費用を経費として計上しないようになっている。意図的に利益を小さくすることで、納税額を小さくできないようにするためだ。
例えば「退職給付引当金」のようなものは税法上は経費として認められない。
法人設立で得られる税金・会計上のメリット
ここまで、法人の場合、個人事業主で事業を行うよりも、特に手続きの面で面倒なことが多いような記述をしてきたが、もちろん法人であることによるメリットも多い。
法人なら信用性が格段に上がる
個人事業は資金もないままに気軽に始められること自体がメリットであるが、法人は上記のようにある程度の準備が必要だ。法人設立時に資本金を準備するので、取引先もある程度の資金があることが分かる。よって、信用性という観点では、法人の方が優れているといえる。
実際、金融機関や取引先に個人よりも法人の方が信用してもらえる場合も多く、資金調達や販路拡大の際に法人であることは有利に働くだろう。
それ以外にも、オフィスを借りるにも、ある程度の資本金がある法人と個人では、オフィスオーナーの反応も違うものだ。
法人なら経営者の収入も安定
代表の給与(役員報酬)のとらえ方もだいぶ違う。個人事業では余ったお金はすべて自分のものだが、法人は他のスタッフと同様、代表取締役も月1回、定額が支払われる。
役員報酬は定額でなければ法人税法上損金として扱われないということになっているため、年間通して定額を支払うのが普通のやり方である。
個人事業であれば、「お金がある時にお金のある範囲内で生活のためにお金を使う」というようになりがちだが、法人の役員となれば、毎月個人の収入が見えてくるため、生活が安定してプライベートのライフプランも立てやすくなる。
結婚や出産、家を買う、保険に入る、など個人のイベント、大きな支出の可能性がある場合は、定期的な収入の方が計画が立てやすいというのは大きなメリットだ。
法人なら資金調達の可能性が広がる
その他にも、事業が拡大してくれば、あらたな資金調達が必要になり、VC(ベンチャーキャピタル)などに投資してもらうこともあるだろう。VCによる資本調達のように、法人にならないと広がらない可能性もある。
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法人税は累進課税ではない
税制面からいうと、個人の税率は高所得になればなるほど高くなる。これを累進課税というが、今の所得税は5%から40%である。
一方、法人税は累進性を取っていないため、年800万円以下の所得は15%、800万円超の所得は25.5%(中小法人の場合)なので、法人税の場合は利益規模が大きくなっていくとお得である。
まとめ
手続きの複雑さで比較すると、個人事業主の方が法人よりも簡単な場合が多い。一方で、法人設立によって受けられる恩恵は大きい。すでに起業して個人事業主で事業を運営している場合は、事業がある程度の規模になってきたら、法人設立(法人成り)を考えてみるとよいだろう。
法人設立を考えているのであれば、これらのメリットとデメリットのほか、実際に個人事業で払う税金と、法人設立した場合に払う税金と、今の利益(収入)ベースでシミュレーションしてみる。その時は法人設立してからの事業計画作成と併せて、税理士など専門家のサポートを受けるとよいだろう。
法人化すると、事業計画書の書き方や、税理士との関係など、個人事業主よりも多くの対応が必要になってきます。個人事業主のままで行くか、法人化するかで悩んでいる方は一度、法人化にあたって必要なノウハウをまとめた創業手帳の冊子版を読んでみるのもよいかもしれません。(創業手帳編集部)
(監修:税理士きふね事務所 木船麻衣子 税理士)
(編集:創業手帳編集部)