WeWork Japan ジョニー・ユー|日本はもっと成長できる。現CEOが日本の起業家へ伝えたい2つのこと
コロナ禍などの困難を乗り越え、日本で再スタートしたWeWorkが復活した理由とは
世界的に知られるフレキシブルオフィスブランド「WeWork」。日本でも約40の拠点を展開しています。日本では2024年にソフトバンクの100%子会社となり、新たな戦略のもとでシェアオフィス事業に取り組んでいます。
日本のWeWork立ち上げから関わり、現在も同社の代表取締役社長兼CEOを務めるのがジョニー・ユーさんです。ジョニーさんは日本で生まれアメリカへ移住し、金融業界で輝かしいキャリアを築いた後に起業。その後起業の失敗を経てWeWorkに出会ったといいます。
まさに波乱万丈のキャリアを歩んできたジョニーさんに、これまでのキャリアや起業家へのアドバイスを創業手帳の大久保がお聞きしました。
WeWork Japan (WWJ株式会社)代表取締役社長兼CEO
1967年生まれ。1990年カルフォルニア州立大学バークレー校(UC Berkeley)経済学部・修辞学部卒。同年にモルガン・スタンレー証券株式会社に入社。その後ゴールドマン・サックス証券、セラフィムキャピタルパートナーズ、シンフォニーファイナンシャルパートナーズ、メリルリンチ日本証券、シティグループ証券などに在籍。起業を経て、2017年にソフトバンク事業開発統括担当部長に就任、WeWork Japanに設立当初から関わり、2021年にWeWork JapanのCEOに就任。
その後ソフトバンクにおいて事業開発統括投資事業戦略本部執行役員本部長、アライアンス戦略本部顧問を歴任。現在はWeWork Japan (WWJ株式会社)の代表取締役社長兼CEOを務める。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
バブル景気に沸く日本の金融業界を経験
大久保:「WeWorkは知っているものの、どんな方が運営しているのだろう?」という読者も多いと思い、インタビューの機会をいただきました。またジョニーさんご自身も起業経験があるとのことで、そのあたりも伺えればと思っております。まずはジョニーさんがどのような幼少期を過ごしたのか、教えていただけますか?
ジョニー:僕はいわゆる在日韓国系で、生まれは京都です。京都にあるMKタクシーの創業者の甥にあたります。その後僕が5歳の時、1972年に家族でアメリカに移住して、アメリカ国籍を取得しました。
大久保:ジョニーさんは米国カリフォルニア州立大学バークレー校(UC Berkeley)のご出身ですが、大学生活はいかがでしたか?
ジョニー:バークレーは州立なので、生徒数がスタンフォードやハーバードの5倍ぐらい多いんです。そのため競争が激しくて、成績が低い生徒は毎年追い出されてしまいます。そういう環境でしたので、とにかく勉強しなければいけないというストレスはありましたね。
またちょうど父親のビジネスの調子が良くない時期で、あまり家にお金がなかったんです。そのためアルバイトをしなければならず、学生時代は楽しかったけれど、すごく大変でした。
大久保:大学卒業後は、日本のモルガン・スタンレーに入社されたそうですね。
ジョニー:金銭的に苦労していたこともあって、稼げるのは金融かなと考えて金融業界を目指しました。最初はウォール街で働こうと思ったのですが、当時のアメリカは不景気で20社くらい応募したものの全滅でした。
どうしようかなと思っていたところ、友人から「日本語ができるなら、今バブルの日本へ行けばすぐ決まるよ」と言われたんです。そこで日本へ行って面接を受けたら、4時間後にモルガンスタンレージャパンからオファーをいただきました。
大久保:当時の証券会社は現在と大きく違ったのではないでしょうか。
ジョニー:全く違います。僕はトレーダーでしたが、当時は東京にシステム端末がなかったので大阪の担当者に電話で伝えなければならず、これが本当に大変でした。
営業担当の10人からほぼ同時に口頭で注文が来て、それを僕が電話で大阪の入力者に伝えなければならない。当然、何度も間違えました。先輩の中には大きな間違いをして何億円という損失を出し、会社を去った人もいます。当時は「次は自分がクビになる」という、強烈なストレスの中で働いていました。
そんな中でもういいやって開き直ったところ、ある瞬間に注文の声が全部聞き分けられるようになったんですよ。25分間で300件を完璧にこなしたという記録を打ち立てたこともありました。その後上司に認められ、ジュニアトレーダーに昇格しました。
起業での失敗がWeWorkとの出会いにつながった
大久保:その後ゴールドマン・サックスなどを経て、起業されたそうですね。金融業界が長かったジョニーさんが起業したのは、どういう経緯だったのでしょうか?
