USEN 田村 公正|DX時代の店舗総合サービスでお店の未来を創造する

飲食開業手帳
※このインタビュー内容は2023年04月に行われた取材時点のものです。

3年で7割が廃業する飲食業界の成功率を上げるUSENの取り組みとは

日本の飲食店は開業して3年で全体の7割が廃業すると言われています。そんな中、飲食店経営の成功率を上げるために、店舗のDX化や経営サポートで「お店の未来を創造」しているのがUSEN代表取締役社長の田村さんです。

そこで今回は、田村さんが社員からUSEN(USEN-NEXT GROUP)の社長に就任するまでの経緯や、現在USENが提供している飲食店へ向けた様々なサポートについて、創業手帳の大久保が聞きました。

田村 公正(たむら きみまさ)
株式会社USEN 代表取締役社長
1971年、兵庫県生まれ。94年大阪有線放送社(のちのUSEN)入社 。2009年営業本部長、10年常務、11年副社長を経て、13年11月より現職。コロナ禍をきっかけに加速した飲食店のDX化を推進するための新規事業を数多く立ち上げる。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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阪神・淡路大震災をきっかけに起きた心境の変化

大久保:今までのご経歴を教えてください。

田村1994年に大阪有線放送社(のちのUSEN)に入社し、神戸支店に配属をされました。

同期は1000名ほどいましたが、その中でもごく普通の営業社員でした。ただここまで約30年間、USENの一員として辿ってきた時間の中で、自分としては大きく3つのターニングポイントがありました。

ひとつは、入社翌年の1995年に阪神・淡路大震災に遭遇し、社会人としてだけでなく生きることの価値感が大きく変化したことです。

壊滅した神戸の街で、私たちのお客様が大変な苦労をされている姿を目の当たりにし、USENという会社を介して、立場を越えて何かできることはないか?と本気で考えた時に、それまで眠っていた自分の中のスイッチが入ったことを今でもよく覚えています。

二つ目は2009年、リーマンショックによる市場の混乱で経営環境が悪化する中、役員に任命され、事業の取捨選択と人員整理を行ったこと。

そして三つ目は2013年に、原点回帰により事業再生を目指す中、プロパーで事業や会社のこと、全国の社員、そしてその先にいらっしゃるお客様のことをよく知っていた私に経営を託され社長に就任したことです。

大久保:これまでで一番きつかった時期はいつでしょうか?

田村:やはりリーマンショックの影響により、2期連続で約500億円の損失が出てしまった時です。

その時に実行せざるを得なかったリストラクチャリングが一番辛かったです。非常に難しい判断をしなければなりませんでした。

今でも自戒の念として持っていますが、どんなことがあろうとも社員に皺寄せがいかないようにしなければいけないと心に誓ったのもその時でした。

「成功」の対義語は「失敗」ではなく「挑戦しないこと」

大久保:USEN-NEXT GROUPは事業の多角化を進められていると思いますが、現在どれくらいの事業があるのでしょうか?

田村グループ全体で25の事業会社があります。

我々のグループでは、「店舗サービス」「業務用システム」「通信」「コンテンツ配信」「エネルギー」と、事業が5つのセクターに分かれています。その中でUSENは店舗サービスのセクターに位置しています。その領域でグループ各社のハブとなって、各ソリューションサービスを提供しており、50〜60ほどの商材を扱っています。

大久保:事業の拡大に関しては、広くなりすぎてはいけないですし、狭めすぎてもいけないと思います。そのような時の、次の一手を決める判断基準を教えてください。

田村:本業の隣接地域でチャレンジするように心掛けています。

つまり、店舗サービスを提供する中で、お客様の抱える課題を解決するための新たな価値を創出することに集中し、BtoBマーケットから大きくはみ出すような飛び地には行かないようにしています。

大久保:社員の育成についてのお考えを教えてください。

田村成功の反対は何か?といった話はよくあると思います。もちろん答えは「失敗」ではなく「挑戦しないこと」です。当社の社員は後者と答えます。

それに合わせて私が社員によく言ってきたのは、まずはバッターボックスに立って、バットを振ることが重要だということです。

結果としてそれが空振りだったとしても、それはさほど大きな問題とは考えておらず、むしろ称賛に値することだと思っています。挑戦しなければ失敗を体験することによる成長の機会も得られませんし、そういった姿勢と行動の先にしか成功はないと伝えてきたからです。

そういう社員の姿勢を見ると、私も嬉しくなりますし、一緒に働く仲間として大切にしたいと思います。

大久保:田村さんの略歴を見ただけでも、すごい回数のバットを振ってきたように思えます。

田村:空振りもたくさんありました(笑)ただ当社は音楽配信サービスを生業としていますが、これまで作ってきた様々なサービスは確実に成長してきています。

もちろん、社員が頑張って育ててくれたからこそですが、最初のタネを蒔く作業は私だったりするので、育った姿を見ると喜びを感じます。

新しい挑戦を成功させるための法則

大久保:田村さんはこれまでにUSENで様々なことに挑戦されてきたと思いますが、ご自身の中で、上手くいく法則はありますか?

