ユビレジ 木戸 啓太|100%安全は楽しくない!ファッション感覚で起業してOK

創業手帳
※このインタビュー内容は2023年02月に行われた取材時点のものです。

100%安全なキャリアなんてない。だからこそ起業したいなら起業すれば良い。起業した後が重要

以前と比べてそこまで珍しいキャリアではなくなったとはいえ、起業することにはやはり「大きなハードルがある」と感じられる方がほとんどなのではないでしょうか。

しかし株式会社ユビレジ代表取締役の木戸啓太氏は、「起業するのは旅行感覚で良いし、むしろ起業しなくても良い。したいときにする。そのくらいの感覚でいれば大丈夫」と話します。起業には用意周到な準備が必要、というイメージからかけ離れた言動に、拍子抜けする思いを抱かれる方もいるでしょう。

起業家として10年以上会社を経営されてきた木戸氏に、これからの時代の起業家の心構えについて、創業手帳の大久保が聞きました。

木戸 啓太(きど けいた)株式会社ユビレジ 代表取締役社長
1985年、石川県生まれ。慶應義塾大学大学院在学中の2009年、ユビレジの前身である会社を学生仲間2人と設立し不動産系のビジネスを開始しようと思っていた矢先、リリースされたiPadを見て「今後、絶対にビジネス用途としてタブレット市場が伸びる」と思い方向転換。2010年8月、iPad POSレジアプリ「ユビレジ」をリリースし、現在に至る。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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気軽に起業できる時代ではなかった

大久保:木戸さんはどんな学生だったんですか。

木戸:当時はまだ会社の資本金の最低金額が株式会社1,000万円、有限会社300万円の時代でした。私は起業したかったので、その300万円をせっせと貯めていました。

私たちの時代には、学生起業しようなんて人は全然いませんでしたね。昔からひねくれているので、学校の先生に指図されることなども嫌いで、反骨心旺盛でした。大企業に就職する人や資格を取る人が多い中で、そういう学生たちとは違う道を歩んでいきたいという思いから自然と起業家の道を選択した感じです。

大久保:まだ起業しづらい時代でしたからね。

木戸:最初に起業したのは大学院生時代です。当時はまだ規制も多く、ベンチャーキャピタルもなくて出資する人もいませんでした。まだまだ、起業家というとアウトローなイメージを持たれる時代だったんですね。

時代を先取りし過ぎていた事業

大久保:ユビレジは2009年創業の会社ですが、当時からタブレットを使った売上管理システムを販売されていたんですよね。

木戸:そうですね。今でも「新しいサービス」と言われることもありますが、もう2009年から10年以上タブレットを活用したBtoB SaaS事業をやってきました。だいぶ時代を先取っていた事業だったと思います。

会社を作ったときはまだタブレットもないですし、iPhoneが発売されたばかりの頃でした。ようやくiPadが発売されるという話をインターネットで知ったときに「これを使ってビジネスができないかな」と思ったことが、今のビジネスにつながっています。当時アルバイトをしていた飲食店で感じていたアナログ会計が正直めちゃくちゃ面倒だったな、と。このサービス業の会計管理をiPadアプリで出来るのではないか、と思い立ったって開発しました。

当時、「タブレットでBtoB SaaSをやりたい」と話したら「頭がおかしい」くらいに言われていました(笑)。

IT革命の根本思想は変わらない

大久保:なぜiPadの事業に賭けようと思われたのでしょうか。

木戸:コンピュータ科学者のアラン・ケイが発表したダイナブック構想というものがありました。子供でも持ち運べて、片手で扱える究極のパーソナルコンピュータ像を1972年に彼が提唱したんです。

当時はまだタブレットというとおもちゃのようなものとして思われていましたが、アラン・ケイのダイナブック構想はいずれ実現されていくし、そのための一つのツールとしてタブレットがあるなら、必ず普及していくだろうと思っていました。

大久保:なるほど。事業構想の裏には、そうした思想的裏付けがあったんですね。

木戸:最近ではWeb3などまた新しいトレンドが出てきていますが、IT革命の根本的な思想はアラン・ケイの時代から変わっていないと思います。表面的な部分が変わってきているだけです。昔の人の思想が技術が新しくなって実現しやすくなってきているだけかなと思います。

サービス普及は周辺の会社と「共存共栄」で

大久保:でも、最初にサービスを普及させるのは大変だったでしょうね。

木戸:そうですね。当時はタブレット自体触ったことすらない人も多い時代でしたから。iPhoneですら、まだそんな感じでしたので、普及には時間がかかりました。

大久保:タブレット関係のサービスも、まだまだ出てきていない時代でしたよね。

木戸:そうですね。アプリの周辺機器やサービスが育っていかないと厳しいです。1社の力だけでサービスを普及させるのは難しい時代でした。

当然ながら最初からすべてを提供できるわけではないので、他の会社と共存共栄しながら発展してきたイメージです。

起業後はジャングル。悪い人には要注意

大久保:起業した後に大変なこともご経験されてきたと思いますが、どんなことがありましたか。

木戸:パートナーのふりをして近づいてきた会社に、サービスを真似されたことがありました。

大久保:それはひどい話ですね。

木戸:今までの世の中ではそういうこともできましたが、インターネットやSNSが発展した今では、そうしたこともしにくくなってきたのではないでしょうか。

大手企業がスタートアップのサービスを真似てくることもありますが、そういうことをしても世の中にバレやすくなってきています。そのリスクを考えれば、大手もスタートアップと組んだ方が良いんですけどね。