ジョニー:正直、トレーダーという職業は激務ですし、長く続けるものではないと思っていました。それと僕はもともと好奇心が強く、「このビジネスはどうやって儲かっているんだろう?」ということを知りたくて、金融業界にいながらあらゆる業界について勉強していました。
そういう中で、たまたま知人のアメリカ人と一緒に水耕栽培ビジネスを始めました。ただ当時はプライベートも複雑な時期で、気持ちも投げやりでした。当然ビジネスもうまくいかず、1年で全てを失ってしまったんです。
これからどうしようかなと思っている時に、友人だったエリック・ガン(※編集部注:ワイモバイル代表取締役社長、ソフトバンクモバイル取締役専務執行役員などを歴任した実業家)から声をかけていただきました。
エリックとは同じ時期にゴールドマン・サックスに在籍していて、仲良くしていたんです。一度誘われていたのですが、その時は起業直後だったので断りました。僕のビジネスがうまくいかなかったときにエリックに連絡したところ「WeWorkは面白いからやってみないか」と言われ、WeWorkに参加することになりました。
大久保:やはり金融業界から全く畑違いの農業ビジネスで起業するのは、厳しいということでしょうか?
ジョニー:必ずしもそうではありません。僕の場合、最初にもっと考えて判断すべきでした。冷静に考えていたら、難しいビジネスだなと気づいて手を出さなかったと思います。
僕自身が創業したものではなく、知人の創業者が困っていて助けて欲しいと言われて始めたビジネスなんです。数字を見てギリギリいけるかなと思ったのですが、今思えばそういう気持ちでベンチャーはやらない方がいいですね。
農作物は生き物ですから、仕組みを作れば大量生産できるものではありません。毎日24時間常に見る必要がありますよね。やはり生き物を相手にするのは本当に大変だと実感しました。
大久保:最初はWeWorkについてどのような印象をお持ちでしたか?
ジョニー:初めてWeWorkを見た時、すごく感動しましたね。もともとWeWorkはニューヨークでスタートしました。創業者のアダム・ニューマンのカリスマ性やセンスの良さもあって、ニューヨークのWeWorkに優秀な人たちがどんどん集まるようになっていったんです。
ちょうどアメリカのスタートアップブームとうまくマッチしたことも、勢いに乗った要因だと思います。あとは、UberやAirbnbなどのシェアリングサービスのブームも追い風でしたね。車や家のシェアのように、オフィスもシェアできるという感覚があったと思います。
WeWorkの苦戦とコロナ禍を経て、新たな戦略で復活
大久保:数年前、WeWorkは苦戦しているという報道もありました。やはり大変な時期もあったのでしょうか。
ジョニー:確かに厳しい時はありました。2018年六本木に1拠点目をオープンした後、2年ほどで約20拠点を一気に増やしたのですが、それから続けて大きな問題に直面しました。
まずは2019年のアメリカ本社のIPO延期です。それが落ち着いたと思ったら、2020年にコロナ禍に突入してしまいました。コロナ禍はいつ終わるのかわからないところが難しかったですね。
その中で拠点を増やしたため、需要と供給のバランスが崩れた時期はあったと思います。
大久保:最近ではオールアクセスプランなど、新しいプランを始めていますね。戦略を変えたということでしょうか?
ジョニー:そうですね。以前のWeWorkは一律の金額で各プランを提供していました。でもコロナ禍を経て、大きく戦略を見直したんです。現在はニーズをよく理解した上で、フレキシブルなプライスにしています。その効果もあって、現在は好調なんですよ。
うまくいっているところには共通点があります。電車やバスなどの交通インフラがしっかり整っていて、家賃が高く自宅があまり広くないエリアがそうですね。こういうところに住む方はやはり家で働きたくない方が多いので、我々のようなオフィスが求められます。
大久保:WeWorkは、人が人を呼ぶところも魅力ではないかと思います。
ジョニー:WeWorkがシェアオフィスの概念を変えたのは、やはりコミュニティの力が大きいと思います。オフィスの真ん中にコミュニティスペースがあって、自由にビールやお茶を飲める。シェアオフィスにそういうスペースがあるのは当時新しいことでした。今でも我々はコミュニティをすごく大切にしています。
大久保:他社とは、コンセプトからして全く違うというわけですね。
ジョニー:その通りです。いい場所、いい建物ということも大切な要素ですが、それ以外にも多くのメリットがあるところが、多くの方に支持されている理由だと思います。
日本の場合、WeWorkは競合他社とほとんど競争していないというデータがあります。我々は床面積で言うと日本全国でかなりの面積を持っていて、一般的なシェアオフィスと規模が違うので競合しないのです。
大久保:なるほど。あらためてWeWorkにオフィスを構えることで、どのような効果があるか教えていただけますか?