田村:考え方はシンプルです。

まずは、自分が本当に挑戦したいかどうか考えることを大切にしています。

二つ目は、そこに関わる社員にどう思うか意見を聞くことです。

やはり立場が違うと、言いやすい・言いにくい、というものが出てきます。

素直に意見を言ってくれないケースも多いため、話している時の顔色を見たり発言から伝わってくるニュアンスを感じ取って、自分の中のGO or NO GOを決めるようにしています。

大久保:コロナ禍に入って、リモートワークが増え、コミュニケーションの機会は減ったのではないでしょうか?

田村:それが実は、コロナ前からグループ全体で「Work Style Innovation」という人事プロジェクトを実施し、働き方改革を実行しており、リモートワークの活用も含めた全く新しい働き方を推奨していました。

そのため、比較的スムーズにリモートワークに移行できたと思っています。

ただそのような状況ではあったものの、私がコロナ禍の出社率は一番でした(笑)。

理由としては、至極当然のことですが我々のお客様が、厳しい状況でも身を挺して軒に立ちご商売されている中で「我々はリモートワークをしていますのでお伺いできません」という対応はあり得ないと考えていたからです。

もちろん、リモートワークに切り替えても仕事の品質に影響せずに、より効率が上がるのであれば大賛成ですが、お客様が直接話を聞きたいとご要望されているならば、そのご意向に添える企業で在りたいと社員には伝えてきました。

大久保:経営者にも2タイプいると思いますが、田村さんは「細かく自分で仕事をするタイプ」と「周りに仕事を任せていくタイプ」のどちらですか?

田村:圧倒的に後者です。

男性社員:大概はお任せいただいているので、逆にプレッシャーです(笑)。
失敗できないからこそ、慎重に考え、行動したいと思っています。

大久保:事業のトップから、企業のトップに上がられて、変わったことはありますか?

田村社長に就任する前はずっと現場を担っていたこともあり、現場主義の感覚やスタンスは今も全く変わっていません。

唯一違うとすれば、当然ですが会社で何かあった時には、責任は自分が全て負わなければいけないという立場であり、会社全体を考慮したバランスある判断が常に求められることですね。

飲食業界の課題は「DX化」と「後継者問題」

大久保:昨今の飲食業界の動向を教えていただけますか? 

田村日本の飲食店の課題はDX化がまだまだ進んでいないことです。コロナの功罪の「功」の部分で、DX化が進んだのも事実ですが、グローバルレベルで見るとまだ先進的だとは言えません。

理由としては、店舗運営者側のITリテラシーの問題や、従来のオペレーションへの慣れによる変化への心理的ハードルがあると思います。

しかし、ここにきて大きくなっている人手不足問題の解決を含め、お店の経営をいかに効率よくできるか、ということが課題であることは間違いありません。このような状況を踏まえると、日本の飲食店のDX化はさらに進んで行くと思いますし、進めていかなければならないと思っています。

USENは、お客様それぞれの店舗に最適なDX化を提案できる会社であることに、より一層注力していきたいと考えています。

さらに、至近で顕在化してきた課題としてあげられるのがお店の後継者問題です。

様々な事情で事業承継ができる状況になく、閉店・廃業せざるを得ないところも少なくありません。DXとは異なりますが、こうした課題についてもお客様のお役に立てるサービスを拡充していきたいと考えています。

大久保:人材不足に関しては、日本の人口、生産年齢人口の母数も減ってますよね。

田村:おっしゃる通りです。

コロナ禍で店舗閉鎖があったり、アルバイト契約を切られたりしたことなどによって、飲食業界へのネガティブな印象を拭えないという方も、少なからずいらっしゃると思います。そういったことも人材不足の大きな要因のひとつになっていると思います。いずれにしても人材不足は、飲食店に限らず早急に対処が必要な問題であると思っています。

大久保:お店を繁盛させるコツはありますか?

田村:「飲食店経営に関して勝利の方程式はありますか?」とよく聞かれるのですが「ありません」とお答えしています(笑)

強いて言えば「愚直に正しいことをやること」だと思います。

お店の特徴はどこで表現するのか。料理の味なのか、ホスピタリティなのか、それ以外か?この店はこれが安心だとか、これには自信があるとオーナー自身が思える要素を、何かひとつ決めてそれを実際に持つことがとても大切です。

それを軸にリピート客を獲得していきながら、キャッシュフローの管理もしっかりと行うことが不可欠です。

飲食店の中でも成功されている方々は、これらをしっかりと実践されていると思います。

飲食店が資金調達する上で注意すべきポイント

大久保:コロナ禍の影響で融資関係も出やすくなっている印象ですが、その点いかがでしょうか?