大久保:スタートアップにとって、大手企業は脅威ですよね。

木戸確かに脅威ではありますが、ある程度大きいマーケットであれば、スタートアップが生き残るのはそこまで難しくありません。戦略次第です。

本当に気をつけなければいけないのは、悪い人ですね。起業したらその後はジャングルの中にいるようなものです。詐欺師のような人や、あからさまでなくともグレーゾーンをねらってくる人などはたくさんいます。気をつけてください。

大久保:失敗するときや落ち込んだときなどにはどうされていますか。

木戸:そういうときは美味しいご飯を食べて運動して寝ます。論理的に考えて答えが出ないような悩みがあれば、リフレッシュするしかありません。

大久保:相談されることもありますか。

木戸:そうですね。人によって相性があるので、自分が信頼できる人とは相談することもあります。1人で考えた方が良い人もいるでしょうし、人それぞれだと思いますね。

サービス産業のデータインフラを目指す

大久保:今後は、どのように事業を展開されていくご予定ですか。

木戸:レジやPOSの事業だけを突き詰めていくわけではありません。今後は当社のミッションとして掲げているように、サービス産業のデータインフラとして、サービス産業がデジタルやデータを使って変わっていくことをより幅色く支援していきたいです。

ここ5年くらいでタブレットが一気に普及しましたよね。コロナによって人の考え方や行動も大きく変わりました。必要でなかったものが必要になったり、その逆もあったりします。

それらの変化にあわせて、より幅広くサービス産業のデータインフラとしての事業を進めていきます。

大久保:Web3などの新しいトレンドについてはどうですか。

木戸:確かに盛り上がってきてはいますが、私としては、リアルに関連していないものについては興味を持てません。

コロナ以降、世の中が暗い方向に進んでいる感じがしますよね。特にサービス産業は売上も下がって、大変です。そうした暗い世の中を、明るい雰囲気に変えていけるようなサービス開発をしていきたいです。

例えば、モバイルオーダーであっても、楽しくオーダーできるようなアプリを作りたいですね。当社が2020年のコロナ禍にリリースしたサービスである「ユビレジ QRオーダー&決済」はまさにそういう想いで作りました。キャッチコピーには「お店に、新しいにぎわいを」を掲げ、デジタルツールによるオペレーションの効率化と同時にお店に来ることの価値提供、顧客体験の向上を図ることができるものと思っています。サービス産業は気持ちが大事なんです。ご飯を食べるだけなら、コンビニに行って買ってくれば良いんですから。わざわざレストランに行って楽しむ気持ちを盛り上げられるようなサービスを今後も作っていきたいです。

旅行やファッション感覚で気軽に起業すれば良い

大久保:最後に起業家へのメッセージをお願いします。

木戸資本金1円から起業ができる良い時代になりました。だからこそ、旅行やファッション感覚で気軽に起業すれば良いと思います。ただし、起業した後はジャングルなので、猛獣にはお気をつけください(笑)。

でもそういうスリルも含めて楽しむのが、スタートアップ経営です。100%安全だったら楽しくないですから。

大久保の感想

大久保写真
ユビレジはレジという昔からあるニーズに、タブレットの普及という2つの要素が掛け合わされて生まれた。
昔は機械を作るのが大変だったが、スマホやタブレットのような汎用的でかつ普及しているので値段が安いデバイスを転用することで、製品のコストを劇的に安くすることができる。そんな時代の変化に賭けたのがユビレジの木戸社長だ
製品は、少ない量しか製造しないとどうしても価格が高くなる。
量産すると品質も高く値段が安いものができる。
世界中で使われているタブレット端末は、まさにそうした世界で使われているがゆえに高品質な割に安いという製品だ。
こうしたスマホやレジは昔の高性能コンピュータに匹敵するチップが使われているので、特定の用途のプログラムを組み込めば、特定の役割を果たすマシンを安く簡単に作ることができる。ハードを専用に作るよりも汎用品を工夫して使うことでコストを下げられるというわけだ。

スマホやタブレットを生かしたサービスというと、ゲームやSaaSのような純粋なインターネットの世界のサービスだけに目が行きがちだが、こうしたレジのような領域は既に大きなお金が動いている領域なのでマネタイズしやすい。起業家はこうした汎用的なマシンが安く使って、特定の用途で使うことで新しい取り組みができないか考えてみるとチャンスが見つかるかもしれない。レジ系はさらに、頭脳となるレジに外部接続でプリンターをつけるなど外部との接続性もでてくるが、ここにも事業を考えるヒントが有る。
IoTとも言えるが、スマホやタブレットの画面から飛び出して、リアルなモノと連携する、ということで解決できる課題も多い。手つかずの領域が多い。実際のユーザーの困り事、細かいニーズを拾って実現していくのはスタートアップの得意な領域だ。
そんな起業家にとっての「普及しているものを使って起業家が切り開けるサービスの可能性」をユビレジは気づかせてくれた。

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(取材協力: 株式会社ユビレジ 代表取締役社長 木戸 啓太
(編集: 創業手帳編集部)



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