最強のリーダーシップを生む ”3つのLead”とは。 ヤフーの次世代リーダー育成のプロに聞く。
ヤフー株式会社・伊藤羊一氏インタビュー 第二回
(2016/09/14更新)
ヤフー株式会社で次世代のリーダー育成を行う社内大学Yahoo!アカデミアの責任者を務める伊藤羊一さんに学ぶシリーズ。前回は、「成長する起業家に必要な3つの条件」について教えていただきました。今回は、「リーダーの素質とは何か」、そして「リーダーに必要なプレゼン技術」について教えていただきました。
東京大学経済学部卒業後、1990年に日本興業銀行に入行し、営業や事業再生支援に従事。2003年プラス株式会社に入社し、物流ロジティクス等を担当後、マーケティング本部長、事業全般の統括を担当。2015年からはヤフー株式会社にて次世代リーダーの教育を行うYahoo!アカデミアの責任者を務める。その他、IBM Blue Hub、KDDI ムゲンラボ、MUFG Fintech アクセラレーター、学研アクセラレーター、森永アクセラレーター、Code Republicにてメンターやアドバイザーも務めている。
最強のリーダーシップを生む3つの”Lead”
伊藤:リーダーシップは次の3段階で発展していくものだと考えています。
リーダーシップ発展の3段階
- Lead the Self
- Lead the People
- Lead the Society
図を見て頂ければと思います。
最終的に一番大きいリーダーシップは、「Society」。Societyは社会という意味ですが、社会と言っても、日本や世界という国単位だけではなくて、自分が住んでいるコミュニティや、会社などさまざまなSocietyが存在しています。
伊藤:はい。でも、その前には、もう少し小さい単位を動かすことが必要です。それが「Lead the People」。これが一般的なリーダーシップと言われるものです。例えば、5人くらいのチームで何らかのプロジェクトを動かすとしたら、それをしっかりリーダーとして導くことができるか。この「Lead the People」ができるかどうかが、リーダーの素質を左右します。
伊藤:先ほど挙げた「リーダーシップの3形態」の最初に位置する「Lead the Self」です。リーダーシップを発揮できる人は、自分を導けなくてはならないんです。簡単にいうと、「自分が納得することでなければ、他の人が動くわけない」ということです。
伊藤:はい。自分を知ることって、大きなことをなす人だけじゃなくて、生活していくうえで、あらゆる人に必要なことだと思います。自分の人生は、自分しかコントロールできないわけですから。
さらに、この“自分自身をよく理解する”という点をもう少し掘り下げると、「自分が何をやりたいか」と「自分の現状」を両方とも理解できていることが重要です。「自分がなにをやりたいか」というのは、成長する起業家の条件にも挙げた「強烈な意志」にもつながりますね。
リーダーシップの本質は「自分を知ること」
伊藤:自分自身の今は、過去の自分の人生を通じて育まれたことであり、同様に、自分自身の未来は、現在の自分から生まれるからです。スタートアップの経営者の方と話す機会が多いのですが、みなさん驚くほど自分の現状についてしっかり理解されています。習慣的に過去・現状を振り返る行動をとっている人が多いです。
伊藤:そうです。たとえば戦略思考、論理思考、問題解決力、プレゼン力など、リーダーにとって必要な「スキル」は、鍛えればなんとでもなります。でも、自分自身をよく知っているかどうかは本人次第。「やりたいこと」と、「自分自身の状況」をしっかり把握できているかはリーダーにとって必要な資質ですね。
“過去が今の自分にどういう影響を与えていて、どうしてこれをやりたいのか。それはいま自分がこうだからである!”とリーダーの言うことに説得力があれば、他の人はその言葉に影響を受けて動く。「他の人を動かす」ということにおいては、リーダーシップだけでなく、ビジネスにおけるプレゼンにも共通しますね。
プレゼンの目的は「相手を動かすこと」
伊藤:そもそも、プレゼンの目的は「相手を動かすこと」。この要素は、消費者が購買行動に至るプロセスを表した「AIDMA」というフレームワークで整理できます。
AIDMAとは
Attention -注意を引き、
Interest -興味を持ち
Desire- -買いたい!と思い
Memory- -記憶に刻み込み
Action- -買う!(行動する)
伊藤:まず、相手の注意を引きつける(Attention)。このためには、聞いている人が迷子にならないように、使う言葉をなるべくすっきり、簡単にすることが必要です。
そして、相手が興味を持つために(Interest)、話をロジカルに展開する。ロジカルに展開するとは、①主張が明確で、②根拠が複数あり、③主張と根拠の意味がつながっているということです。
相手に動きたい!と思わせる(Desire)ためには、ビジュアル化。聞いた人の頭のなかでイメージが湧くようにプレゼンを構成します。
プレゼンを印象づける(Memory)ためには、エッセンスを詰め込んだキーワードを作ること。例えば、ヤフーでは月に2回オフィス以外でも仕事ができる制度を「どこでもオフィス」と名づけていますが、こうやってキーワード化ができると忘れません。
最後に、プレゼンを聞いた人が行動に移すかどうか(Action)。これを決めるのは、プレゼンターの情熱と自信です。好きなものであれば自然と情熱的になりますから、そのプレゼン内容を世界で一番好きになること。自信は、どれだけ準備出来たかどうかが全てです。準備すればするほど、自信は生まれます。
「自己との対話」を習慣化する
伊藤:私自身の例で言えば、週に1回、必ず平日の午前中に、どこかにこもって考える時間をとっていました。そこで、日常のルーチンとは違う、「今の自分はこれでいいのか」「今抱えているモヤモヤの原因は何か」ということを3時間くらい考えます。根を詰めて考えるというより、瞑想するという方が近いかもしれません。ただ、瞑想するだけでは眠くなってしまうので、考えていることを書き出したり、図を書いたりして整理しています。
伊藤:GEのジェフ・イメルトさんが、「土曜の午前中は振り返りの時間に充てている」というのを読んで、真似しました。実際、社会人は、振り返って、気づいて、気づいたことを習慣にできるかで成長が決まると感じています。
伊藤:まさに、その通り!個人の習慣とは違いますが、ヤフーにもおもしろい制度があります。上司と部下が1対1で週1回、面談する「1on1 ミーティング」という制度です。仕事の進捗を話すのではなく、上司が部下に「先週の仕事はどうだったの?」「どこが問題だったの?」「どうすればいいの?」ということを投げかけ、日常業務を振り返り、気付きを得るために上司がサポートする時間です。まさに壁打ちですね。そこで気づいたことを習慣にしていくわけです。それを繰り返すとどんどん成長していく。
伊藤:そうですね。だから、インプットするとか、鍛えるということより、何かに気づいて習慣にするという流れが大切かなと思います。これは、ビジネスパーソン全員にとって大切なことだと思います。
起業家へのメッセージ
伊藤:繰り返しお話しましたが、リーダーシップにも、起業にも大切なのは「自分を知ること」。過去からのいろんな経験の延長で今の自分があって、自分の価値観で何をやりたいかがはっきりしていることがすごく重要です。もちろん、“軸がしっかりしている”とか”思考力や表現力がある“とかいろいろ言われることもありますが、ベースにあることは自分をいかに見つめ、知っているかだと思います。
(取材協力:ヤフー株式会社・伊藤羊一)
(編集:創業手帳編集部)