田村クラウドファンディングも普及してきましたし、比較的資金調達はしやすくなっていると思います。

ただし、融資に関しては当たり前ですが最終的には返済が必要なので、事業計画に沿って調達しなければなりません。

自分の目指す事業規模と得られる利益を逆算して、どのくらい借入するべきなのかを計算する必要があります。

USENという名前を聞くと、音楽配信サービスをイメージされる方も多いのですが、実は開業を決意された方に対して、お店を開業させ、安定的に運営できるところまでの事業計画を作成するためのアドバイスを含めたトータルサポートを行っています。

開業を決めてから、実際にお店がオープンし運営が始まった後までを計画立てて考えていかなければ、上手くいかないケースがほとんどです。末永く事業を継続いただけるように、金融や飲食業界の経験者を配して、お客様の独立開業をサポートしています。

大久保:USENとして今後、注力していく分野などのお考えはありますか?

田村:いまお話ししたように、開業準備から実際にお店がオープンするまでのサポートと店内のDX化を提供できる環境を作っていきたいと思っています。

飲食店を開業する際、電気・ガス、インターネット回線・電話、レジ・モバイルオーダー、監視カメラ、デジタルサイネージ等の環境整備が必要です。

一般的には、それぞれ個別に取引が必要だったと思いますが、ワンストップでUSENが提供できる仕組みを作っています。

もちろん、1社でまとめた方が結果的にコストが抑えられますし、店舗運営のあらゆる側面において提供できるソリューションを準備していますので、業務効率や店舗運営の負荷軽減を考慮した提案も可能です。

USENの「飲食店のインバウンド需要を後押しする」取り組み

大久保:USENの今後の展望について教えてください。

田村:基本的に「お客様に寄り添う」ということからは変わりませんが、5年後、10年後の飲食業界がどのように変化するのか明確に予測するのは困難です。

ただ、今の飲食業界に起きている課題に関しては、市場の動きに先んじた商品開発に努めたいと思っています。

そして、その課題が表面化する状況の手前には、きちんとお客様のお役に立てるように準備していきたいと思っています。

大久保:インバウンドもそろそろ戻ってきて良い頃だと思いますが、兆しはありますか?

田村:だいぶ戻ってきています。

中国の動向もありますが、年内にはコロナ前の状態に戻る可能性もありますね。

大久保:インバウンド向けの施策も準備されているのでしょうか?

田村せっかく海外から日本に来られてても、どこのお店に食事に行ったら良いかわからない方々も多いと思います。

そのような訪日客のための、インバウンドメディア「SAVOR JAPAN」をグループで展開しています。こうした分野のサービスもさらに拡大させていきたいと考えています。

大久保:メディアの発信内容について、海外向けと日本向けの特性の違いはありますか?

田村:日本向けの「ヒトサラ」に関しては、単なるクーポンサイトではなく、シェフにフォーカスしてお店を紹介しています。

「SAVOR JAPAN」は、訪日外国人の80%をカバーできる英語・韓国語・簡体字(中国、シンガポール、マレーシア)・繁体字(台湾、香港、マカオ)に対応し、日本の食に関するマナーや文化を、外国人へ効果的に訴求できるグルメ情報サイトです。

開業から3年で3割は成功している!「飲食店経営の魅力と真意」

大久保:田村さんの思う「飲食店を経営する魅力」を伺ってもよろしいでしょうか?

田村飲食店を開業して3年で全体の7割が廃業すると、よくネガティブに言われますが、逆に3割の方は成功されていて、多店舗展開などで事業を大きく成長させている方もいるということになります。

単純に比較することはできませんが、もし会社に入って責任ある立場で事業に向き合ったりしようとした場合も、もしかするとなかなか難しいことなのかもしれません。

お店のオーナーになることで、その3割が成功すると考えると、飲食店経営は事業として充分に魅力のあることだと思います。

成功するのはもちろん簡単なことではありませんが、料理が好きであれば、自分の店舗にお客様が集い提供する料理を楽しんでいる姿を見ることができるのは、直接的に幸福感や満足感を得られる素晴らしい仕事だと思いますし、そういった魅力ある店舗を築くことにより、雇用を生み出し、且つ人の流れを作ることで地域活性化にも貢献できるという、大きな可能性を秘めた事業だとも思っています。

大久保:最後にこれから起業・開業される方に向けてメッセージをお願いします。

田村人生は一度きりです。バッターボックスに立ち思い切りスイングしていただきたいと思います。

飲食店に限らず、お店にまつわることで当社がお手伝いできることはたくさんあります。

何かお困りのことがあれば、ぜひお気軽にお声掛けいただければと思います。出来得る限りのサポートをさせていただきます。

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(取材協力: 株式会社USEN 代表取締役社長 田村 公正
(編集: 創業手帳編集部)



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