ジョニー:特にスタートアップでは、WeWorkに入ることで採用しやすいというメリットは大きいと思います。スタートアップは、最初はどうしても信用が少なく優秀な人材を確保しにくい課題がありますから。WeWorkに移ったスタートアップの中には、2倍ぐらい応募数が増えたケースもあると聞いています。
最近の若い人たちは環境をすごく重視するので、オフィス環境は重要です。どの分野でも専門家の取り合いになってきている今、こうした採用への効果はWeWorkの大きな強みだと思っています。
もうひとつのメリットは、コミュニケーションがとりやすくなって生産性が上がる点です。コロナ禍で日本でも在宅勤務が普及しましたが、100%在宅勤務ではコミュニケーションがうまくいかず、小さなミスが増えることもあります。例えば対面で話せば10秒で済むことが、ZOOMで30分話しても伝わらないこともあるじゃないですか。
一方で、多くのエンジニアはできるだけ家で仕事をしたいと考えています。そこで重要なのが、オフィスの魅力です。WeWorkのように立地もよくて綺麗で、お茶やビールも飲めるオフィスなら、家で仕事をしている人たちが「ちょっと行ってみようかな」と思ってくれる。そうすればチームのコミュニケーションが深まり、仕事がスムーズに進むというわけです。
日本の起業家へ伝えたい2つのこと
大久保:最後に、起業家に向けて一言メッセージをお願いできますか。
ジョニー:僕は日本の起業家に、2つお伝えしたいことがあります。ひとつはマクロ経済の流れを理解することが大事ということです。
若い時は当然、自分の頭の中で考えることが多いですよね。そういうミクロももちろん大切です。でもマクロを大切にすれば、多少ミクロが弱くても経営していけるのです。
例えばAIなど成長している分野では、No1になれずNo10の会社でも、ある程度収益を上げられる。反対に縮小する業界では、どんなにすごい会社でも収益を上げづらい。若い起業家でどの分野にチャレンジするか選べる段階なら、マクロをぜひ把握してほしいなと思います。
もちろん日本とアメリカではマクロは違いますので、日本のマクロ、もしくは日本と良好な関係のところのマクロを理解することが大切です。
もうひとつは、日本の文化を大切にすることです。日本人は素晴らしい文化を持っています。2500年の歴史を持つ国なんてなかなかありませんから、日本の文化を中心においてイノベーションを起こせば、きっといいものができるのではないでしょうか。
日本とアメリカのベンチャーはすごく対照的です。アメリカは基本的にゲインが得意ですね。これは何もないところから新しいものを作るという意味です。一方、日本の起業家は人の悩みや苦しみといったペインを解消するビジネスが得意だと思います。
こういったペインを解消するようなビジネスは、今後さらに価値が高まっていくと思います。ただこういったビジネスは、一気に大きくなりにくいという面もあります。ですからある程度ビジネスが成長したら、オーガニックだけではなくM&Aも考えた方がいいでしょう。
本当に僕は日本のことが大好きなんですよ。日本はもっと成長できると思いますし、世界の中で日本の担う役割は大きいので、世界経済においても日本の成長は重要だと考えています。
大久保の感想
創業手帳冊子版は毎月アップデートしており、起業家や経営者の方に今知っておいてほしい最新の情報をお届けしています。無料でお取り寄せ可能となっています。
(取材協力:
WeWork Japan (WWJ株式会社)代表取締役社長兼CEO ジョニー・ユー)
(編集: 創業手帳編集部)
スタイリッシュなスペースの一方、当初はかなり高い印象だった値段も最近は手頃になってきて起業家に手の届く価格帯になってきている。
WeWorkはスペースの他に、コミュニティの要素があり、それを目的で入る起業家もいる。非日常的な場所、イベント、そしてそれらが醸し出す「楽しさ」「雰囲気の良さ」がWeWorkの真骨頂だ。
今後、環境面を整え人材確保をしたい、場所にとらわれない働き方をしたい起業家にとって、Weworkは魅力的な選択肢になっていくだろう。